台風10号発生時は、分散避難も呼びかけられた
2020年9月5日から6日にかけて九州に接近した台風10号。新型コロナウイルスの感染防止策を継続する必要があるなかで、地震や台風などの大規模災害が発生した場合、これまでどおりの避難はリスクを伴う。9月4日、鹿児島県知事は「避難所における3密回避のため、安全が確保できる親戚や知人宅への避難など、分散避難を検討してほしい」と呼びかけた。実際にホテルなどへ避難した人が多くいたようだ。
株式会社パソナグループでは「環境委員会」を設置し、地球環境保全活動に努めるとともに、社員の働く環境整備や様々な災害から身を守るための活動に取り組んでいる。その活動の一環として、防災の日である9月1日に「『今』自分できることを考え、備える」をテーマにセミナーを開催した。講師は備え・防災アドバイザー、BCP・危機管理アドバイザーの高荷智也氏。「コロナ禍における避難対策・避難所の実態と在宅避難」と題し開催されたセミナーから、いま気になる在宅避難の準備についてご紹介したい。
意外と知られていない「避難所」と「避難場所」の違い
まず高荷氏は、避難先には2つの種類があると解説した。
「自宅や勤務先に危険が迫っており、命を守るために逃げる先が避難場所(指定緊急避難場所)で、命を守った後、家で生活ができないときなどに行くのが避難所(指定避難所)です。よく『避難所に行かないといけないのですか?』という質問を受けますが、自宅が無事で自宅での生活に困難がなければ行く必要はありません。避難所の定員ですが、例えば東京都であれば人口の23%ほどです。さらに、避難所でも新型コロナウイルスに有効な対策はソーシャルディスタンスを確保することであることに変わりはありません。避難所の定員が減っていることもあり、避難所に入れない可能性があります」と話す。
さらに、避難所に入ったとしても、その環境は決して快適ではないとも付け加えた。
「避難所の運営は住民が行う必要があり、全員が運営者となります。また、日本の避難所は最低1週間の滞在を想定しており、ガイドラインどおりの運用がされたとしても、1名あたりのスペースは畳一畳分ほど(おおむね3.3m2/2名)。これは世界的な人道対応に関する最低基準であるスフィア・プロジェクト(最低3.5m2/1名)と比較してもスペースが小さいなど劣る点が多い。避難所は日用品の不足やプライバシー問題があることや、乳幼児や子ども、高齢者や障がい者、ペットなど、要支援者にとって負担が大きいということも認識しておきたいところです」と話す。
災害関連死の主な原因4つと対策
「残念なことに、なんとか災害から命の危機を逃れた方のうち、約2割の方が避難所などにおける肉体・精神的疲労などが主な原因として亡くなっています。東日本大震災では災害関連死をされた方のうち70歳以上が全体の9割を占めています」
高荷氏は、災害関連死の主な原因はエコノミークラス症候群、廃用(はいよう)症候群、誤嚥性(ごえんせい)肺炎、慢性疾患の4つであるとし、それぞれについての対策を説明した。
「エコノミークラス症候群は、水分補給を控え、さらに長時間動かない状態が続き、血行不良により血栓が動脈をふさぐことで起こります。トイレに行くことを控えたいことから水分を取らなくなる人が多いためで、避難所での対策としては使いやすいトイレを十分に備えること、水分補給・運動を促すこと。個人で行う対策は非常用トイレ・飲料水の備蓄、エアマットや弾性ストッキングの準備があります。
廃用症候群は、動かないことで、寝たきりなどの動けない状態になってしまうことで、避難所のバリアフリー化や、避難所での作業を高齢者から奪うのではなくできる範囲で仕事をしてもらうこと、個人でできる対策としては歩行補助具や装具などを備えることです。
誤嚥性肺炎は、唾液を誤嚥して肺炎が発生することです。特に高齢者には口腔ケア対策が非常に重要です。避難所ではオーラルケアを促す、個人では水のいらないペーパー歯磨きを準備するなどが有効でしょう。
慢性疾患は、災害より普段服薬している薬が飲めなくなってしまうことで重症化する可能性があります。自分が何の薬をどれくらい飲んでいるのかを把握し、災害時はお薬手帳を持ち出したり、コピーや写真を常に携帯するといいでしょう。避難所では、医療救護者が専念できるように支援や避難所運営を行うことが対策として考えられるでしょう」
パンデミックを回避するには分散避難も選択肢に。在宅避難の準備をしよう
コロナ禍においては、一時的に被災地から親戚の家、ホテルなどの離れた場所へ移動するいわゆる分散避難も有効であると高荷氏は話す。自宅が被害を逃れ、必要な物資があれば避難所に行く必要はなく、自宅での在宅避難が望ましいという。
「在宅避難のために必要な準備3つは、建物対策、室内対策、情報収集です。まず建物ですが、建築確認申請の日付が重要です。もし1981年6月1日以前だった場合は、旧耐震である可能性が高いため、耐震補強など建物の強化が必要になるでしょう。室内対策は、家具の転倒防止とガラスの飛散防止、火災の初期消火ができるようにすることです。最後に情報収集は、インターネットとラジオ、スマホの充電器、予備の乾電池などを用意します」
在宅避難の準備ができていても、建物や周辺に危険が生じている、要介護者などがいて周囲の支援が必要な場合などは避難所へ行くべきだとも付け加えた。
「1人でいることに不安を感じる場合は、日中だけ避難所に行く、情報収集は避難所を活用するなど、在宅避難と避難所を併用する方法もあります」
準備すべき防災備蓄品は?
高荷氏は、避難所で生活する場合も在宅避難をする場合でも、生活に必要な物資を備蓄することは重要であり、かつ、避難所では配布されにくいが、家族にとっては必要なものを重点的に用意したいと話す。
「準備すべき防災備蓄品の1つ目は、支援物資として手に入りにくい『個別用品』です。メガネ・コンタクト、補聴器、杖・歩行補助具、ストーマ装具、在宅医療機器のバッテリーなど、体の一部になっているものは必ず持ち出せるようにしましょう。新調した際に古いものを非常持ち出し袋に入れておくのをお勧めします。慢性疾患がある方は必ず薬を持ち出せるように、また誤嚥性肺炎を防ぐために入れ歯ケアグッズなどのオーラルケア用品も。ご家族の構成にあわせてオムツ・液体ミルク、介護用品、ペット用品などもあるといいでしょう。
2つ目は、電気・ガス・水道・トイレの停止に備えた『インフラ代替品』です。非常用トイレは最低1週間分(1名×5回×7日以上)準備を。カセットコンロとガスボンベがあれば自宅の食材はほとんど食べられますので、備蓄を推奨しています。
3つ目は、水・食料・日用品などの『生活物資』です。生活物資は、平時に消費できるものは普段から多めに買っておく日常備蓄を活用するといいでしょう。非常食はやや金額が高いものが多く、コストがかかりますが日常で食べるものを多めに買っておけば低コストですし、普段食べ慣れたものが災害時にも食べられるのでストレスがかかりません。賞味期限が古いものから順番に食べていけば賞味期限の管理も手間になりません。飲料水はマンション上層部に住んでいる方は、特に多めに用意しておき、エレベーターが止まってしまった場合に背負って運搬できるよう準備もしておきたいです」
インフラ代替品・生活物資は、まずは最低3日分を、3日分が準備できたら1週間分を、可能なら数ヶ月分を用意することを呼びかけた。すでに防災用の持ち出し荷物を準備している人も、あらためて不足しているものがないか確認しておきたい。
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