松戸の不動産会社・omusubi不動産と日建設計の共創プラットフォーム「PYNT」が共同で研究
2026年2月。東京都世田谷区下北沢にある複合商業施設ボーナストラックで開かれた「まちの見本市」で「まちの愛着を醸成するプロセス研究」についてトークライブが行われた。愛着という言葉は親子間やモノに対して使われることが多いが、地域の未来のためにはまちに愛着を持つ人の存在は重要。トークライブで語られた研究について登壇者に取材してきた。
「まちの愛着を醸成するプロセス」を研究しているのは、千葉県松戸市に本社を置く不動産会社「omusubi不動産」と建築設計事務所「日建設計」の共創プラットフォーム「PYNT(ピント)」。研究の説明に入る前にこの2社について説明しておこう。
近年の不動産会社には大きく分けて2種類あるように思われる。ひとつは従来からある不動産だけを見ている不動産会社。そしてもうひとつは不動産だけでなく、不動産の背後や周辺にある課題や地域に取り組もうとしている不動産会社だ。
不動産業そのものが成り立ってきた経緯、歴史を考えると、後者の不動産会社は近年出現してきたものでもあり、日本全体で見てもそれほど多くはない。omusubi不動産はその数少ない不動産会社のうちの1社。社名の由来となっている米作だけでなく、遊休不動産に自ら手を入れ、地域に喜ばれる場に作り変えるなどの活動を続けており、田んぼだけでなく、「まちも耕す会社」というわけである。ホームズプレスでも2019年に同社の事例のうちのひとつ、せんぱく工舎を記事で紹介している。空き社員寮を転用した「せんぱく工舎」誕生で松戸市八柱が面白くなってきた
もう一方の日建設計は、従来であれば建物や都市を設計している会社と解されるところ。だが、同社がメディア向けに公開しているプレゼン資料をまとめると以下のとおりになる。
創業以来125年にわたって、社会の要請とクライアントのさまざまな要望に応えるべく、顕在的・潜在的な社会課題の解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできた同社。だが、2021年~2025年の中期経営計画では、従来の受託による設計業務はもちろん、「社会環境デザインプラットフォームへ向けた進化」をビジョンに掲げ、都市・建築の設計やマネジメントの仕組みづくりを通じて、関係者が連携し、現代の多様な社会課題に応える取り組みを加速させた。
それを受けて2023年に誕生したのが前述したPYNTである。まちの未来に新しい選択肢をつくるために、多様な課題意識を持つ個人と、建築や都市の専門家とが出会い、問いを深め、プロジェクトを共創していくためのプラットフォームである。課題そのものが複雑化し、ひとつの組織・専門領域だけでは解決できない時代に、「共創」を実験する場として位置づけられているという。
今回の記事はomusubi不動産会社との「まちの愛着醸成」がテーマだが、PYNTには、それ以外にも多文化共生、教育、環境など幅広いテーマのプロジェクトが集まっているそうだ。
大きな組織内には地域に関わりたい人がたくさんいる
そのPYNTとomusubi不動産が一緒に研究をすることになったのは、PYNTがZebras and Company(ゼブラ企業への経営支援を行う会社)と共同で2025年に立ち上げた共創型社会環境デザインプログラム「FUTURE LENS」を通じて。ゼブラ企業とは、社会課題の解決(白)と持続的な企業経営(黒)というの両立を目指す企業のこと。このプログラムでは地域の社会起業家と日建設計が共創し、事業価値の可視化・定量化、制度の読み解き、関係者の調整といった日建設計の専門性を生かした伴走支援を提供する。1事業者当たり年間最大500万円(最大2年間)の研究資金を支援しながら、日建設計の社員がプロジェクトに直接関わり、社会実装を前に進めるのが特徴だ。
第1期には111社の応募があり、omusubi不動産も応募した1社。途中12社まで絞られたところには入っていたのだが、最終3社には選ばれなかった。だが、同社が提案した「不動産業を“媒介”とした、地域課題解決のアプローチの検証と新しい不動産業のモデル化」にPYNTの運営メンバーが反応した。
「PYNTを拠点に、2023年から「地域共創サロン」という活動が続いています。これは仕事とは別に自分にゆかりのある地域で活動をしている有志たちが集まったもので、それぞれの活動がつながり、コラボレーションが生まれ、プロジェクトに成長していくことを意識したもの。活動開始から3年目で、地域との関わり方を実践したいと考えて、FUTURE LENSで提案されていたまちの愛着を醸成するプロセス研究を実際にomusubi不動産さんと共に取り組むことになりました」(日建設計総合研究所・土肥真梨子さん)
土肥さんの話によると、同社の社員には、仕事以外でも個人として地方や地域に関わりたいという思いを持っている人も多く、実際に活動している人も少なくないということ。日建グループ自体は大きな組織であり、仕事の規模も大きい。だが一方で、実家や郷里のまちといった小さなエリアに関わりたい人、現に関わっている人がいる。2025年にサロンとして作成した、自分たちの活動をまとめたZINEにはサロンメンバーが取り組むプロジェクトと、その人たちが関与または推している地域がマッピングされている地図があり、プロジェクトは全国各地に点在している。
この話から感じたのはPYNTには企業として取り組み領域を広げるという意味に加え、社員一人ひとりのやり甲斐や可能性を引き出す役割があるということ。小さい規模や地域との手触り感のある関係性を持った仕事では、見るべきものも手応えも違う。どちらかひとつだけでなく、そのどちらも経験できるとしたら仕事はより楽しく、深くなるはず。いいなあと思う人もいるのではないだろうか。
過去の4つのプロジェクトを分析。なんかいいね!を可視化
さて、今回の研究はomusubi不動産がこれまで行ったプロジェクトのうちの4つをケーススタディとして抽出。それぞれの取り組みや変容の過程を整理、関わった人達がそれぞれの時点で何を大事にしたか、重要と考えたかなどを挙げていく作業から始まったという。
事例として挙げられたのは前述の、元船舶会社の社宅を改装したクリエイティブスペース「せんぱく工舎」、曜日ごとの店主が営業するシェアカフェ「One Table」、古民家を活用した多目的レンタルスペース「隠居屋」、未活用ビルを店舗、オフィスなどの複合用途でプロデュースする「building C」。それぞれのケースの内容がまったく被っていないのがすごいところだ。
「私たちが松戸で活動し始めて13年目。この研究でやりたかったことは、よく言われる『松戸、なんか、いいね』を可視化すること。それによってできる不動産事業があるんじゃないかということです」と話すのはomusubi不動産の日比野亮二さん。確かに「なんか、いいね」だけではまねしづらいところがある。
「不動産業は、『場』と『機会』の提供と捉えています。そのために空き家を場として提供しているのですが、それが社会的価値へのアプローチであることを明確にし、活動がらせん状につながって向上していくことが見えるようにできれば。そのためにPYNTの方々にはまず、2025年7月に松戸の現地に来ていただいてまち歩きをし、その年の11月にワークショップを行い、その後、議論を重ねてきました」(日比野さん)
ワークショップにはすでに同社を離れているスタッフなども集まり、1物件に1時間程度かけて声を集め、気づきを付箋に書いては模造紙に貼り付けるという作業を行った。この作業の時の写真を見ると壁いっぱいにびっしりと付箋が貼られ、しかも1枚ずつにこまごまといろいろ書かれている。これだけの情報を整理するのは大変だっただろう。
「横軸を時系列、縦軸に地域、会社、個人と設定して書いた付箋を貼っていき、そのなかから重要と思われるものをピックアップ、事象を分類、流れを見ていくという作業をしました。最初は膨大でどうなるものかと思いましたが、当事者だけでなく、第三者の目が入ることで見えることもあると知りました」(日比野さん)
まちへの愛着は一筋縄ではいかない
そうしたやりとりを経た成果をさらにPYNTの「地域共創サロン」で他の人の意見も入れて議論し、ブラッシュアップ。研究成果をまとめ、最終的にタブロイド紙を完成させた。それをもとに開かれたのが「まちの見本市」のイベントである。このイベントは2月14日、15日にわたって開かれ、会場となったボーナストラック敷地内のあちこちでまちづくりに関わる人たちのトークライブ、マルシェなどが繰り広げられた。
さて、配布された研究成果であるタブロイドを見ていこう。これは最初の見開きにまちの愛着を醸成する循環MAPというまちの活動の進化の過程が①から⑭までのプロセスとして展開されている。活動が深まり、顔が見える関係が生まれてくることでまちへの愛着も深まるというわけだ。
次の見開きには具体的な活動の詳細が書かれている。この2つの見開きを行きつ、戻りつしながら見ていくとまちの変化とそこでのomusubi不動産の役割が理解でき、それが愛着を生むプロセスと解される。
ここで面白いのはこれらの流れが決して1つではないということ。たとえば①は動きの発端に当たり、利用者、オーナーが独立してお店を開きたい、物件を活用したいとなっているのだが、MAPをよく見ると③も発端であることが分かる。③は残したい・ポテンシャルのある物件を発見するとなっており、不動産会社が物語の舞台を発見することがスタート。立場の違う人がそれぞれにまちの動きの始まりになりえることが分かる。
登場人物が異なれば当然、その後の流れも異なる。利用者、オーナーが動き始めようとした場合、不動産会社は希望にふさわしい場や担い手を探す作業をするが、不動産会社が場を見つけた場合はそれをまちの使い手につなぐ作業が必要になる。どちらの場合も一般の賃貸住宅などと違い、借り手は誰でもいいわけではない。ここは神経を使う仕事になりそうだ。
以降も、試せる場を準備する、雑談から機運を育てる、関わるきっかけをつくるなど不動産会社の仕事とは思えないような役割が続き、しかも、MAPでは同じ作業が何度か繰り返されることが示唆される。仕事をルーティンなものと捉える人にはどうしてよいか分からなくなってしまうかもしれない。
愛着は一度生まれたらといって永遠に続くものではない
利用者・オーナーから始まろうが、不動産会社から始まろうが、まちの活動は最終的にはMAPの到達点である「あったらいいなと思う風景が共有される」、未来の話として「選ばれるまちになる」というところにつながる。そこまで来れば愛着は醸成されたと思われるが、MAPはそこで終わってはいない。到達点はそのまま再度、開始点に戻っていくのである。
顔の見える関係や愛着といった、目に見えない人と人の間に生まれるものは、一度形成されたからといって安泰ではないという認識からだろう、生まれた関係は次の人に引き継がれる形で循環する。イメージとしてはぐるぐると渦を巻きながら少しずつ上昇していく姿。動いている限りは上昇するが、止まってしまったら落下する。MAPからはそんなことがイメージできる。ちょっと脱線するが、今、日本のあちこちのまちで起きている停滞はそうした流れが止まる、落下を続ける状況といえるのかもしれない。
つまり、まちを変えたいと思ったら、誰かがそうしたエンドレスの動きを支える必要がある。それが誰か。この循環MAPからはいろいろな人が担い手になれることが分かるが、取り分け大事なのは不動産会社。どんなにデジタル化が進んでも生身の人間にはリアルな場が必要で、それを扱えるのが不動産会社だからである。
そのために具体的に何をやるかが書かれているのが2つ目の見開きだが、欲を言えばここはもう少し分量が欲しかったところ。ここで書かれていることは条文を覚えれば済むようなものでなく、自分で経験する、あるいは他人の経験を疑似体験することで学んでいくものと思われるからだ。それについてはいずれ、この研究がもう少し大部のものにまとめられる日を期待したい。
まちに関わる道筋が見えるようになった意味
研究そのものとは少し離れるが、タブロイドにはこうしたコミュニティに関する活動については短期間では収益につながらないこと、それを支えるためには日常の不動産仲介で地道に収益を上げ、会社全体で信用を積み上げていくことが大事であることが書かれていた。
冒頭で不動産会社の2極化について書いたが、地元密着型の不動産会社にとって地元の栄枯盛衰は自分たちの仕事の今後に影響する話である。地元が衰退していけば不動産の流通は減り、自分たちの仕事もなくなってしまう。だが、そうは思っても多くの不動産会社がまちや社会の課題に関わろうとしないのは長期的に関わらないと収益につながらないこと、手間がかかることなどを知っているからだろう。
だが、今回の研究のような形でこれまで何をやればよいのかが分からなかったことの筋道が多少なりとも見えるようになれば、チャレンジしてみようと思う不動産会社が増えるかもしれない。そうなれば研究の甲斐があったというものである。
また、この研究ではPYNTとの協働に大きな意味があったとも思った。現場で動いていると全体像が見えにくくなることは多々あり、第三者の目は非常に重要である。特に建築に関わる人たちのものの見方は論理的で立体的であるように思われ、そうした目で見ることで今まで言語化できていなかったことが整理され、誰にでも伝わるものになったのではないかと思う。
タブロイドには愛着のプロセスを解き明かす研究のプロセスが現地視察、ワークショップなどと4段階に分けて説明されていたが、そのうちの暗黙知を言語化する意味を担ったワークショップがあったからこその研究だったと思う。異業種が組むメリット、強さとはこういうものなのだろう。
■参考資料
地域共創サロンが作成したZINE「地域共創 わたしの想いをまちに繋ぐ」
https://www.nikken.jp/ja/dbook/kankyokyousei/




















