都市部に暮らす人の約3割は田舎暮らしがしてみたい

年々深刻さが増していく空き家問題。特に地方の深刻度は高く、2013年度の土地統計調査(統計局)によると、別荘など二次的住宅を除いた空き家率がもっとも高かった都道府県は山梨県で17.2%。そして愛媛県16.9%、高知県16.8%と続いている。

一方で首都圏の一都三県では、埼玉県と神奈川県がもっとも低く10.6%、次に東京都10.9%、千葉県11.9%と押しなべて低めの数値となっている。やはり都市部以上に高齢化が進む地方では、空き家率が高くなる傾向があるようだ。

とはいえ、実は都市部に住む人の多くが、地方へ移住したいと考えているというデータもある。総務省の「『田園回帰』に関する調査研究中間報告書(概要版)」(2017年3月)を確認すると、東京都特別区および政令市に居住する20歳から64歳(3,116人)の中で、農山漁村へ移住してみたいと答えた人の割合は30.6%だった。しかも若い世代ほど移住への意欲が高い。

「空き家問題を解決すると同時に若い世代へ移住して来てほしい地方自治体」。「田舎暮らしをしてみたい都市部在住者」。このマッチングの仕組みさえ整えば双方に良い関係が生まれるはずだ。

このような背景から国土交通省は、自治体職員、不動産業界関係者、農業団体関係者など向けに「農地付き空き家」の手引書を作成した。一体これはどういうものなのかを解説しよう。

空き家率は地方ほど高く、大都市ほど低くなる傾向がある(出典:2013年度土地統計調査(統計局))空き家率は地方ほど高く、大都市ほど低くなる傾向がある(出典:2013年度土地統計調査(統計局))

一般の人が農地を購入・賃借するには、かなり高いハードルがある

まずは、なぜ「農地付き」なのかというところから説明したい。内閣府の「農山漁村に関する世論調査」(2014年6月)で移住に関心のある都市部住民に対して「農山漁村地域に定住して過ごしたいこと」を聞いたところ、34.8%が「農林漁業(趣味として)」と答えた。また、おもな所得源として農山漁業を行いたいとする人も29.8%いた。移住希望者の中で農林漁業に興味を持つ人は多い。

田舎を歩くと、農家の高齢化などによって使用されていない田んぼや畑を数多く目にする。一般的にはこのような土地を安く購入・賃借すれば、誰でも農業をはじめられると思うだろう。

ところが移住者が農業を行うのはけっして簡単ではないのが現状だ。なぜなら日本の農地は、農業委員会の許可がなければ購入・賃借ができないからだ。農業委員会とは、農地法に基づく農地の売買・賃借の許可や遊休農地の調査・指導を行う行政委員会で、各市町村に設置されている。この委員会によって農地の購入・賃借が許可される人は、基本的に農業を本業とする人。つまり、すでに農地経営のノウハウがあり、常時農業に従事できる人だ。

さらに許可要件には農地の下限面積があり、原則として都府県は50アール(5000m2)、北海道は2ヘクタール(2万m2)となっている。農業初心者がこれだけ広大な農地を耕作するのは至難の業だ。都市部在住者でこれだけの条件をクリアできる人は極めて少数派だろう。

しかし近年は、空き家の有効活用や移住促進、新規就農促進などの観点から、各自治体がこの問題の解決を図る動きも見えてきた。具体的には、自治体が運営する※空き家バンクと農業委員会の手続きを連動させて、下限面積を「別段の面積」として1アール(100m2)程度まで引き下げるような取り組みだ。
※空き家バンクとは、各自治体が空き家の賃貸・売却の情報を集約し、それを紹介する制度。

このような取り組みに関連する制度や先進的な運用事例をまとめたものが「農地付き空き家」の手引書だ。

ちなみに空き家バンクに登録されている情報は、各自治体が運営しているサイトなどで閲覧可能だが、「LIFULL HOME'S 空き家バンク」からも確認できる。

地方へ移住希望の都市部住民の3割前後は、定住後に農林漁業を行いたいと考えている(出典:農山漁村に関する世論調査(内閣府))地方へ移住希望の都市部住民の3割前後は、定住後に農林漁業を行いたいと考えている(出典:農山漁村に関する世論調査(内閣府))

「農地付き空き家」に居住できるまでの流れ

同手引書は、以下のような4章構成となっている。

第1章「田園回帰や空き家等をめぐる動向」
前述の移住希望者の割合といったデータなどの紹介。

第2章「取組を進めるにあたっての手続きガイド」
空き家バンク制度の立ち上げ方法など自治体がやるべきことの解説。

第3章「取組事例」
実際に空き家バンクを立ち上げ、移住者招致の実績もある5つの自治体の事例を紹介。

第4章「関連制度等の紹介」
就農支援などの各種関連制度を紹介。

簡単に「農地付き空き家」に居住できるまでの流れを整理すると次のようになる。

1.自治体が空き家バンクを立ち上げる。
2.空き家となった農家住宅の所有者が農地とともに売却などを希望する場合、空き家バンクへ登録するとともに農業委員会へ「別段の面積」の設定を申出。
3.農業委員会が地域の実情に応じて「別段の面積」を設定・公示。
4.「農地付き空き家」として空き家バンクで利用希望者を募集。連携する不動産会社などが媒介などを行う。
5.農地所有者と購入者または賃借人が、農業委員会へ農地の権利移動の許可申請をし、同委員会が許可を出す。

地方への移住希望者には十分役立つ内容。ぜひ一読すべき

くわしくは手引きの3章にあるが、実際に「農地付き空き家」によって移住をした人は増えてきている。たとえば島根県雲南市では、以前から高齢化などによって空き家と農地を一緒に処分したいという所有者の声が上がっていた。一方で、家庭菜園規模の農地を求める移住希望者からの相談件数も増えていた。そこで2012年11月より「農地付き空き家」の取組を開始。専属スタッフを配置して移住希望者に対してきめ細かいサービスを提供した。その結果、2017年12月末現在で19件の移住が完了している。そのうち6件が県外からの移住だ。

この手引書は、自治体職員、不動産業界関係者、農業団体関係者などへ向けたものだ。しかし、田舎に移住して農業を行いたい人が読んでも制度の内容がよく理解できるので、十分役立つ。移住希望者はぜひ一読するべきだろう。

「農地付き空き家」の手引書
http://www.mlit.go.jp/common/001226568.pdf

「LIFULL HOME'S 空き家バンク」
https://www.homes.co.jp/akiyabank/

「都会から地方へ移住して農業をしてみたい」と考える人にとって「農地付き空き家」の手引書は十分に役立つはずだ。上記URLから誰でも無料でダウンロード可能「都会から地方へ移住して農業をしてみたい」と考える人にとって「農地付き空き家」の手引書は十分に役立つはずだ。上記URLから誰でも無料でダウンロード可能

2018年 05月02日 11時05分