意外と知られていない「巡回連絡カード」

近日、強盗事件などの影響で防犯に対する意識が高まってきている。また、震災や豪雨なども発生していて、災害についても気がかりだ。

防犯や災害時などに、警察の「巡回連絡カード」が役に立つことをご存じだろうか。巡回連絡カードとは、警察官が巡回の際に、住民に記入を依頼するカードのことだ。有事に役に立つ一方で、個人情報の悪用や詐欺など、不安、怪しいという声が多く聞かれる現状もある。

今回は、警視庁田無警察署地域課 地域総務係担当係長の河村警部補に、巡回連絡カードの概要や活用方法、悪用対策について話を伺った。

意外と知られていない「巡回連絡カード」

災害時や防犯に役立つ巡回連絡カードとは

取材に協力してくれた田無警察署の河村警部補。警察の地域活動の普及に想いをもって取り組んでいる取材に協力してくれた田無警察署の河村警部補。警察の地域活動の普及に想いをもって取り組んでいる

巡回連絡カードは、警察官が巡回連絡を行う際に渡されるカードだ。そもそも巡回連絡とは、交番や駐在所の「地域課」に所属する警察官が、担当する地域の家や会社を訪問して意見や要望を聞いたり、身近で発生する犯罪の予防や事故防止に役立つ情報を知らせたりする活動だ。その巡回連絡の際に記入を依頼されるのが、巡回連絡カードである。

〈巡回連絡カードの記入内容例〉
・本人の氏名
・住所
・電話番号
・家族構成と家族それぞれの生年月日・勤務先や学校名
・非常時の連絡先(勤務先または実家・親族・知人など)

巡回連絡カードは、本人または家族や親族が、事件や事故、災害などに遭ったときに、巡回連絡カードに記載されている連絡先を活用して、速やかに連絡を行ったり、身元を特定したりすることを目的として作成している。

訪問頻度は決まっておらず、日々の業務のバランスを見ながら回っているそうだ。あくまで任意で記入するものであるため、記入しなかった場合にペナルティなどはないが、巡回連絡時に不在で巡回連絡カードを提出できなかった場合には、次の巡回連絡時に記入するか、場合によってはポストに巡回連絡カードが投函されるため、巡回連絡の趣旨に理解したうえで記入し、最寄りの警察署や交番、駐在所に提出ができる。

巡回連絡カードを提出するメリットは? 活用されるケース

では、巡回連絡カードはどのようなときに役に立つのだろうか。

高齢者や子ども等の保護
活用事例として多いのは、高齢者等の保護時の連絡だという。

「高齢者等の保護が多いです。ご家族に連絡先などがわかるものを持たせてもらっていればいいのですが、連絡先を持たずにそのまま出かけてしまうケースが多いです。元気な方だと、かなり遠くまで行ってしまう場合もあって、この間は自転車で10kmほど走って行ってしまった高齢者の方もいらっしゃいました。一見健康そうな方でも、認知症が疑われるようなときには、どこから来たかなどの断片的な情報を頼りに他の警察署とも連携して身元を特定します。その際に、巡回連絡カードがあれば連絡先を探しやすくなるんです」(河村警部補)(以下、発言内容は河村警部補)

災害時のご家族への連絡手段
災害時にも役立つという巡回連絡カード。災害への備えとして、巡回連絡カードを提出しておくことも必要だという。

「この間の能登半島地震や東日本大震災の時は、巡回連絡カードがあることで、身元の特定や家族・親族への連絡に役立った例がたくさんありました。災害に備えるという意味でも、巡回連絡カードの提出にご協力をお願いします」

留守中の異変確認や孤独死対策
一人暮らしの場合、自宅で何かがあった場合に気づかれるのが遅くなる心配がある。そうした場合、巡回連絡時に異変に気づき、巡回連絡カードを用いて家族や親族など緊急連絡先に連絡を入れ、安否確認などを速やかに行うことができる。また近年、高齢者の一人暮らしも多く、孤独死も問題となっているが、万が一自宅で一人でいる際に息を引き取ることになった際にも、いち早い発見とその後の円滑な手続きにつなげることが可能になる。

ほかにも、事件・交通事故の際の家族や親族への緊急連絡や、家族構成を把握していることで適切な支援へ接続することもあるそうだ。

巡回連絡カードを提出するメリットは? 活用されるケース

悪用や詐欺の心配も。見分け方法や対策は?

災害時や防犯に役立つという巡回連絡カードだが、個人情報を記入するために流出や悪用を心配する声が多いのも事実だ。警察に限らず、家を訪問して高額請求をされたり、強盗の下見が行われたりするといったケースもある。巡回連絡カードの場合だと、警察官を装った人が個人情報等を聞き出すという事例が想定される。見分け方や対策方法について、河村警部補はこう話す。

「大前提として、巡回連絡カードは個人情報保護法のもと、厳重に保管・管理されています。次に訪問時ですが、警察官であれば警察手帳を提示しますが、それが本物かどうか見分けるのは難しいと思います。インターホン越しに応対して、外で待たせて構わないので、所属する警察署・担当課や係・氏名を聞いて、所属する警察署に在籍確認の電話を入れてください。最近はほかにも高額請求など悪徳業者の訪問や強盗の下見を不安に思う電話がたくさんかかってきていて、パトロールや巡回連絡も強化しています。なので、巡回連絡に限らず、怪しいと思ったらまずはインターホンで応対して、扉を開けないでくださいと伝えています。慎重になっていただけることは非常にありがたいことです」

個人情報を守り、犯罪等に巻き込まれるリスクを防ぐためにも、在籍確認のひと手間を惜しまずに慎重に対応することが重要だ。怪しいと思ったら、焦らずしっかり確認をしてから対応したい。

巡回連絡カードや対策を理解し、適切な対応を

巡回連絡カードについて、さまざまなことをお話ししてくれた河村警部補。
「災害や事件、事故は起こらないに越したことはありませんが、そうした非常時にすぐに連絡できることは重要になってきます。また、巡回連絡で家庭に合わせた情報提供を行ったり、顔見知りになったりすることも地域の防犯につながると思っています。ぜひ巡回連絡カードへのご理解をいただき、対応していただきたいです」

マイナンバーカードなどで、個人情報をデータで管理されるようになってきているが、現状、巡回連絡カードの仕組みが変わる予定はないという。特に都市部ではご近所付き合いが少なく、有事の際に孤立してしまう可能性が高い人もいるのではないだろうか。悪用や詐欺などの対策をしっかり行い、適切に巡回連絡・巡回連絡カードに対応することで、災害時や防犯に役立てたい。

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