大河ドラマ「どうする家康」放送決定に沸く徳川家康の生誕地、愛知県岡崎市

毎年何かと話題になるNHK大河ドラマ。
歴史に名を残す人物の生涯が描かれることが多いこのドラマで、2023年放送の主人公となるのは、誰もが知る徳川家康。主演を務めるのは嵐の松本潤さんで、主要キャストも続々発表される中いまから期待が高まっている。

日本を代表する歴史ドラマゆえに、主人公に縁のある街が盛り上がることも恒例となっているが、徳川家康の生誕地である愛知県岡崎市もそう。
多くの人たちがこの街に足を運ぶ契機とするべく、同市では2021年5月に観光推進課内に「どうする家康」活用推進室を新設。今後ドラマ館誘致をはじめ民間を巻き込んだプロジェクトを進め、市を挙げて岡崎の魅力発信の起爆剤にしようとしている。

徳川家康が誕生した岡崎城をはじめ三河武士など「歴史のまち」として知られる岡崎市は、愛知県のほぼ中心にある人口約38万人の中都市だ。主要産業は製造業。地域の自治会加入率は約9割と高く、地域の結びつきが強いエリアであるとともに、近年では転入者の7割近くが20代~30代の若い世代で構成される。恵まれた生活環境から暮らしやすいまちとも評され、(一財)日本総合研究所が2020年に発表した「2020年 都道府県別幸福度ランキング」の中核市ランキングでは、対象の全国48市のうち、隣接する豊田市に次いで総合2位にも輝いた。全国的に人口減少が進む中でも市全体では2035年までは緩やかな増加傾向の見込み(※)だという。
※2019年3月 岡崎市「人口推計報告書」より

名鉄「東岡崎」駅北東のペデストリアンデッキで出迎える徳川家康像は、松平から徳川に改姓した25歳当時の若い家康公がモチーフ。世間一般にイメージされる“狸おやじ”ではなく、騎馬にまたがり弓を携える凛々しい姿が印象的。台座を含めた全高は9.5mという日本最大級の騎馬像は、2019年11月に完成した名鉄「東岡崎」駅北東のペデストリアンデッキで出迎える徳川家康像は、松平から徳川に改姓した25歳当時の若い家康公がモチーフ。世間一般にイメージされる“狸おやじ”ではなく、騎馬にまたがり弓を携える凛々しい姿が印象的。台座を含めた全高は9.5mという日本最大級の騎馬像は、2019年11月に完成した

エリアの価値向上を目指し、まちなかの好循環をはかるプロジェクトを推進

岡崎市役所 都市政策部 都市施設課 QURUWA戦略係の早田純一さん(左)と小林佑大さん(右)岡崎市役所 都市政策部 都市施設課 QURUWA戦略係の早田純一さん(左)と小林佑大さん(右)

家康公が生まれた岡崎城の周辺は康生(こうせい)地区と呼ばれ、かつては松坂屋岡崎店などがある商業の中心だったが、1990年代に入り郊外型の大型ショッピングセンターが開店すると以降は徐々に衰退。商店・事業所・人口は減少し、市内でも高齢化率や空き家率が高いエリアとなっていた。

そんな中心市街地の課題を解決するため2015年にスタートしたのが「乙川リバーフロント地区整備計画」。

五万石でも岡崎様はお城下まで船がつく――と民謡で唄われるように、
岡崎城下には一級河川であり矢作川最大の支流である乙川(おとがわ)が流れている。
そのエリアを「乙川リバーフロント地区」として、市の玄関口であり顔といえる中心市街地を魅力あるエリアにすべく、ハード整備とソフト事業の双方でまちづくりが進められてきた。

乙川リバーフロント地区には名鉄「東岡崎」駅や岡崎城のある岡崎公園、年間140万人が利用する図書館交流プラザなどの公共空間が点在しており、各拠点を結ぶと「Q」の字の動線が見える。また、岡崎城跡の「総曲輪(そうぐるわ)」の一部と重なることもあり、その約3キロにわたる主要回遊動線を「QURUWA(くるわ)」と命名。
QURUWA内の豊かな公共空間を舞台に多様なプロジェクトを行うことで、人やモノの動きを活発にし、まちの活性化や好循環を図る「QURUWA戦略」を2018年に策定した。

QURUWA戦略ではエリア内を7つに分けて公共空間を活用する公民連携プロジェクトを推進。
その計画の一つで、洒落た都市空間として2021年春に供用開始したのが中央緑道だ。

岡崎市役所 都市政策部 都市施設課 QURUWA戦略係の早田純一さん(左)と小林佑大さん(右)2021年3月20日に全面開通した中央緑道。全長約320mの緑道は「道であり、広場でもある空間」がコンセプト

まちなかに、“道であり、広場でもある空間”をコンセプトにした歩行空間が開通

緑道には徳川四天王像(右上から時計回りに…本多忠勝・酒井忠次・榊原康政・井伊直政)も。各像には解説板が設置されており、そこにあるQRコードを読み込むと、岡崎市出身の声優・櫻井孝宏さんによる音声ガイドを聞くこともできる緑道には徳川四天王像(右上から時計回りに…本多忠勝・酒井忠次・榊原康政・井伊直政)も。各像には解説板が設置されており、そこにあるQRコードを読み込むと、岡崎市出身の声優・櫻井孝宏さんによる音声ガイドを聞くこともできる

中央緑道は、中心市街地を南北に通る自然豊かな散歩道で、名鉄「東岡崎」駅とまちなかを繋ぐ軸となる存在。
これまであった通りを拡張リニューアルし、「道であり、広場でもある」をコンセプトとした。

以前から立つヒマラヤスギなどの緑が続く通りには、さまざまな高さのテラスやデッキが設けられ、各所にテーブルや椅子を設置。加えて、家康公を支えた徳川四天王の石像も点在しており、優れた石工業でも知られる岡崎市の技術力と歴史を伝えている。老若男女が安心して寛げる憩いの場は、洗練されたデザインが印象的な空間だ。

そんな全長約320mの緑道は、両端にある「桜城橋(さくらのしろばし)」と「籠田(かごだ)公園」も併せて整備が行われており、両拠点までを結んだ通りは「天下の道」という愛称で市民に親しまれている。

緑道には徳川四天王像(右上から時計回りに…本多忠勝・酒井忠次・榊原康政・井伊直政)も。各像には解説板が設置されており、そこにあるQRコードを読み込むと、岡崎市出身の声優・櫻井孝宏さんによる音声ガイドを聞くこともできる大階段テラスやデッキ、パーゴラが設けられ、随所にテーブルやイス、ベンチがあって誰もが気軽に一息つける
緑道には徳川四天王像(右上から時計回りに…本多忠勝・酒井忠次・榊原康政・井伊直政)も。各像には解説板が設置されており、そこにあるQRコードを読み込むと、岡崎市出身の声優・櫻井孝宏さんによる音声ガイドを聞くこともできる電源もありキッチンカーもOK。近隣の店で食事や飲み物をテイクアウトして寛いだり、木漏れ日の中で勉強や読書をしたり、夜間照明も整っているため夜風を感じながらウォーキングしたり…思い思いに利用できる
緑道には徳川四天王像(右上から時計回りに…本多忠勝・酒井忠次・榊原康政・井伊直政)も。各像には解説板が設置されており、そこにあるQRコードを読み込むと、岡崎市出身の声優・櫻井孝宏さんによる音声ガイドを聞くこともできる自転車との歩車分離もされており、歩行者が安全に過ごせるよう整備されていることもポイントだ

市を代表する公園「籠田公園」を“岡崎の顔”とするべく大幅リニューアル

ステージをはじめさまざまな設備を有する約7,000 m2の籠田公園。2019年7月にリニューアルオープンしたステージをはじめさまざまな設備を有する約7,000 m2の籠田公園。2019年7月にリニューアルオープンした

「天下の道」の北端にあるのが、1958(昭和33年)から地域で親しまれてきた籠田公園。
QURUWAプロジェクトの一部として、「つどい・つながり・つづく」をコンセプトに再整備された。

芝生広場を中心に、複合遊具や噴水など子どもの遊び場が充実しているほか、以前からイベントなどで活用されてきたステージや、屋根のある休憩所など設備も多彩で幅広い楽しみ方ができる。
人々が日常的に寛げる空間にするため、また、この環境を活かして「公園で稼ぎ、公園に還元する組織・仕組みづくり」にも挑むため、キッチンカーをはじめ市民や事業者による物販や体験教室など公園を活用する社会実験を行ってきたことも特徴。
市と市民や民間事業者などが一緒になって都市経営を進めていこうとしていることも興味深い。

ステージをはじめさまざまな設備を有する約7,000 m2の籠田公園。2019年7月にリニューアルオープンした伸びやかな芝生広場を中心に、公園内には複合遊具や噴水など子どもの遊び場が充実しているほか、ステージや屋根のある休憩スペースなどさまざまな設備があって幅広い楽しみ方ができる。防災キャンプなどさまざまなイベントも開催。「市民とともに育てる公園」を目指して再整備された憩いのスポットは、洒落た雰囲気も好評で利用者も増加中!

地元木材を使った橋上公園「桜城橋」は、“イベントでも使える橋”

もう一方の南端にあるのは、岡崎城のほとりを流れる乙川に架かる「桜城橋」。
愛知県西三河総合庁舎のすぐ北側にあるこの橋は、名鉄「東岡崎」駅と「籠田公園」を結ぶ動線であり、“まちなかへのお迎え空間”として2020年3月に完成した。

橋、といっても一般的な橋ではない。
分かりやすく表現すると「橋のかたちをした広場」だ。

全長121.5m・有効幅員16m・広さ2,000m2の広大な歩行者専用橋で、床板や手すりは岡崎市額田地区産ヒノキで装飾。木のぬくもりや香りが漂う橋上空間が広がっている。

橋上広場とその北側にある橋詰広場の活用は、Park-PFI(※)による民間の力を導入。
“イベントでも使える橋”のため、東京五輪聖火リレーのコースになったほか、盆踊りなど地元町内会による活用、キッチンカーイベントや星空観望会、プロジェクションマッピングなど事業者による活用、橋上で書道やサウナ(!)など…季節や昼夜を問わずさまざまな催しや実証実験が行われてきた。

市民とともに公共空間の柔軟な活用が進む中、まちなかの象徴となる新名所として既に認知されていると聞く。
※公園の便益施設の設置と、当該施設から生まれる収益を活用して施設周辺の施設整備を一体的に行う者を公募する「公募設置管理制度」のこと

桜城橋(さくらのしろばし)という名前は、「桜の名所である岡崎城を『桜の城』と例え、新しい橋から見える」と名付けられたもので、公募で集まった4,000件を超える候補の中から選ばれた。多彩かつユニークなイベントが開催されたり、月に1回有志たちが橋を雑巾がけするなど、早くも地域に愛される自慢のスポットとなっている桜城橋(さくらのしろばし)という名前は、「桜の名所である岡崎城を『桜の城』と例え、新しい橋から見える」と名付けられたもので、公募で集まった4,000件を超える候補の中から選ばれた。多彩かつユニークなイベントが開催されたり、月に1回有志たちが橋を雑巾がけするなど、早くも地域に愛される自慢のスポットとなっている

ハード整備がひと段落。地域・民間の力をさらに集めてまちなかを盛り上げる

中央緑道ではテントやアウトドアチェアで食事や休憩ができるデイキャンプ、乙川河川緑地ではSUP(スタンドアップパドル)やスポーツバイクの体験、籠田公園ではマーケットが開かれるなど一帯が賑わいを見せるイベントもあった中央緑道ではテントやアウトドアチェアで食事や休憩ができるデイキャンプ、乙川河川緑地ではSUP(スタンドアップパドル)やスポーツバイクの体験、籠田公園ではマーケットが開かれるなど一帯が賑わいを見せるイベントもあった

中心市街地内を川が流れていることが特徴でもある岡崎市では、「川を使ったまちづくり」を推し進め、従来は民間の営利活動ができなかった川でも多様な活動が可能に。
行政主導で企画が進むのではなく、市民が企画段階から入って幾度もワークショップなどを重ね、公民連携により「公共空間でできること」が増えたことが大きな変化を生んだといえよう。

桜城橋~中央緑道~籠田公園の「天下の道」ができたことで、近隣に店舗も増え、人も増えた。
岡崎の顔となり得るスポットが増えたことで、まちなかエリアの価値が高まってきた感がある。

日常的に使える“人を呼ぶ拠点”が増えて明るい兆しを見せている岡崎城下の様子を、東照大権現も微笑ましく見守っているのではないだろうか。

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