快適な環境を自動制御。医療費、介護費が安くなる家

立てて置かれているのは睡眠計。これを使うことで睡眠の質が分かるのだという立てて置かれているのは睡眠計。これを使うことで睡眠の質が分かるのだという

キッチンの壁に設置されたいくつものコントロールパネルに加え、キッチンには血圧計、睡眠計、歩数計など、エコハウスに設置するにしては不思議な品が置かれていた。なぜ?
説明をしてくださったのは理工学部システムデザイン工学科の伊香賀俊治教授。「たとえば新しい省エネ法に従って東京で家を建てるとして、工事費が100万円アップしたとしましょう。そのコストを光熱費だけで回収しようとすると、30年近くかかります。ところが、その家に暮らすことで健康になり、医療費が削減できたとすると10数年で回収できる。さらに介護が不要になるとしたら、数年で元が取れる。このように健康の経済価値を見える化することで、環境に配慮する気持ちになれるはず。この家は省エネ、経済効率だけでなく、健康に暮らせ、医療費、介護費を安くできることも意図しているのです」。

寒い家では血圧が上がり、高血圧になりやすくなる。また、動かなくなるため、足腰が弱り、認知症が進行しやすくなるともいう。そこで、この家では断熱と適切な暖房を組み合わせ、かつ、一人一人のデータに合わせて住戸内の環境を細かく制御するのだとう。

住戸内の機器はスマホで操作でき、また、操作履歴を学習してくれるので、将来的には『今日は暑いね』と指示するだけで家がその人にあった環境を設定してくれるようになるとも。住む人と家が共に進化するというわけで、それが共進化住宅の共進の意味なのだという。SFの世界のようだが、たぶん、近い将来、そんなことができるようになるのだろう。すごい話だ。

健康に良いかどうかで住宅を選ぶという考え方

このテーブルは学生作。基本的なパターンを作っておき、座る人の体のサイズ、生活行動に合わせて微妙に変えてあるのだという。もちろん、素材は木このテーブルは学生作。基本的なパターンを作っておき、座る人の体のサイズ、生活行動に合わせて微妙に変えてあるのだという。もちろん、素材は木

どういう家に住むと健康に良いかについては様々な研究があるそうで、ちょっと脱線するが、多くの人が関心を持ちそうな例を紹介しておきたい。「木のような自然素材が使われている部屋では睡眠の質が良くなります。自然の木を使った、白っぽい壁が床と天井など、室内の面積比率で50%くらいだとベスト。視覚、嗅覚、触覚などに作用するのだろうと思います。ただ、この家だとやや木の部分が多すぎるかもしれません」(前出・伊香賀教授)

また、学習効率も研究されているそうで、自然の木で仕上げられた住宅とそうでない住宅では偏差値に差が出るのだとか。室内に緑があるかどうかでも、学習効率に差が出ると言われるが、加えて木の家だとさらに効果大ということだろうか。自然素材の効果は偉大だ。

ちなみに、健康から住まいを考えるという観点は、政府の日本再興戦略の中に「国民の 『健康長寿』の延伸」が主要テーマとして掲げられていることからも、今後、注目したいところ。実際、国土交通省では8年前から健康維持増進住宅の研究を開始し、省エネや創エネに優れたスマート住宅に健康を加えた「スマートウェルネス住宅」研究に引き継がれている。次年度には検証事業が始まる。長生きする時代である。これからは健康に良いかどうかで家を選ぶことも大事になってくるはずだ。

高齢者に配慮。でも、段差もあったほうが健康的という考えも

建築以外のものを学ぶことで、空間で社会を良くしていけるような建築を作っていきたいと高城さん建築以外のものを学ぶことで、空間で社会を良くしていけるような建築を作っていきたいと高城さん

ところで、健康に良い、高齢者にも配慮した住まいと考えると、不思議なのは段差があること。他の住宅はバリアフリーでフラットだったが、この家では3段ほどだが、空間は階段で仕切られている。「この段差はあえて作ったもの。多少の段差を作ることで自然に体を動かすようになるだろうという意図です」(大学院政策・メディア研究科・高城冬悟さん)。以前、100歳を超えて現役の日野原重明さんに住まいと高齢化という話を聞いた時、同じことをおっしゃっていたことを思い出した。意見は別れるとは思うが、多少の段差は必要という考え方もあるわけだ。

また、この段差は「設備類を地下に収納するためのもの。この家は外のライフラインに頼らず、その場にあるエネルギー、水で生活を賄えるように計画されており、そのためには家単体で完結する必要がある。そのために段差を利用しているのです」(大学院政策・メディア研究科・東慎也さん)という意味もある。

ライフラインから解放された、水の上にでも建てられる家

写真右側に置かれた模型は湖に浮かべた共進化住宅。日本の失敗を輸出しないという考えがいいと思う写真右側に置かれた模型は湖に浮かべた共進化住宅。日本の失敗を輸出しないという考えがいいと思う

それにより、この住宅はアジアのライフラインが未整備な場所でも建てられるようになるのだとか。「日本では都市化、宅地開発に際して国土、自然を大きく改変してきました。その失敗をアジアに輸出しないよう、自然を犠牲にすることなく都市化できるように考えた家がこれ。立地とインフラに頼らない家であれば、極端に言えば水上にも作れる。住まいの可能性が大きく広がるはずです」(大学院政策・メディア研究科・池田靖史教授)。

展示終了後、この家は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスに移築され、今後1年間実証実験が続けられる予定。今回の家が建築の専門家だけでなく、環境、医療やコンピュータなど、広い分野の人たちの協働から生まれていることを考えると、将来の住宅は今よりずっと快適な空間になるだろうと思う。①で触れた防火の問題のほか、予算その他実際の住まいに応用されるまでには解決すべき問題も多いはずだが、今後の研究に期待したい。

ちなみに展示終了後、審査員、一般の入場者による審査が行われ、最優秀賞は東京大学に決まった。慶應義塾大学は優秀賞。ちょっと残念。


□住戸内の環境と健康について、イベント全体についてはこちら。
寒い家が健康に及ぼす影響についての調査結果(「住宅と健康の関係調査」(独)科学技術振興機構平成24年採択「健康長寿を実現する住まいとコミュニティの創造」プロジェクト)
http://www.ikaga-yusuhara.jp/file/JST_20130517.pdf

その他の大学も含めたエネマネハウス2014概観の記事
http://www.dai3.co.jp/rbayakyu/rbay-kodawari/item/1111-2014

2014年 02月28日 09時48分