今やスマートフォンは単なる通信機器ではなく、生活インフラそのものになっている。そんな時代背景の中で広がっているサービスの1つが「充レン」だ。充レンは、駅や商業施設、オフィス、コンビニなどに設置されたスタンドから、モバイルバッテリーを必要な時だけ借りて、別の設置場所へ返却できるレンタルサービスである。近年は公共施設やイベント施設などにも設置が進み、生活導線の一部として浸透しつつある。
今、この「充レン」が不動産店舗に設置され始めている。一見すると不動産会社とモバイルバッテリーの接点は薄いように思われるが、今回、取材を通じて見えてきたのは、これは不動産会社のサイドビジネスの話ではなく、不動産店舗の役割を問い直す取り組みであるということだった。
モバイルバッテリーを借りに不動産店舗へ。変わる、店舗へ行く理由
今回話を伺ったのは、直営の不動産仲介店38店舗に「充レン」を設置したAPAMAN株式会社の副会長 執行役員 川森敬史氏。川森氏は導入背景についてこう語る。
「モバイルバッテリーのレンタルによる収益は目的ではありません。充レンのユーザーは男女半々で若年層が約8割。初めての部屋探しなどが活発な年代と一致します。なので、まずはモバイルバッテリーのレンタルに来店してもらうことで、部屋探しでの来店ハードルを少しでも下げるというねらいでした」
少し前まで、不動産店舗は部屋を探すために行く場所であり、部屋探しの入り口は店舗への訪問だった。しかし現在は、顧客が来店前からポータルサイトやSNSを活用し、候補物件を絞り込んで来店するようになっている。情報を得るために店舗へ行く時代ではなくなったことで、不動産会社にとっては「そもそも店舗に来てもらえない」という課題が生まれた。ポータルサイトへの掲載やSNS運用を強化しても接点を持つ難易度が上がっている中、「充電したい」「返却したい」といった部屋探し以外の理由で店舗へ入ってもらうという新たな発想が生まれたのだ。
「私たちは、店舗に来たお客さまが、モバイルバッテリーを借りに来たのか部屋探しに来たのかわかりません。だから、すべてのお客さまに対して『いらっしゃいませ』と気持ちよく接客します。そうすることで、日頃から店舗の雰囲気やスタッフの顔を知ってもらい、いざ部屋探しをする時に思い出してもらえる状態を目指しています」(川森氏)
美容室や飲食店でも、一度でも入ったことのある店舗とまったく知らない店舗では、入店のハードルは大きく違うだろう。そうした心理的距離の縮小をねらった施策なのである。
さらに、「充レン」の設置には、集客以外の期待もあるという。
「停電時に、無料開放することもやっているんです。企業の社会的価値、いわゆるCSRに通じる取り組みですね。不動産会社の社会的な見え方も大事なんじゃないかと思っているんですよ」(川森氏)
スマートフォンが生活インフラとなった現代において、災害時や停電時の充電手段確保は生活に直結する。「困ったら不動産会社へ行けば電源がある」と地域住民に認識されれば、店舗は、部屋を探す場所から、地域を支える場所へと役割を変えることができる。
川森氏は、「昔は道に迷ったら不動産屋さんに聞いていましたよね」と、かつて不動産店舗が地域を知り尽くす立場として道案内などの役割を担っていたことを振り返る。そうした役割はデジタル化によって失われたが、別の形で地域生活を支える役割を取り戻そうとしているのだ。
変わる、部屋探しにおける店舗の役割
続いて川森氏に、部屋探しにおける不動産店舗の役割の変化についても話を伺った。現在と過去の違いについて、同氏は「お客さま側の情報量が圧倒的に違います」と言う。
少し前まで、部屋探しは不動産店舗から始まっていた。情報誌を見て住みたい街へ行き、駅前にある不動産店舗で営業担当者へ条件を伝え、数件の候補物件を紹介されてそのまま案内へ進む。当時は不動産会社のほうが圧倒的に情報を持っており、顧客はその情報を受け取りながら比較していた。川森氏は当時を「営業担当が絞り込み、提案し、お客さまの意思決定をリードしていました」と振り返る。
しかし、現在は状況がまったく異なる。顧客は来店前から物件を比較検討し、問合せの段階で「この物件を見たい」「他社より安くなりませんか」「条件が近いものはありますか」と具体的な要望を持っているケースも珍しくなく、情報を得るために店舗へ行く時代ではなくなった。
従来のような「教える営業」だけでは価値を出しづらくなり、代わりに「整理する営業」「背中を押す営業」が求められていると川森氏は語る。
「顧客の希望条件通りの物件がない場合、エリアや築年数、予算を一緒に調整しながら、対象物件の増減を見ていきます。営業担当者は、答えを提示する役割ではなく、顧客自身が納得して決めるための情報をそろえ、意思決定を支援する役割です」(川森氏)
この変化は来店方法にも表れている。かつての不動産店舗は、予約なしの“飛び込み来店”が多く、不動産会社にとっては店舗の規模や立地そのものが業績を左右していた。
しかし現在は、ポータルサイト等を入り口としたメールやチャットでのやり取りが増え、来店客も予約客がメインになっている。
川森氏は、店舗にとって飛び込み来店がメインだと一日の業務の予定を組みづらいが、予約来店やオンライン応対が増えると、業務の予定を立てやすくなるとも明かす。「オンラインで効率化できる部分は徹底して効率化し、店舗ではより付加価値の高い提案や意思決定支援に時間を使っています」というように、店舗の役割の再設計が進んでいるのである。
変わる、店舗経営と働き方
店舗の役割が変わるのであれば、店舗経営の判断基準も変化する。続いて川森氏に、これから伸びる店舗について経営の視点から話を伺った。
同氏は「店舗も売り上げではなく利益が大事です。家賃、人件費、広告費をどうコントロールするかですね」と語る。以前、不動産仲介店舗は駅前一等地への出店が定石とされていた。目立つ場所で来店客を獲得し、多くの人員を配置して対応することで売り上げを伸ばすというシンプルな戦略だ。しかし現在、部屋探しの入り口はオンラインへ移り、以前と同じ感覚で固定費を積み上げていては利益は残りにくくなっているという。
また、店舗の正解を1つに限定していない点も同社の特徴である。川森氏が「2人店舗もあれば、9人店舗もある」というように、同社は店舗モデルを統一して再現性を高めるのではなく、商圏ごとの最適化をめざしている。駅前一等地に旗艦店舗を置くべき地域もあれば、予約来店中心で小規模かつ高収益なモデルが合理的なケースもある。来店数やオンライン比率に合わせて、店舗戦略を設計し直す時代に入っていると川森氏は見る。
また、興味深いのは、この戦略が不動産会社で働く人の働き方に幅を持たせている点だ。
「今の時代は、多様な働き方が求められています。無休で営業する大型店と週休2日の小型店があれば、シフト制で柔軟に働きたい人は大型店で、決められた曜日に休みたいという人は小型店で働くことができる。働き方のバリエーションを増やすことができるんです」(川森氏)
充レンを通じて、街に開き、地域と共生する店舗へと変わっていこうとしているのと同様、店舗戦略を通じて従業員の多様な働き方を創出している。店舗のあり方によって、不動産会社の内部も外部も変えることができるのだ。
テクノロジーの進化で生まれる、店舗の可能性
APAMANでは、フランチャイズの「アパマンショップ」加盟店へ基幹システム「AOS」の提供や人材採用といったさまざまな支援を行っている。店舗戦略についても、加盟する不動産会社の経営者と膝を突き合わせて議論するというここまで、充レンに象徴される店舗の役割の変化、そして店舗経営の再設計について話を伺ってきた。話を通じて見えてきたのは、不動産店舗の役割が縮小しているのではなく、役割を変えながら次の形を探しているという姿だった。
では、その変化の先にはどのような未来があるのか。AIが普及し、オンライン化が進み、業務効率化がさらに進んだ時、不動産店舗はどのような存在になるのか。最後に川森氏に、不動産店舗の未来と新規ビジネスの可能性について伺った。
「工程によってはAIエージェントが対応できるようになると思います。AIエージェントは、新人スタッフより物件提案がうまいかもしれません」(川森氏)
条件整理、検索、候補抽出、比較、初回提案、予約調整といった工程はルール化との相性が良く、AIが人間より高い精度と速度を実現する場面は十分に考えられる。すでに初回問合せへの返信や物件のレコメンドなど一部の工程はAIが担い始めており、一次接客や条件整理をAIが担う未来も現実味を帯びている。
一方で、川森氏はこの未来を店舗不要論には結び付けていない。むしろ効率化が進むほど人が担う価値が明確になるという考えである。
「条件の整理と決断の後押し、検索結果の提示と暮らしを一緒に考えることは異なります。住まい選びは単なる商品購入ではなく、生活の場所や将来の時間の使い方を変える大きな意思決定です。一回は現地を見たい、担当者と直接話したいというお客さまはまだ多いです」(川森氏)というように、不動産仲介においてリアルの接点を持つニーズは根強い。
「最後は人が背中を押す部分が残ると思います」(川森氏)
人は迷った時に誰かに相談し、条件に表れない感覚を共有し、地域の空気感や生活のイメージを持ちたいと考える。こうした行為はデータ処理だけでは代替しづらく、店舗が「意思決定を支援する場所」になるという考え方につながっている。
さらに、店舗そのものが生活サービスの接点へ広がっていく可能性もあるという。川森氏は将来的な構想としてVR(仮想現実)や暮らしの提案との組み合わせにも言及する。
「部屋を見るだけじゃなくて、住んだ後まで想像できるようになると面白いですよね」
空室となった部屋をVRで確認し、VRの中で家具を配置して生活動線を考え、その場で家具や家電を購入するなど、住み始めた後の暮らしまでサポートできる状態を作る。顧客が探しているのは物件そのものではなく、その先にある暮らしである。そう捉え直すことで、店舗は仲介にとどまらず、家具、家電、引越し、地域サービスなども含めた「新しい生活の入り口」になるというのだ。
「店舗って、用事がなくても来てもらえる場所になったら面白いと思うんですよね」(川森氏)
APAMANは、店舗をかつての情報提供の場所から、日常生活との接点や地域との関係性を構築する拠点へと、そのあり方を移行している。変化を受け入れ、店舗の意味を更新し続ける企業こそが、次の時代の不動産業を作っていくのかもしれない。
LIFULL HOME'Sで
住まいの情報を探す
全国の不動産会社を探す
接客が良い不動産会社を探す
LIFULL HOME'Sに物件広告を掲載する
仲介・管理会社向けお役立ち情報を探す








