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ドラマ「地面師たち」監修の司法書士・長田修和氏に聞く舞台裏と不動産取引の実態


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2024年7月のリリース以来、大ヒット中のNetflixドラマ「地面師たち」。売主になりすました地面師グループが、大企業から約100億円を騙し取ろうとする様を描く本作では、不動産取引の現場がドラマティックに描かれています。

不動産の決済を行う際に重要な役割を果たすのが司法書士です。本作の中でも地面師グループの法律屋役・ピエール瀧さんと買主側の司法書士とのやり取りがSNS上で注目を集めています。

今回は、「地面師たち」の不動産取引に関する描写の監修者を務めた司法書士・長田修和氏に、ドラマ製作にまつわる苦労話や司法書士業務について話を聞きました。

もくじ

ドラマの監修は「メチャクチャ大変だった」

―ドラマの「監修」というのは、具体的にはどのような作業なのでしょうか?

かなり地味かつ大変な作業でしたね。

まず監督さんが様々な取材・リサーチをして作成した台本がある。この台本を映像化するわけですが、その過程で表に出ない膨大な作業があるのです。

例えば、台本上では「印鑑証明書を出す」と文字で書くだけですが、映像化にあたっては「本物に見える印鑑証明書」が必要になります。しかも「地面師たち」は平成29年が舞台という設定なので、当時の書式のものを用意する必要がありました。

そもそも、これまで作られてきたドラマや映画で不動産の取引現場が「見せ場」になるなんて考えられませんでした。パパッとハンコを押して、書類を交換、俳優さんが握手して終わりみたいなシーンがほとんどでしょう。

しかし、「地面師たち」は、実際のやりとりをリアルかつ丁寧に描いて、ドラマとして「映える」ように見せています。何十億も売上があり、法務部や顧問弁護士もいて、数多くの優秀な社員を抱えている大企業がなぜ騙されてしまったのか?という点を視聴者が納得感を持てるように伝えなければならない。

だからこそ不動産取引の現場もリアルに描く必要があったのだと思います。

―確かに土地の売買契約を交わすシーンは非常に緊迫感があって見応えがありました。

「地面師たち」は全7話ですが、監督さんの理想は一気に視聴させてしまうことでしょう。だからこそ、第1話の地面師グループが新興不動産会社を手玉に取るシーンで視聴者を惹きつけなければなりません。

そのために、私も様々な資料を用意しました。印鑑証明、住民票、登記簿謄本、固定資産税評価証明書‥‥。スタッフの皆さんが「平成29年度の当時の本物が見たい」というので、伝手をたどって入手するなど、非常に手間がかかりました。実際にドラマで使われた書類は、紙の色味、質、書式など細かいところまでこだわって作られています。

また、「台本には書いてない情報」もたくさんあります。つまり、ドラマ上では描かれないけれど、書類には記載される登場人物の裏設定みたいなものも考慮しなければならない。

例えば、第1話で物件所有者の島崎健一さんの成りすましが登場しますが、住所と氏名、生年月日以外の情報については明確な設定がありません。しかし、住民票を作るなら、「前住所はどうする?」「世帯主は本人で良いか」「いつから恵比寿に住んでいるか」「本籍はどうするか?」「発行場所は、本庁か出張所か?」「役所の印はどうデフォルメするか?」など考慮すべき点が出てきます。そういう見えない設定を、全体のストーリーと齟齬のない形で考えなければいけない。

※制作中の書式では住所表示の番号の後に「号」の表記があることを指摘

さらに小道具として作った書類の書式など本当に細かい部分の確認に時間がかかりますし、メチャクチャ大変でした。

出版社さんの紹介で依頼が来てからの8ヶ月間は、とても慌ただしかったですね。いきなり「明後日、俳優さんの撮影が決まりましたので来れませんか」と言われたり、ゴールデンウィークに温泉旅行に行ってたら、「連休中に打合せしたい」とか体が2つ必要だと思いましたね(笑)。それ以外にもメールで長文の質問が来て、「スケジュールが前倒しとなったので急ぎで教えて下さい」なんてこともありました。

ただ、製作スタッフさん達は一生懸命で親切でしたし、私よりも各部門との調整が大変だったことを考えると、やむを得ないとも思いました。

個人の取引で「もうええでしょ!」と言われることはない?

―ドラマ内で司法書士は、不動産の所有者が「本人なのかどうか」を様々な手段で確認しようとします。あのようなやりとりは実際にあるのですか?

一般消費者が自身の家・マンションを売買する場合にはドラマのように厳密にやることはあまりないと思います。なので、仮に司法書士から本人確認のための質問をされた時に答えを間違えたとしても、それ以外の質問にきちんと答えられれば大きな問題にはならないでしょう。

自身の干支を聞かれて間違える人はほぼいませんが、若い方だとそもそも知らないということがあります。また高齢者になると、自分の年齢が止まっている人もそれなりにいますね。75歳と答えた人が、横から奥さんに「あなた79歳でしょ」と突っ込まれたりして、「無自覚にサバを読んでるんだ」と。私の経験上、特におばあちゃんは、サバを読むケースが目立ちますね(笑)。

なので、ドラマのような緊迫感は個人レベルの取引ではあり得ないですし、仮に記憶違いがあったとしても、他の部分で本人だと証明できれば大丈夫だと思います。

―ドラマのような企業間の大きな取引には細かい本人確認が必要というわけですね。

私たち司法書士が行なっているのは、ただの本人確認ではありません。「高度な本人確認」です。例えば、銀行で送金などをする際の「本人確認」は、免許証やマイナンバーカードを提示するだけで済みます。携帯電話の契約なども同様でしょう。身分証のコピーは取るかもしれませんが、それが「本物かどうか」はそれほど細かく見ていないと思います。

弁護士も司法書士ほど厳格な「本人確認」はやったことがない人がほとんどではないでしょうか。裁判に偽者が来るわけないと思っているかもしれませんが、実際のところはわかりません。

極端な話、家のまえに張り込みをして、裁判所からの書類が届く頃を見計らって玄関前で郵便局員から直接書類を受け取れば、成り済ますことも可能です。実際、このようなやり方で過去に弁護士や裁判所を騙す地面師もいました。

だからこそ司法書士は、一歩踏み込んだ「本人確認」を行っています。共通の研修で教わるわけではないのですが、100年を超える司法書士の歴史の中で蓄積されてきた様々なノウハウで本人確認をしているのです。

そうしたノウハウの一部がドラマ内で描かれている生年月日や干支、近所のスーパーなどを聞くやり方です。ドラマでは、買主側の司法書士が細かい質問をすると、地面師グループの一員であるピエール瀧さんが「もう、ええでしょ!」と割り込んできますが、そうした想定外の「本人にしかわからない質問」をするのも我々の仕事なのです。

―家の売買経験がない人は、「不動産取引の現場はあんなにピリピリしているのか」と思ってしまうかもしれませんね。

先ほども言ったように、個人の取引でドラマのような状況になることはないと思います。地面師にしてみれば、数千万円単位の取引をターゲットにするのは割に合わないですから。ただ、地方に広大な土地を所有している場合は、ターゲットとなる可能性もあるかもしれません。

一般的に地面師が暗躍するのは不動産業者の「仕入れ」が多いですね。実際に被害に遭っている企業も多いですし、ブローカーが介在しているケースも少なくありません。私自身も以前、不動産コンサルタント会社やフランチャイズ本部で店舗開発や物件開発の仕事をしていたことがあるのですが、本当に怪しいブローカーが話を持ってくることも多いのです。

彼らは「売主に会えるの?」と聞くと「会えるけど、その前にまず買い付けを入れろ」と言います。そうしないと購入争いにエントリーさせないよと。そういう案件は、自社の競合企業も興味を持ちそうな条件の良い土地なので、とりあえず買い付けを入れざる得なくなってしまうわけです。

FAXで物件の情報が送られてきて、「明日の午前中までに買い付け入れろ」と言われたこともあります。やはりいい土地は、どの不動産業者も知っている。だからこそ、「自分は地主さんから絶大な信頼を得ているんです」というドラマ内のピエール瀧さんや綾野剛さんみたいなポジションの人が出てくるわけです。

また、「仕掛け案件」と呼ばれるものもあります。仕掛け案件では、ドラマ内の北村一輝さんのようなポジションの人が法務局へ行って登記簿を取ってきます。それに基づいて、建築士に建築パースまで作らせて不動産業者に購入を持ちかけるのです。

そして、不動産会社側が関心を持つようであれば、本物の売主のところに行って売却を促すのです。「○○建設と××ハウスという有名な企業が買いたいといってるんですが売りませんか」と。

視聴者の方々は、「地面師たち」を見ながら、「ドラマだから誇張してるんでしょ?」と思うかもしれません。もちろん、誇張されている部分もありますが、全くのフィクションかというと、そう言い切れない部分もありますね。

―完成したドラマを見た時は、どのように感じましたか?

監督さんと俳優さん、制作スタッフの皆さんの血と汗の結晶だなと思いました。

何より不動産取引という本来、無味乾燥なものを非常に面白いドラマに仕上げてくれたと感謝しています。ましてや司法書士は士業の中でも弁護士と比較すると、注目されることの少ない職業ですから。

魅力的な脚本や細部まで丁寧なことに加えて、売主と買主の関係性や、取引の雰囲気をとてもリアルに描くことができていると思います。ドラマの中で描かれるような大きな取引では売主の立場が強いわけです。

また、不動産業者と司法書士の関係性もよく表現できていると思います。ピエール瀧さんが、若い司法書士に対して脅すような態度を取るシーンがありますが、「本人確認をできるだけ早く終わらせたい」という雰囲気を出してくるケースは、取引の現場でも経験したことがあります。

その流れで、買主側の若い司法書士がピエール瀧さんにけちょんけちょんに言われても負けずに「取引の安全性を担保するのが私の仕事です。こっちも、プライドを持ってやってるんです。社長、続けさせて下さい」といってストーリーが展開していく。あのやり取りは元々台本になかったものを私が提案させてもらいました。

私たち司法書士は不動産取引の安全性を担保するのが仕事ですし、そのために先ほども言った「一歩踏み込んだ本人確認」をしています。最近、現実に流行っているのは手付金を持ち逃げする詐欺なのですが、これは手付けの受け渡しには司法書士が同席しないし、大掛かりな演出コストがいらないからだと考えられます。

それだけ重要な「本人確認」という4文字を映像で可視化して、ドラマとして成立させたのは、本当にすごいことだと思います。

司法書士は登記制度を守ることで日本経済を支えている

―不動産取引において、本人確認は司法書士の重要な仕事というわけですね。

我々司法書士は、登記制度の正確性を担保することで、日本経済の根本を支えています。なぜならば、登記簿に書かれている情報が出鱈目だったら、いちいち徹底した調査が必要になり円滑に不動産取引をすることができません。

そうなれば、不動産会社や住宅メーカーへの影響以上に、家を買う人の購入意欲が薄れ、結果的に住宅に付随する家電やその他諸々の製品の取引にも大きな影響を与えてしまいます。つまり、様々な商取引の根本にある不動産の登記情報の正確性、確実性を担保することで日本経済を陰で支えているのです。

登記簿には、その土地の広さや所有権の移転履歴などが書かれています。AさんからBさん、BさんからCさんといった売買履歴もわかります。経験豊富な不動産関係者は、登記簿の行間から様々な情報を読み取ることができますが、それができるのも司法書士が登記制度を守るために日々活動しているからと言ってもいいと思います。

「登記は簡単だから自分でもできる」などという人もいますが、専門知識が不可欠ですし、甘く見ない方が良いでしょう。登録免許税の計算ミスや「減税条項を適用してない」といった小さなトラブルだけではなく、それこそ地面師事件のように売主に問題があったり二重譲渡があって登記が得られないミス、私道漏れや建物の特定ミス、持分が実体と違う贈与税の課税などといったトラブルも起こり得ます。

―司法書士の業務内容が一般消費者によく知られていないと言う面もあるかもしれません。

「地面師たち」のドラマを通じて、多くの人に司法書士や不動産業者の皆さんの仕事を理解してもらうことができたと思います。不動産業者も単に物件を右から左に流しているわけではなく、取引に付随する様々な手続きがあり、一般消費者の皆さんが見ているのは氷山の一角に過ぎません。

私自身も決済の場で「1時間ぐらい喋って10万円なんていい商売してるね」などと言われることがあります。ただ、その裏に複数の取引当事者との本人確認や複数回の打ち合わせがあり、取引が実体と合っているか、所有権を妨げる権利はないか、書類の不備はないかなどの確認をし、複数の登記を一緒に申請するための書類の作成、市役所への申請、登記をミスなく迅速に法務局に申請する、などといった様々な手続き・業務があるわけです。

ただドラマのおかげで少しずつ業務内容が知られてきている実感はありますね。リリース後に何回か決済の場に同席しましたが、お客さんと「あのドラマ見ました?」という話になることがよくあります。

そして、「ドラマだと免許証にライトを当てていましたけど、やらなくて大丈夫なんですか?」なんて言われる。「名前で検索していただくとわかるのですが、あのドラマの取引の監修は私がしてます」と言うと驚かれますね。確かにドラマではライトを当てて、免許証のICチップをチェックするシーンがありますが、私自身はそれ以外の細かい部分も見ています。

最近、SNSを利用した投資詐欺が流行っていますが、犯人集団が被害者を信用させるために、偽造した著名人の免許証を見せていたという話が報道されています。そうした偽造免許証を実際のものと比較してみると、違いがよくわかりますよ。間違い探しをしてみると面白いのではないでしょうか。

※報道された偽免許証と本物。比較すると微妙な違いがある。

記事執筆

LIFULL HOME'S 不動産売却査定

LIFULL HOME'S 不動産売却査定 編集部

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