破綻を避けるためには物件を見る前に予算を立ててみること

「10年来やっている家計相談でもやりくりが厳しくなっている例が増えているようです」と豊田さん。そんな時代に住宅ローンを借りるのであれば十分な検討が必要だ「10年来やっている家計相談でもやりくりが厳しくなっている例が増えているようです」と豊田さん。そんな時代に住宅ローンを借りるのであれば十分な検討が必要だ

ファイナンシャルプランナーの豊田眞弓さんは2011年に「住宅ローンは55歳までに返しなさい」(アニモ出版)という本を出した。その本を出してからデベロッパーの仕事が減ったそうだ。そんなことを言われたら、自社物件を買う人が減る、そう思ったのだろう。「55歳までのローンじゃ何も買えない、こんな本、売れないわよ」と言った友人もいたそうだ。

確かに55歳までと考えると返済期間は短く、借りられる額が減る、あるいは返済額が増えるなど、買いにくくなるのは確か。しかし、「最初から55歳で組むことを言っているのではなく、55歳くらいまでに無理なく返し終わるような負担の軽いローンを組みましょう、という趣旨なんです」と豊田さん。

家は買えればすべて良しかと言えばそうではないのは、昨今取り沙汰される老後破綻の例を考えれば分かること。住宅ローンは払い終えなければ家は自分のモノにはならない。途中で返せなくなったら、家も、それまでに払ったお金も全部パー。そう考えると、買えることよりも、返せるかどうかのほうが大事なはずだ。

「でも、多くの人は家を買おうと思い立ったら、予算を考える前にモデルルームあるいは住宅展示場に行ってしまう。物件を見て『これは自分に買えるのか、買うためにはどうすればよいか』と考える。本当は事前に家計やライフプランを前提にした予算を把握して、その中で買えるのはどれかを考えなければいけないのに、全く反対の行動をとってしまう。それが破綻につながる第一歩です。価格が高くなれば物件の質や条件が良くなるのは当然ですから、予算を大幅にオーバーしている物件は見に行かないほうが賢明でしょう」。

55歳時点の自分の姿を想像してローンを考える

若いうちに老後を想像するのは難しいかもしれないが、会社の先輩や自分の両親、祖父母などの姿から考えるようにすればイメージが付きやすいはず若いうちに老後を想像するのは難しいかもしれないが、会社の先輩や自分の両親、祖父母などの姿から考えるようにすればイメージが付きやすいはず

予算を考える際に大事なのは長期的な展望を持つこと。豊田さんのお勧めは55歳時点の自分の姿を想像してみること。「物件価格が上がっている現在、55歳までに完済はさすがに難しいので、60歳、最長でも65歳までに返し終える設定をしてみて、さらに55歳になった時の自分、家族の状況を考えてみると、そのローンで大丈夫かどうかが予測できます」。

返済にあたって大事なポイントは収入の動向。安定して長く続けられる仕事なのか、収入に波のある仕事なのかなどといったそもそもの職種、業種などによる違いに加え、55歳ともなると収入の伸びが止まっていることもある。65歳定年制度が段階的に進むとはいえ、企業によっては早期退職制度があったり、ある一定の年齢以上は収入が下がったり、嘱託扱いになったりとさまざま。ずっと同じ会社に勤めているかどうかも含め、考えてみると「なんとかなるだろう」といった安易な組み方をせずに済む。

同様に家族の状況も想像してみること。子どもの数や教育方針、妻の働き方、同居、介護なども含めた親との関係などによって収支はもちろん、暮らし方、その時点で求められる利便性なども変わるはずだからである。もちろん、予測しておいてもそれがその通りになるとは限らない。だが、何も考えずにローンを組むよりは安全なはずだ。

変動金利、35年返済でないと買えない物件はやめよう

子どもにかかる費用も多額に上る。早めに考えて備えておきたい子どもにかかる費用も多額に上る。早めに考えて備えておきたい

無理なローンの代表例は「変動金利、35年返済で組んで買えますよ」というもの。「これは、一番長い返済期間、一番安い金利で組んでぎりぎりなんとかなりますという試算。その試算でしか買えない場合には、その物件は無理と考えたほうが安全です。また、今は固定金利も非常に低く、これから景気動向によっては金利が上がる可能性もあることを考えたら、今はむしろ固定で借りるのも安全策になりえるのではないでしょうか」。

当然、頭金ゼロ、フルローンで買うのも避けたい。頭金を貯められない状態がすでに問題だからだ。返済負担率も、無理なく返済でき、貯蓄もできる20%以下が理想。「年収によっては30%、35%まで借りられはしますが、それだけの返済負担率になると返済だけで手一杯。貯蓄ができないことも。そんな状況では教育費、老後資金が貯められるかが心配ですし、住宅ローンの繰上げ返済も難しい。収入の不確実性が高く、かつ税金、社会保険料、医療・介護の利用者負担など支出が増えそうな今の時代にはローン負担はできるだけ軽く、小さくしておきたいものです」。

そしてできれば繰上げ返済で55歳までに返済、その後は老後資金を貯めることに注力すれば老後に不安を残さずに済む。教育資金は「末子が15歳までに一人当たり300万円、下宿させる必要があるなら500万円を目安に貯めておけばなんとかなります。現行の児童手当が続くのであれば、それをゼロ歳から15歳まで貯めておくだけで200万円ほどになるので、そこに100万円プラス、それで大学の学費は賄えます」。それまでの学費その他は家計から出す計算なので、そのためにも返済比率を上げすぎ、ぎりぎりの返済にはならないようにしたい。

「家賃並みで買えます」を鵜呑みにしない

毎月の支払いがいくらになるかを事前に細かく試算、本当に現在支払っている家賃同等に収まるかどうかを考えてみよう毎月の支払いがいくらになるかを事前に細かく試算、本当に現在支払っている家賃同等に収まるかどうかを考えてみよう

「家賃並みの支払いで買えます」の一言は買いたい人にとって魅力的。だが、これもそのまま鵜呑みにしてはダメと豊田さん。「ローンの支払額と従前の家賃がイコールだから、家賃並みという場合、実際の支出は大きく増えます。住宅を購入するとマンションの場合なら管理費、修繕積立金、利用する場合には駐車場、駐輪場代などが必要で、どんな住宅でも固定資産税、都市計画税は必要。さらに一戸建てで住居が広くなると光熱費が嵩むこともあります。しかも、住居費関係の支出は固定費で、節約ができません。毎月必ず払わなくてはいけないので、そこに無理があるのは危険です」。支払額を試算する時にはこうした経費も算出、必ず払わなくてはいけない費目を書き出してみて、その上で決断するようにしたい。

ちなみによく言われる賃貸と購入論議だが、豊田さんは「一生賃貸だとするとリタイア時点でその後の家賃分のストックを持っていないとダメ。家賃が仮に5万円として、25年分で1,500万円とかなりの額になります。そこが賃貸派の盲点になりがちです。」。

もちろん、購入した場合でもマンションであれば管理費、修繕積立金、一戸建てでも修繕のための資金、場合によっては建替え資金も必要だから、リタイア後に住居費がゼロということはない。特にタワーマンションなどでは管理費、修繕積立金がかなりの額に及ぶ例があるので、そのあたりも考慮しておきたい。

中古の地域一番物件を狙おう

良い物件を最初に見てしまうと、他の物件が劣ってしまうように思え、決められなくなる。自分の身の丈に合った物件を中心に見るようにしたい良い物件を最初に見てしまうと、他の物件が劣ってしまうように思え、決められなくなる。自分の身の丈に合った物件を中心に見るようにしたい

ローン負担を軽くして買おうとすると、当然予算は少なくなる。そんな時に目を向けたいのが中古。「マンションの場合、管理の状態が後々の資産価値維持に大きな意味を持ちます。中古ならどのような状態かが購入前に分かるので、リスクを抑えて購入でき、個人間の取引なら消費税もかかりません」。

物件の条件としては駅から遠くても7~8分、できれば5分以内がお勧め。「マンションは利便性が売り。徒歩15分、バス便では意味がありません。また、人気のある駅、エリアで買おうとするとどうしても高くなりますから、そこから少し外した、でも、その駅やエリアでは競争力のある、できれば地域一番の物件を狙うのが賢明でしょう」。急行が止まる人気駅の徒歩15分より、その隣の各駅停車しか止まらないけれど駅から2分の物件に目を向けてみてはどうかというのだ。ただし、最近では人口減少の極端な地域、駅などもあるので、街の状況は十分にチェックする必要がある。

最後に意外だったのは、豊田さんに相談を求めて訪れる人の多くが家計に見合ったローンになっているかの検証や、物件の吟味をほとんどしていないという点。「さほど物件を見ずに決めている人が多いように思います。初恋でひと目ぼれ状態で。また、予算のアタリを決めずに物件を見に行ってしまう。手付を打った後に住宅ローン選びで相談に来る方が多いのですが、関心はローンの選び方や返し方だけ。予算が適正かどうか、この物件でいいのかを気にしない人が大半なのです。でも、購入後も貸せる、売れるかどうかは物件そのものにかかっています。ローン返済が難しくなってもそうした物件なら破綻はしなくて済む。もっと、物件を見る目も養って、これだ!という物件を選んでほしいですね」。

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