地域の不動産会社の仕事は地域を元気にすること

当日の資料。事例が豊富でこれだけでも役に立ちそうだ当日の資料。事例が豊富でこれだけでも役に立ちそうだ

埼玉県宅地建物取引業協会が主催した地域の不動産会社のこれからについて学ぶ第3回タウンマネジメントスクールに参加した。名称からもわかるとおり、「地域の中小、零細不動産会社生き残りの道は地域に関わること」とスクール冒頭、会長の内山俊夫氏が挨拶をした。地域の不動産会社の仕事は地域を元気にすることというのである。

この日は午前中に埼玉県越谷市にある築120年余の古民家を飲食店やギャラリー、サテライトオフィスなどが入る複合施設に再生した「はかり屋」を見学、午後からは横浜市立大学教授の斉藤広子氏が登壇、続いて戸田市で頑張る平和建設株式会社の河邉政明氏の講演があり、最後にグループワークというメニュー。午前中のはかり屋については別途取材した記事があるので、(築120年余の「はかり屋」。旧日光街道沿いの古民家複合施設を見学してきた)それをご覧いただくとして、ここでは午後の講演などから参考になりそうな情報をピックアップしてご紹介しよう。

まずは斉藤氏の講演。始まりはエリアマネジメントについて。日本でエリアの価値を高めるためのエリアマネジメントが始まったのは東京駅の駅前、大丸有(大手町、丸の内、有楽町)と呼ばれる都心も都心、日本の中心のようなエリアからだったという。そんな場所でも他地域の勃興にその地位を脅かされ、生き残りのためにと考えたのが地域価値の向上だったというのである。

「入居者が減ったからといって家賃を下げる、ウォッシュレットを付けるで対抗していると、それが次第に価格合戦になっていき、挙句、入居者の質が落ちるなどの悪循環に陥ります。そう考えるとビル単体で戦うのではなく、まちの価値を高め、まち対まちで選ばれるまちをつくるほうが賢明。それがエリアマネジメントという考え方です」

地域密着、小規模という強み

そこで、丸の内の大家さんである三菱地所が考えたのがそれまで7分の5しか生かされていなかったまちを7分の7までフル活用することである。オフィス街は平日の就業時間中には人がいるものの、それ以外の週末や祝日、夜間は無人になってしまう。それをフルに人が訪れるまちにすることによって稼ぐまち、魅力的なまちに変えたのだという。大丸有で、三菱地所でさえ、地域の価値を考えなければいけない時代である、まちの不動産会社が考えなくてどうするということである。

そのために、これからの不動産会社はどうあるべきか。斉藤氏は従来の不動産会社の開発・分譲、流通、賃貸、管理というそれぞれの業務に加え、空間プロデュース、不動産情報発信が必要だという。言葉を変えると従前の仕事以上に自ら考え、率先して空間をつくり、それを発信する必要があるということ。ほかの仕事でもそうだと思うが、これからの社会では言われたことをやっているだけで済むものではないということだろう。

そのうえで、斉藤氏は地域の不動産業に期待をしているとも。その要因としては小規模・少人数の会社であることが逆になんでもできるという強み、柔軟な対応につながっていること、エリア限定で集積という効果があること、そしてなんといっても地域密着だからこそ担当者の顔が見え、問題から逃げないことを挙げた。規模では大手に勝てないものの、大手にない強みがあるというわけで、それを認識することが生き残りへの第一歩なのだろうと思う。

頑張る不動産会社、関係者も多数出てきている

斉藤氏はそうした強みを生かし、地域で頑張っている不動産会社の例を多数紹介したのだが、そのうちのいくつかを列挙しておこう。まずは仲介を中心に空き家を活用、まちづくりと連携して地元の商いを育てる活動を続けている大阪市阿倍野区昭和町の丸順不動産株式会社。昭和の町家などを上手に使った店舗などが増えているまちで視察も多数訪れているという。

京都の株式会社八清は仲介、賃貸に加え、古い町家を買い取って再販するような事業も手がけており、京都での空き家、古民家活用の第一人者。最近では地域の活性化にも注力しており、長年変わらなかったまちが変わろうとしている。

これら2社は不動産会社による活動だが、不動産事業者以外の例として紹介されたのが千葉県松戸市の株式会社まちづクリエイティブ。駅から500m圏内をターゲットにアーティストインレジデンスなどで遊休不動産を活用、新しい人たちを呼び込んでいるという。そこで有効な手段として挙げられたのがDIY型賃貸で、少しずつ活用事例も出てきている。まだまだ普及しているとは言い難い手法だが、地域に新しい人を呼び込み、面白くしていくためには使える手である。

それ以外にも数多くの事例が紹介されたが、ひとつ、非常に印象的だったのはここで挙げられた事例がいずれも補助金を当てにしない、市場で成立しているという指摘だった。ここ数年、空き家問題はいろいろな形で取り沙汰されており、行政も対策に乗り出しているが、その場合は税金が投入されることになる。だが、強制代執行による解体では投入した税金が回収されることはほぼなく、助成金で活用されることになった空き家がその投資に見合う効果を上げているかについてはまだまだ検証されていない。

それに対し、不動産会社など不動産を知る人間による空き家活用、まちづくりは民間が知恵を絞り、費用も負担し、税金を使うことなく成果を上げている。そう考えると、大規模な再開発は別としても、それ以外の小規模なまちづくり、地域活性化は不動産会社や関係者が担うべきであり、これこそがこれからの地域の不動産会社の仕事というのは実態からも明らかというわけである。

面白い物件を作ったら面白い人が集まって来た

斉藤氏の講演に続いては埼玉県戸田市 平和建設の河邉氏の実践報告。もともとは賃貸物件の管理や仲介を行っていた同社だが、次第に売り上げ確保のために売買に軸足を移してきていた。ところが、東日本大震災が起こり、従来の路線に疑問を抱くようになった。建物の安全性に疑問を抱く人が増え、それを機にホームインスペクションに取り組むようになったのである。

また、賃貸住宅では退居する人が増え、その後、入居者が決まらないことが相次いだ。古い建物を取り壊して新しくしたからといって決まる保証はなく、大家さんは家賃保証を求めて大手ハウスメーカーでの新築を選ぶようになった。そんな中で地域の小さな不動産会社は何をすべきか。

活路を見いだしたのは最小限の改修で既存住宅の価値を上げることを目指すモクチンレシピ。まずは自社のオフィスを改装してモデルルームにし、そこから次第に空き家となった古い住宅を改修。徐々にこれまでと違う、若い人たちを呼び込めるようになってきたという。そして、せっかくそうした人たちがいるのだから、彼らが集まる場所を継続的に提供できればと始めたのが月に1回の「トダ_ピース」なるイベント。

そのままでは価値がないものとされる空のハコ=空き家、空き部屋に新しい価値を付加して宝のハコに変え、その宝のハコをつなぐことでまちをも面白くしていこうという意図である。ネットワークの可視化と言ってもいいだろう。すでに16回(2019年11月時点)を数えるまでになっており、参加するクリエイター間で仕事が発生したりもしているという。

「覚悟を決めて自ら一歩を踏み出すとそれに見合った人たちがついてきてくれるものです」と河邉氏。ピンチは覚悟次第でチャンスに変わりうるのだ。

左上から時計回りにモクチンレシピで改装した住宅内部のビフォー、アフターと外観。トダ_ピースの集まり左上から時計回りにモクチンレシピで改装した住宅内部のビフォー、アフターと外観。トダ_ピースの集まり

売り上げに連動する家賃設定、歩いて探す地元の財産

グループワークでの発表風景。各グループごとに異なる意見が出て興味深かったグループワークでの発表風景。各グループごとに異なる意見が出て興味深かった

最後は参加者が4チームに分かれてのグループワーク。まちを何のために、何を使って変えていくか、自分たちはそこにどう関わるかをグループごとにまとめ、それに対して斉藤氏が講評するというものである。それぞれに面白い意見が出たのだが、そのなかからいくつか、地域の不動産会社らしい言葉を紹介しよう。

ひとつは空き家などの遊休不動産活用に当たっては売り上げに連動した家賃設定の仕組みが必要なのではないかという意見。そうすることによって建物所有者も入居者の経営に関心を持ち、当事者意識が生まれるのではないかというのである。

家賃は最初に決めたらずっとそのままというのが一般的だが、空き家を使ったチャレンジで、そこに社会的な意味、期待が持てるなら当初は安く設定、売り上げ増に応じて変えていくというやり方は十分あり得る。それがチャレンジを後押しすることにもなる。だとしたら、その手はぜひ、検討してみていただきたいもの。建物所有者としても入居者の売り上げ増が自分にも返ってくるとしたら、できる協力をするようになるはずである。

もうひとつは自分たちの足、目を使い、地域にあってこれまで気づいていなかったものを掘り起こす必要があるという意見。よく、この地域には何もないという言葉を聞くが、決してそんなことはない。気づいていない財産がどこかに眠っているはずで、それを掘り起こしてくるのが地元に密着して仕事をしている人たちの務めとはまさにそのとおり。不動産のプロとしての目、地元密着の足に期待したい。

2020年 01月14日 11時05分