福岡市の再開発事業「天神ビッグバン」の規制緩和第1号として誕生

2つの通りが交差する場所にそびえ立つ天神ビジネスセンター。右奥に見える白いビルは福岡市役所(撮影=石井紀久)2つの通りが交差する場所にそびえ立つ天神ビジネスセンター。右奥に見える白いビルは福岡市役所(撮影=石井紀久)

都会の景色をそのまま映すガラスのファサード、独特のフォルム、遊び心のあるデザイン―。九州随一の繁華街・福岡市天神の中心部にそびえ立つ「天神ビジネスセンター」は、オフィスビルでありながら、ひと際目を引く存在感を放っている。福岡市が主導する再開発事業「天神ビッグバン」の規制緩和第1号として、2021年9月に竣工。翌22年4月29日には、誰でも利用できる飲食街「天神イナチカ」がグランドオープンして、連日にぎわっている。

天神ビッグバンは、規制緩和などを活用して、老朽化した民間ビルの建て替えを促す福岡市のプロジェクト。天神交差点から半径約500mのエリアで、2021年9月末までに43棟が竣工した。民間の活力を引き出し、耐震性が高く先進的なビルへの建て替えを促進することで、新たなビジネスや雇用、公共空間を創出し、国際競争力の高いまちづくりを目指す狙いがある。

2つの通りが交差する場所にそびえ立つ天神ビジネスセンター。右奥に見える白いビルは福岡市役所(撮影=石井紀久)夜は吹き抜け部分が光で浮かび上がる

地元のディベロッパー福岡地所が開発した地下2階・地上19階のオフィスビル

エントランスの吹き抜けは、明るく開放的な雰囲気エントランスの吹き抜けは、明るく開放的な雰囲気

天神ビジネスセンターを開発したのは、福岡を拠点とする福岡地所株式会社。「キャナルシティ博多」をはじめ、福岡を代表する商業施設やオフィスの開発・運営、住宅や都市開発、ホテル運営など幅広く展開するディベロッパーだ。中でも天神ビジネスセンターは、世界的に活躍する福岡県出身の建築家・重松象平氏が建築デザインを手がけるということで、プロジェクトの発表当初から注目を集めていた。

完成した同ビルは、地上19階、地下2階、高さ約89mで、敷地面積は約3,917m2。地下鉄天神駅と直結し、福岡空港まで約11分、JR博多駅まで約5分の好立地。福岡初の機能を数多く盛り込んだグローバル基準のオフィスビルで、2~19階がオフィス、1階と地下2階は商業・飲食ゾーンとなっている。ボストン コンサルティング グループ、日本電気株式会社、株式会社ジャパネットホールディングスなど約50社が順次入居して、約5,000人が働く見通しだ。

エントランスの吹き抜けは、明るく開放的な雰囲気地下鉄天神駅に直結

建築デザインは重松象平氏、インテリアはグエナエル・ニコラ氏が担当

建築デザインを手がけた重松氏は、国際的建築設計集団OMAのパートナーでニューヨーク事務所の代表も務める。同ビルの外観を強く印象付けるのは、北側から見て左上と右下の部分が大胆に削られていること。明治通りと因幡町通りの交差部となる右下をピクセル状に切り崩し、2つの通りを融合。コーナーにオープンスペースを生み出している。また、吹き抜け部分が外から見えることで、ビルの中と外が緩やかにつながっている印象を受ける。


インテリアデザインは、銀座シックスの内装などを手がけたグエナエル・ニコラ氏が担当。オフィスのエントランスとなる2階は高級ホテルのような洗練された雰囲気で、特注のソファもくつろぎを演出する。

北側から見ると、左上と右下が大胆に削られている(撮影=石井紀久)北側から見ると、左上と右下が大胆に削られている(撮影=石井紀久)
北側から見ると、左上と右下が大胆に削られている(撮影=石井紀久)2階のオフィスエントランスにある特注のソファ
北側から見ると、左上と右下が大胆に削られている(撮影=石井紀久)吹き抜けに浮かぶ2階のオフィスエントランスは、ライトブルーに包まれた幻想的な空間

パブリックアートが上質な空間を演出

世界で活躍する現代美術作家によるパブリックアート作品も、同ビルをワンランク上のステージへと誘う重要な要素となっている。2階のオフィスエントランスで見られるのは、フランス生まれのダニエル・ビュレン氏による2作品。同ビルのために制作された「Light & Color, work in situ」は、4つのカラーとストライプを施した立方体のライトボックスがスタイリッシュな印象を与える。「HG6 Alto Relieve」は、ミラーとストライプなどを組み合わせた壁面レリーフで、壁面に映る空間や鑑賞者も作品の一部とされている。

ダニエル・ビュレン氏が同ビルのために制作した「Light & Color, work in situ」(撮影=石井紀久)ダニエル・ビュレン氏が同ビルのために制作した「Light & Color, work in situ」(撮影=石井紀久)
ダニエル・ビュレン氏が同ビルのために制作した「Light & Color, work in situ」(撮影=石井紀久)1階から2階に向かうエスカレーターの先にある「HG6 Alto Relieve」(撮影=石井紀久)

地下2階から地上につながる吹き抜けで迎えてくれるのは、ギリシャ出身のアティナ・イオアヌ氏の「The question of the helix in a broken cross composition」。赤い布地や伝統的な男女の着物を素材として、幾何学的な三角形で構成。ステンレスの構造体は、透明感や光の反射を利用して螺旋状に展開し、光と共に変化しながら周囲と調和している。

ダニエル・ビュレン氏が同ビルのために制作した「Light & Color, work in situ」(撮影=石井紀久)吹き抜けに設置されたアティナ・イオアヌ氏の「The question of the helix in a broken cross composition」(撮影=石井紀久)

最先端の地震・感染症対策システムを導入

ユニークなデザインと高い利便性に加えて、同ビルの根幹をなすのはハイグレードな性能を有していることである。大規模免震構造を採用し、法定の1.5倍の耐震性能を実現。また、災害時にライフラインが寸断しても、72時間対応のデュアルフューエルガスタービン発電機によって、テナント専有部の電力、エレベーターや共用部の照明、トイレ等は稼働できるBCP対策がとられている。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、最先端の感染症対策を備えていることも特筆すべき特徴となっている。建築基準法の約1.7倍の換気量を確保すると共に、空気浄化技術により細菌やウイルスを含む飛沫やアレルゲンなどの有害物質を捕捉・除去する。

さらに、非接触の機能も採用して、セキュリティゲートにカードをかざすと最適なエレベーターに誘導され、タッチレスで目的階に行くことができる。無人受付機は3Dディスプレイで、トイレの一部も非接触でドアの開閉や施錠が可能だ。

非接触タイプのの3Dディスプレイ受付機を設置オフィスエリアへはセキュリティカードをかざして入る

2022年4月には飲食街「天神イナチカ」が開業

今年4月、地下2階に飲食街「天神イナチカ」がオープンした。因幡町通りの地下に位置することから、その名がついたイナチカ。内装を手がけたのは、インテリア・建築デザイン会社のFHAMS。「曖昧模糊(あいまいもこ)」をコンセプトに、古代からアジアの玄関口として多彩な文化が入り混じってきた博多の良さを表現している。

4月に開業した地下2階の天神イナチカ4月に開業した地下2階の天神イナチカ
「おいしいパスタ」の明太クリームカルボナーラ1,100円。もちもちの生パスタに濃厚な明太クリームソースがからんで満足度が高い「おいしいパスタ」の明太クリームカルボナーラ1,100円。もちもちの生パスタに濃厚な明太クリームソースがからんで満足度が高い

入居する飲食店は、全12店のうち7店が新業態、4店が九州初出店という注目のラインナップ。ミシュランガイド東京2020-2022一つ星掲載店「sio」が手がける九州初・新業態パスタ専門店「おいしいパスタ」をはじめ、福岡の本格中華料理店「侑久上海」の新業態バル、地元の名店「磯貝」と「かじしか」がコラボしたおでん中心の「ISOKAJI」など、イタリアンから和食、中華まで幅広いメニューを楽しめる。

ついに全面オープンとなった天神ビジネスセンター。福岡の新たなランドマークとなり、未来へと続くまちづくりやビジネスシーン、ライフスタイルを牽引する存在として期待がかかっている。

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