賃貸の物件探しでは、営業担当者と会わずに部屋を決めて、仲介手数料を割り引いてもらえる流れが広がりつつある。そして売買でも、セルフ内見や仲介手数料の半額・無料を掲げるサービスが増えてきた。

こうした「ネット完結型」の物件探しは、不動産購入の常識になるのだろうか。不動産売買仲介の現場に10年以上いた筆者の視点から、その仕組みと限界を読み解いていく。

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高額な仲介手数料が「半額・無料」になるカラクリとビジネスモデル

不動産の売買で仲介会社に支払う仲介手数料の上限は「物件価格×3%+6万円」に消費税を加えた金額だ。3,000万円の中古マンションなら、105.6万円となる。

仲介会社がこの手数料を売主と買主の双方から受け取る取引を「両手取引」、どちらか一方からだけ受け取る取引を「片手取引」と呼ぶ。同じ3,000万円の物件でも、両手取引なら仲介手数料の上限は211.2万円となり、1件の取引で会社の売上は倍違うことになる。業界が両手取引を目指しやすい構造は、この差にある。

そして、近年増えてきた仲介手数料の半額・無料サービスは、買主が払うはずの手数料を別の収益や業務効率化でまかなう仕組みだ。新築一戸建てを仲介する際に、売主である建売会社からのみ仲介手数料を受け取り、買主の負担をゼロにする手法のように、発想自体は以前からあった。

新しいのは、デジタル化が進むことで1件あたりの業務コストを下げられるようになった点だ。ただし、どの業務をデジタル化でまかなうかは、サービスによって大きく異なる。

手数料の安さか担当者の質か。ネット完結型3つのモデルの違いとは

では、実際のサービスはどこを効率化し、その分をどこに充てているのか。仲介手数料を抑えられる「ネット完結型」は、大きく3つのモデルに分けられる。

1.直販型

1つ目は、売主と買主を直接つなぐ「直販型」だ。代表例の「FLIE(フリエ)」は、買取再販会社などが売主となる物件を掲載し、買主の仲介手数料を条件に応じて割り引いている(最大無料)。専用アプリ「Smaview(スマビュー)」を使えば、オートロックの解錠から入室まで、営業担当者の同行なしで内見できる。内見に同行する営業担当者の人件費を抑え、その分を本来受け取るはずの仲介手数料の割引に充てる仕組みだ。営業担当者が付かないため、しつこい営業を心配する買主の心理的なハードルも取り除いている。

2.物件持ち込み型

2つ目は「物件持ち込み型」だ。ポータルサイトや広告で見つけた物件を特定の不動産会社へ持ち込むと、仲介手数料が無料〜半額になる。物件探しを買主が担うため、仲介会社は集客や物件提案の手間を省けるのだ。営業担当者が物件を探して提案する人件費が不要になり、その分を仲介手数料の割引に充てられる。売主が不動産会社で、売主側からも仲介手数料を受け取れる場合には、買主の負担をゼロにすることも可能だ。他の物件を売り込まれず、気になる物件だけを紹介してもらえるのがメリットだといえる。

3.エージェント型

3つ目は、店舗を持たない「エージェント型」。このモデルの代表格である「TERASS(テラス)」では、業務委託の個人エージェントが仲介を担う。買主が支払う仲介手数料は通常と同じ上限の範囲内で、安くなるわけではない。店舗を設置する固定費を抑え、さらに独自開発のデジタルツールで事務作業を効率化することで、エージェントが顧客への提案や相談に時間を割ける体制を整えている。


このように3つのモデルを並べてみると、同じ「ネット完結型」でも、利用者に提供している価値が異なっているのが分かる。直販型と持ち込み型が売りにしているのは「業務効率化による仲介手数料の安さ」、エージェント型が売りにしているのは「担当者の質」だ。仲介手数料を下げるか、下げずにサービスの中身で勝負するか。考え方は正反対といって良い。

住宅購入の「ネット完結」を阻む4つの壁

2022年5月の宅建業法改正で、重要事項説明書や売買契約書を電子データで交付できるようになった。制度上は、売買でも契約までオンラインで完結できる環境が整ったものの、賃貸ほどネット完結型が広がらない理由は、制度以外のところにあるのではないだろうか。

壁1:セルフ内見だけでは買う判断ができない

数千万円規模の買い物になることが多い住宅購入では、内見だけでは判断できないことが賃貸に比べて圧倒的に多い。

・住宅ローン審査
・将来の資産価値の予測
・リノベーションの可否
・耐震性や管理状況の見極め

買主は「営業担当者の売り込みを受けたくない」と思う一方、「プロのアドバイスがなければ不安で買えない」とも感じている。内見は一人でできても、購入の判断まで一人で下すのは難しいのだ。

壁2:売主が住む家ではセルフ内見が難しい

賃貸の募集物件は基本的に空室だが、中古住宅の売買では、売主が住みながら売り出す物件も少なくない。実務では、居住中の物件では原則として鍵を預からず、売主と担当者が内見に立ち会うのが一般的だ。売主と担当者は、価格の相談を受けたときの答え方など、販売戦略を事前に共有しており、担当者がいなければ売主はどう対応すれば良いかわからない。

さらに、離婚による売却のように、売主のプライベートに関わる事情を購入希望者へ先回りして伝え、配慮を促す役割もある。FLIEのセルフ内見も再販会社が売主となるリノベーション済み物件が中心であるように、セルフ内見を使える物件は限られているのが現状だ。

壁3:業界の仕組みが新しいモデルに追いついていない

物件持ち込み型の場合、顧客が持ち込んだ物件を売主側の仲介会社が、他社からの買主を受け入れて初めて成り立つ。しかし現場では、問い合わせても「商談中です」や「話が入っています」と、取り付く島もなく断られるケースが少なくない。両手取引を狙って他社に紹介しない、いわゆる「囲い込み」だ。しかも、売れ筋の物件や希少性の高い物件ほど、自社で買主を見つけやすいため囲い込まれやすい。買主が本当に欲しい物件ほど、持ち込んでも紹介してもらえない可能性が高いのだ。

2025年1月からは、不動産会社間の物件情報システム「レインズ」に事実と異なる取引状況を登録した場合、指示処分の対象になった。取引状況とは、その物件が今「公開中」なのか、「書面による購入申し込みあり」なのか、「売主都合で一時紹介停止中」なのかを他社に伝える表示のことだ。この規制は持ち込み型を採用している不動産会社には追い風になりうるが、囲い込みが実際にどこまで減るかはまだ見通せない。

流通の仕組みと新しいモデルが合わないケースもある。2026年3月、TERASSは業務委託のエージェントにレインズのIDを貸与していたとして、不動産流通機構から戒告処分を受けた。レインズのIDは、宅地建物取引業者の役員や雇用関係にある従業員が使う前提で運用されているため、店舗を持たず業務委託で固定費を抑えるモデルは、この前提とずれやすいのだ。エージェント型のような働き方が広がるかどうかは、この業界の仕組みがどこまで対応できるかにもかかっている。

壁4:一生に数回の取引では集客コストが重い

一般の人にとって住宅購入は一生に数回しかなく、リピートは多くない。そのため、仲介会社は広告で新しい顧客を集め続ける必要があり、集客コストが重くなりやすい。仲介手数料を削れば1件にかけられる手間も削らざるを得ず、現場ではどうしても報酬額が大きい取引を優先することになってしまう。

仲介手数料を下げるモデルに求められるのは、値下げ幅の大きさよりも、仲介手数料が低くても対応の質を落とさない仕組みをつくれるかどうかであると筆者は考える。

これら4つの壁に共通するのは、技術で解決できる問題だけではないことだ。いずれも売買という取引の性質から生まれているため、アプリや新しいシステムの導入では乗り越えられない壁が多い。

「ネット完結型」の不動産売買はどこへ向かうのか

では、売買のネット完結型はこの先どうなっていくのだろうか。ここまで見てきた4つの壁を踏まえると、今後は取引の流れの中で、ネットに任せる部分と人に任せる部分の役割分担が進む可能性がある。具体的には、次のような分担だ。

・内見までは、セルフやオンラインで進める(好きな時間に、営業担当者なしで見学する)
・売買契約や住宅ローンの手続き、物件のリスク調査は、プロの営業担当者やエージェントに任せる

セルフ内見を活用すれば、買主が自分のペースで物件を見学できる。好きな時間に何度でも見学でき、売り込みを気にせず候補を絞り込めるのがメリットだ。ただし、セルフ内見が使えるのは空室の物件が中心で、売主が住んでいる物件では担当者の同行が前提になるだろう。

一方、契約から先はプロの出番だ。契約条件の確認や住宅ローンの手続き、管理状況や耐震性といった物件のリスク調査には、いずれも専門知識が必要になる。住宅購入は金額が大きく、判断を誤ったときの影響も大きいからこそ、宅建士やエージェントの知識と経験が生きるのだ。

今後、不動産会社にとっては、内見の案内を省人化するだけでは差別化にならない。居住中の売主への対応や物件調査、条件の調整など、手間のかかる業務をどう効率化するかが次の焦点になるだろう。

つまり、売買の「ネット完結型」は、営業担当者をなくす方向ではなく、営業担当者の仕事の中身を変える方向に進んでいくはずだ。案内や事務作業はデジタル化し、営業担当者は購入の判断や条件の調整などに力を注ぐ。それが、売買におけるネット完結型の現実的な姿だと筆者は考える。