お茶の生産地でないまちが紅茶でまちおこし

堀田さんは尾張旭市内で紅茶専門店を経営し、自店の紅茶の卸しや小売を手がけるほか、他店への紅茶に関する指導なども行っている。現在は尾張旭市観光協会の理事として紅茶でまちおこし活動に奮闘中堀田さんは尾張旭市内で紅茶専門店を経営し、自店の紅茶の卸しや小売を手がけるほか、他店への紅茶に関する指導なども行っている。現在は尾張旭市観光協会の理事として紅茶でまちおこし活動に奮闘中

世界屈指の茶の生産量を誇るスリランカの大使から注目されるほどの“紅茶のまち”が、愛知県内にある。名古屋市の東北に隣接する人口約8万2千人のコンパクトシティ、尾張旭市(おわりあさひし)だ。

2015年に市制45周年を迎えた尾張旭市は森林公園や城山公園など約70ヶ所の都市公園を有し、豊かな自然と質の高い住環境がほどよく調和したまちといわれる。だが、市内のどこを見渡しても茶畑はなく、お茶の生産地というわけではない。

そんな尾張旭市が“日本でいちばん紅茶のおいしいまち”となるきっかけをつくったのは、一人の市民の「尾張旭のまちおこしのために貢献したい!」という一途な郷土愛だった。茶の産地でもない尾張旭市が日本一の紅茶のまちになるまでのストーリーを、きっかけをつくった市民であり尾張旭市観光協会理事でもある堀田信幸さんに伺った。

まず始めに“日本でいちばん紅茶の美味しいまち”とは、どういうことなのだろうか。

日本紅茶協会が認定する「おいしい紅茶の店」

堀田さんに紅茶をおいしく入れるコツを伺った。ポイントは〈お湯は汲みたて沸かしたてを使うこと〉〈色が出てすぐに茶葉やティーバッグを取り出さず3分~5分ほど待つこと〉
「色が出ていても味はまだ出ていないので、細かい茶葉なら約3分、大きな茶葉なら約5分待ちましょう。飲んで味が濃いと感じるようならお湯で割ってください。ミルクティーにするのもおすすめです」と堀田さん堀田さんに紅茶をおいしく入れるコツを伺った。ポイントは〈お湯は汲みたて沸かしたてを使うこと〉〈色が出てすぐに茶葉やティーバッグを取り出さず3分~5分ほど待つこと〉 「色が出ていても味はまだ出ていないので、細かい茶葉なら約3分、大きな茶葉なら約5分待ちましょう。飲んで味が濃いと感じるようならお湯で割ってください。ミルクティーにするのもおすすめです」と堀田さん

「生まれ育った地元になにか貢献したいと思っていましたが、紅茶専門店を営む私が直接できることといえば紅茶のことしかありません。紅茶でどうやってまちおこしができるのか…と考えていたところ、日本紅茶協会という業界団体が『おいしい紅茶の店』の認定制度を設けていることを思い出したんです」

堀田さんが話す「おいしい紅茶の店」認定制度というのは、1988年に日本紅茶協会がスタートした制度だ。全国各地から推薦された“おいしい紅茶を楽しめる店”を同協会が審査し、その審査に通ると「おいしい紅茶の店」として認定される。

対象となるのは紅茶専門店だけでなくホテルのティーラウンジや一般の喫茶店も含まれるが、
●紅茶の提供経験が1年以上 
●紅茶のメニューが5種類以上 
●紅茶の説明をできるスタッフがいる
といった厳しい推薦条件があるうえ審査は覆面調査で行われるため、認定されるのは容易ではない。また、認定後も4年ごとの更新時に調査があり、条件を満たしていなければ認定が取り消されることもある。

「どうしようかとあれこれ考えるよりとにかくやってみようと思い、まずは商工会に行き、紅茶でまちおこしをしたいと協力をお願いしました。そんなことができるのか? 本当にそれでまちが盛り上がるのか? といった意見がある一方で、やってみましょう! という声もあったので観光協会などにも声をかけていただき、2011年に活動をスタートしました」

活動をスタートした年に日本一! その理由は…

活動するといっても地道にコツコツ進めるしかなく、最初は商工会からの告知で集まった20店舗ほどが参加するなか、紅茶でまちおこしや認定制度についての説明会を開催した。あとは堀田さんが市内30~40店舗ほどある認定対象となる店を一軒一軒訪問し、まちおこしに対する思いを語り、紅茶認定制度への申請を働きかけた。

ゼロからのスタートだけに、協力店を増やすのはさぞかし大変だっただろうと筆者は想像したのだが、なんと、活動を始めた2011年のうちに14店舗が認定を取得し、「おいしい紅茶の店」認定店が人口比、日本一多いまちになってしまったという(紅茶の日にあたる11月1日付で認定)。このスピーディーな展開について堀田さんはこう話す。

「実は『おいしい紅茶の店』の認定を取得するにあたっては、認定料がかからないんです。推薦条件の厳しさやメニューの改定など多少の手間はかかりますが、認定されればお店にとってもメリットがありますし、紅茶でまちおこし活動が成功すればまちへの貢献もできます。そういう良い条件と、皆さんの思いが重なったことで、いち早く“日本でいちばん紅茶のおいしいまち”になれたんです」

翌年10月には紅茶の祭典「紅茶フェスティバルin尾張旭」を開催。日本一の称号を手に入れた尾張旭市の紅茶でまちおこし活動は、テレビや新聞などに取り上げられるようになり、注目を集めるようになった。

尾張旭市が発行しているパンフレット。「おいしい紅茶の店」認定店の紹介をはじめ、紅茶フェスティバル完全リポート、<br />本当においしい紅茶の入れ方、尾張旭市の紹介、広域地図などが掲載され、とても充実した内容になっている尾張旭市が発行しているパンフレット。「おいしい紅茶の店」認定店の紹介をはじめ、紅茶フェスティバル完全リポート、
本当においしい紅茶の入れ方、尾張旭市の紹介、広域地図などが掲載され、とても充実した内容になっている

最大級の紅茶の祭典「紅茶フェスティバルin尾張旭」

第5回目となる「紅茶フェスティバルin尾張旭」が、2016年10月23日(日)に開催される。2011年の第1回目は全国から約2,000人の来場があり、第2回目、3回目は約2,500人、2015年の第4回目には約5,000人の人出で賑わったという。

「企業が行うイベントを除けば日本では最大級の紅茶の祭典です。紅茶バザールや紅茶セミナー、世界の珍しい紅茶体験など、紅茶ファンはもちろん紅茶をよく知らない人でも楽しめる魅力的なイベントを行っていて、日本紅茶協会も全面協力してくれています。第4回目にはブラジルの紅茶生産者が出展しましたし、話題の紅茶イベントということで駐日スリランカ大使がサプライズゲストとして来場してくださいました」

堀田さんが言うように魅力的な紅茶イベントを1日中楽しめるとあって、日本各地の紅茶ファンが集まり、遠くは沖縄から日帰りで訪れた人もいたという。

2016年4月時点で尾張旭市の「おいしい紅茶の店」認定店は18店舗にのぼる。活動から5年で成果が表れたことから、現在では市をあげて「日本でいちばん紅茶のおいしいまち」の活動を推し進めている。また、この活動がきっかけとなり、市が本格的にまちのPR活動に取り組み始めたという。その代表的な取り組みが、市民や近隣大学の学生と共同で作成する「尾張旭おでかけMAP」だ。

2015年に開催された「第4回紅茶フェスティバルin尾張旭」の様子。〈左上〉駐日スリランカ大使や国会議員などの来賓も加わり、テープカットでフェスティバルが開幕〈右上〉ブラジル・サンパウロ州レジストロから世界最高齢の現役紅茶生産者、島田梅エリザベッチさんが出展。駐日スリランカ大使が「おばあ茶ん」を試飲された〈左下〉日本茶業学会会長の武田善行氏が指導する事前登録制の紅茶の製茶体験。キャンセル待ちが出るほどの人気だったという〈右下〉日本紅茶協会認定シニアティーインストラクターの岡本陽子講師による「おいしい紅茶の淹れ方セミナー」。紅茶の淹れ方の基本“ゴールデンルール”を始め、ミルクティーやレモンティーに合う紅茶の選び方、淹れ方などを解説2015年に開催された「第4回紅茶フェスティバルin尾張旭」の様子。〈左上〉駐日スリランカ大使や国会議員などの来賓も加わり、テープカットでフェスティバルが開幕〈右上〉ブラジル・サンパウロ州レジストロから世界最高齢の現役紅茶生産者、島田梅エリザベッチさんが出展。駐日スリランカ大使が「おばあ茶ん」を試飲された〈左下〉日本茶業学会会長の武田善行氏が指導する事前登録制の紅茶の製茶体験。キャンセル待ちが出るほどの人気だったという〈右下〉日本紅茶協会認定シニアティーインストラクターの岡本陽子講師による「おいしい紅茶の淹れ方セミナー」。紅茶の淹れ方の基本“ゴールデンルール”を始め、ミルクティーやレモンティーに合う紅茶の選び方、淹れ方などを解説

高速道路のSAに尾張旭特産の紅茶のお土産を

「尾張旭おでかけMAP」の準備号。<br />夏はプール周辺、秋は紅葉スポット、冬はクリスマスのスイーツ、春は桜の見どころなど四季折々のおすすめエリアが紹介される「尾張旭おでかけMAP」の準備号。
夏はプール周辺、秋は紅葉スポット、冬はクリスマスのスイーツ、春は桜の見どころなど四季折々のおすすめエリアが紹介される

「尾張旭おでかけMAP」は2016年6月、9月、12月、2017年3月の4回にわたって発行される。市全体を4分割し、四季ごとに観光スポットやスイーツの店などを紹介するもので、もちろん紅茶のおいしい店も掲載される。

このような相乗効果も見られ、紅茶でまちおこし活動は滑り出しから順調に進んでいる印象を受けるが、堀田さんには活動を通して気づいた課題があるという。

「紅茶フェスティバルをやって気づいたんですが、まだ5年目とはいえ、おそらく尾張旭市民の半数ぐらいにしか知られていないと思います。また、市のイベントが少ないため、週末になると市民が市外に出かけてしまうんです。そのような状態では商業が盛んになってまちが活性化するはずがないので、市内に人を呼び込むだけでなく、市民を外に出さないような仕掛けづくりをすることが大切です。紅茶フェスティバルに続くイベントが出てくることを願うばかりです」

今後はこうした課題にも取り組んでいかなければならないが、それ以前に、堀田さんには紅茶でまちおこし活動で達成したい大きな目標がある。

「紅茶のおいしい店の認定店をもっと増やし、紅茶のおいしいまち尾張旭市というブランドイメージを高め、企業と提携して紅茶に特化した尾張旭のお土産を立ち上げたいんです。尾張旭特産の紅茶のお土産を、高速道路のサービスエリアにずらりと並べて販売することが、現在の私の目標です。『ぜひうちと一緒に!』と企業さんが名乗りを上げてくれるよう、紅茶でまちおこしの活動をさらに充実させて頑張っていかなければいけませんね」

目標が現実になることを筆者も心から願っている。達成された暁には、苦労体験や成功秘話などのお話を伺って、ぜひまたここで紹介させていただきたい。

【取材協力】
◆尾張旭市観光協会



【関連リンク】

◆日本紅茶協会



◆尾張旭市



◆第5回紅茶フェスティバル in 尾張旭[2016年10月23日(日)]



2016年 05月20日 11時06分