愛知県の新たな産業としてロボット産業の振興を図る
“ものづくり王国”といわれる愛知県。経済産業省が行った2020年工業統計調査によると、製造品出荷額等で全国の約14.9%を占めてトップにランクイン。日本一の記録は43年連続となる。
その愛知県において、これまでの主要な産業である自動車と航空に次ぐ、3つ目の産業としてロボット産業振興の強化が進められている。
始まりは国が掲げた「ロボット新戦略」に基づくが、愛知県では自動車産業などで培った技術やノウハウを生かしたロボットベンダーが多いという土壌があったことで、県としての取組みが整えられるようになった。
「あいちロボットトランスフォーメーション」とは
サービスロボットは、主にサービス業で使われるロボットのことを指す。工場などで見られる産業用ロボットに対し、私たち一般ユーザーのすぐ近くで働いてくれるロボットとなる。例えば、レストランでの配膳ロボット、商業施設やオフィスなどでの掃除ロボットなど。
「2019年に自律型ロボットの国際大会『ロボカップアジアパシフィック』が愛知県で開催されることが決まりました。それを契機に、会場である中部国際空港島にてロボットの先進的な姿を発信していこうと『あいちロボットショーケース』という名で、2019年度、2020年度に実証やPRを行いました」と村川さん。
「あいちロボットショーケース」は、まずはターゲットとなるユーザーにサービスロボットの存在を知ってもらうために、実証場所を“ショーケース”に見立てたことに由来する。初年度の2019年度はセントレア(中部国際空港)で実施。翌年度は、県内に新しい取組みに協力的な施設が多かったこともあり、空港のほか病院、商業施設、ホテルなど、実験の場所を増やすことができた。それぞれの施設にマッチしたロボットの実証、デモンストレーションを行うことで、施設ユーザーによりPRができたという。
そして2021年度は「あいちロボットトランスフォーメーション」と名称を変え、実証実験に重きを置くことに。
「社会変革を目指し、よりリアルな現場でのユーザー業務に入り込んだロボットの実証を実施しています」
私たちの暮らしはどうなる? 商業施設での実証実験を見学
実はコロナ禍がサービスロボットの市場にとって追い風になっているという。「コロナ禍前まではユーザーがロボットに関心や馴染みがないことも多く、市場が育ちにくい部分がありました。ところが、withコロナ・afterコロナ時代の”新しい生活様式”として、業務効率化に加え、安心・安全という観点からも非接触や人の業務を削減するサービスロボットの導入ニーズが世界的に高まっています」
今回、名古屋駅前にある商業施設、大名古屋ビルヂングでの実証実験を見学させてもらった。飲食店でお客が注文したメニューをテーブルまで運ぶ、“動くショーウインドー”として商品をPRする、空間の清掃、また除菌や脱臭を行う、そして警備室と連携して館内を見回るなど多彩だった。
いずれも精巧なプログラミングでしっかりと働く機能を果たしていて、驚くばかりだった。商業施設では多くの人が行き交うが、ロボットはもちろん人の動きを検知してストップしたり、ルートを変えたりする。飲食店の店内ではテーブルの配置を変えたときもプログラミングですぐに対応できるという。ディスプレイロボットではターゲットをピンポイントで狙えるなど、施設内の店舗への誘導が可能になる。
導入者にとっては人手不足の解消や広告効果を高めるなどの利点がある。一方、施設を利用するお客にとって、サービスロボットによって生まれる安心や利便性とともに、漫画などに描かれていた近未来的なものが目の前にある楽しさも大きいのではないかと感じた。
配膳ロボットに関しては、大手飲食チェーンなどではすでに導入しているところもある。新しい社会の実現が始まっている。
病院や農業のサポートも
2021年度の「あいちロボットトランスフォーメーション」では、合計6ヶ所が実証実験の会場となった。
藤田医科大学病院では、医療現場をサービスロボットがサポートした。例えば、薬剤や検体などの搬送を自律走行できるロボットだ。2021年12月の実証実験では、エレベーターとも連携して複数フロアへの搬送ができたそうだ。また、足を怪我している人や歩くことが困難な高齢者などを乗せて目的地に行ってくれるパーソナルモビリティや、アメリカで開発されたAI搭載の介護支援ロボット「アイオロス・ロボット」も活躍していた。このコロナ禍において医療のひっ迫は連日報道されているとおり。そんな状況を少しでも解消できるのではないかと期待される。
愛知県は農業産出額も全国トップクラスだが、その農業の場でもサービスロボットが活躍。今回の実証実験では、トマト農園で農薬の自動噴霧ロボットや、収穫をサポートするロボットの導入実験が行われた。
サービスロボットが活躍するところは、私たちの暮らしに密接な場面ばかりだ。暮らしを豊かに、また楽しくもしてくれる存在は頼もしい。
実証実験を通して見えてきた効果と課題
アマノ株式会社のロボット床洗浄機「EGrobo(イージーロボ)」。主にオフィスなどでの使用を想定していたが、今回の実証実験でトマト農場でも使えるのではないかと試すことに。ベンダーにとっても可能性が広がる場となっている県が主導することによって、実証実験の現場は大きなものとなっている。通常だとメーカー側は営業先など自分たちのつながりのなかで反応をみることになるが、今回の事業では大手の施設などでプレゼンできる機会を得ることができた。さまざまなメーカーのロボットが一堂に会することもあって開発の刺激にも。オフィスをメインの用途で考えていたところ、農場でも活躍できるのではないかといった話が出るなど、広がりもあったという。
そんななかの課題として、村川さんは「工場で働く産業用ロボットとは異なり、サービスロボットの現場は必ずしもロボットをはじめとした次世代技術に明るい人だけではありません。実際の現場を知り、ユーザーの視点にたった製品開発や運用を考えることが大切」と語る。
そしてユーザー側の意識改革も必要とのこと。
「ロボットは万能ではなく、1つの作業を行うものが多いです。完璧を求めるのではなく、人の業務のやり方を変えて、一緒に仕事するというスタンスが大切なのではないかと思います」
私たちはサービスロボットのサービスを受ける側だけでなく、ロボットを導入するユーザーとなる場合もある。人の働き方改革にもつながれば、私たちの暮らしの質は向上するのではないだろうか。
事業3年目となった2021年度は、効果検証する企業が入り、レポートをロボットベンダーと施設にフィードバックをするという。
「ロボットを作る人、それを売る人、施設のオーナー、テナント、サービス提供者、業界団体など、多くのステークホルダーを巻き込んで、ユーザー視点での最適解を見つけたい」と村川さん。また、サービスロボットの市場は成長期であるため、状況は刻々と変わっていくが、世界と日本の最新状況をしっかりと捉え、フレキシブルな対応を心がけていくという。
愛知県をサービスロボットの集積地に。そして人々の生活を豊かで便利なものに
「日常生活のなかで人とロボットが協働することが当たり前になる社会をつくれたら。そのために愛知県がサービスロボットの集積地となり、日本をリードする先進的な取組みを実施することを本事業では目指しています」と村川さんは言う。
県として次世代産業のロボット振興で、ものづくり産業の競争力を高めることをポイントにしつつ、その先には人々の生活が豊かで便利なものになることを見据える。サービスロボットの普及を進めることによってさまざまな現場の課題が解決されることが、人々の豊かな生活につながるからだ。
愛知県では今後も本事業を継続していく予定とのこと。「施設ごとに要望や課題は異なるので、それにマッチした解決策が提案できるようにしたいです。施設とロボットベンダーのマッチングを行い、具体的な業務をロボットが実施するように深く業務課題に入り込み、社会実装を加速させていけたら」。県のさらなる支援とそこからつながる未来に期待したい。
あいちロボットトランスフォーメーション https://aichirx.jp/
公開日:













