自然災害の多い日本で災害関連死をなくすには、まずトイレ?
災害大国といわれる日本において、災害関連死をゼロにする社会実装を目指すことを目的とした全国会議「第壱回 災害関連死ゼロサミット」がオンラインで2020年8月に開催された。
災害関連死とは、災害による直接的な被害での死ではなく、避難生活を送るなかで病気の発症や持病の悪化などで亡くなることをいう。
このサミットを主宰した一般社団法人助けあいジャパンの代表理事で、ナビゲーターを務めた石川淳哉氏は、冒頭でこう述べた。「災害関連死は、僕はもったいないと思っています。震災や水害で一度助かった命が、避難所や自宅避難のなかで亡くなってしまうことは避けられます。災害関連死というのは、言ってしまえば、自分も含めた人災です」
第1回のテーマは「コロナ時代、トイレの重要性」。
災害関連死を防ぐためには、トイレが有効というデータがある。総合マーケティング支援を行う株式会社ネオマーケティングが実施した調査結果によると、「あなたが避難所で過ごすなかで困ったことについてあてはまるもの」という問いで最も多かったのが「トイレ」で59.4%だった。
そしてトイレで困ったことについては、「数が少ない」が48.4%で1位、次いで「清潔でない(衛生面が悪い)」「女性への配慮が足りない」と続いた。
石川氏は「建築場所や音楽フェスに行ったときにあるトイレを想像してください。回収しなければすぐに満杯になってしまいます。そんな状況で用が足せるかというとなかなかできません。トイレは自宅のなかでもリフォーム率No.1の場所なんですね。自分の過ごしやすい場所がなくなり、不潔でいろんな人と共有しなければならないという負荷が非常にかかってくるんです」
災害関連死ゼロに向けて、専門家、医師、自治体担当者などさまざまな人が意見を交わしたオンライン会議の模様を紹介したい。
社会の脆弱性も災害関連死に結びつく
まず講師の一人として登壇した、跡見学園女子大学教授、一般社団法人福祉防災コミュニティ協会代表理事の鍵屋一氏。かつて東京都の板橋区役所で福祉事務所長だった鍵屋氏は、災害関連死を福祉の面から話した。
1995年の阪神・淡路大震災のころから注目されるようになったという災害関連死。災害被害は「ハザード×人口(暴露量)×社会の脆弱性」で表されると鍵屋氏。ハザードとは、台風の強さ、雨の量、地震の強さなどのことだ。
「災害関連死の最大要因は、社会の脆弱性なんです。阪神・淡路大震災のころと今と、そんなに社会が変わっていないんじゃないかと思っている方もいると思います。しかし、実はものすごく社会は脆弱になっているんです。高齢化は進み、阪神・淡路大震災のときは75歳以上の高齢者は717万人、今(2020年)は1,750万人と、25年で2.5倍に増えています。さらに高齢者の単身世帯はこの25年で3.2倍に。そうすると、“自助”といわれる家族のなかで頑張ろうといってもそれが難しい人がこれほど増えていることをまずご理解いただきたい」
さらには、近所付き合いの減少、町内会や自治会への参加の低下、消防団員数の減少など、隣近所の“共助”の力も弱くなっているほか、“公助”の中心となる自治体職員も1994(平成6)年~2016(平成28)年で16%減になっているという。高齢者が多くなっていることに対して、助ける力が弱まっているという非常に脆弱な社会であると指摘した。
また、災害後に介護保険料が増加したことから要介護者が増えたのではないかという調査研究の例を示し、「要介護となるだけでなく、精神的にも厳しくなるのが災害後の今の状況」と語り、災害関連死を防ぐための対策が必要であると訴えた。
福祉事業者に関しては「避難すればそれで終わりじゃなく、その後の福祉サービスを継続しなければならないんですが、ちゃんとできていない」と鍵屋氏は、安全な避難、代替施設での利用者ケア、福祉避難所などがきちんとできる“福祉防災計画”が今後必要になるとした。
避難時の食生活に伴うトイレ問題
鍵屋氏と同じく今回の講師として登壇した国崎信江氏は、株式会社危機管理教育研究所代表で、女性目線の防災アプローチを行っている。
さまざまな被災地での活動経験を持つ国崎氏は、まず、災害関連死の要因となる疲労、心労、持病の悪化を軽減するため、「食生活の改善が必要」と語った。
避難所で出される食事は、朝・昼はおにぎり、菓子パンなどで、夜には弁当となるが、食中毒を防止するために生野菜や新鮮なフルーツなどはなく、揚げ物のようなものが中心。カロリー過多や栄養バランスの偏りから持病が悪化することも考えられる。
「災害時にも継続して食べたいものを作っていく意識、その環境整備が重要だと思っております。ただ、災害時には自分の食べたいものだけを作れるという環境ではありませんので、仲間と支え合いながら自分たちが食べたいものを作っていくことを考えられるといいと思います」
国崎氏が災害支援で訪れた熊本の益城町では、食中毒防止を図りながら、災害救助法によって調達された食材を使い、避難者自身が食事を作り、コミュニティ力が上がったようにも感じたという。
ところが、現在の日本では、「自炊できる場所がないというのが避難所の課題」と国崎氏は話した。
食生活をきちんとすれば、必要となるのが生理現象であるトイレだ。その後の鍵屋氏と国崎氏のクロストークで、鍵屋氏は「災害関連死とトイレの関係」について以下のようにコメントした。
「東日本大震災のときに板橋区に避難されてきた高齢のご夫婦がいたんです。被災地で何が一番つらかったかを聞くと、おじいちゃんが『トイレですよ』と。後ろに何十人も並ぶと、とてもじゃないけれど出し切れない」というエピソードを明かした。
それによってトイレに行きづらくなるというわけだが、「トイレに行きたくないということは、水と食料を我慢することなんです。しかし、水と食料を我慢すると、どんどん体力が落ちて体調が悪化していきます。阪神・淡路大震災のときに看護師として活躍された女性がいらっしゃるのですが、とにかくおじいちゃん、おばあちゃんに、さぁトイレに行きましょうと声をかけながら、災害関連死を防ごうと頑張っていらっしゃったんですね。トイレというのは重要だと教えていただきました」(鍵屋氏)
全国での整備が進められる福祉避難所とトイレトレーラー
鍵屋氏、そして石川氏、国崎氏が発起人となり、「みんな元気になる福祉避難所」というプロジェクト名で活動が進められている。
「福祉避難所が一般的になれば、高齢者や障がい者の方が安心して過ごせることになります。今、福祉避難所になる場所として考えているのは特別支援学校です。全国で1,135校あります。高齢者と同様、障がい児も避難生活は非常に苦しいんですね。そういう人たちが安心して行ける特別支援学校を福祉避難所にしたい」と鍵屋氏。
2016年に起きた熊本地震では、特別支援学校の子どもたちやその家族の避難先は、車中泊が指定避難所の倍以上(1,000家族のうち657家族が車中泊、避難者全体の65%)というアンケート調査の結果があったという。そこで訴えが出て、熊本市では“福祉子ども避難所”、福岡市では“こども福祉避難所”ができたそうだ。
プロジェクトでは、全国の特別支援学校を福祉避難所にするとして、災害時に必要となるトイレ、電気などの重要資機材、マニュアル整備で約45億円(1校当たり400万円)が必要となる試算を出している。
その財源として、「企業版ふるさと納税」の制度でできないかと考えているそうだ。2020年から、企業が寄付をしたらその9割まで法人税が減額される制度で、企業は1割負担で整備できることになる。
鍵屋氏は「われわれは今、コロナ禍で、災害を経験する世代です。それが次の世代に同じ課題を残して終わっていいのか。もちろん苦しい思いをされた方々には支援が必要です。しかし、その方々にも責任はあります。次世代への責任を果たして、福祉避難所を整備し、災害関連死の心配をしなくていいね、という社会を一緒につくっていきたいなと思っています」と思いを語った。
一方、石川氏も自身が進めているプロジェクト「みんな元気になるトイレ」を説明した。移動設置型の“トイレトレーラー”を日本全国の1,741の市区町村に1台ずつ入れてもらうのを目標としているそうだ。
避難所では50人に1つのトイレが必要となる。避難所備え付けのトイレだけでは圧倒的に数が足りない。そこで、移動型のトイレトレーラーがあれば、近隣の市区町村からも支援が期待できるというもの。
災害時だけでなく、花火大会などの人が集まるイベントでも活用できる。現在は、コロナ禍ということで、紫外線照射装置を取り入れ、感染予防型のトイレの実現も目指しているという。
支援する側の人々にとっても解消されるべきトイレ問題
最後は、共創会議として、このサミットの参加者の経験談が聞ける機会となった。
2020年の7月豪雨で大きな被害が出た熊本県に、日本赤十字社の災害医療統括官という立場で内閣府のチームの一員として支援に向かった日赤医療センターの丸山医師は、人吉市市長からの一番の要望がトイレだったと明かした。さらに詳しく、仮設トイレか簡易トイレかを聞いてみると、避難所の要配慮者など多くは高齢者が対象となることが分かり、国が経産省を通じて自動ラップ式トイレ「ラップポン」を支援したという。
「ラップポン」(http://wrappon.com/)とは、今回のサミットでも紹介された商品で、日本セイフティー株式会社が開発。熱圧着により排泄物を自動で密封できるポータブルトイレとなる。特殊な防臭フィルムを使用しており、臭いが外に漏れることなく、1回ごとに個包装にして切り離されるので、清潔面でも安心。排泄物がラップされた袋は紙おむつと同様の処理ができる。
同じくサミットの参加者であった、ダイヤモンドプリンセス号内でコロナ感染者の治療を行ったという大桃医師は、「ラップポン」が感染対策にも有用と考えると話した。
また、7月豪雨で支援のため現地入りした、Peace winds JAPANの稲葉医師は、「トイレは支援者にも絶対必要なんです。被災者の方が我慢しているのに、そこに割り込んで入ることは絶対できないので、トイレ問題は深刻です。そういうときは水分を我慢するしかないのですが、それでもトイレに行きたくなりますから」と経験を語った。
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避難所生活を経験していないとトイレ問題は切実に感じないかもしれない。しかし、音楽フェスや祭り会場などでトイレに並ばなければいけない経験は少なからずあるはずで、それが連日となったらどうだろう。災害はこないに越したことはないが、災害関連死を防げるよう、簡易トイレや、移動型トイレなどの環境整備がされていくことを強く願う。
今回のサミットの模様はYou Tubeで公開されているので、ぜひご覧いただきたい。
取材協力:災害関連死ゼロサミット 運営事務局
第壱回災害関連死ゼロサミット
Part1 https://www.youtube.com/watch?v=K6fZRsO2kFk&t=716s
Part2 https://www.youtube.com/watch?v=f3KBTpiU6zg
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