難民問題の最前線を知る檜山さんが今注視する課題

難民・避難民の住まいの状況と課題やこの先の難民の暮らしについて、国内の難民支援団体のネットワーク組織「特定非営利活動法人 なんみんフォーラム(Forum for Refugees Japan、以下FRJ)」の事務局員 檜山怜美さんにインタビューを行った。

前編では、難民が来日して住まう背景、難民・避難民の主たる住まい“難民シェルター”“一般的な賃貸”“公営住宅”“社員寮”のそれぞれが抱える問題について聞いた。
後編の今回は、檜山さんが今注目する難民を取り巻く課題と、その先について尋ねる。

学生の頃から難民支援活動に携わり、日本に住む難民申請者や仮放免の方々の今昔を見てきた檜山さん。檜山さんが個人的に関心のある問題についても伺った学生の頃から難民支援活動に携わり、日本に住む難民申請者や仮放免の方々の今昔を見てきた檜山さん。檜山さんが個人的に関心のある問題についても伺った

――難民をめぐる住まいの現状と問題をいろいろと伺いましたが、檜山さんが難民の住環境について今気になっていることはありますか?

いろいろとあるのですが、まずは、セーフティネットの問題です。
難民申請者が国の支援を受けるといっても、申し込みから支援を受けるまで時間がかかることは少なくありません。「住む所がない」「手持ちのお金がない」「方々で支援を断られて行くところがない」という当事者は、時間がかかるにつれて苦しさが増すばかりです。

屋根のある場所を提供できていない人がいる、という状態は何とかしたいとは思っているのですが、民間の支援団体の現場もかなり逼迫しているのが実情です。

取りこぼされる人がいないよう、国の制度として最低限の支援体制が整えられるべきだと考えています。

――DV被害者や低所得者など既存の自立支援の制度はありますが、難民はそれに当てはまらないのでしょうか。

日本の住宅弱者支援と難民支援は、アプローチの仕方が少し異なります。

日本の住宅弱者支援の場合、シェルターに身を置いてから、その後当事者がその人らしく暮らすための自立に向けた支援に目を向けて行っていきます。

一方で特に難民申請者の場合は、難民認定を得られる人が一握りしかおらず、安定した在留資格を得ることが非常に難しいのが実情です。支援の出口が非常に狭く、そこにたどり着くまでにも時間がかかる中で、その間の不安定な生活(住民登録がない、在留資格が切れてしまうかもしれない等)をどう支えるかが非常に難しいのです。加えて、難民認定を受けた場合でも、国の支援制度を利用するときに思わぬ障壁に直面することがあります。

要因はさまざまですが、難民の方が生活基盤を整えて自立に向けた支援を受けながら、生活を立て直していくことは容易ではありません。そのなかで国の役割は今一度問い直される必要があると思います。

あとは転居の問題です。
ウクライナ避難民の受け入れでは、地方自治体が公営住宅を、一部企業が住居やシェルターを一時的に提供し、それらを使うことができました。ですが、事態が長期化すると、住居の提供だけでは地域に溶け込む力やその人が持つ生きていく力が削がれてしまいかねません。

「1年間だけ」といった制約のあるものではなく、“長期的な目線で自立につながる支援の在り方とは何だろう““どう寄り添えるだろう”“中長期的にみて、ウェルビーイングを高めるにはどうしたらいいのだろう”と考えていくことがより重要になってくるのではないかと思います。

――今回は住居に関してのお話をメインに伺いましたが、檜山さん個人で今注視している難民をめぐるトピックはありますか?

1つ目は、来日経緯によって処遇に格差があることです。
留学生としてなのか、ウクライナからの避難民なのか、難民申請者なのか、というような来日した経緯の違いによって、“本国から避難をせざるを得なかった“という状況は同じなのに、その後の処遇に格差が広がりすぎていることが気になっています。

もちろん、一人ひとりニーズが違うので、多少差があるのは仕方ないところもありますが、定住支援を受けられない人、定住支援の水準と差がある人、定住者の在留資格がもらえない人、家族呼び寄せの要件が緩和されない人など、あまりにギャップがあります。
受け入れの経緯や立場は異なっても、多文化共生社会のあり方を包括的、中長期的に捉え、法的地位や支援の最低ラインをそろえるなど、格差のない生活・社会的統合のための制度・施策が必要ではないかと考えます。

2つ目は先ほども話したとおり、拡大すべき民間の取り組みを支える国の制度基盤がかなり脆弱な点です。

3つ目は難民の高齢化です。
70年代後半以降に逃れてきたインドシナ難民の方々はすでに高齢になっていて、その後の80年代に多かったミャンマーからの難民も高齢化を迎えつつあるそうです。

たとえば、現在第三国定住として来日している人たちは子育てできる場所や定職を求めていますが、高齢化によって今後そのニーズが変わってくるのかと思います。
予想できるのは、帰国するのか、お墓の問題をどうするのか、年金をもらえるのかどうか、といった事柄ですが、そうした難民の高齢化問題をどう扱うのかに注目しています。

以前当事者の方から、「年金とお墓が心配。帰国するにも、年金がないので現地の家族が受け入れてくれない」といった話も聞きました。

また、来日後に勉強して日本語を習得していても、加齢に伴って第二言語を使うことが億劫になり、母国語を好んで使う傾向が強くなるようです。今後どういう影響が出るのか、そこも気がかりです。

この先、難民の方を含む高齢化が進んだら、ますます多文化に対応した介護サービスや介護人材が必要になるのではないかということを、漠然と考えています。
また帰国できない方もいる中で、望郷の念をもちながら日本で老後を迎えることになる人もいるのではと気にしています。

――難民の高齢化も日本の高齢化に通ずるものがあるのですね。在日韓国人のように同一国からの定住者コミュニティの規模が大きければまだ支えられそうですが、難民の場合はそうはいかないのでしょうか。

迫害の主体である本国の政府関係者は日本にもいますし、迫害の理由も人それぞれです。同国だからといっても、簡単に信頼関係を築くことは難しいのが難民の状況です。
それでも逃れてくる人が増えるなかで、館林のロヒンギャなど難民のエスニック・コミュニティも少しずつ広がってきたように感じます。

川口におけるクルド人、館林のロヒンギャ、四街道のアフガン人、葛飾のエチオピア人のように特定の国と地域に人が集まると言われることも一部ありますが、基本的には難民のすべてが集住しているわけではありません。
私たちは同一国をひとくくりにして考えてしまいますが、当事者間では地域や部族、民族によって大きく差があるのです。

国だけでなく、その人を取り巻く環境にも目を向けて、適切な対応が必要だと感じています。

疑いの目を向けることもあると思うが、その人の背景を見てもらいたい

――難民をめぐる環境がより良くなるために、社会に期待することはありますか?

ご自身のリソースで支援に乗り出してくださっている企業の方々は、その支援をどうやったらサステナブルにできるのか、どうスケールアップしていくかを考えていただけたらな、と思います。

あとは、不動産会社や保証会社の間で生じている、在留資格の不安定さや銀行口座を持っていないことといったハードルを、少しずつ解消できればいいですね。

――企業や社会からさらに広く、我々日本人全般で難民の方に対してできることはあるでしょうか。

難民の人たちをとりまく物事や、人物の背景に目を向けてもらえるようになったらいいなと個人的には期待しています。

特に住居の面では、さまざまな証明書がないことがネックになっていると思います。なぜ彼らにそれらがないのか、あまりスポットライトが当てられないからこそ、背景事情に目を向けて知ってもらえたらいいですね。

また住居に限らずさまざまな場面で、無理解、無意識の差別、おおよそ公平とは言えない状況に直面している難民の人も少なくないと思います。どのようにすれば、難民の人やその多様性を包含する社会になれるのか、一人ひとりが考え、取り組みを後押ししていくことには大きな意味があると思います。

――日本の中に、難民を許容する雰囲気がもっとあるといいですよね。

そうですね。日本はどうしてもイレギュラーなものや存在に対して、疑いから入ることが多いように感じられます。そのような慣習をほぐせるといいですし、“難民”のカテゴリを超えた人とのコミュニケーションが各地域で生まれるといいですよね。

事例をわかりやすく伝えるために個々の例を挙げる檜山さん。笑顔を交えながら語る様子は、一人一人の顔を思い浮かべているようだった事例をわかりやすく伝えるために個々の例を挙げる檜山さん。笑顔を交えながら語る様子は、一人一人の顔を思い浮かべているようだった

FRJが見据えるこれからの難民への取り組み

――ウクライナ避難民の受け入れ開始から約2年が経とうとしています。当初、国や民間支援団体はもとより、企業も参画して支援を行っていましたが、その後支援の状況に変化は生じているでしょうか。

いったん支援を終了した例もあれば、新しい支援も出てきています。
国際的には、難民の数やニーズが急増する現代で、社会全体で取り組む必要があるといわれてきた中、多様なアクターによる多様な支援のあり方が全国規模で模索されたのは重要なことです。
ただ、何が緊急的に実施できてよかったのか、何がより継続できるものである必要であったのか、継続できない場合にはそもそも出口戦略が立てられていたのか、専門家など横の連携はできていたのか、マッチングがうまくいかなかったとしたらそれはなぜか…など、分析が必要ではないかと思っています。

一方、ウクライナ避難民に限らず、難民支援に取り組んでいきたいという企業などもあり、こうした動きがこれからも増えてほしいと思います。

――今後のFRJの展望を聞かせてください。

正直なところ、最近受け入れの枠組みが広がり多様化していて、私のみならず支援者の多くが、状況を俯瞰して把握しづらくなっています。
さらに多様化する問題それぞれに対応する必要があるため、これまでの経験から課題を明らかにし、ボトルネックになっている部分を特定していく必要があります。

また、一連の支援から取りこぼされる人々をどう救うかも課題だと考えます。
FRJはさまざまな団体が集まってできているので、それを強みにしたネットワーク強化をしていくことが大きな役割だと思います。団体同士をつなぐことでできることの幅を広げる役割を担えたらと思っています。

一方、これらの要因が政策や法制度による影響が大きいのであれば、それらに働きかけていく必要があります。
より広い意味での社会的なルール形成においては、他のセクターとの連携も視野に入れて動きたいです。

支援現場から政策提言まで、広い視野と知識、そして情報が必要となるFRJの活動。檜山さんはこの先をどのように見据えているだろうか支援現場から政策提言まで、広い視野と知識、そして情報が必要となるFRJの活動。檜山さんはこの先をどのように見据えているだろうか

住宅を切り口に難民・避難民の方々の置かれている現状の一端を知ることができた。檜山さんのお話を伺って改めて、難民支援は迎え入れれば終わりではないことを実感する。住宅は生命を守る場所だ。日本で命をつないだ祖国を逃れてきた人たちが、心から安らげる住まいを不安なく得ることができればと、願ってやまない。

お話を聞いた方

お話を聞いた方

檜山 怜美(ひやま・さとみ)
大学在学中に友人から誘われたボランティアがきっかけで、難民支援団体を友人と立ち上げ・運営し、国内外で活動するいくつかのNGOにてインターンを経験。大学卒業後の2014年より、日本に逃れた難民を支援するNGO/団体の全国ネットワーク特定非営利活動法人 なんみんフォーラムの事務局に参画。組織運営、各活動のためのコーディネーションのほか、国内外の関係機関の連携・協力の促進、支援現場の声をとりまとめた政策提言などを担う。

※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年9月掲載当時のものです。

お話を聞いた方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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