京都市内中が、写真で埋め尽くされる約1ヶ月

この季節になると、京都の街中で赤と黒のノボリを見かけるようになる。ノボリに書かれているのは、今年で第7回を迎える『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2019』のロゴ。2019年4月13日〜5月12日に、国内外の作家による様々な写真作品やコレクションを京都市内の各所で楽しむことができる。

今年のテーマは『VIBE』。写真を通して、目に見えないものが繋がる時に生まれる共振や共鳴を伝えようというもの。写真と一口にいっても、各作品にはポートレートやファッション、ジャーナリズムやコラージュなど多種多様な手法が織り交ぜられている。展示数は、メインプログラムで15会場、連動して行われる公募参加型の企画展『KG+』は約80会場というボリューム。その上、大丸京都やJR京都伊勢丹などの百貨店や大型書店のショーウィンドーにポップアップ展示が行われたりと、イベントが街中に広がっている。昨年第6回の際は約65万人が来場し、一昨年と比べて約1.5倍の増加と年々認知度も高まっている。

KYOTOGRAPHIEの見所は、展示会場に京都の歴史的な建造物やモダンな近代建築の空間を利用している点だろう。普段はあまり公開されていない場所が、作家やキュレーターのコンセプトに沿った展示空間に変わっている光景はとても興味深い。昨年と同じ会場だったとしても、アレンジが変わると全く異なる空間になるので、リピーターにとっては前回の展示と比較をするのも一興だろう。作家の力強い写真に対して、全く引けを取らない建築と展示空間は見応えたっぷりだ。

今記事では、メインプログラムである展示と、特別公開の展示箇所、建築展示空間と作家の魅力の両軸からいくつか紹介していきたいと思う。

(左上)京都市内の各所で「KYOTOGRAPHIE」と書かれたノボリがある箇所が展示会場。パスポートがあれば、会期中はいつでも訪れることができる。(左下)京都文化博物館別館。(右上下)両足院(建仁寺山内)photo by aki kuroki(左上)京都市内の各所で「KYOTOGRAPHIE」と書かれたノボリがある箇所が展示会場。パスポートがあれば、会期中はいつでも訪れることができる。(左下)京都文化博物館別館。(右上下)両足院(建仁寺山内)photo by aki kuroki

坪庭を眺めながら春画を。江戸時代から続く蔵の中でダンサーの写真を

江戸時代から続く帯匠である誉田屋源兵衛は、2会場が設けられている。呉服問屋が立ち並ぶ室町エリアで約280年の間、帯の卸を商ってきたが、現当主から帯の制作も始めている老舗だ。店舗である町家は、間口が狭くて奥行きの深い京都らしい鰻の寝床建築。太い梁や木組み、坪庭や石造りの土間など、この場に立つだけで帯匠の歴史をも感じることができる。

1つ目の会場である竹院の間は、襖に貼られた京唐紙が穏やかな風情を感じさせる、木のぬくもりが優しい空間。ここでは、アメリカ在住の作家 ピエール・セルネ氏による性をテーマにしたモノクロ写真作品と、春画のコラボレーション展示がおこなわれている。2013年ロンドンの大英博物館で初の春画特別展が開催されてから、日本でもその価値が認められるようになっている春画。喜多川歌麿、葛飾北斎、鈴木春信などの著名作品が一覧できる機会となっており、ここでしか見られないコラボレーション空間になっている。

もう一つは、石造りの土間を抜けると敷地の一番奥にある、蔵を改装した”黒蔵”も展示空間。黒漆喰と増改築した六角形のドームが印象的で、大正ごろの気配を残している母屋とは対照的なつくりとなっている。ダンサーであり振付家として活躍しているベンジャミン・ミルピエ氏が、”時間と空間”をテーマにした作品を展示し、街中で行きかう人や自由に踊るダンサーの躍動感のある姿を写真で表現することで、自由や偶然性の大切さを表現している。暗闇の中に浮かび上がるダンサーの姿との対比が美しい。

(左上)ピエール・セルネ&春画 @誉田屋源兵衛 竹院の間 ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019。(左下)黒蔵の外観(右上)土間(右下)ベンジャミン・ミルピエ《Freedom in the Dark》 @誉田屋源兵衛 黒蔵の間 ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019(左上)ピエール・セルネ&春画 @誉田屋源兵衛 竹院の間 ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019。(左下)黒蔵の外観(右上)土間(右下)ベンジャミン・ミルピエ《Freedom in the Dark》 @誉田屋源兵衛 黒蔵の間 ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019

インキの匂いの残る旧印刷工場が、インスタレーション空間に

京都新聞ビルの地下に、印刷工場があったことはご存知だろうか?地下1階〜2階まで高さ10m弱、約1,000m2に及ぶ空間では、かつて輪転機が稼働していた。印刷拠点の一元化が決まり2015年11月末に工場が閉鎖されるまで、50万部の朝刊と30万部の夕刊がこの場所で刷られていた。現在は、輪転機などは撤去され、レールや少し窪んだコンクリート地面が広がるガランとした空間だが、時折インキの匂いが漂う際に、多くの新聞がここを移動していた当時の様子が想像される。

そんな会場に入ると、レールに沿ってカラフルな液体が入ったペットボトルが遊歩道の印のように等間隔で置かれている。その道を歩いて奥に進むと愉快な機械音があちこちから聴こえてきたり、壁にうつされた写真が不意に動いたりとまるで不思議なテーマパークに迷い込んだかのよう。この会場を彩ったのは、京都の彫刻作家である金氏徹平氏。この旧工場跡地と移転後の新工場で撮影した写真・映像や録音した音をオリジナルに組み合わせたインスタレーションとなっている。

写真展示という枠を超えて、空間全体を最大限に活かした展示になっているので、ぜひ一度、この空間に足を運んで体験してみてほしい。

金氏徹平《S.F.(Splash Factory)》@京都新聞ビル 印刷工場跡(B1)
©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019金氏徹平《S.F.(Splash Factory)》@京都新聞ビル 印刷工場跡(B1) ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019

真っ暗闇の元台所で、光と時間を体感する

御清所とは、貴人の家の台所のこと。この二条城の御清所は、後水尾天皇が外出された”寛永の行幸”の際に台所とともに建てられたとされ、建築物としても貴重なものである。64畳の板張り大部屋と並行する3つの小部屋に分かれ、大部屋の中央には大きな囲炉裏の跡と、天井には煙出しが設えてある。現存する城のうち、台所のほか御清所と米倉が残っているのは、二条城だけだそうだ。

この建物自体を「カメラに見立てて作品を制作した」と話すのは、パリとチュニスを拠点に活動するイズマイル・バリー氏。私たちは、カメラの機械の中に入っているのだと思うととても愉快だ。室内に入ると文字は絶対に読めないくらいの暗闇の中に、一見静止画のような微かな動きを捉えた映像作品が展示されている。作品から放たれる人工的な光と、壁の木目の隙間や小窓から届く自然光から、内と外の関係性を表現しているのだそう。小窓からちょうど外を覗くと、正面にクスノキが見えることから、作品名は《クスノキ》 。御清所として使われていた時間に思いを馳せながら、現実時間との時空の歪みを体感できるかもしれない。

以上、3箇所を紹介した。KYOTOGRAPHIEの楽しみ方は、まだまだ、一通りではない。写真やアートに詳しくなくても大丈夫。建築物や空間そのものを、感覚的に楽しめるイベントを思う存分体感してほしい。

(左上・右上・右下)イズマイル・バリー《クスノキ》 @二条城 二の丸御殿 御清所
©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019。(左下)二条城 二の丸御殿 御清所の外観(左上・右上・右下)イズマイル・バリー《クスノキ》 @二条城 二の丸御殿 御清所 ©︎ Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019。(左下)二条城 二の丸御殿 御清所の外観

2019年 04月27日 11時00分