賃貸住宅を退去する際、“退去費用”の支払いが発生する可能性があります。借りていた住居を返すのに、なぜ費用を支払う必要があるのでしょうか。
退去費用を抑えるために注意したいポイントや、金銭トラブルを予防する方法を知っておきましょう。
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退去費用は原状回復に掛かる費用

退去費用とは、入居者の退去後に行うハウスクリーニング(入居中にできた傷や汚れの清掃)や建具の修繕、設備の入れ替えなどに要する費用のこと。
賃貸住宅の契約には原則的に“原状回復”が含まれており、退去時には「原状に回復して」明け渡さならければならない旨が規定されているのが通常です。
一般的には、入居時に預けた“保証金”または“敷金”から原状回復にかかる費用が差し引かれ、残りがあれば返金される仕組みとなっています。契約時に保証金や敷金がなかった物件の場合は、退去費用を別途支払うことになります。
ところが、室内を綺麗な状態にして退去したにもかかわらず、“敷金が全く返金されなかった”あるいは“高額な退去費用を請求された”といったトラブルが多く報告されています。
平成28年度、東京都都市整備局に寄せられた賃貸借契約にかかわる相談(※1)およそ1万7,000件のうち、3分の1を超える38%が“退去時の敷金精算”に関するものでした。
このように退去費用に関するトラブルが絶えないことから、国土交通省は原状回復のガイドライン(※2)を制定しています。
※1 東京都住宅政策本部「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」
※2 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
原状回復費用の負担が求められる具体例

原状回復が必要といっても、室内を入居時と完全に同じ状態に戻すのは不可能です。そこでガイドラインでは、下記の2点については借主による原状回復の義務がないと定めています。
- 1. 経年変化:時間が経つことで自然に起きる劣化現象
- 2. 通常摩耗:普通の暮らしを送るうえで発生する傷など
そのうえで、故意(わざと)・過失(うっかり)、あるいは通常の範囲を超えた使用方法、適切なメンテナンスを行なわなかったことで発生した損害を復旧する費用は、借主が負担するべきとしています。
それでは、費用負担が必要・不要となる具体的な例を確認してみましょう。
■原状回復の費用負担が不要なもの(一例)
- ・紫外線による壁紙の色あせ・日焼け
- ・画びょうを刺してできた壁紙の穴(下地交換の必要がないもの)
- ・自然災害(地震など)による窓ガラスの破損
- ・テレビや冷蔵庫を設置した場所の壁にできた黒ずみ
- ・紫外線によるフローリングの変色
■原状回復の費用負担が必要なもの(一例)
- ・床にこぼした水を放置して発生したカビや腐食
- ・壁の落書きやペンキによる塗替え
- ・釘やビスによる壁や柱の穴
- ・引越しや模様替えの際にできた床や壁の傷
- ・喫煙による臭いやひどいヤニ汚れ ※
- ・ペットによる臭いや床や柱などの傷 ※
※喫煙やペットの飼育が禁じられた物件の場合は、用法違反にもあたる
退去時に敷金から引かれる修繕費を少なくするためにできること

退去費用を抑えるためには、日頃から定期的な掃除を行い、室内を綺麗な状態に保つことが大切です。
とはいえ通常の使用による傷や汚れは原状回復の義務がないので、過剰に神経質になる必要はありません。
また、設備や建物に問題や故障があれば、管理会社や貸主(大家)に早めに連絡しましょう。例えば、建物に問題があり雨漏りがあった場合、貸主の費用負担で修繕してもらえます。
ところが雨漏りがあることを知りながら放置して、壁の腐食やカビが広がってしまった場合は、借主の責任になる可能性が高いでしょう。
入居時の確認も大切
退去時にトラブルにならないために、室内の傷や汚れ、設備の不具合については入居前にきちんと確認しておきましょう。
“元からあった”あるいは“なかった”という水掛け論を防ぐためには、証拠を明確に分かる形で残しておくことが大切です。
入居時に、傷や汚れがある箇所のアップ写真と室内全体を写真撮影し、プリントアウトしたものを不動産会社や管理会社に渡しておくと良いでしょう。
入居前にチェックリストを用意し、借主とともに確認しながら記入してくれる不動産会社もあります。
退去費用に関するトラブルの相談窓口

不要な退去費用を支払わないためには、原状回復に関する知識を持っておきましょう。
原状回復費用を敷金から差し引かれる、あるいは退去費用の支払いを求められる場合、借主は修繕内容の具体的な明細を請求することができます。
不当に高額な退去費用を請求された場合は、自治体や消費者センターの窓口に相談しましょう。
窓口には例えばこんなところがあります
- 公益社団法人 全国消費生活相談員協会
- 独立行政法人 国民生活センター
- そのほか、各市区町村の住宅政策課や建築課など
まとめ
- 退去費用とは、原状回復に必要な費用のこと
- 退去費用に関するトラブルが多いため国土交通省がガイドラインを制定
- 経年変化や通常の使用による傷や汚れは原状回復の義務がない
- 故意や過失、通常の範囲を超えた使用による損害は原状回復の義務がある
- 退去費用を抑えるためには、入居前の確認と日頃の清掃・管理が大切
更新日: / 公開日:2017.12.19










