建築家坂茂氏による、森に浮かぶ建築
リトリートやワーケーションという言葉を耳にすることが増えてきた近年。都会や日常から離れて大自然の中に飛び込み、身体と心を整える時間こそ、忙しい現代人にとって必要とされていることかもしれない。これをまさに体験できるリトリート施設「禅坊靖寧」が、2022年4月に淡路島に誕生した。ZEN Wellnes体験プログラムとして日帰りプランと宿泊プランを提供している(※)。
海に囲まれた自然が豊かな島・淡路島。人口約13万人。瀬戸内海では最大面積の島で、日本で最初に生まれた島といういわれから「国生みの島」とも呼ばれている場所だ。海の幸も山の幸も豊富な淡路島の食料自給率は、100%超。豊かな自然に加えて、豊かな土地が豊かな恵みを生む食材の宝庫でもある。
パソナグループの株式会社awajishima resortが運営する「禅坊靖寧」は、淡路島の北の玄関口・岩屋港から車で約10分の場所にある。建築家・坂茂氏による、まさに森に浮かぶ建築。約3,000m2の広大な敷地に、全長約100mの架構が、崖に突き出すように森の中に真っ直ぐと延びている。急斜面の敷地を前向きに生かし、森の上空に建物を浮かべる構造にすることで、土地の造形にかかる工事の負担を減らすことも可能にしている。全体構造の85%は木造を使用。そのうちの80%が杉の木で、強度の必要な要所要所には松の木が用いられている。
(※プログラムは完全予約制)
360度見渡せる! 禅デッキで感じる淡路島の自然
坂氏は、緊急時用のシェルターを設計したことでも有名だ。東日本大震災の被災者のための住宅を建設したことも記憶に新しい。淡路島では、パソナグループの施設として建てられた施設は、2021年に完成した農家レストラン『陽・燦燦(はる・さんさん)』に続く2つ目となる。環境に配慮し再生可能な材料を生かしたデザインを好む。坂氏のアイコン的な素材である、さまざまな長さや厚さの再生紙の管(紙管)は、この「禅坊靖寧」でも各所に使われている。
特徴的なのが「禅デッキ」だろう。長さ81mの長大なデッキは、ハシゴ状の構造形式を用いて実現された。一番のこだわりは、目線が山の稜線を越えないこと。デッキの開口部に天井以外ほとんど視界をさえぎるものがなく、360度見渡せる。自然の中にすっぽり包まれた状態を感じてもらうための心遣いだ。ゲストはこのデッキから360度パノラマの大自然に包まれて、ヨガや瞑想、食事、ZEN茶やZEN香などの座禅リトリートを体験することができる。雨戸のような折りたたみ式のガラス窓が収納されているので、天候が悪い際も即時に対応できる。
「どう設計すれば非日常を体験できるか」に思考を巡らせた坂氏の建築。外観から受ける存在感とは裏腹に、施設の中に入ってしまえば、すんなりと周囲の自然と調和することができる。
大自然の中で、心身のバランスを整える座禅リトリート
建築美を存分に楽しめる「禅坊靖寧」。この施設のために作られたオリジナルの「ZEN Wellness」プログラムの日帰りプランを体験させていただいた(※)。
今回のプログラムは、「ウエルカムドリンク→ヨガ・瞑想60分→昼食(禅坊料理・ZEN茶)→ZEN書(フリータイム)→ヨガ・瞑想40分」というタイムテーブルが決められている(※プログラムにより内容が異なります)。完全予約制でプログラム時間中は、施設は予約者のみの貸し切りとなる。
参加したのは平日で、当日の参加者は20名ほど。一人参加の方や老年夫婦、20代のカップルや女性2組など、老若男女が集まっていた。ウエルカムドリンクで一息ついた後は、各々宿坊に移動。宿坊には、禅語にまつわる名前が付けられている。禅デッキの下部1階部分には、宿泊棟がある。全18室の客室は寺の宿坊をイメージしたミニマルなものとなっている。「起きて半畳寝て一畳」という禅宗の精神に則り、畳ベッドと最小限のカウンターテーブルのみ。お籠もりにちょうどよいサイズで、思い思いの時間を過ごすことができる。
ヨガ・瞑想の時間になると、禅デッキへ。座りやすく座禅が組みやすいリトリートチェアが用意されているので、座禅が組みにくい人でもご安心を。自然と背筋が伸びて、呼吸に集中できる体勢が取れる。ヨガインストラクターのナビゲーションに導かれて、ヨガと瞑想(メディテーション)を組み合わせたオリジナルのプログラムがスタートする。目を閉じると、鳥のさえずりや虫の音、吹き抜ける風や自然の匂いが体中で感じられる、集中した時間を過ごすことができる。呼吸が徐々に自然と一体化していくような感覚が心地よい。身体を少し動かしたり、呼吸を整えたりする60分の後、目を開けた瞬間に飛び込んでくる360度の緑の濃さを、心から美しいと思える体験だった。
(※)「ZEN Wellness」プログラム 日帰りプラン税込2万3,000円
日本ならではの発酵技術で、身体の中から休ませる食事
落ち着いた心のまま迎えるのは、禅坊料理とZEN茶。メインとなる禅デッキで行われるヨガ・瞑想に加えて、発酵王子こと伏木暢顕氏が監修した禅坊料理も楽しみの一つ。日本ならではの精進料理をベースに発酵食をアレンジに加えて、胃に優しく消化に良いものが使われているオリジナル料理だ。肉を使わず、調理に油を使わない。砂糖の代わりにてんさい糖やアガペシュガーなど植物性のものを使用する。自分で点てる抹茶のご自服も、心が整う良い時間だ。和菓子も季節によって変わり、四季折々の風味を楽しめる。
フリータイムは、ZEN書の時間。写経とは異なるので般若心経ではないが、禅坊靖寧のロゴを担当した、書家・紫舟(ししゅう)氏の心温まるメッセージを筆で書き写すこともできる。最後の締めとして、ヨガ・瞑想40分。呼吸法をメインとした前半とは異なる内容で、心身がリラックスする時間が体験できた。終わってみるとあっという間の4時間で、おなかも心も満たされ、もう少しここで過ごしたいなと感じるくらいのちょうどよいボリューム感。丁寧で細やかなサービスも受けられ、スタッフとの交流も楽しみの一つかもしれない。ここで過ごす時間は、心身が整うだけではなく、心地よい想い出になりそうだ。
今後は、日本だけではなく世界へもターゲットを広げていきたいと株式会社パソナグループ関西・淡路 広報部・諏訪ほのかさんは話す。淡路島へは、関西空港から高速リムジンバスが出ているのでアクセスもしやすい。高い技術を持つ日本の木造建築は、海外からの注目度も高い。海外ではマインドフルネスといって瞑想を取り入れる人が増えている中、日本の離島、そして大自然の中で日本らしい食や和の文化がミックスされた体験は、海外旅行客にとっても貴重な体験となるだろう。禅坊靖寧の建築美と自然との対比を、存分に楽しんでほしい。
取材協力:禅坊靖寧
https://www.zenbo-seinei.com/
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