『障害者接客チェックリスト』ができた背景
厚生労働省の統計によると、日本国内には障害を持った人が2018(平成30)年時点で936.6万人住んでいるという。その数は人口の約7.4%に相当することをご存じだろうか。2012(平成24)年の「障害者自立支援法等の改正法」が施行されて以降、障害のある人も地域の中で暮らす仕組みづくりが進み、障害者のうちの94.6%に相当する人が施設などではなく自宅で暮らしている。
障害者へ向けた地域での自立支援が広がっているにもかかわらず、住まいと障害者をつなぐ不動産会社の対応は、まだニーズに追いついていないと言わざるを得ない。
そこでLIFULL HOME'Sでは、不動産会社に向けた『障害者接客チェックリスト』の提供を2022年5月25日から開始した。今回は、この内容について詳しく紹介する。
あなたの身近に、障害を持った人はいいるだろうか。日本国内の障害者の人口は、2006(平成18)年に655.9万人だったのに対して、2018(平成30)年には936.6万人と、増加傾向にある。
2012(平成24)年に施行された障害者自立支援法等の改正法により、障害のある人も地域の中で安心して暮らせる社会の実現が進められている。
しかし、日本賃貸住宅管理協会の安心居住政策研究会が発表した調査によると、賃貸物件の貸主のうち、障害者の入居に拒否感がある人は74.2%、入居を拒否している人の割合は2.8%という結果だった。障害を理由に賃貸物件への入居を断られる、住まい探しが困難になっている人は少なくないという現実がある。
そうした拒否感の裏側には、大家さんや不動産会社の「障害のある方は事故やトラブルを起こすのではないか」という懸念や、「対応の仕方を知らない」という知識不足があるという。
LIFULL HOME'Sでは、このような問題は不動産会社側の理解や工夫で解決できることも多いのではないかと考えた。その動きは3つの出来事がきっかけになって始まった。
1つ目は、FRIENDLY DOORでは2021年11月30日(火)より「障害者」の検索カテゴリーを追加したこと。
2つ目は、不動産会社の障害者への対応方法が分からないという状況を改善する必要性を感じたこと。
そしてもう3つ目が、STEPえどがわ理事の土屋さんに行ったインタビューだ。
▼身体障害者の一人暮らしとは? 入院や施設とは違う「自立生活」という選択
障害を持った方は不動産会社を何件も訪問したり、内見ではいくつもの物件を見繕ったりする必要がある。そのため不動産会社の理解度によって間のかかり具合が違ってくることが土屋さんの話から明らかになった。
障害者の部屋探しは地道に進める必要があるのに、理解ある不動産会社との出合いも少ないのが現状である。対応できる不動産会社を増やすにはどうすればよいか。そこでLIFULLでは、不動産会社に障害者の対応への理解をさらに深めてもらう必要があると考え、チェックリストの作成を決めた。
『障害者接客チェックリスト』とは?
障害と一口にいっても、その特性はさまざまだ。「障害者接客チェックリスト」には、「精神・発達障害編」「身体障害編」「知的障害編」の3種類が用意されている。それぞれ、共通した基礎知識にプラスして、各分野に特化した質問が3~4パートある構成だ。
精神・発達障害、身体障害、知的障害を持つ方、それぞれのお客様を接客する際に必要なヒアリングや提案ができるかを問う内容になっている。
精神・発達障害編
『障害者接客チェックリスト』精神・発達障害編
精神・発達障害編のチェックリストでは、回答を通じて、「精神や発達に障害のある方に関する基本的な知識を有しているか」「より顧客満足度の高い接客ができているか」を診断することができる。
共通の基礎知識から4問、精神・発達障害の基礎知識から6問、精神・発達障害のお客様に対する問合せ対応・来店・内見・申し込み・契約から4問、精神・発達障害のお客様に対する引越し・入居後対応、特記事項から6問の、計20問で構成されている。目標得点は16点以上だ。
では、基礎知識から見ていこう。精神・発達障害の基礎知識には、以下の2つの設問が並んでいる。
・「精神障害とは」、脳の働きの変化のために感情や行動に著しい「偏り」が見られる状態のことであることを知っている。
・「発達障害」とは、生まれつき脳の発達に偏りがあり、「様々な症状や特性が見られる状態」であることを知っている。
精神障害も発達障害も、ともに脳の働きに障害が伴うものだ。
精神障害は、さまざまな疾患の総称だ。統合失調症やうつ病、双極性障害(躁うつ病)などの種類がある。一方、「発達障害」は、誰しもある得手不得手の差が非常に大きかったり、ほかの人と比べて違った物事の感じ方や考え方をしたりすることが多くある。
そのため、勉強や仕事の理解や進め方の問題、注意力や集中力、持続力の偏り、対人関係でのすれ違いなどが出やすく、生活に支障をきたしやすいとされる。障害の性質が分かれば、どんな対応が適切なのか、方向性が分かってくるだろう。
次に、精神・発達障害の方に対する問合せ対応・来店・内見・申し込み・契約のパートの問いをピックアップする。
・精神障害や発達障害がある方が問合せ・来店した際にヒアリングしたほうが良いことがわかっている。
来店時にお客様の障害に対してヒアリングを行うことは、入居までの流れや入居後にどんなところに気を配らなければならないか知るために非常に重要だ。疾患の重さや症状に対するヒアリングを踏まえて、一般の賃貸物件に入居してトラブルがないかを確認するべきだろう。疾患名や症状などを理解し、お客様に寄り添ったサポートが必要となる。
次に、引越し・入居後対応、特記事項のパートから1問見ていこう。
・精神障害がある方に対して、引越し時に注意しておくと良いことがわかる。
一般のお客様と異なり、契約が完了したら不動産会社の役割はひと段落、とはいかない。引越しなども、病状や障害の内容が重くて梱包ができない方へのサポートが必要になる。
引越し作業の滞りから、その日は引越しを諦めてしまうというケースも大いにあるという。体調がいい時間帯に合わせて引越しをスタートするなど、丁寧に引越しまで誘導しよう。
身体障害編
『障害者接客チェックリスト』身体障害編
身体障害のチェックリストでは、回答を通じて、「身体障害者に関する基本的な知識を有しているか」「より顧客満足度の高い接客ができているか」を診断することができる。
共通の基礎知識から4問、身体障害の基礎知識から7問、身体障害のお客様に対する問合せ対応・来店から4問、身体障害のお客様に対する内見・申し込み・オーナー交渉も含んだ契約から8問、身体障害のお客様に対する引越し・入居後から6問、計29問で構成されている。目標得点は23点以上だ。
身体障害は、ほかの障害と比べて幅が広く、支援も多岐にわたるため、設問数が多くなっている。
身体障害者福祉法などの法令に基づき、身体上のどこに障害があるかによって「視覚障害」「聴覚または平衡機能の障害」「音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害」「肢体(したい)不自由」「内部障害(心臓機能障害や腎臓機能障害など)」の5種類に分類されている。すべてに共通するのが、“身体障害者手帳”が交付されることだ。この事項は身体障害の基礎知識でも触れている。
・身体障害者手帳を持っていると、補聴器や車いすなどの交付や修理にかかる費用の助成などの福祉サービスを受けられることを知っている。
身体障害者手帳では、症状の種類や日常生活で支障をきたしている程度により、障害が1級から7級の等級に分類されている。入居に伴う設備の設置にも、お客様の等級によって福祉サービスを利用できる場合があるので把握しておくとよいだろう。
身体障害のある方への問合せ対応・来店のパートからは、視覚障害があるお客様に対する設問を見ていく。
・視聴覚障害がある方に対して、問合せ・来店時はできる限り送迎したほうが良い理由がわかる。
店舗の訪問時は、送迎もしくは駅まで迎えに行くことが望ましい。また本人による物件資料の確認が難しいため、家族やヘルパーなど入居をサポートする人へ物件の情報を送るようにする。サポートがいない場合は、内見時などに口頭で丁寧に説明をしよう。
次に、内見・申し込み・契約 (オーナー交渉含む)のパートからは、肢体障害のあるお客様の場合はどうなるか。
・肢体不自由がある方に対して、内見に必要な準備や適切な案内をすることができる。
車いすでの内見は物件を傷つけないよう床を養生したり、物件の入り口から部屋までの動線や室内の段差・通路幅などの確認をしたり、最寄り駅からの車いす移動が安全かどうかの周辺調査をしたり、といった事前準備が重要だ。
一般のお客様と比べて1回の内見にどうしても時間がかかる。
スムーズな内見のためにも必要な準備を整えておこう。
引越し・入居後のパートからは、聴覚障害に関する問いを見ていく。
・聴覚障害のある方が引越しする際に、近隣挨拶に同行し、聴覚障害であることをお伝えすることができる。
聴覚障害のある方には、ドアベルや電話の着信を知らせるためのパトランプの設置が必須だ。その設置と動作確認を行おう。
一般的に上下両隣のご近所への挨拶は入居者が個人で行うものだが、聴覚障害者の場合、不動産会社の担当も同行して、近所の方々へ聴覚障害であることを伝えよう。
不動産会社の社員が同行することによって、当事者を見守る第三者の存在をご近所の方々に伝えることができる。さらに災害や緊急時に障害者の方の存在をご近所の方々が意識するという互助が期待できるだろう。挨拶の同行一つで、物件に住む人の安心にもつながるはずだ。不動産会社の同行は、視覚障害の方の場合にも行っておきたい。
知的障害編
『障害者接客チェックリスト』知的障害編
知的障害編のチェックリストでは、回答を通じて、「知的障害のある方に関する基本的な知識を有しているか」「より顧客満足度の高い接客ができているか」を診断することができる。
共通の基礎知識から4問、知的障害の基礎知識から3問、知的障害のお客様に対する問合せ対応・来店・内見・申し込み・契約から3問、精神・発達障害のお客様に対する引越し・入居後対応、特記事項から3問の、計13問で構成されている。目標得点は10点以上だ。
知的障害の基礎知識からは、最重要になる1問を紹介する。
・「知的障害」とは、知的能力(IQ)と社会生活への適応能力が低いことで日常生活における困りごとが生じている状態である。
“知的障害”といっても、軽度の知的障害からダウン症や自閉症など、他の障害も併せ持つ人まで、一人ひとりの障害の状況は大きく異なる。たとえば、知的障害のある方には多くを一度に覚えることが苦手な方もいるので、ゆっくりとポイントを簡潔に伝えるなどといった配慮が必要だ。
なお、知的障害として認められるかは、「知的能力(IQ)が70未満」「日常生活や社会生活への適応能力が低い」「発達期(18歳以下)に生じている」といった基準を満たしながら、社会生活を送るうえでの困難さを抱えていることが条件になっている。
知的障害のお客様への問合せ対応・来店・内見・申し込み・契約から設問を見てみよう。
・知的障害がある方が問合せ・来店した際に、一番最初に何を確認すべきかわかる。
新居探しで最初に確認しないといけないのは、“親権者の了解があるか”ということだ。なぜなら、親権者や家族と衝突して家を飛び出して相談に来てしまうケースがあるからである。特に1人で訪問された場合には、親権者や後見人に確認を取ろう。そのうえで、1人で日常的な生活が送れる方かどうかを確認する必要がある。
最後のパートからは、特記事項についての1問。
・知的障害がある方に対して、入居後のフォロー対応ができる。
知的障害のある方の一人暮らしには生活への不安がつきまとう。家電などの使用方法が分からず、不動産会社へ問合せをすることも多いそうだ。問合せがあったら対応し、また不動産会社からも1ヶ月に1回くらいのペースで定期的に連絡を取るよう心がけると、お客様の不安を取り除くことにつながるだろう。ご家族がいる場合には連携をとることも検討しよう。
障害のあるお客様への理解を深めていこう
障害のあるお客様は一般のお客様と比べて、下準備や対応など、やらなければならないことが多い。それでも、1人のお客様であることに変わりはない。
お客様一人ひとりのよりよい暮らしのために、相手の不安に理解を示すことは、どの不動産会社でも行っていることのはずだ。これからさらに増えていくだろう障害者の方々への対応を、今のうちから見直してみてはいかがだろうか。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年8月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
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