薪ストーブの基礎知識

環境保護の世相を反映してか、ここ数年、薪ストーブが注目を集めているという。薪ストーブに興味のある人や既に家に設置している人はどんなものか知っているだろうが、関わる機会のなかった人にはイメージしにくいだろう。

そこで、愛知県安城市で薪ストーブを手造りしているという“鉄の仕事屋”杉浦熔接の工房主、杉浦章介さんに薪ストーブの基礎知識について教えてもらった。

「薪ストーブとは温風など使わずして熱線で部屋の壁や床、天井を暖めるものです。それらがすべて暖かくなることで、輻射熱によってその空間にいる人が寒い冬でも快適に過ごすことができます。“暖房”という言葉のとおり、まさに“房”を温めるものですね」

杉浦熔接の代表的なオーブン付き薪ストーブのサイズは、本体寸法(幅)1045×(奥行)686×(高さ)1151mm、本体重量220Kg。大きな放熱面積を持つこのサイズのものであれば、吹き抜けのある家でも1台で全室を暖房することができるという。

薪ストーブ本体の価格はメーカーなどによって異なり、市場に流通しているものは数万円~100万円を超えるものまでさまざま。サイズや形状も多彩にある。杉浦さんによると、薪ストーブを設置するときの予算は、本体と煙突工事で100万円~150万円程度を目安にすると良いとのこと。また、地域や家の構造、焚き方によって差はあるが、1シーズン(10月~3月)で薪にかかる費用は平均6万円ぐらいとのことだ。

杉浦熔接のオーブン付き薪ストーブ。このストーブ1台で、標高1000mの高原に建つ46坪の家1軒を暖めているところもあるという。杉浦熔接では薪ストーブを手造りしているため、家に合ったサイズのものを造ることもできる杉浦熔接のオーブン付き薪ストーブ。このストーブ1台で、標高1000mの高原に建つ46坪の家1軒を暖めているところもあるという。杉浦熔接では薪ストーブを手造りしているため、家に合ったサイズのものを造ることもできる

薪ストーブが暖まる仕組み

では、薪ストーブはどんなパーツでできているかというと、ボディ・炉・煙突・排気ダクト、足のほかに調理機能を備えているものであればオーブンや天板が付く。

オーブン付きの薪ストーブが暖まる仕組みは、炉で薪を燃やして熱くなった空気が天板に沿って走り、側面の壁の間を下りて、床下(炉の下)へ出て、排気ダクトから煙突を通って外へ出ていくという流れ。

杉浦熔接の薪ストーブの左側には「1次2次燃焼空気取り入れ口」という丸い穴が2つあいており、レバーで空気の量を調節しながら燃焼コントロールができる設計になっている。1次燃焼で熱した空気をさらに2次燃焼で熱することで、熱効率良くスピーディに部屋を暖めることができるのである。

薪ストーブは当然のことながら高温を発し、天板の温度は200℃以上にもなる。「木材などの可燃物は50℃以上で低温炭化を起こすと言われるので、薪ストーブを設置する場合は壁や家具などの可燃物から90cm以上の離隔距離を持たせる必要があります」と杉浦さんは注意を促す。

杉浦熔接の手造り薪ストーブの構造の一部杉浦熔接の手造り薪ストーブの構造の一部

煙突は薪ストーブの心臓

薪ストーブといえば煙突が付きものだが、煙突はとても重要だと杉浦さんは言う。

「薪ストーブにとって煙突は心臓のようなものです。煙突のドラフト(空気の引き)をコントロールできるものこそ薪ストーブと言えます。新築で薪ストーブを設置される施主さんには、煙突は2回以上曲げないように、しかも曲げるのは30度ぐらいまで、外側は軒や屋根よりも高くなるように出す、というのが条件とお伝えしています」

煙突を通すということは家の設計に影響するということなので、事前に工務店の設計士やストーブ販売店とよく相談したほうがいいとのこと。

ところで、薪ストーブで発生する煙は自動火災警報設備に反応しないのだろうか。

「薪ストーブで発生する煙は煙突に吸われて屋外に排気する構造になっているため、煙感知器が反応することはまずありません。ただ、熱感知器に関しては誤作動を起こすことも考えられるので、どの程度距離を取ればいいか警報器の設備会社などに確認していただくといいと思います」

煙突のメンテナンスは薪ストーブを使うシーズン前、シーズン中、シーズン終了時に内部の清掃と点検を行う。これらは自分でできるが、シーズン前に必要な屋根の上の煙突トップの点検は危険な作業なので、専門業者(薪ストーブ販売店)に依頼したほうがいいかもしれない。

薪ストーブから天井まで煙突がまっすぐに伸びているのが理想薪ストーブから天井まで煙突がまっすぐに伸びているのが理想

煙や匂いの原因は薪の乾燥不足

薪づくりは原木を手に入れるところから始まる。国土交通省の河川管理事務所のホームページに伐採木の無償提供情報が掲載されているので、そういうものを利用したり、薪の販売業者から購入したり、薪ストーブユーザーはさまざまな情報を集めて薪を手に入れている薪づくりは原木を手に入れるところから始まる。国土交通省の河川管理事務所のホームページに伐採木の無償提供情報が掲載されているので、そういうものを利用したり、薪の販売業者から購入したり、薪ストーブユーザーはさまざまな情報を集めて薪を手に入れている

「ストーブがどんなに高級品でも、薪をしっかり乾燥させていなければ白い煙がモクモクと出るし、匂いも良くないんです」

と杉浦さん。実際、薪ストーブを設置している家の隣に住んでいるという人が、杉浦さんに「煙がくさくてかなわないんだが、どうにかならないか」と相談に来たことがあるそうだ。

「しっかり乾燥させた乾燥薪を使っていれば薪ストーブの煙は無色透明で、あたり一面に木の香ばしいかおりが漂います。おすすめはウバメガシという備長炭の材料になる木ですが、割ってから乾燥させて使えるようになるまでに約3年かかります。杉やヒノキでも1年ほど乾燥させる必要があり、2~3ヵ月乾燥させたぐらいではとても使えません」

乾燥薪をつくる方法は、風通しのいい場所に薪棚を用意し、雨がかからないように薪を積んで自然乾燥させる。家の近くに薪の保管場所を確保できるかどうかも、薪ストーブの設置を決める前に確認してほしいと杉浦さんは言う。

「薪を置く場所がないところや住宅密集地などに家が建っている場合、あるいはこれから建てる場合、残念ですが薪ストーブを設置することはおすすめできません」

実際にどんな人が使っているのか

薪ストーブはどんな人が使っているのだろうか。杉浦熔接のお客さんはどんな理由で薪ストーブを設置する人が多いか聞いてみた。

「都会を離れて田舎暮らしをはじめる方や、電気やガスだけに依存しない暮らしをしたいという方が多いですね」

杉浦さんのもとには、お客さんから「薪ストーブのある部屋によく家族が集まるようになって団らんが生まれた」「薪ストーブで料理を楽しんでいる」「家族で薪づくりをすると絆が強まる気がする」といった感想が届くそうだ。

煙突を通さなければならないため薪ストーブを設置できる場所は限られるが、正面をどちらに向けるかは変えることができる。

「できればリビングなど家族団らんの場の中心に置いていただけると嬉しいですが、なかなか難しいと思うので、リビングなどから薪ストーブの正面がよく見える向きにしましょう、とお客さんにアドバイスさせていただくんです」

集う人たちの会話のきっかけになるような“見た目にも楽しめる薪ストーブをつくりたい”というこだわりを持つ杉浦さんならではのアドバイスだ。使う人にとって薪ストーブは単なる暖房器具ではなく、家族や友人など大切な人たちとの交わりを深めてくれるものなのかもしれない。

そんな温もりあふれる薪ストーブを杉浦さんが初めて手造りしたのは今から20年程前のこと。
次回は、杉浦さんが薪ストーブを手造りすることになった経緯をお伝えする。

【取材協力】
■鉄の仕事屋 
http://www.katch.ne.jp/~showsuke/index.html


【関連リンク】
■鉄の仕事屋の薪ストーブ造り
https://wp021.wappy.ne.jp/ironstove.com/index.html#id1


 杉浦さんの薪ストーブは1つ1つのパーツに曲げやねじりといった工夫が凝らされており、お客さんから「蒸気機関車みたい」と言われるという。右下は杉浦さん手造りの鍋敷き 杉浦さんの薪ストーブは1つ1つのパーツに曲げやねじりといった工夫が凝らされており、お客さんから「蒸気機関車みたい」と言われるという。右下は杉浦さん手造りの鍋敷き

2014年 10月11日 11時34分