10年ほど前から女性客が増えた西荻窪
私の仕事場を吉祥寺から西荻窪に移したのは2006年5月。だからもう18年目である。
私は中古家具や骨董品が好きなので、その種の店の多い西荻窪に引越したのだ。吉祥寺より家賃が安いことも理由である。
比較的中年男性に人気の街で、その理由はうまい飲み屋が多いからだと思うが、しかし全体として来街者の多い街ではなかった。
だが、それからだんだん女性が増えてきて、2012年の秋頃、乙女ロードと呼ばれる道を遠くから眺めると、かなり人だかりができていた。
ああ、西荻も人気の街になってきたのだなと思った。
西荻に住んでいる人は西荻がかなり好きな人が多いし、たまたま来た人も、良い街ですねえと感心することが多い。
だが、各社が行っている「住みたい街調査」で西荻がベストテンに入ることはない。
当時、住みたい街調査の上位は吉祥寺と横浜で、今でもそうだが、吉祥寺や横浜はそもそも行ったことがある人が多い。行ったことがなければ好きかどうか回答しようがないので、行ったことがある街は有利だ。
もしかするとテレビなどで住みたい街であるという情報を知っただけで、アンケートに「住みたい」と回答する可能性だってある。
だが西荻のような小さな街は行ったことがある人が少ない。だから回答者数も少ない。
実は「西荻」は、1人暮らしの30代未婚女性では住みたい街ナンバーワン
でも、住んでいる人が好きで、たまに来た人も好きになる街なんだから、ちゃんと集計したら何かわかるだろうと、私は2016年にアンケートをした。
東京都内を中心に108の街を選び、住みたいかどうかをたずねた。
20−30代の集計をした結果、西荻は全体の3.1%で70位だった。横浜みなとみらいが11.5%で1位、吉祥寺が10.9%で2位だった。上位と7〜8ポイント差で70位になってしまうのだ。
しかし未婚者に限ると西荻は3.4%で60位に上がる。1位は吉祥寺で12%であるから差はまだ8ポイントほどある。
20−30代女性に限ると西荻は3.8%で49位に浮上。さらに20−30代未婚女性に限ると4.4%で40位に浮上する。
そして1人暮らしの20−30代未婚女性では8.9%で18位に急浮上。
そしてそして1人暮らしの30代未婚女性では9.8%で、なんと吉祥寺や横浜みなとみらいと同率で1位になったのだ。
ちなみに西荻に次ぐのは、恵比寿・代官山・中目黒、二子玉川、鎌倉、三軒茶屋、
豊洲・芝浦、下北沢、赤坂・六本木、日本橋、秋葉原、水道橋・飯田橋・春日・白山、本郷・東大前・駒込・田端、門前仲町・砂町・錦糸町・両国・亀戸、金沢八景・上大岡が同率で7.3%だった。
水道橋・飯田橋・春日・白山、本郷・東大前・駒込・田端が上位に来ていることから推察されるように、30代未婚1人暮らしということは、収入・学歴の高いキャリアウーマンの女性ということであろう。日本橋、赤坂・六本木があがるのは金融関係の仕事をする人が多いのかもしれない。
また、西荻に住みたいと回答した20−30代女性は19人だが、そのうち63%が4年制大学以上の学歴を持っていることからも、そのことはわかる。他のどの街に住みたい女性よりも高学歴者の率が高い。つまり1位なのである。
ちなみに横浜みなとみらいは39%で全体平均より高学歴の割合が低い。横浜みなとみらいは学歴などとは関係なく、誰もが住みたい街なのだ。
「小地域別集計」からみる、西荻窪駅周辺は未婚女性が未婚男性よりもほぼ50%以上多い
さてこのアンケートを実施してから7年経つ。またアンケートをしたいところだが、まだ予定はない。
そのかわり、2020年の国勢調査の「小地域別集計」を使って西荻人気がますます増大していることを証明しよう。「小地域別集計」とは〇区〇町〇丁目という単位で国勢調査を集計したものである。
この集計結果から男女未婚者数がわかる。残念ながら年齢はわからないし、1人暮らしかもわからないが、未婚だから20−30代が中心であろう。
そして未婚女性数が未婚男性数より何%多いかを23区内の小地域について計算した。
ただし中には、未婚男性より未婚女性が2倍、3倍多いという地域もある。これは多くの場合大学や企業の女子寮がある地域である。
また23区全体では未婚女性数の未婚男性数に対する割合は93%である。つまり男性のほうが多い。
そこから、未婚男性に対する未婚女性の割合が1.3倍以上1.7倍未満の地域は、未婚女性が特に好む地域だと規定することにした。
もちろんこれらの地域にも女子寮がある場合はあるだろうし、1.7倍以上でも女子寮がない場合もあるが、すべての地域を調べることは不可能なので、暫定的に1.3倍以上1.7倍未満の地域を若い未婚女性が好む街ということにする。
スペースの都合で、その中から147%以上170%未満の結果を表にしてみた。区別では中央区が多いが、それ以外では港、新宿、世田谷、目黒、杉並などの区が並んでいる。
そして杉並区に関しては、西荻南と西荻北の地域がずらりと並んでいる! 西荻窪駅からほぼ半径500m以内である。
これだけ未婚女性比率が高い地域が1つの駅のまわりに固まっている例は他に人形町駅、築地駅くらいだろう。
2015年から20年の間に西荻窪の人気は上昇
私は2015年の国勢調査の「小地域集計」でも同じ作業をしたが、2015年には西荻の未婚女性比率はこんなに高くなかった。
確認のため2015年のデータを見てみた。145%以上あったのは西荻南2丁目と西荻北3丁目だけだ。他に145%以上あった地域は善福寺2丁目である。145%未満でも成田東5丁目、浜田山3丁目などが西荻と同じくらいの割合である。つまりこれほど西荻に集中していない。
ということは、たった5年の間に未婚女性における西荻人気が急増したといえそうである。
ただし、データをよく見ると、未婚女性の実数が増えたわけではない。それなのに比率が増えたのはつまり未婚男性の実数が減ったのである。その理由はよくわからない(注)。
西荻窪に1人暮らし未婚女性が集まる理由
なぜ女性は減らなかったか。西荻には、女性が入りやすい、美味しくて、小ぶりな飲食店が、もともと多かったがさらに増えた。
男性は仕事帰りに同僚などと数人で飲むことが多いが、女性は同僚でも既婚者や子どものいる女性は早く帰宅するだろうから、未婚者は飲食店にも一人で行くことが多いだろう。
すると大型の居酒屋には入りにくい。ラーメン屋も入りにくい。一人で食事をしていてもおかしくない店がたくさん選べるとうれしい、ということになるだろう。そして常連客などとおしゃべりをしてストレス解消をして帰宅、というわけだ。
個性的な雑貨店もセンスの良いアクセサリー店もある。作家物やアンティークの食器を売る店も多い。喫茶店はたくさんある。古本屋も多い。
休日でも吉祥寺のように混雑しない。むしろ車が減って過ごしやすい。
気になる店を数軒めぐるときも自転車で行ける。吉祥寺だと駐輪は厳しく規制される。
まあ、こういうような理由で、ゆったり静かにシングルライフを過ごすには西荻は最適なのである。
注)統計上気をつけるべきことを書いておくと、近年未婚・既婚などの配偶関係を国勢調査で回答しない人が増えている。特に20−30代で多い。23区では12%が配偶関係不詳だ。おそらく20−30代ではもっと多い。
同棲しているが婚姻届を出しておらず、未婚とも既婚とも言いがたいからなのか、離婚していないが別居している人が増えたのか、単にプライバシーの侵害だと思う人が増えたのか、わからない。
よって市区町村の統計では「不詳」の人が0になるように推計値を発表している。だが小地域集計では推計値がない。そのため小地域ごとの未婚男女比が正確に実態どおりかどうかはわからない。
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