1日約50組が利用する、ぽかぽか広場

前回に引き続き、“アツいまちづくりを行っている岐阜県多治見市”で活動している団体の取り組みを紹介する。今回お訪ねしたのは、多治見市役所駅北庁舎3階にある「駅北親子ひろば(ぽかぽか広場)」。まずはこの施設の概要を紹介しよう。

場所は先に述べたように多治見市役所駅北庁舎3階にある。フロアの少し奥まったところにあるので、実際に利用する場合は臆せず奥まで進むか、その勇気が出ない場合は市役所の方に声をかけていただきたい。

施設を利用できるのは多治見市在住の0歳~3歳までの親子だが、保護者であればおじいちゃんおばあちゃんでも利用は大丈夫。つまり、両親でなくても保護者の方がついていればOKということだ。受付で保護者とお子さんの氏名を記入すれば、無料で利用できる。

施設には2~3名のスタッフが常駐し、スタッフのなかには、自身の子どもを連れて施設を利用しながらママスタッフとして勤務している人もいる。こうした“利用するお母さんたちに、より近い存在のスタッフ”を置いているということが、この施設の特色をよく表している。

多治見市役所駅北庁舎がオープンした2015年1月5日に同時オープンしたこの広場を、3月までの3ヵ月間で約5,300名、1日50組前後の親子が利用しているという。ちなみに、多治見市の0~4歳の人口は2012年4月1日現在で4,589人となっている。(多治見市の人口と世帯参照)

多治見市の委託を受けて、ぽかぽか広場を運営している「子育て支援とまちづくりのNPO法人まぁーる」の理事長・宮村登美子さんと、ぽかぽか広場の施設長を務める佐藤薫さんに、まぁーるの活動について話を伺った。

取材に伺った日の「駅北親子ひろば(ぽかぽか広場)」の様子。</br>子どもたちは自由に遊び、お母さんとスタッフが一緒になって談笑していた。</br>施設内には0歳の子どもとお母さんがゆったり過ごせる、くつろぎスペースも設けられている(右下)取材に伺った日の「駅北親子ひろば(ぽかぽか広場)」の様子。
子どもたちは自由に遊び、お母さんとスタッフが一緒になって談笑していた。
施設内には0歳の子どもとお母さんがゆったり過ごせる、くつろぎスペースも設けられている(右下)

「多治見市子どもの権利に関する条例」の理念に基づいて

お話を伺ったNPO法人まぁーるの理事長・宮村さん(左)と佐藤さん(右)お話を伺ったNPO法人まぁーるの理事長・宮村さん(左)と佐藤さん(右)

以前、【消滅可能性都市とは言わせない!過去最高気温40.9度の暑いまち多治見市は、まちづくり活動もアツい】の記事のなかで、補助事業をきっかけにNPO法人を立ち上げて活動を続けている事例として、まぁーるを紹介したが、宮村さんはそれ以前から子育て支援活動を行っていた。

「多治見市には読み聞かせや、舞台芸術鑑賞を通して子どもたちの感性を育む親子劇場などさまざまな子育て支援活動をしているグループがあって、それぞれ独自に活動をしていました。2003年9月に『多治見市子どもの権利に関する条例』が制定されたことで、それまでの図書館分館を多治見市子ども情報センター(※)としてリニューアルすることになり、併せて市民委員会が設置され、子育て支援団体関係者が集まってセンターの目的や使命について話し合う会議がもたれました」

ちなみに、多治見市が制定した「子どもの権利に関する条例」は、1990年に国連が発効した「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」という18歳未満の子どもの基本的人権について定めた国際条約を根源としている。日本は1994年にこの国際条約に批准(条約に署名し、その条約の規定に従う意思があることを正式に表す行為)しており、その批准後、多治見市は日本で4番目に子どもの権利条例を制定した。

さて、宮村さんの活動の続きだが、子ども情報センターについて話し合いを重ねるうちに、多治見市には赤ちゃん連れのお母さんが気軽に立ち寄って遊ばせられるような場所がほとんどない、という課題が提示された。

そこで2007年3月、宮村さんはじめ市民委員会の有志が立ち上がって「子育て支援グループまぁーる」を発足し、多治見市ファミリープラザ事業の補助金を活用して、子どもを遊ばせながらお母さんたちが情報交換できる「おしゃべりサロン」をスタートした。

(※)多治見市子ども情報センター …多治見市の0歳から19歳までの子どもの成長をサポートする施設。

はじめての育児に戸惑いの毎日!

「たくさんの方がおしゃべりサロンを利用してくださったんですが、補助事業は3年で終わってしまいます。サロンがなくなってしまうのは困るのでなんとか継続してほしい、と多くの利用者からご要望があり、その声を聞いて私たちも、こういう場所が必要なんだとあらためて実感しました。実は、そのころおしゃべりサロンに赤ちゃんを抱いてやってきたのが佐藤さんだったんです」

現在、ぽかぽか広場の施設長を務め、NPO法人まぁーるのスタッフでもある佐藤さんは、もともとは子育て支援施設の利用者だったのだ。

結婚と同時に多治見市に住むことになった佐藤さんは、ご主人も多治見出身ではないため、まったく知らない土地で、まったく知り合いのいない状況で子育てを始めることになった。当時のことを佐藤さんはこう振り返る。

「子どもを産むまでは身近に赤ちゃんと触れ合うような環境がなかったので、里帰り先の実家から戻り、多治見での本格的な育児が始まると『ど、ど、どうしよう……!』という毎日でした。なんか泣いているけどどうしたらいいんだろう? 夜寝ないけど、なんで寝ないんだろう? うんちが出ない、なんで出ないんだろう? って、本当に小さいことが不安で不安で。それに押しつぶされそうになっていたとき“おしゃべりサロン”のことを教えてもらい、勇気を出して子どもを連れて一度行ったら常連になってしまったんです。サロンがある月曜と木曜が待ち遠しくて、週2回じゃ足りない! と思っていました」

さまざまな機会を通じて親子のふれあいの場を設けているさまざまな機会を通じて親子のふれあいの場を設けている

必要なのは居場所、よりどころ

それほどまでに佐藤さんが惚れ込んだということは、きっと大ベテランの専門家がいて素敵なアドバイスをしてくれたに違いないと思いきや、おしゃべりサロンにいたのは指導する専門家ではなく、お母さんに寄り添う立場のスタッフで、子どもを遊ばせながらお母さん同士やスタッフと話をする場だったという。

「不安を口に出す機会があったというのが、当時の私にはとても心強かったんです。子育ての不安を話して、よそのお母さんやスタッフさんに『そんなことがあったら心配だね』と言ってもらえるだけで、不安が解消されて前向きになれました」

佐藤さんには子育てに直接関わることのほかにも不安の要因があったようだ。

「学生のころは学校という所属先があり、社会人になれば会社という所属先があったんですが、お母さんになったら“私ってどこにも所属してない……”と、社会から疎外されているような孤独を感じてしまったんです。でも、おしゃべりサロンに行って私と同じ気持ちの人がたくさんいることがわかりましたし、私は社会から疎外されているわけではないし、子育てをするって立派なことなんだ! と気づいたんです」

学生、会社員という立場でなくなったときに、自分の居場所がないことに不安を覚えて自信を失う気持ちというのは、子育てをするお母さんでなくても共感できる。そんなふうに社会との接点が減って自信を失いかけている佐藤さんのよりどころとなり、自信を取り戻させたのが、おしゃべりサロンまぁーるだった。

そして2010年4月、佐藤さんのように子育てに悩むお母さんたちに後押しされ、宮村さんは「子育て支援とまちづくりのNPO法人まぁーる」を設立した。

小児科医による「赤ちゃんとママののびのび教室講演会」の様子。まぁーるではさまざまな講演会やおしゃべり会を催している小児科医による「赤ちゃんとママののびのび教室講演会」の様子。まぁーるではさまざまな講演会やおしゃべり会を催している

黙って助けを待つ人に、どれだけ手を差し伸べられるか

2010年の法人設立以来、まぁーるではおしゃべりサロンのような親子の集いの場を設けたり、県や市などの補助事業を活用してさまざまな活動を行ったりしている(補助事業の詳細は下記に掲載)。まぁーるには2015年6月現在、21名のスタッフが在籍しているが、保育士など専門資格の有無にはこだわらず、佐藤さんのような元利用者が多いのが特長だと宮村さんは話す。

「私たちの団体が大切にしているのは“循環型子育て支援”です。支援する側がずっと支援し続けるのでなく、佐藤さんのように支援された人が、自らの子育てがちょっと落ち着いたら今度は支援者になるというかたちで子育て支援を循環させていくというものです。支援者は子育て中のお母さんにより近い存在なので、お母さんたちに寄り添うことができ、悩みや困りごとに共感する力も強いんです。まぁーるでは佐藤さんのように元支援を受けていた人がスタッフとして活躍してくれていて、スタッフとしても母としても人としても成長しています。人が育つことで、その人が住むまちの空気も変わり、まちが変わればみんなが気持ちよく生活できる、という良い循環が生まれるのではないでしょうか」

そんなふうに子育て中の人たちの身近に寄り添っている宮村さんや佐藤さんだからこそ、実感することがあるという。

「今の時代、子育て支援のニーズは多岐にわたっていると思います。シングルママや若年ママ、高齢ママ、女性だけでなくシングルパパや若年・高齢パパも一人で子育てに悩んでいるかもしれません。そういう方たちの存在にどれだけ気づくことができ支援できるかというのが、まぁーるの今後の課題だと思っています」

その課題解決に向けて取り組むべく、保健センターで4ヵ月児健診があるときには、宮村さんはじめスタッフが、ぽかぽか広場のリーフレットを手渡しながら一人ひとりのお母さんに「気軽に利用してください」と声かけをしている。地道ではあるが、誰にも相談できずに助けを待っている人を掘り起こすには、そうした活動をコツコツ続けていくことが必要なのだろう。

ぽかぽか広場は気軽に利用できる施設なので、お子さんを連れてふらりと遊びに行っていただきたい。子育てに奮闘している方にとって、きっと息抜きになると思う。

〈NPO法人まぁーるの補助金・助成金による事業〉
●2010年
岐阜県者社会福祉協議会:ぎふ子育て支援助成基金「子育て力パワーアップ事業」
岐阜県:地域子育て創生事業補助金「子育て相談事業」
日本教育公務員弘済会奨励金事業:「みんなで子育て事業」

●2011年
岐阜県者社会福祉協議会:ぎふ子育て支援助成基金「子育て力・地域力パワーアップ事業」
多治見市:補助事業「親子の絆づくりプロジェクト」

●2012年
岐阜県者社会福祉協議会:ボランティア活動振興基金助成金「学童を持つ母親のほっとスペース事業」
多治見市社会福祉協議会:ボランティア活動助成事業「ママ力アップの彩り講座」
多治見市:委託事業「児童虐待防止啓発キャンペーンイベント」

●2013年
多治見市:補助事業「児童虐待防止のための親支援教室補助事業」
生命保険協会助成事業:「赤ちゃんとママののびのび教室」

●2014年
とうしん地域振興協力基金:集いの広場の環境整備
日本教育公務員弘済会奨励金助成事業:「子育て講演会の開催・豊かな子育ち子育てをめざす環境整備」

―以上―

【取材協力】
◆NPO法人まぁーる(駅北親子ひろば ~ぽかぽか広場~)



【関連リンク】

◆多治見市子ども情報センター



◆多治見市子どもの権利条例パンフレット

児童虐待防止・オレンジリボン周知のパレードに参加する親子(市民の方が撮影)児童虐待防止・オレンジリボン周知のパレードに参加する親子(市民の方が撮影)

2015年 06月23日 11時07分