コンソーシアム正式設立で一歩前進した取組み

ADRE参画社。現在もコミュニケーションをとっている企業があり、追加会員も増加していくというADRE参画社。現在もコミュニケーションをとっている企業があり、追加会員も増加していくという

不動産業界における情報の非対称性や分散など、不動産情報に関する課題を解決すべく、異業種の6社が集まって共同検討を進めていた不動産情報コンソーシアム。2018年7月30日に設立に向けた説明会を行っていたが(前回記事:ブロックチェーン技術で物件情報を共有。不動産業界変革への挑戦)、このたび正式に設立されることとなり、11月1日にキックオフイベントが行われた。

不動産情報コンソーシアムの目的は、異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させることだ。略称であるADREは、『Aggregate Data Ledger for Real Estate』の頭文字をとったもの。海外からの引き合いも多いことから、日本人以外にも覚えやすいことを意識したという。また、アドレという読みは住所を意味する「アドレス」ともかかっており、不動産関連の組織であることがわかりやすい名称にもなっている。
メンバーは、立ち上げ時から関与している6社に加え、新たに、不動産取引に関わる手続きをワンストップで行うサービスなどを展開する株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)、マンション管理組合に対して住宅設備やセキュリティ機器の提供などをしている三菱UFJリース株式会社、そして法律弁護士法人 鈴木康之法律事務所が参画。新たな領域のプレーヤーが加わった。

3種類の参画方法が決定。行政との連携も視野に

3種類の会員種別(上)<br>行政で現在進んでいるブロックチェーン活用の取組み(下)3種類の会員種別(上)
行政で現在進んでいるブロックチェーン活用の取組み(下)

前回のイベント時点ではまだ検討中だったのが、参画団体の費用負担について。データベースに提供できるデータをたくさん持っている会社とそうではない会社との間で、費用や得られるリターンに差をつけた方がよいのでは、ということで協議が行われていた。
今回発表された会員種別は3種類(左図)。一般企業がADREの正会員となる場合、研究会や意見交換会といった活動に加えて、テーマ別に分かれたワーキンググループへの参加が義務付けられるとともに、総会での議決権を得ることができる。公的機関や大学などが正会員となる場合は、特別会員として入会金・年会費免除となるが、総会での議決権は持たない。この特別会員については、2019(平成31)年度以降の参画を想定しているという。
一方、情報収集したいという場合は、準会員になれば、研究会に参加することができる。関わり方に応じた費用負担とすることで、幅広い団体が参画しやすい形を整えた。

現在、各省庁においてもデータのオープン化や、各種手続きのオンライン化をはじめとしたデジタル・ガバメント実行計画などに取り組んでおり、ブロックチェーンの活用についても議論されている。不動産領域の企業でもブロックチェーンを活用した事例が出てきており、海外では実際に取引が実施され始めるなど、世界的にブロックチェーン活用の動きは加速している。
「コミュニティとしてはあくまでオープンに、国内外のよりよいソリューションや取組みとも連携しながら活動を推進していきたい」と、モデレーターを務めたNTTデータ経営研究所 マネージャーの櫻井駿氏は述べた。

注目の「セキュリティトークン」と不動産投資

講演を行った成本治男氏講演を行った成本治男氏

イベントでは、ADREへのリーガルアドバイスを依頼しているTMI総合法律事務所のパートナー弁護士、成本治男氏による『不動産ファンドセキュリティトークン~個人向け非上場不動産オープンエンドファンドも視野に入れて~』と題した講演も行われた。

「ファンドとトークン、不動産とトークンを結び付けられないかと研究している」と話す成本氏。
ここでいうトークンとは、ブロックチェーン上で発行され、有価証券として取り扱われる「セキュリティトークン」のこと。トークンを利用した取引の一種「ICO(Initial Coin Offering)」は、企業などがセキュリティトークンを発行し、一般投資家などに法定通貨または仮想通貨で購入してもらって資金調達を行うことをいう。日本では、ICOで発行されるトークンは資金決済法上の仮想通貨に該当し、仮想通貨取扱事業者しか扱えない。また、ICOが投資としての性格を持つ場合は金融商品取引法の規制対象となる場合もあり、適法に行うことは実質的に難しい状態となっている。

一方アメリカでは、仮想通貨型の証券をベースにした不動産ファンドの発行が始まっているという。「不動産ファンドの持ち分をセキュリティトークン化し、仮想通貨で購入するのです」と成本氏。こうした流れもあり、アメリカではセキュリティトークン関連の開発を行っている企業がかなり増えてきているそうだ。

では、どのような形なら日本でもトークンを利用した取引が可能なのか。
成本氏は非上場の不動産投資信託(REIT)である私募REITなら可能ではないかと語る。
「不動産マーケットは周期が長いため、期限の定めがなく個人も購入できるREITが向いていると思います。私募REITの一口一口をトークン化して購入してもらい、トークンそのものを譲渡したり、一定の事業者への弁済や決済手段としても使用できるようにすることで、流動性や換金性をもたせることができます」

不動産という形あるものを裏付けとして発行されるトークンは信頼性も高い。今後の不動産投資や不動産領域でのブロックチェーン活用を考えるうえでは、外せないキーワードとなりそうだ。

なぜブロックチェーンなのか?データベース活用の可能性とは

パネルディスカッションの登壇者。上写真左から、村上浩輝氏、松坂維大氏、成宮正一郎氏、菅本浩司氏。新たに参加した2社の代表者がパネラーとして登壇した(下)パネルディスカッションの登壇者。上写真左から、村上浩輝氏、松坂維大氏、成宮正一郎氏、菅本浩司氏。新たに参加した2社の代表者がパネラーとして登壇した(下)

後半のパネルディスカッションでは、『なぜ不動産×ブロックチェーンなのか』と題し、ゲストとして株式会社ツクルバ 代表取締役 CEO 村上浩輝氏を迎え、ADREに参画している株式会社LIFULL ブロックチェーン推進グループ長 松坂維大氏、株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ) 常務取締役 成宮正一郎氏、三菱UFJリース株式会社市場開発部 次長 菅本浩司氏が登壇。ブロックチェーン、デジタルに取組む背景や狙い、またADREの取組みへの期待について語った。

シェアードワークプレイスやリノベーション住宅に特化した流通プラットフォームの提供を行っているツクルバは、不動産分野でのブロックチェーン活用について、Gunosyとの共同研究を行っている。既にブロックチェーン活用に取り組んでいる立場として、「ブロックチェーンはインターネットの次のインフラになるのではないか」と期待を語った村上氏。ただ、日本での注目のされ方はまだ「ブロックチェーンは金になるのか」「どの仮想通貨が儲かるのか」といったレベルにとどまっていると指摘した。
「ブロックチェーンの一次情報はGitHubのイーサリアムコミュニティ内の議論などで、すべて英語。そこまで情報を取りに行っている人はまだ日本でも少ないはずです。議論の情報量が海外とは圧倒的に違うので、僕たちが正しい情報発信やイベントなどで盛り上げていければ」と、ブロックチェーン技術そのものへの理解を進める必要性を訴えていた。

EAJ成宮氏は、参画の理由を「ブロックチェーン活用が進むことで司法書士や行政書士、税理士などの専門職が不要になるということも言われており、危機感を覚えた」と話した。
また、不動産取引の専門家集団ということもあり、「24時間365日いつでもどこでも残金決済ができるような仕組みを作りたい」と成宮氏。既に決済時の立ち合いを省略するサービスを開始しているが、将来的には、ブロックチェーン上に取引が進む中での合意や意思表示の記録をしていくことで、自動的に司法書士に情報が届き、処理を進めてもらうなど、「不動産取引に関するタイムラグをゼロに近づけていきたい」と考えており、ADRE参画社の協力も得て推進したいと述べた。

三菱UFJリース菅本氏は、「私たちは物件の価値を高めるサービスを提供していますが、不動産業界では民泊をはじめとして新たなキーワードが走り始めている。ブロックチェーン活用のような取組みは重要になってくると考え、手探りの状態ではあるが、まずやってみようと考えた」と参画の背景を紹介。
ブロックチェーンに取り組む具体的な理由として、菅本氏は大きく3つを挙げた。1つはオーナーとのリース契約が煩雑になっていること、2つ目はベンダーとの取組みでIoTに関わる研究を進めており、ビジネスを展開する上で正確な情報が必要になっていくこと、最後にオーナーが個人事業主の場合、審査において不足する情報があるため、情報を集約して活用することの必要性を感じているためだそうだ。

参画の理由は各社ともさまざまだが、今回パネルディスカッションに参加した2社は、所有しているデータを活用するというよりも、構築されたデータベースをうまくビジネスに活かしたいという方向性が強いように感じられた。ADREの活動が進むにつれ、ビジネスにどう活用できるかが具体化されてくると、さらに参画社が増えてくるかもしれない。

高まるADREへの期待と今後の課題

ADREの今後について、菅本氏は「正直、私たちだけで考えてみてもブロックチェーンをどう活用していくかの答えは出ない」としつつも、「いろいろな業種の方と話をすることで見えてくるものだと思う。これからのビジネスモデルをつくるには、今見えていることだけではなく、やってみて新たに発見できるものが必要になる」と、参画企業とのシナジー効果への期待感を語った。

成宮氏も「1社で考えていても形にはできない」と話し、現在構想している不動産取引のタイムラグを無くすサービスなどについて、「我々に近い発想をもち、ブロックチェーンを何かに活用できないかと考えている企業と接点を持ちたい」とADREを通じての出会いに期待を寄せていた。

関係企業や不動産業界からの期待は大きいが、モデレーターの櫻井氏が「不動産業界は他業界よりもアナログなので、ブロックチェーンの前にやらないといけないことが山ほどある」と話すように、まだ課題となることは多い。

LIFULL松坂氏は「ブロックチェーンベースのプロダクトが非常に少なく、不確定要素が非常に多い。やっていく中で新しい発見があるので、試行回数をどれだけ増やしていけるかが重要」と指摘。また、菅本氏は「個人情報との兼ね合いで、情報をどこまで開示していいのかというところにハードルがあると感じている。また、仕組みを作っても使ってもらえないと意味がないので、『この情報をぜひ使いたい』という人を集めたい」と、情報収集時、また活用時の課題を述べた。

ADREでは、既に複数のワーキンググループが立ち上がり、それぞれ活動している。櫻井氏は「今後は、プラットフォームを社会実装するという目先のゴールを設定し、早い段階で特定企業間、あるいは地域での概念実証(PoC)を実施したい」と今後のスケジュール感を述べていた。

さまざまな課題を抱えながらも、本格的に動き始めたADREの活動。どのようなプラットフォームが出来上がっていくのだろうか。今後の活動に期待したい。


■ADRE-不動産情報コンソーシアム-Aggregate Data Ledger for Real Estate

今後のスケジュール感。目下のところは企業間・地域内PoCを目指して活動していく今後のスケジュール感。目下のところは企業間・地域内PoCを目指して活動していく

2018年 12月17日 11時05分