寄居駅前の交流拠点「Yotteco」とは
埼玉県の北部に位置する寄居町。寄居駅の正面には2023年に完成した交流施設「Yotteco」がある。
Yottecoは、観光案内所、カフェ、地元の産直市、イベントスペース、休憩所といくつもの機能を持つ寄居町所有の複合施設だ。町の人同士や、町の人と町外の人の交流拠点となっている。
広い空間を存分にいかしてつくられた建物は、壁一面に並ぶ大きな窓や、人々の寄り合い場所となるような軒下が開放的な印象を与える。こうした建物のデザイン性と機能性に対して2023年度グッドデザイン賞が贈られた。
寄居町では、Yottecoなどによるハード面でのまちづくりと、移住相談や創業支援などのソフト面でのまちづくりが相乗的に行われているという。どのような取り組みがされているのだろうか。
寄居駅前中心市街地の生まれ変わりを目指して
寄居町の中心市街地は、江戸時代に秩父往還の街道筋として栄え、絹や木材の集散地として繁栄してきた。明治以降も鉄道3路線(秩父鉄道線、東武東上線、JR八高線)が交差する交通の要衝として発展を続けた。
しかし、1960年代以降、中心市街地の人口減少と商業施設の衰退が進み、2013年には唯一の大規模小売店が閉店。2017年には人口が最盛期の約半数となる約2,500人まで減少した。
このような状況を打破するため、寄居町では2018年度から2022年度を期間とする「中心市街地活性化基本計画」を策定。この計画は、寄居町商工会や株式会社まちづくり寄居、地域住民が協力し、中心市街地の再生を目指したものだ。この計画が「Yotteco」のオープンへとつながっていったのである。
計画の策定には、商工会を含め、地域住民も参加して議論が繰り返された。商業振興だけでなく「人が集まり、住みたくなる街づくり」に取り組む方針を掲げ、「広域来訪にも対応したおもてなしのまちづくり」や「活力と魅力を創造するまちづくり」というキーワードが並んだという。結果として、生活空間としての再生に力点が置かれることになった。
移住促進や創業支援などのソフト面の拡充も。寄居町の「中心市街地活性化基本計画」とは
「寄居町のまちづくりは、Yottecoなどのハード事業と同時に、長年続けてきたソフト事業が基盤になっています」と語るのは、寄居町商工会の杉山明功さん。
特に注目されているのは、空き店舗を活用した創業支援と、東京などの都市圏から寄居町を「第二拠点」として体験してもらうプログラムの2つだという。
空き店舗を活用した創業支援では、町の課題である「小規模事業者の減少」の改善を目指す。2015年の調査によると、事業者の約6割が後継者不足に悩み、その多くが廃業を視野に入れているという。小規模事業者の減少は、地域コミュニティの崩壊を招く重大な危機であり、町全体に影響を及ぼしかねない状況だった。
「地域の事業者さん自身が新たな発想で事業を展開することはもちろんですが、それを支える外部の力も必要です。外から新しい人材が入ってこなければ、やがて地域は縮小していってしまいます」と、町の関係者は指摘する。
そこで、寄居町では創業支援事業や空き店舗等活用補助金などの支援を開始。
「現在、町では空き店舗を創業の拠点として活用してもらうことを進めています。特に、都市圏から寄居町に足を運んでもらい、まずは第二拠点として体験的に町に関わってもらうことで、少しずつ移住や創業につなげていきたいです」(杉山さん)
そして二つ目の施策として、都市圏の人に向けた第二の拠点づくりがある。寄居町は、東京都心から電車で約1時間半、高速道路でも花園インターチェンジから近い好立地にある。
「東京からのアクセスが良いことを活かし、まずは月1回のペースで町を訪れるプログラムを推進しています」と杉山さん。
実際に、マルシェやワークショップなどがYottecoで開催され、地域住民との交流の場としても機能している。特に、手作り雑貨や食品を販売する女性起業家たちの活動は、中心市街地の新たな活力を生み出す一助となっている。
他にも、Yottecoがオープンする前から、町内では若者会議やマルシェなど、さまざまなイベントが継続的に行われてきた。これらのイベントが、地域住民や関係人口(町に関わる人々)の交流を生み、新たな事業や活動の芽を育てる場となっているという。
Yottecoを拠点に、移住希望者へ丁寧なカウンセリングを実施
Yottecoは、外部人材の受け入れや移住者の相談支援の拠点としても活用されているという。
Yottecoを利用して外部人材の受け入れを推進しているのが、地域おこし協力隊として活動する松本哲明さんだ。松本さんは「半農半X」ができる生活を模索していたところ、縁あって寄居町に移住することに決め、2023年4月から地域おこし協力隊に着任したそうだ。自身も移住者ということで、相談者に寄り添った移住支援の実施や、町や商工会と連携した町の魅力発信に努めながら、自身も地域の一員として新しい生活を築いている。
松本さんは、移住希望者のニーズを丁寧にヒアリングし、町の案内や今後のプランを一緒に考える場としてYottecoを活用しているという。
「移住希望者の方とYottecoでお会いして、まずは簡単なカウンセリングのような形でその方のニーズを拾い上げます。その方が家庭菜園をやりたいのか、それともビジネス展開を視野に入れているのかなどによって、ご案内する場所が全然変わってくるんです。ヒアリング後、一緒に町を回ったり、今後の具体的な進め方を一緒に考えたりします。この場所はまさに寄居町の玄関口としての役割を果たしていると思いますね。カタログや資料もすぐ手に取れるし、天候が良くない日でも落ち着いて話ができるのが魅力です」(松本さん)
また、Yottecoを拠点とすることで、寄居町の風景や特色を移住希望者に伝えやすいという。立地が寄居町の真ん中にあり、大枠の位置関係が頭に入りやすいからだ。
「寄居町は、山と平野の中間地点にあり、エリアごとに異なる風景を楽しむことができます。山が少し見える場所が好きな方もいれば、平野が広がる景色に魅力を感じる人もいます。こうした多様な風景を実際に見てもらうことで、どの地域が自分に合っているかを考える手助けができるんです」(松本さん)
他にもYottecoでは、「寄居町子育て支援拠点合同事業」として子ども服の交換会が行われ、地域の子育て世代の出会いの場所にもなっている。また「手しごとマルシェ」というイベントには、寄居町内外の人が集まり、モノづくりのネットワークが広がっているそうだ。さらには働き方相談会というイベントもあり、地元の生の声を聞くことで、移住の新しい一歩を踏み出せるきっかけになっているのだろう。Yottecoという場がイベントというソフト面によって「人のつながり」を生み出す機会になっている。
Yottecoを拠点としたこれからの地域活性化に期待
寄居町の中心市街地活性化は、移住希望者や創業希望者の受け皿を整えながら、地域コミュニティの再生を目指す挑戦的なプロジェクトだ。人口減少や事業者不足といった難題に直面する中、地域の力を活かし、未来を切り拓く取り組みが進められている。
そのなかでもYottecoは、単なる待ち合わせ場所ではなく、寄居町を知り、感じ、未来を考えるための重要な拠点として、地域活性化の一翼を担っている。松本さんの丁寧なサポートと、寄居町の自然豊かな魅力が、移住希望者の心をつかんでいるようだ。
「さまざまな取り組みが積み重なった結果、交流拠点や街全体が徐々に機能し始めています。その舞台が“Yotteco”になりつつあります。今後も継続的な活動を通じて、さらに人材を増やし、中心市街地を活性化させていきたいです」(杉山さん)
ハードとソフトの両面が機能した建物として、寄居町の顔になりつつあるYotteco。ますますの発展が楽しみだ。
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