増え続ける都内のタワーマンション
都市での住宅供給の主流がマンションとなって久しい。マンションの普及に伴い、タワーマンションの出現に象徴される大規模化や設備の高度化の変化が続いている。
国土交通省の『マンション政策の現状と課題』資料によると「マンションストック数は約654.7万戸(平成30年末時点)」であり、 平成27年国勢調査による1世帯当たり平均人員(2.33)から推計した場合「約1,525万人、国民の約1割がマンションに居住」しているという現状だ。
その中でも、タワーマンションの人気はコロナ禍であっても引き続き需要があり、都内だけでタワーマンションは既に400棟供給済み、2020年以降の計画でも東京23区内でも5.5万戸、112棟の供給が計画されているという。
立地や眺望、室内の豪華さだけでなく、販売時に共用部の施設の充実を謳うタワーマンションは多い。実際に、都内の高額タワーマンションには、豪華なロビースペースだけでなく、バーラウンジ、パーティールーム、シアタールーム、セラピールーム、キッズルーム、プールなど、タワーマンションの住人が利用できるホテルのような共用施設が備えられており、それぞれのマンションの特色として販売時の訴求ポイントとなっている。
しかし、この共用施設を維持管理していくのには、ハードルがある。せっかくの共用施設が、維持管理の問題で入居後には徐々に遊休化していく、というのだ。
この遊休化しがちなマンションの共用施設に注目し、積極活用することで、マンション自体の資産価値向上にも寄与しようという取組みを始めた会社がある。株式会社 新都市生活研究所の代表、池﨑 健一郎氏にタワーマンションの共用施設の課題とその取組みについてお話を伺った。
「ホテルライク」を謳ったマンションの共用施設の課題
今回、池崎氏を訪ねてお話を伺ったのは、武蔵小杉にあるタワーマンション群のひとつ「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」のエントランスロビー。新都市生活研究所の取組みの第一弾の場所となる。
自らも都内タワーマンションのひとつの住人だという池崎氏。
マンションの共用施設の問題ついて
「都市部でタワーマンションが多く建てられていますが、ホテルライクを謳った豪華な共用施設は、マンションのひとつの売りとなっています。しかし、マンションの専有部分の売却後に管理組合にわたると、その維持管理には多くの課題が立ちはだかります。多くのマンションの共用施設は、活発な活用がされず遊休化してしまっています」と、語る。
「共用施設が遊休化すると、管理組合側も積極的に補修して活用していこうという機運が削がれてしまいます。マンション住⺠が共同で保有する貴重な施設を住民間でもっと活用できないか、と考えました」
理事会・住人の大きな負担なく、WIN-WINとなる仕組みを構築する「新都市生活研究所」
共用施設の活用については、池崎氏は自らマンションの理事会の役員として携わってきた。
「私自身、都内のタワーマンションの住人なのですが、集合住宅であるマンションの暮らしを豊かにするためには、マンションの中で様々な体験ができ、自然な集いが生まれていき、住人同士のよりよいコミュニケーションができる、ということが大切だと思っています。そういった体験がマンションの付加価値として情報として発信され、それが結果的に“このマンションに住みたい”と指名買いが生まれ、資産価値につながります。
私自身、そういった想いでマンションの理事会の役員として活動してきました。しかし、こういったマンション共用施設の稼働向上を目指すためのイベントやコミュニティの形成には、かなりの労力を使うため、個人の手弁当ではなかなか継続しないな、という実感もありました」
マンション住人は、マンションの理事会の活動に仕事をしながら、多くの時間を割くことができない。“外部の企業の力が必要だ”と感じた、その経験から“マンション内の共用施設を活用したイベントやサポート”が行える事業とする「新都市生活研究所」を立ち上げたのだという。
「マンション内に入れることは、企業にも魅力があります。“このマンションの住人”という、ある程度ターゲティングができるマーケットであり、企業側の商品紹介や試作品の意見交換などのイベントの場として、共用施設の場を活用することで、企業側もコストを抑えることができるでしょう。この活用での収益の一部は、共用空間の補修にまわすことも可能です。
理事会・住人の大きな負担なく、様々な体験イベントやサービスの提供がされていく。それは住民にとって嬉しいはずですし、企業側にとってもマーケティングができて嬉しい。そういったWIN-WINとなる仕組みを構築していきます」
「私自身がマンションの理事役員を6年間務めてきました。その経験と実績の応用は、他のマンションでも活用できると思っています。共用施設の稼働向上策を他のマンションでも展開し、豊かなマンションの暮らしが生まれる、そういったサービスを提供していきます」という。
まずは共用施設の活用をアートから
最初の新都市生活研究所の取組みは、アート作品の展示とレンタル・購入のサービス。アート管理サポートサービス「artworks」を提供するbetween the artsとの提携イベントとなる。
具体的には、「artworks」に登録しているアーティストの作品の中から、物件や居住者の傾向に応じ、between the artsが選定したアート作品を、キャプション付きでマンション共用部に展示する。池崎氏は
「せっかくのこのスペースをもっと豊かにしつつ、住人にも喜んでもらえる取組みとしてアートの展示・レンタル・販売を行います。展示作品はbetween the artsの選定で将来期待され、注目度の上がっているアーティストの作品を中心に1ヶ月毎に展示作品を入れ替えていく予定です」という。
今回、レンタル・販売を含めた展示会場となったのは「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」の1階のエントランスロビー。タワーマンションらしく、天井が高く、高級ホテルのロビーのようだ。ビフォー画像にあるように殺風景だった壁が、アートを飾ることでアフター画像のように美術館の壁のような華やかな空間となった。
「飾られているアート作品は、このマンションの住人の方であれば、気に入ったらご自宅に1 週間の無料レンタルが可能です。アート作品の詳細は、展示作品の下のQRコードから情報を取得できます。1週間ご自宅にお試し展示後、作品の購入の有無をレンタル最終日に決めていただきます。気に入れば購入していただき、もちろん、購入をせずに返却いただいても大丈夫です」
この取組みは、今後も都内のタワーマンションで展開予定。
取組みを通じて、between the artsはアート作品の展示・販売接点を通じてアーティストへのサポート強化を目指し、新都市生活研究所はマンション居住者および管理組合に対して満足度向上を目指す。
マンションの情報を発信することも含めて、資産価値の向上をサポート
一般的に「マンションは管理を買え」といわれるが、タワーマンションの出現に象徴されるマンションの大規模化、設備の高度化は、想定されていなかった課題を生み、マンション管理は専門化・複雑化している。
様々な課題を解決するためには、住人の合意形成が欠かせないが、普段コミュニケーションを取っていない住人同士の合意形成の難しさは想像に難くない。管理組合や理事会の運営の難しさも、大規模修繕に代表される合意形成のハードルも含めて、多くのマンションの課題である。
新都市生活研究所は、池崎氏の経験からマンション管理規約、使用細則の改定支援や管理組合様が副収入を得られる外部貸提案や、ルールの整備支援なども行うという。また、マンションのコミュニティや活動が外からみてもその暮らしの豊かさや管理の充実が伝わるよう、広報やSNS等を使った情報発信も請け負うという。
「この情報社会において、住まいを選ぶときに人々が気にするのは、スペックだけではなく、そのマンションでどういった暮らしが行われ、どういったコミュニティがあるのかだと思います。マンションでのより良いコミュニティは、魅力であり、差別化のひとつだと思います。“新都市生活研究所”という社名に込めた思いのように、マンション住民が共同で保有する貴重な施設を使って、マンション内での体験を増やしていくことで、ワクワクした生活が生まれるお手伝いができればと思っています」
長らく立地や設備などのハードやスペックが、物件の主な資産価値の評価であった。
しかし、ストック物件が増える中、今後はマンションの「ソフトウェア=その場所で何が起こっており、どういう暮らしができるか」が、その資産価値を左右する大きな要因になるかもしれない。
新都市生活研究所の取組みにより、そういったマンションからの情報を多く目にすることを期待したい。
■取材協力:新都市生活研究所 https://shintoshi-ken.com/









