「ZEH」のさらに先を目指すLCCM住宅

大東建託株式会社といえば、賃貸住宅管理戸数、賃貸仲介件数、住宅供給戸数の各分野でトップクラスの実績を挙げている業界最大手の企業だ。その大東建託が現在、脱炭素化の取り組みに本腰を入れている。その表れのひとつが、「LCCM賃貸集合住宅」の普及だ。

「LCCM住宅」とは、「ライフサイクルカーボンマイナス住宅」の略称で、住宅の建設時から運用(居住)時、また廃棄までのサイクルをトータルに考えて、CO2の収支をマイナスにする住宅のことを意味する。
地球規模で環境問題が課題となっている現在、日本でも2030年にはCO2排出量を26%削減(2013年比)することを掲げている(2016年5月13日閣議決定)。この目標に向けて、政府は省エネ基準の策定・施行、「認定低炭素住宅」「ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)」などの普及促進など、さまざまな取り組みを行ってきた。

「ZEH」とは、住宅自の断熱・気密性能を向上させ、高効率な住宅設備を設置して、家庭で使う電気やガスなどの一次エネルギーを減らして、太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーを利用することで、年間一次エネルギー消費がゼロ以下になるよう計画された住宅のこと。さらにこれに加えて、家を建てる際だけでなくその後の改修・解体を含めたすべての過程でCO2排出量を抑えるように計画するのが、LCCM住宅だ。

2025年に適合が義務化される国の省エネ基準よりも、高い省エネレベルが要求されるZEHおよびLCCM住宅(資料提供:大東建託)2025年に適合が義務化される国の省エネ基準よりも、高い省エネレベルが要求されるZEHおよびLCCM住宅(資料提供:大東建託)

「無理だ」と言われたLCCMの集合住宅を実現

大東建託でLCCM住宅導入の検討を開始したのは、2018年のこと。当時、一戸建て住宅については設計時に用いる簡易な算定ツールもあり、徐々に建築例も増えてきていた。一方、集合住宅の場合は2階建て、3階建てと世帯数が増えても屋根面積が変わらないため、世帯数が増えれば増えるほど世帯当たりの太陽光パネルの設置面積が小さくなる。したがって、LCCMの達成が難しいという課題があった。

「業界内では"集合住宅では困難だ"という見方が一般的でした」。同社技術開発部 環境企画課 課長 大久保孝洋氏はこのように語る。
「それだけに、業界トップである当社が取り組まなければ、集合住宅の低炭素化が進まない。そのような使命感が原動力になりました」

同社では、LCCM住宅の研究者である県立広島大学 生物資源科学部 生命環境学科の小林謙介准教授に協力を依頼。躯体の断熱性能や建材・設備の見直しを図り、太陽光発電の設置面積を増やすなどの工夫により、LCCMの実現にこぎつけることができた。

その第1棟となるのが、2021年7月、埼玉県草加市に完成した日本初の「LCCM賃貸集合住宅」だ。同社の6世帯用の木造2階建てZEH規格商品をベースに断熱性能を高め、屋根の形状を片流れにすることで太陽光パネルの搭載面積を最大限にまで増やした。また2×4材の製材時における乾燥工程に、バイオマス燃料による乾燥機を利用することで、建物製造時のCO2 排出量を大きく削減している。

埼玉県草加市に完成した日本初の「LCCM賃貸集合住宅」(写真提供:大東建託)埼玉県草加市に完成した日本初の「LCCM賃貸集合住宅」(写真提供:大東建託)
埼玉県草加市に完成した日本初の「LCCM賃貸集合住宅」(写真提供:大東建託)建設から廃棄までに排出されるCO2を、創エネ分が上回る。35年で283トンのCO2を削減する計算

LCCM賃貸集合住宅の商品化に成功

この1号棟の建設をきっかけに事態は大きく動き出す。従来、一戸建て住宅用しかなかったCO2算定ツールが翌2022年1月ごろに一般財団法人住宅・建築SDGs推進センターからリリースされた。
「私たちの実績を見て、対応してくれたんだなと感じました。正直、1号棟のように膨大な項目をひとつずつ検討してCO2量を積算していくようなやり方では、手間がかかりすぎて普及できません。でもこうした算定ツールがあれば、必要事項を入力していくだけで数多くのLCCM住宅を計画していくことができます」(大久保氏)

同社が次に取り掛かったのは、この1号棟の取り組みで得た見識を反映させて商品化することだった。そうして生まれたのが、2022年10月に発売した賃貸集合住宅の新商品「NEWRiSE LCCM」だ。ZEH水準の断熱性能を持つ規格商品「NEWRiSE」をベースに断熱性能の強化や蓄電池の設置、太陽光発電による創エネを仕様に盛り込んだ。

「通常の『NEWRiSE』であれば屋根は寄棟が標準ですが、太陽光パネルを最大限に搭載するため、片流れを標準としました」と大久保氏。現在の課題は、太陽光パネルを設置した屋根に負担をかけないため、年間の平均風速が一定未満かつ平均の積雪量が規定未満の地域のみに販売を限定していること。そのため、2022年度の販売目標棟数は約50棟とやや控え目に設定している。

「ただ、現在は屋根の仕様などを見直しているので、来期にはさらに販売エリアを拡大する予定です。倍以上のエリア、棟数が見込めるはず」と大久保氏は意気込む。

「LCCM賃貸集合住宅」を上から見る。屋根いっぱいに太陽光パネルが搭載されている(写真提供:大東建託)「LCCM賃貸集合住宅」を上から見る。屋根いっぱいに太陽光パネルが搭載されている(写真提供:大東建託)
「LCCM賃貸集合住宅」を上から見る。屋根いっぱいに太陽光パネルが搭載されている(写真提供:大東建託)ZEH仕様の賃貸集合住宅は寄棟屋根が標準(写真提供:大東建託)

今後はZEH以上の収益性が見込めるように改善

CLTパネル工法による木造4階建て賃貸住宅「Forterb(フォルターブ)」CLTパネル工法による木造4階建て賃貸住宅「Forterb(フォルターブ)」

同社ではさらにLCCM住宅への取り組みを続けており、2023年1月にはLCCM住宅認定を取得したCLTパネル工法の一戸建て賃貸住宅を完成させた。「CLT」とは「Cross Laminated Timber」の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料のことだ。工場でさまざまな寸法に加工でき、壁式工法への利用も可能。

従来は破棄されていたような端材を有効活用できるCLTは、林業・木材産業の活性化、CO2排出量削減や森林保全にもつながるとされる。同社ではそのような視点から、2019年10月にCLTパネル工法による木造4階建て賃貸住宅「Forterb(フォルターブ)」の販売を開始。

そうした取り組みの中、同社では「木を多く使ったCLTパネル工法の一戸建て賃貸住宅にしたい」というオーナーの要望に応え、さらに環境配慮型のLCCM住宅を組み合わせることを提案したという。「脱炭素社会実現への貢献を目指す最新の住宅にするというコンセプトに対して、オーナーさまにご賛同いただけたおかげで完成に至りました」と大久保氏。

一戸建て住宅と違い、賃貸住宅では収益性も重要なカギとなる。LCCM住宅では、ZEHよりも太陽光発電の容量が必要であり、建材や設備機器の仕様もコストアップする傾向にある。どうしてもイニシャルコストが高くなりがちだが、同社ではLCCM住宅を促進するキャンペーンを企画し、収益性は従来のZEH仕様の商品と同程度になるように設定している。

たとえば、屋根に載せる太陽光パネルは同社が負担し、さらに屋根を借りる賃料を同社からオーナーに支払う仕組みをとっている。「太陽光パネルを載せるほど、オーナーさまに屋根の賃料が入るので、LCCM住宅を選択するメリットをアピールしやすい」(大久保氏)。今後は、その他の仕様や設計内容もさらに改良して、ZEH以上の収益性が見込めるようにする予定だ。

長期的視野を持った賃貸事業ではLCCMは不可欠な要素

LCCM賃貸集合住宅に取り組む大東建託 技術開発部 環境企画課 課長 大久保孝洋氏LCCM賃貸集合住宅に取り組む大東建託 技術開発部 環境企画課 課長 大久保孝洋氏

同社では、自社が建築した賃貸住宅の居室をオーナーから借り上げて、入居者募集(不動産仲介)や建物管理を引き受け、その物件から得られる一定の収益をオーナーへ支払う「賃貸経営受託システム」(収益保証型のサブリース)をメインの事業としている。長期にわたってオーナーと建物をケアするビジネスモデルを確立しているため、建築から廃棄までを計画するLCCM住宅とは「相性がいい」といえそうだ。

「いま欧米では炭素の消費量に応じて税金が課されるなど、低炭素・脱炭素の取り組みが社会全体に波及しています。日本ではまだLCCMについては認知度が高くありませんが、何年か遅れて必ず欧米のように当たり前のようになるはずです」(大久保氏)

賃貸住宅の収益についても10~30年のスパンで考えれば、今のうちからLCCM仕様で建てておくことはきっと大きなメリットになるだろう。同社のLCCM賃貸集合住宅の取り組みは、近い将来を見越して一歩先んじるものだといえそうだ。

大東建託は今後、「LCCM賃貸集合住宅」の普及に積極的に取り組むとともに、2050年までに同社の賃貸集合住宅の居住時に排出される二酸化炭素排出ゼロの実現を目指している。

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ホームズ君

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