住宅を取り巻く情報の不完全性と不確実性

情報の完全性とは、品質に対応した価格情報が完備されていることを意味する。しかし、住宅はそもそも「同質の財が存在しない」という特性を持つ情報の完全性とは、品質に対応した価格情報が完備されていることを意味する。しかし、住宅はそもそも「同質の財が存在しない」という特性を持つ

前回は、日本が歩んできた住宅市場と今後予測される住宅をとりまく問題についてお伝えした。
その中で予測されている社会問題に対し、住宅資産の毀損をなるべくさせないためには、中古市場の活性化及びリノベーション市場の活性化を通じて回避できる可能性が高いことを述べた。
それでは、どのような改革と産業への発展が必要であろうか。私見を交えて整理してみたい。

通常、市場が資源配分機能を十分に発揮するためには、情報が完全であることが前提となる。情報の完全性とは、品質に対応した価格情報が完備されていることを意味する。しかし、住宅はそもそも「同質の財が存在しない」という特性を持つ。

例えば、住宅は立地だけでなく規格や設備は住宅ごとに大なり小なり異なっており、仮に規格や設備が同じであっても「建築後年数」が異なれば、質の劣化の程度が異なり同質のものではなくなる。さらには耐震構造・土壌汚染・アスベスト・欠陥住宅問題に代表される、“目に見えない情報の不完全性問題”が内在している。つまり、住宅市場においては、品質情報が不足する構造的な問題が指摘される。

加えて品質に対応した「価格」に関する情報の整備も遅れている。
消費者が入手可能な価格情報は、国土交通省により取引価格情報の開示が開始されたが、依然として公示地価や相続税および固定資産税路線価といった鑑定評価情報または情報誌等によって得られる募集価格情報が中心である。しかし、これらの情報は実際の市場価格情報とは異なる。
また、品質に関する情報にいたっては、情報そのものが不足しているという問題のほかに、入手可能な情報が信頼できないという問題を持つ。住宅関連情報をとりまく問題は、情報そのものが不足しているという量的な問題よりも、むしろ情報の「精度(precision)」「正確度(accuracy)」といった「質」の問題が大きいのである。

情報問題が引き起こす数々のリスクを考える

このような情報の不完全性は、消費者や社会全体に対しては大きな不利益をもたらす。

例えば、住宅を購入する段階では品質に対応した価格情報が入手できないことにより、住宅探索に時間がかかったり、適切な価格を付けることができなかったりする。また品質情報に関する不確実性は、価格そのものを不当に低く見積もったり、逆に適正価格よりも高い価格で取引が行われていたりする。そのため適正価格よりも高い価格で購入した場合には、再販売される段階では大きく価格低下がもたらされることがある。
また、時間の経過とともに、品質に関する情報が明らかとなることが多く、劣悪な品質のものが多いと時間の経過と共に機能の低下による減価速度を超えて、価格が大きく低下することとなる。こういった構造を持つことが、中古住宅市場の発達を遅らせる一因となっていることが考えられる。

さらにこのような情報問題は、住宅金融システムに対してリスク管理の困難さを助長する。ローンの貸し付け時に捕捉可能な情報と、時間の経過と共に明らかになる負の品質に関する情報の格差が大きい場合には、予期できぬ価格低下がもたらされてしまうためである。そうすると金融機関はリスクを回避するため、住宅の本源的な価値よりも低く見積もってしまうことが、金融システムの健全性から、合理的な行動となってしまう。

以上のような問題を解決していくためには、かつては橋本政権下の規制改革委員会、小泉政権下の総合規制改革会議で指摘されているように、不動産の取引価格の整備と消費者に対する適切な開示が必要であることはいうまでもない。

情報整備と開示の段階

情報整備と開示については、取引価格は必ずしも市場価格を意味するものではないことで消費者への開示が市場を混乱させてしまう、といったことを理由に反対されることもあった。

確かに不動産取引には、買い進みや売り急ぎといった買い手や売り手の事情が入ることで、平均的な市場の実勢よりも高く取引が行われたり、低い価格で売り買いがなされたりすることはある。また前述のように品質が同じものは何一つとして存在しないために、他の財やサービスと比較してその比較が困難であるという問題があることも確かである。

このような批判に応えるためには、不動産取引価格情報の整備と開示を分けて考えていく必要がある。

第一段階としては、現在の取引価格の回収率が3割程度しかないといった問題や、アンケートを通じて収集していることで起こる情報鮮度の悪さによる市場の不透明性を高めているといった問題を改善することから始めなければならない。これは情報の整備段階の問題である。第一段階に続く開示段階では、そのように整備された情報を国際的にも進められている不動産価格指数として開示していくことで、宅地建物取引士・不動産鑑定士を通じて「場」へと開示していくということも考えられよう。

つまり、宅地建物取引士や不動産鑑定士間で情報格差が存在することで、市場の不透明性を高めているという状況を考えれば、専門家には詳細かつすべての情報を共通に与えることで市場全体の透明性を高めることができる。

また特定の主体に対してのみ詳細な情報を開示することが、既得権を作ってしまっている現状を打破するためには、欧米諸国のように消費者を含めて完全に開示していくということも考えられる。
これは、第一段階の整備に続く第二段階としての開示の問題として検討していけば良い。

いずれにしても、その整備と開示が遅れることで、国民全体が受ける社会的な損失が大きくなっていることを認識しなければならない。欧米諸国やアジアの隣国では実現できているにもかかわらず、日本だけができない理由はどこにもないはずである。

取引価格情報の整備・開示の遅れが日本の国際的に見た不動産市場の未成熟さとして揶揄されたこともしばしばあることから、本来持つ不動産市場の機能を発揮させるためにも不動産価格情報の整備と適切な開示は必要となるものと考える。

※住宅新産業研究会 提言:「透明で中立的な不動産流通市場の条件~情報流通整備と新産業の重要性」

情報の整備と開示が遅れることで、国民全体が受ける社会的な損失が大きくなっていることを認識しなければならない。欧米諸国やアジアの隣国では実現できているにもかかわらず、日本だけができない理由はどこにもないはずである情報の整備と開示が遅れることで、国民全体が受ける社会的な損失が大きくなっていることを認識しなければならない。欧米諸国やアジアの隣国では実現できているにもかかわらず、日本だけができない理由はどこにもないはずである

2016年 01月18日 11時05分