ホステルを新定義。京都滞在をより深く、魅力的に

2016年京都に誕生したホステルが、SNSやWEBメディアを騒がせている。
「宿泊できる雑誌」という、なんとも惹かれるキャッチコピーがついた「EDITORIAL Haus MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)」だ。場所は、京都二条城のそば、西陣エリアと呼ばれる場所にある。高級絹織物である西陣織の発祥の地でもあり、生活道でもある裏通りには町家が連なり、地元の人の生活が静かに営まれている。

マガザンキョウトは、一日一組限定で2階建ての一軒家を貸切できるホステル。1階は、受付・ギャラリースペース・キッチンやお風呂などの設備が整い、2階は、京都の作家を中心とした作品や雑貨・お土産物販売スペースと、宿泊者のみが利用できる宿泊スペースに分かれている。

ユニークなのは、ホステル空間を「雑誌」と置き換えているところ。1階のギャラリースペースで、定期的に行われる展示・販売やイベントは「雑誌の特集」、特集の企画主は「共同編集者」と呼ばれる。もちろん、企画の打合せは「編集会議」だ。
そう、実際に泊まりながら、雑誌の空間を体験できるというのがマガザンキョウトの魅力なのだ。

京町家をリノベーション。外からでも1階のギャラリー空間をのぞくことができ、明るく開放的京町家をリノベーション。外からでも1階のギャラリー空間をのぞくことができ、明るく開放的

泊まるからこそ、一歩深く関われる

「もともと雑誌が好きだったんです。雑誌の魅力って、手の届く距離のかっこいいものやいいものを可視化してくれるところ。それを空間を使って表現できると、もっと立体的な体験がつくれるのではないかと考えたことが、このホステルの発端です。雑誌の特集を生み出すように、テーマに合う人を様々な切り口で見つけては口説きます。どんなテーマを軸にするか、空間をどんな風に演出するかなど、一緒に考えながら編集します」と、オーナー兼マガザンキョウト編集長の岩崎達也さん。

京都はもともと美術大学も多く、アーティストや作家に日常的に出会うことも多い土地。マガザンキョウトの特集企画では京都在住のアーティストやカルチャーの拠点となっている飲食店やアートギャラリーとのコラボレーションも多く生まれている。また、ここで生まれた特集企画が飛び出して、京都の百貨店や県外に展開するといった広がりも見せている。

宿泊に訪れるのは、海外旅行客だけでなく、国内のデザイナー、建築家、作家などアイデアを必要としている職種の人が多い。作品が展示された空間に宿泊し、自分の好きなタイミングで自由に体感することができる。本も実際に開いて読むことができる。もちろん、気に入ればそのまま購入することも可能だ。ただ宿泊するだけではなし得ない、旅先でのインスピレーションが得られる機会となっている。

雑貨や展示物は盗まれないの?という野暮な質問は不要!「オープンから1年間、トラブルは起きたことない」とのこと。この空間をリスペクトし、モラルのあるお客との関係性がきちんと築かれている空間なのだ雑貨や展示物は盗まれないの?という野暮な質問は不要!「オープンから1年間、トラブルは起きたことない」とのこと。この空間をリスペクトし、モラルのあるお客との関係性がきちんと築かれている空間なのだ

ビジネス的な実験の場としても機能する空間

マガザンキョウトのオーナー兼編集長の岩崎達也さん。部類の野球好きマガザンキョウトのオーナー兼編集長の岩崎達也さん。部類の野球好き

もともと、岩崎さんは、東京の某WEB会社でディレクションや新規事業の立ち上げを主にされていた方。その経験がマガザンキョウトという場で、存分に活かされている。

例えば、ホステル運営の参考にしたのは雑誌そのもの。販売売上だけではなく、タイアップ企画や広告収入などで収益を上げるという、雑誌の収益モデルをホステル運営にスライドしている。ホステルを空間メディアとして再定義することによって、宿泊費だけで運営を行うこれまでのホテル業界の固定概念を覆し、新しいビジネスモデルを展開しているのだ。

また、2017年4月には東京にも事務所を置き、東京在住のマーケティング業を得意とするビジネスパートナーと共に法人化。ホステルという場所を使ってのモニター・リサーチや、温泉旅館のリニューアルなどのプロジェクトデザイン業も同時並行している。

「事業体をデザインする際にはマーケティングとクリエイティブ、どちらも必要です。実際につくられたものが、体験としてきちんと喜ばれているか、どう作用したかを、この場を活用して進められることもあります。東京ではマーケティング、京都ではクリエイティブ。2つの拠点があることも僕たちの強みです。また、東京と京都の比較をしてみると、京都は歴史が長く、文化的な物事が自然と根付いている街。一方で東京は、常に変化していて、新しいものが生まれては変化していく未来志向の街。その2つのカルチャーや特性を知っていることで、世界中の人に向けて、日本の新しい体験を用意できることもあると思うんです」と岩崎さん。

人との繋がりとなる接着点、ハブのようなイメージで

マガザンキョウトで実施した、共同編集者たちへのリスク負担も忘れない。宿泊費を折半したり、実際に作品を購入したりする。ただ発表する場の提供をするだけではなく、気持ちよくお金が回る循環をつくっていくためだ。

「クリエイティブな活動をしている人に、未来への可能性を提供できる場所でありたいです。先日、建築設計士の方が泊まりにきてくださった時に、展示作品の棚を見て、今度幼稚園とかの設計する際にこの考え方が使えると、喜ばれたことがありました。旅行客に旅先や移動先でアイデアがみつかる場を提供でき、そして、共同編集者に対しても、次の仕事に繋がっていく可能性をつくることができる。そういう有機的な生態系をどんどん体現していきたいです。人との繋がりをつくれる接着点、ハブのようになりたいですね」と岩崎さん。

筆者も実際に泊まってみたが、寝る前や目覚めたときなどのタイミングによって、展示物の見え方が変わるというような体験ができた。また、空間全体に散りばめられている様々な要素を、”発見する”楽しみがマガザンキョウトにはある。
今後は、テクノロジー特集、サブカルチャー特集、演劇特集などを企画中とのこと。実験の場であり、体験の場、ビジネスとアイデアが生まれるホステル。これからの活動に、目が離せない。

(上段)JR京都伊勢丹で行われた「キョウトニイッテキマシタ」企画の設営の様子。(下段)マガザンキョウトで行われたインテリア特集「つかむ/取っ手と箱と」の様子(上段)JR京都伊勢丹で行われた「キョウトニイッテキマシタ」企画の設営の様子。(下段)マガザンキョウトで行われたインテリア特集「つかむ/取っ手と箱と」の様子

2017年 07月21日 11時05分