京都亀岡にある一棟貸しの宿泊施設
京都府第三の人口を有する亀岡市。JR亀岡駅は京都駅から快速で20分と、アクセスのよい場所にありながら、街なかには旧城下町の名残を残す町家が立ち並ぶ。亀岡駅から南へ行った城下町エリアは、明智光秀により丹波統治の拠点として築城された「亀山城跡」や、その亀山城の外堀跡を整備した「古世親水公園」、古寺や神社、町家などがあり、歴史や散策が好きな人には非常に見どころの多い場所だ。
その一角に、2018年にオープンした「離れ」にのうみがある。古民家再生の第一人者ともいわれる東洋文化研究者のアレックス・カー氏が監修し、株式会社ちいおりアライアンスが運営する、一棟貸しの宿泊施設だ。
築約100年、廃屋のような状態からの再生
「嵯峨野トロッコ列車に乗車した観光客が、亀岡市に多く訪れていますが、そのほとんどが亀岡には宿泊せず、日帰りで帰ってしまう。ぜひ亀岡に宿泊してもらって、亀岡のよさを知ってほしい。空き家があるから活用できないか? と、亀岡市の市長に相談されたことがきっかけでした」と、株式会社ちいおりアライアンス 取締役相談役の井澤一清氏は、にのうみ開業の経緯を話す。空き家、とはいっても、すぐに活用できるような状態ではなく、築100年ほどで、かなり傷んでいたという。京都の老舗のお香商の古民家で、40年ほど前までは人が住んでいたものの、以降はずっと空き家のままだったのだ。
「部分的に屋根も扉もない、雨ざらしのような状態で、劣化して朽ち果てかけていました。建具や窓、家具など、残せる部分はできるだけ残し、母屋を2つに分けて2室に、離れを1部屋にと、3組泊まれる宿泊施設にリノベーションしました。着手してから約2年はかかったと思います。京都では一棟貸しの町屋は珍しくありませんが、亀岡ではほかにありません」
にのうみの3室はそれぞれ「応挙」「梅岩」「了以」と、亀岡に関連した偉人の名前がついている。一室ずつご紹介しよう。
応挙
王子並河線道路に玄関が面し、大きな松の木が入り口に見えるのが「応挙」だ。玄関に入ると、アレックス・カー氏が選んだ屏風が出迎えてくれる。リビングは日本庭園と中庭に面しており、ゆったりとした造り。1階に寝室と、2階に和室があり、最大で5名が宿泊できる。にのうみで一番大きな部屋だ。
寝室や2階の和室などの窓のすりガラスや建具はそのまま昔の物が利用されている。にのうみの居室はすべて入り口が独立しており、キーレスで暗証番号で解錠する。建物の歴史、趣はそのままに残し、水回りなどの設備は最新になっているのだ。
応挙の名は、江戸時代の絵師、亀岡生まれの円山応挙から。円山応挙が小僧として生活した寺、金剛寺(別名応挙寺)が亀岡市内にあるので、興味がある人は応挙ゆかりの地を訪れるのもよいだろう。
梅岩
にのうみの奥には、大きな蔵が見える。この蔵側にあるのが、「梅岩」だ。梅岩は日本庭園に面していないのだが、この部屋の一番の特徴は広々としたウッドデッキと蔵の眺めだろう。夜はライトアップされるので、蔵を眺めながら一杯というのも、にのうみならではの体験だろう。ちなみにこの蔵は当時かなり傷んでいたそうで、危険だからと解体の話もあったという。にのうみのシンボルとして残すことになったそうだ。こちらは最大3名まで宿泊可能。梅岩に泊まった人は、寝室の襖絵やリビングの屏風などのしつらえはもちろん、ぜひ天井の屋根に見られる過去の増築の跡や、柱をうまく取り込んだキッチンの棚も見てほしい。
部屋の名前は、亀岡生まれの心学の父・石田梅岩から。「損して得とれ」「負けるが勝ち」は梅岩の言葉といわれている。JR亀岡駅を降りるとコンコースに石田梅岩像がある。
了以
大きな通りから小道に入ると、「了以」の入り口がある。もともとあった離れを改装した客室だ。2名まで宿泊可能で、中庭を眺めることができる。中庭に面してソファがあるので、ここでライトアップされた庭をのんびり眺めるのもよさそうだ。応挙も梅岩も閉じられていた天井板を改修の際に取り払っており、どの部屋も天井が高いのだが、了以は特に開放感がある。にのうみの客室には、すべて鍋やフライパン、包丁などの調理器具、カトラリーなどの食器類、電子レンジや冷蔵庫がそろっており、食材を買ってくれば料理もできるようになっている。部屋ごとに洗濯機もあるので、長期滞在も不便なく過ごせそうだ。
こちらの部屋の名前は、京都の豪商・角倉了以にちなんでいる。木材や米などの丹波地方の産物を京都へ輸送するため、私財を投じて保津峡を開墾。海外貿易や富士川、高瀬川などの河川開削で知られる。亀岡から嵯峨まで約16kmに及ぶ保津川下りは、亀岡の主要な観光資源である。
観光客や移住者検討者と亀岡をつなぐ玄関口
「離れ」にのうみは、基本的には素泊まりで食事なし。周辺のレストランを探すのもよし、にのうみのスタッフにおすすめを聞いてみるのもいいだろう。また、ケータリングを注文して地元亀岡のレストランの料理を部屋で味わうこともできる(注文は2名から)。
さらに亀岡を満喫したい人向けに、「離れ」にのうみはアクティビティも提供している。茶道体験・茶花体験・書道体験から試してみたいものが選べる「文化体験 花hana亀岡」や、旧亀山城下町をガイドと巡る「城下町ローカルガイド」などがある。
また、にのうみは、亀岡市の移住・定住促進施設としても活用されており、一定の条件に該当する人は移住体験料金で宿泊することもできる。にのうみは、観光客と街をつなぐ場としてだけではなく、移住検討者にとっても玄関口になっているのだ。
地域活性化の支援が使命
徳島県三好市東祖谷の「Chiiori(ちいおり)」や、香川県綾歌郡宇多津町の「宇多津 古街の家」など、これまで多くの古民家再生を手がけ、宿泊施設として運営し地域の活性化に貢献してきたちいおりアライアンス。地方自治体などから多くの相談が寄せられており、引き続き地域活性化の支援を続けると井澤さんは話す。
「宿泊施設は一つの手段であって、地域の活性には空き家の再生や宿泊施設の運営がすべて正解とは限りません。ここ数年の自治体からの相談も、単に宿泊施設にしたいというものよりも、多様化してきたように思えますね。宿泊施設でのイベントの開催もなかなかしづらい状況ではありますが、オンライン配信にするなどの工夫をして、今後もイベントを開催していきたいと思っています。私たちの役割は、地域活性化の支援をすること。情報を発信していくとか、移住を増やしていくとか、地方で起業する人を増やすとか、宿泊施設の運営だけが目的ではない。今後も、私たちがやっているという意味と向き合っていかないといけないと思っています」
「離れ」にのうみで開催予定だったイベントも、コロナ禍の影響により何度か延期になるなどしたが、今後も開催してく予定だという。
2022年1月、ちいおりアライアンスはChiiori CLUB(ちいおりくらぶ)という会員制度を開始した。1口5万円の年会費を支払うことで、6万円の宿泊クーポンが発行される。ちいおりアライアンスが企画監修する宿は、前述した「Chiiori(ちいおり)」をはじめ「離れ」にのうみもそうだが、街に溶け込み、その街の魅力になるような、ここでしかできない体験ができる場所だと思う。気になる人は検討してみてはどうだろう。
取材協力
亀岡 「離れ」にのうみ
https://www.hanare-ninoumi.jp/
ちいおりアライアンス
http://chiiori.org/index.html
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