海外に比べて大幅に遅れている日本の無電柱化

美しい景色を目にして、思わずカメラに収めたものの、写真を見てみると、林立する電柱や縦横無尽に架かる電線によって、いまひとつ美しさが伝わらない写真になってしまったという経験はないだろうか。日本では、1986年より国土交通省によって電柱と電線を地中に埋めて無電柱化する取り組みが進められている。無電柱化によって、冒頭に挙げた「良好な景観の形成」のほか、地震や台風での電柱の倒壊に伴う道路寸断を防ぐことによる「道路の防災性能の向上」、電柱をなくし歩道上の有効幅員を広げることによる「通行空間の安全性・快適性の確保」の3点の実現を目指す。2021年1月20日、これまでの無電柱化の歩みを振り返り、これからについて考えるセミナーが、NPO法人電線のない街づくり支援ネットワークの主催で、オンラインで開催された。無電柱化の進捗の共有と、今後に向けた議論が展開されたセミナーの内容をレポートしたい。

セミナーの前半、国土交通省道路局環境安全・防災課分析官の吉田敏晴氏によって無電柱化の進捗が説明された。1986年の「電線類地中化計画」から、35年間にわたって取り組みが行われているものの、日本の無電柱化はなかなか進まず、ヨーロッパやアジアの主要都市に比べると大きな差があるという。ロンドンやパリ、香港やシンガポールなどの無電柱化率は100%だが、2017年度末現在で、東京23区は8%、大阪市は6%にすぎない。それどころか、2009年を境に1年当たりの無電柱化平均整備延長は減少に転じている。「無電柱化の推進に関する法律」の施行には、このような背景がある。

無電柱化されていない風景(出典:国土交通省HP「風景を台無しにする電柱」)無電柱化されていない風景(出典:国土交通省HP「風景を台無しにする電柱」)
無電柱化されていない風景(出典:国土交通省HP「風景を台無しにする電柱」)無電柱化された風景(出典:国土交通省HP「電柱のない美しい街なみ」)

毎年、約7万本の新たな電柱が生まれている

法律の成立に基づいて、2018年には「無電柱化推進計画」が策定され、2018年度から2020年度までの3年間で、約1,400kmの無電柱化を進めることになった。計画の基本的な方針には「増え続ける電柱を減少に転じさせる歴史の“転換点”とする」という文言も記され、強い意志がうかがえた。加えて、2018年の台風21号によって、約1,700本の電柱が倒壊し停電なども生じたことから、電柱倒壊の危険性の高い市街地の緊急輸送道路のうち、約1,000kmの無電柱化を行うことも決まった。当初の計画と合わせて、約2,400kmの無電柱化が目標になったわけだが、実際に整備できたのは計画の約75%、約1,800kmにとどまった。その原因について吉田氏は、変圧器や開閉器などの地上機器を設置する用地の買収が難航したことなどを挙げている。予定どおりに進まない無電柱化の一方で、実は毎年、約7万本のペースで新たな電柱が生まれている。住宅の新築や太陽光発電などによって、電柱のニーズが増えているのだそうだ。

鈍化している無電柱化の整備延長だが、「無電柱化推進計画」に基づき、過去のピーク時と同程度のペースでの整備着手をめざすほか、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」も加わる(出典:国土交通省HP)鈍化している無電柱化の整備延長だが、「無電柱化推進計画」に基づき、過去のピーク時と同程度のペースでの整備着手をめざすほか、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」も加わる(出典:国土交通省HP)

地中化工事のコスト削減とスピードアップに力点を

直接埋設方式(画像上)や、小型ボックス活用埋設方式(画像下)など、低コスト工法が検討されている(出典:国土交通省)直接埋設方式(画像上)や、小型ボックス活用埋設方式(画像下)など、低コスト工法が検討されている(出典:国土交通省)

依然としてさまざまな課題があることから、2021年度からの次期無電柱化推進計画では、次のポイントが挙がっている。

①災害時の電柱倒壊の影響が大きい緊急輸送道路の無電柱化を推進する。2021年度から2025年度までの5年間に、新たに約2,400kmの無電柱化に着手することを検討。

②1km当たり約5.3億円かかっている電線類の地中化コストを、低コスト工法を活用して10%から20%削減する。

③工事のスピードアップを図る。約7年の平均的な工期を約4年に短縮することを目標にする。

さらに、関係省庁、道路管理者、電線管理者、地方公共団体、地元関係者などとの連携強化、地方公共団体の支援なども検討されている。

無電柱化を前進させるために必要なこととは

無電柱化されていない住宅地無電柱化されていない住宅地

セミナーの後半のパネルトークでは、NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク井上利一氏がコーディネーターとなり、吉田氏の解説であがった無電柱化の課題と、今後の事業の方向性をめぐって、吉田氏と東京工業大学副学長の屋井鉄雄氏の間で議論が交わされた。

吉田氏は、これからの課題として、新設電柱の抑制、事業のコスト削減とスピードアップとともに、関係者の連携強化を挙げた。屋井氏は、電線類を地中化する意味や理由を地域住民にしっかりと説明し、理解を求めることが必要だと指摘。そのうえで、地域の声も受け止め、合意形成ができる枠組みをつくって事業に臨むことが、結局はスピードアップにつながるという。無電柱化の観点だけから道路のあり方を考えるのではなく、まちづくりの中に位置づけ、歩行者や自転車での利用などにも目を向けて、その整備や無電柱化を考えることが必要だと呼びかけた。

また屋井氏によると、アジアには、そもそも道路占用の概念がない国があったり、オーストラリアのある地域では、土地価格の向上が見込めることから、無電柱化の費用を負担する沿道の住民がいたりするそうで、「そうした事例を研究することで、新しい工法や機器の開発につながるヒントが得られるかもしれません」と、事業のコスト削減やスピードアップのために、海外の事例をもっと調べることを提案。吉田氏も「海外だけでなく国内にも先進事例があるので、それらを収集して事例集を作成し、共有・普及につなげたいと考えています」と今後の展開を語った。

国交省の資料によると、過去5年間に無電柱化事業を実施した地方自治体は、全体の約2割にすぎない。無電柱化をなかなか進められない地方自治体が多いという課題については、吉田氏は国交省にワンストップの相談窓口を設け、電力会社との調整なども行うので利用してほしいと呼びかけ、屋井氏は、地元のニーズや要望を踏まえた地方版の無電柱化計画を作成することを勧めた。

無電柱化された住宅地無電柱化された住宅地

無電柱化はかつて、良好な景観の形成の観点から、その必要が語られることが多かったが、現在は防災の観点が重視されているそうだ。無電柱化は暮らしの安全に直結する課題といえるわけで、生活者はもっと関心を持つ必要があり、国や関係機関の丁寧な説明がより求められるということがわかったセミナーだった。それにしても、無電柱化を進めている一方で、新設の電柱が毎年約7万本もあるという事実には驚いた。

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