高齢化が進む日本の大工職人の現状

今回お話を伺った、一般社団法人大工育成塾 東京事務局長 中原 章氏。今回お話を伺った、一般社団法人大工育成塾 東京事務局長 中原 章氏。

「家」づくりの際、ハウスメーカー、設計事務所、工務店など、私たちはどこの会社にお願いするかに意識が向くが、実際に手を動かし家を建てるのは“職人”だ。やはり家づくりは大工の技があってこそとなる。

にもかかわらず、昨今では職人不足も世間で大きく取り沙汰されている。数字で見ても明らかだ。総務省の国勢調査によれば1995年に76万1千人いた大工人口は2010年には39万7千人に減少。さらに東京オリンピックが開催される2020年には21万1千人まで落ち込むと推定されている。職人の高齢化も進み技術の継承も危ぶまれている。このままでは私たちが家を建てようとしても、まかせられる大工職人がいなくなってしまう。

こうした現状を改善しようと、2003年に次世代の大工人材の育成を行う「大工育成塾」が、国土交通省からの支援を受けて設立されている。

「大工育成塾」では、どのような取り組みが行われ、どのような人材が育っているのか。設立されてから今年11年目を迎える今だからこそ聞ける話しを、塾を運営する一般社団法人大工育成塾に伺い聞いてみた。「大工職人」の観点から住まいづくりを改めて考えてみたい。

高度な座学と3年間の実技研修で伝統技術を継承

受入工務店の実技研修では、指導棟梁と現場修業に励む。2年次には、塾長をはじめ国土交通省の担当者、事務局が視察に行く。塾生全員が修業する工務店に赴き、その様子を直接見てまわる。塾生緊張の1日だ。受入工務店の実技研修では、指導棟梁と現場修業に励む。2年次には、塾長をはじめ国土交通省の担当者、事務局が視察に行く。塾生全員が修業する工務店に赴き、その様子を直接見てまわる。塾生緊張の1日だ。

今年で11年目を迎える「大工育成塾」。毎年100名前後の塾生が入塾し、大工になるための座学と実技研修を3年間にわたって学んでいる。その教育理念に掲げるのは、「伝統文化の復権」と「人材教育」。東京事務局長を務める中原 章氏は、次のように説明する。

「私たちが目指しているのは、日本の伝統文化の復権と、家づくりを通した人づくりです。大工人口は2010年に39万7千人にまで減少していますが、さらに全員が伝統的な木造建築を行えるわけではありません。近年では、建材を事前に工場で加工するプレカットが多くなり、木材に墨付けをして手刻みで木材を加工できる“墨付け職人”は全体の半分以下になっています。大工人口の60%が50歳から60歳以上と高齢化する中で、日本の伝統木造建築の技術を継承する若い人材を育てなければならない。その思いから松田妙子塾長が2003年に立ち上げたのが『大工育成塾』なのです」

国土交通省の支援も受ける「大工育成塾」は、「塾」と名がつくものの、技術養成の補助機関というよりは本格的な教育機関と言っていい。塾生は、一般の高校や工業高校を修了した人が中心で、入塾すると受入工務店で一人の指導棟梁に付き、3年間みっちりと見習いとして技術を学ぶ。それと同時に月に1回、2日ほど大工に必要な座学を教室講義として受けることになる。この講義は、基本的に欠席は許されず、万一欠席した場合も必ず補講を受け、修了までに全講義を履修しなければならない徹底ぶりだ。

「大工育成塾の受入工務店は、現在、全国約470社に提携いただいていますが、どちらも継手・仕口に代表されるような木組みの伝統木造建築を行える技術力のある工務店ばかりです。講義も、伝統的な木造軸組み構法を学べるよう、専門家を講師に招いてのカリキュラムによって授業を行っています」(中原氏)

大工の世界は徒弟制度が色濃く残り、実践の中で1つずつ技術を身につけていく。しかし、扱う道具や言葉一つをとっても独特の世界。初めのうちは言われている言葉を理解するだけでも、一苦労のようだ。しかも大工が必要とする知識は幅広く、木材の選び方から適材適所の使い方など、覚えることは多岐にわたる。現場だけでは全体像がつかみきれないことも多いが、大工育成塾では現場の実践と講義を同時に行うことで、その習得を促進する。一人前の大工になるには、5~6年かかるというが、ここでは在学中の3年間で、一人前を目指すことにしている。

修了制作では、塾生だけで1軒の家を上棟

3年次の修了制作の様子。チームワークを発揮しながら、塾生だけで一軒の家を上棟する。11日間に及ぶ作業は、まさに3年間の総決算だ。3年次の修了制作の様子。チームワークを発揮しながら、塾生だけで一軒の家を上棟する。11日間に及ぶ作業は、まさに3年間の総決算だ。

工務店では、あくまでも見習いとして実習する。現場で学ぶことも多いが、見習いが手を出せる作業には限りがあるのも事実。そのため、「大工育成塾」では、学年別の実技課題にも取り組む。1年生は、木材を加工するための「墨付け」、実際に加工する「刻み」を。2年生では、1階建の家の骨組みを実際に建て、3年生ではなんと2階建の丸々一軒を塾生だけで上棟する。

3年生が建てる家は、修了制作でもあり3年間学んだことの集大成となる。しかも、実際に施主がいて完成後はそこに人が住まう家になる。大工育成塾での学びはそれだけ実践的であり、本当に3年間で一人前の大工を育ててしまうのだ。

「3年生の修了制作は、見ていても圧巻です。制作期間は11日間ですが、参加する塾生は一緒に寝泊まりをして、集中して作業を行います。伝統木造建築ですから継手・仕口の木材加工を行い、梁を動かすときには上棟用のクレーンも使いますが、そのほとんどが手作業。個人の技術だけでなく、先を読み、周囲と確認を取り合いながらチームワークも学べます」(中原氏)

技術だけでなく「志」を持った人材を育成

講義のカリキュラムは、道具や木材に関する基礎的な学びから、礼儀作法、車道、華道、速読法など多岐にわたる。デッサンの講義などもあり、入塾時はまったく絵がかけなかった塾生も1回の指導でここまでデッサンができるようになるという。講義のカリキュラムは、道具や木材に関する基礎的な学びから、礼儀作法、車道、華道、速読法など多岐にわたる。デッサンの講義などもあり、入塾時はまったく絵がかけなかった塾生も1回の指導でここまでデッサンができるようになるという。

3年間という短い期間の中で、これだけの技術を身につけさせてしまう「大工育成塾」。しかし、ここで習得するのは技術だけではない。

「ここの修了生には、『大工志』の称号が与えられます。『士』ではなく『志』です。士(さむらい)の下に心が入ります。『志(こころざし)』を持って日本を支える人材になってほしい、という松田塾長の願いが込められています」(中原氏)

そのため、ここでの講義には、一見大工には関係がないような講義も年間カリキュラムに多く含まれる。例えば礼儀作法に、茶道や華道といったものだ。

「木造建築の技術継承は、単に技術だけでなく、日本の伝統文化の継承という意味合いもあります。大工は手作業ができればいいというものではありません。大切な施主の方が住まう場所をつくる。そこには感性も必要です。茶道や華道という日本の文化に触れ、感性を磨くことは大工職人にとって重要な観点だと思っています。それに、茶室に行けばそのつくりを見るだけでも学びになりますし、木材の使われ方などを考える学びにもつながります」(中原氏)

「安く、早く」から「伝統」への復帰

「日本の心を知らないと家はつくれない」という中原氏。伝統的な木造建築の復権を目指し、その担い手の育成に努力を重ねる「大工育成塾」。住まい手にとっても、こうした心ある技術者が誕生することは、とても心強いことだ。

同時に私たち住まい手も、どんな家づくりを目指すべきか、改めて考える必要があると思う。「安く、早く」にばかり目を向けてしまうと、こうして汗を流して努力する技術者の活躍の場を奪いかねないからだ。

現在の家づくりでは、木造建築でも残念ながらプレカットが主流。木組みの伝統木造建築の良さをいくら作り手が守ろうとしても、住まい手が選ばなければ衰退は避けられない。住まい手側も、日本の知恵が詰まった「伝統技術」にもう少し目を向けてもいいのではないだろうか。

次回は、塾生に伺った話から、若い世代が住まいづくりにどのように取り組んでいるのかを紹介したい。

2014年 07月05日 13時45分