大阪のリバーサイドと湾岸のホテルが、周遊型のアートフェア会場に

明治時代には「水の都」と呼ばれていた歴史もある大阪。市内には都心を囲む水の回廊が残っており、近年では中之島を中心としたリバーサイド一帯の再開発が進み、図書館や博物館などの施設や芝生公園など市民の憩いの場となりつつある。休日になると、川沿いのカフェのテラス席に若者が集まる様子も、もう日常の風景だ。

都心のオアシスとして親しまれる、中之島公園都心のオアシスとして親しまれる、中之島公園

この中之島一帯と湾岸エリアに立つ6つの都市型デザインホテルを会場とした、周遊型のアートフェア「SUIKEI ART FAIR OSAKA」が、2021年4月12日~18日に開催された。アートが展示されるのは、ホテルの客室。15組のアーティストが自由な感性で客室をアレンジし、展示空間を作り上げた。都市部の水辺に立つホテルの佇まいを堪能しながら、通常は宿泊者以外入ることのできないホテル空間を覗き見ることができる。その上、アート作品と展示空間を楽しめて作品が購入できるという、一粒で三度も四度もおいしい企画だ。

「SUIKEI ART FAIR OSAKA」を主催するのは、「YOMAFIG.」。1人は不動産ディベロッパー、1人は現代アーティストという異色のユニットだ。今回で主催したプロジェクトは10回目、ホテルでのアートイベントは5回目となる。

初回のイベントが行われたのは2020年6月。きっかけは、YOMAFIG.の吉見紫彩さんの個展が、一度目の緊急事態宣言により中止となったことだった。当時、ホテルには宿泊者のキャンセルが相次ぎ、アーティストは展示ができず生計が立てにくい状況。国土交通省観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、緊急事態宣言が発令された令和2(2020)年の4月の客室稼働率は8.3%、5月は12.9%。平成31(2019)年の同時期では65.0%と63.2%というのだから、その厳しさはデータを見ても明らかだ。

不動産とアートが経済的なダメージを受ける中、ホテルの宿泊スペースを展示会場に活用してはどうか?というアイデアがスタートだった。

都心のオアシスとして親しまれる、中之島公園「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のgraf porch会場での展示風景
都心のオアシスとして親しまれる、中之島公園「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のZentis Osaka会場での展示風景。写真提供:YOMAFIG.

今だからこそ、「不動産×アート」の企画をやってみよう

初回のイベント「現代アートと出会う日」は、大阪市・此花区にあるホテル「The Blend Inn」で開催された。会期3日間で、総入場者270人程度。入場料と作品売上を合わせて約110万円を売り上げた。お金の流れに関しても透明化したいと、収益も公開した。コロナ自粛期間がちょうど明け、ステイホーム疲れの中でタイミングが良かったとYOMAFIG.の牧野圭さんは話す。なかでも想定以上に多く足を運んだのは、主に20代〜30代の社会人だったという。

2020年6月に開催したイベント「現代アートと出会う日」の展示風景。6名の作家の作品が、「The Blend Inn」の全室を利用して展示された。写真提供:YOMAFIG.2020年6月に開催したイベント「現代アートと出会う日」の展示風景。6名の作家の作品が、「The Blend Inn」の全室を利用して展示された。写真提供:YOMAFIG.

「僕たちの中で、集客を考えた際に2つの仮説がありました。特別定額給付金10万円が給付された時期でもあり、QOLを高めるためにアート作品の購入を検討する人がいるのではないかということ。もう一つに、アートに興味を持ちつつも、どこから手をつけたらよいかわからないビジネスパーソンがいるのではないかということでした」と牧野さんは話す。

2020年6月に開催したイベント「現代アートと出会う日」の展示風景。6名の作家の作品が、「The Blend Inn」の全室を利用して展示された。写真提供:YOMAFIG.YOMAFIG.の(左)牧野 圭さんと(右)吉見 紫彩さん

アートに興味のある、若手のビジネスパーソンに届けたかった

イベントをする上でこだわったのは、アーティストと来場者の交流。アーティストになるべく在廊してもらい、来場者と対話することで、アーティストの人となりを知ってもらうことに加えて、作品の意図や技法なども来場者が聞ける環境をつくった。

「近年、ビジネス書でもアート思考の重要性が取り上げられることも多く、アートに興味を持っている人は増えています。まさに僕がそうでした。でも専門知識もないし、アートギャラリーは入りにくい、関わり方がわからない...。そんな方たちに向けて、アートに近づくきっかけや接点が作れたらと考えていました」と牧野さんは話す。

アーティストとして制作活動を行っている吉見さんも、逆の立場から同じ思いを抱えていた。「同年代の仲間と話をした時に、アートの世界は入りにくいと言われたことがありました。でも、そんなことないよと伝えたい。アーティストと一般の社会人とは違う世界にいると思われがちですが、それは全く違います。一般の社会人の中にもアーティスト気質の人もいれば、アーティストの中にもビジネス思考を持った人もいる。その境界を越えて交流できるような場がほしいと感じていました」

「SUIKEI ART FAIR OSAKA」にて。アーティスト山下 茜里さんの展示空間。「目」をモチーフとした作品で、3部屋をアレンジした「SUIKEI ART FAIR OSAKA」にて。アーティスト山下 茜里さんの展示空間。「目」をモチーフとした作品で、3部屋をアレンジした
「SUIKEI ART FAIR OSAKA」にて。アーティスト山下 茜里さんの展示空間。「目」をモチーフとした作品で、3部屋をアレンジした2020年12月に開催された「現代アートと出会う日」の展示風景。東京・渋谷のhotel koe tokyoで開催された。写真提供:YOMAFIG.
「SUIKEI ART FAIR OSAKA」にて。アーティスト山下 茜里さんの展示空間。「目」をモチーフとした作品で、3部屋をアレンジした2021年3月に開催されたイベント「間をぬく、或いは」。展示会場は、京都の両足院(建仁寺内)。写真提供:YOMAFIG.

アートの鑑賞体験を通して目指すもの

今回の「SUIKEI ART FAIR OSAKA」は、どのように作り上げていったのだろうか?

「今回私たちが目指したのは、アートが好きな人と空間・建築が好きな人が融合するイベント。アートが飾られた空間は、空間演出も含めて、その体験をより深めてくれると考えています。アートと建築は両足のようなもの。アートが好きな人、空間・建築が好きな人同士は、共鳴しあえると考えています」と牧野さん。

開催場所を探し始めて、最初に声がけしたのは、「Hotel Noum OSAKA」。過去のイベントを知っており、イベントへのマインドを共感してくれた施設だった。過去に開催した1施設に1会場というものとは異なり、今回は複数ホテルで実施する周遊型での提案をしたところ、他のホテルを紹介してもらい、また他にもと連なるように6施設のホテルが集まった。これを期に、初めて交流を持ったホテル同士もあったそうだ。

「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のHotel Noum OSAKAでの展示風景。写真提供:YOMAFIG.「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のHotel Noum OSAKAでの展示風景。写真提供:YOMAFIG.

アーティストの選定は、知人のアーティストからの紹介やSNSなどウェブからの情報を通して得たり、展示に足を運び見つけるなど出会い方はさまざまだ。「アート作品もホテルも、選ぶときは、私たちが“心地よいな”と素直に思える感覚を大切にしています。展示空間となる施設に対して特徴的だと感じた部分や、ホテル側の大切にしているコンセプトをヒアリングして、それに見合うアーティスト・作品をマッチングさせています」と吉見さん。

今回の「SUIKEI ART FAIR OSAKA」を皮切りに、春は大阪、夏は瀬戸内、などシーズンごとにさまざまな街をアートフェアが回っていくような企画ができたらと想像している。温泉地や学校など、ホテルにとらわれず会場の可能性を探っていくそうだ。

「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のHotel Noum OSAKAでの展示風景。写真提供:YOMAFIG.「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のgraf porchでの展示風景
「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のHotel Noum OSAKAでの展示風景。写真提供:YOMAFIG.YOMAFIG.の吉見さんも企画運営と同時に作品展示も行っている。「識別・認識すること」をテーマに、4つの部屋を絵画やインスタレーションなど異なった技法を用いて表現した

これからの不動産の利活用や、空間設計の新しい提案にも

空間を大切にしたいと話すYOMAFIG.の二人。その背景には、コロナ禍を経て、変化しつつある不動産・建築業界への思いがある。

「イベントには、不動産業界の方も多く見にきてくださいました。ベットフレームをとるだけで小上がりにできて、展示スペースに活用できたり、調光を利用して演出された空間を見て、ホテルの客室がこんなふうに使えるのかと驚かれました。作品展示を通して、空間そのものへの気づきを与える効能もあったのかもしれません。今後の不動産は、一つの用途に決めずにさまざまな用途に使えるような設計が必要だとおっしゃられている方もいました。これからそういう不動産が増えていくと面白いなと、イベントを通して実感しています」と吉見さん。

「今後、世の中の流れを受けてシュリンクしていく商業施設もあるかもしれません。けれど、良い空間や家とは異なる空間は、人間が生きていくために必要な場所です。今までは、オフィス=働く場所、ホテル=泊まる場所など、一施設一目的として利用方法が限られていました。このテンプレートが崩壊して、どんどんその境界が曖昧になっていくのかなと考えています。例えば、ホテルの閑散期には、展示会場やフォトスタジオに活用したり、稼働率が低いときが事前に分かる場合は、ワンフロアで貸し切りイベントを行うとか。多様に組み合わせることで、眠っていた賃料が眠らなくなる方法がある。魅力的な空間を活かし続ける方法は、きっと一つではありません。むしろこれから、そこを変えていきたいのかもしれません」と牧野さん。

空間活用の新しいアイデアが、アートフェアに隠れていた。これまでの利用方法や概念などの垣根が崩れ、共鳴し合う哲学やアイデアによって、新たな空間活用方法が生まれていくのかもしれない。

「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のhotel it. osaka shinmachi会場での展示風景。写真提供:YOMAFIG.「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のhotel it. osaka shinmachi会場での展示風景。写真提供:YOMAFIG.
「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のhotel it. osaka shinmachi会場での展示風景。写真提供:YOMAFIG.「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のTHE BOLY OSAKA会場での展示。写真提供:YOMAFIG.
「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のhotel it. osaka shinmachi会場での展示風景。写真提供:YOMAFIG.「SUIKEI ART FAIR OSAKA」のHOTEL SHE, OSAKA会場での展示風景。写真提供:YOMAFIG.

2021年 05月12日 11時00分