大型複合施設の先駆け「サンシャインシティ」、今は池袋のランドマークに
東京・池袋は、巨大ターミナル池袋駅を擁し、交通利便性が高いまちとあって、近年は住みたい街ランキングの上位に挙がる人気のまちとなっている。
そんな池袋のランドマーク的存在が「サンシャインシティ」。豊島区東池袋3丁目にそびえ立つ60階建ての超高層ビル「サンシャイン60」を中心とした5つのビルから構成されている。広大なエリア内には展望台、水族館、プラネタリウム、劇場、博物館、ホテル、ショッピングセンター、オフィス、マンションなどさまざまな機能が集まる、日本有数の大型複合施設となっている。
その歴史は、戦後の復興期、1950年代~1960年代までさかのぼる。池袋副都心再開発事業として、東京拘置所(巣鴨プリズン)跡地の再開発が検討された。そして構想された複合施設が、サンシャインシティである。民間活力を導入した大規模複合開発プロジェクトの第1号として開発事業が始まり、1978年にサンシャイン60が竣工。当時、東洋一を誇った高さ239.7mの超高層ビルの誕生は、池袋エリアにとって画期的な出来事だった。以来、池袋の発展とともに歴史を刻み、今では年間約3,000万人が訪れている。
今回、クローズアップするのは、サンシャインシティ全体の企画・運営・管理を行う株式会社サンシャインシティの「トシマージュ」という社内制度だ。トシマージュとは、豊島区に住み、区民の目線で地域のために活動する意欲を表明し、地域のために活動する社員のこと。対象の社員には、住宅手当に加えて月2万円程度の豊島区民手当を支給し、活動をサポートするという。
まちに出て、地域の暮らしを知り、地域に貢献する力に
この制度について、株式会社サンシャインシティの総務部リーダー、三坂達さんに話を聞いた(※1)。
「当社は創業(※2)から50年余が経過し、令和になった2019年、私たちはどういう存在で何をやっていかなければならない会社なのか、あらためて社員全員で意見交換をしました。もともと当社がキャッチコピーに掲げてきたのは『なんか面白いこと、ある。』です。これまで、サンシャインシティを”いつも面白いことがある場所”にすることに力を注いできました。そうした独自のディべロップメント力を生かし、地域と社会に『なんか面白いこと』を提供する…これを新たなミッションとし、『なんか面白いこと、その創造力を街の力に』と、スローガンを定めました」
2020年4月に「まちづくり推進部」を新設。行政や地元企業などと連携し、池袋エリアを中心に豊島区のまちづくりに取組むという。さらに2020年10月に開始されたのがトシマージュの制度だ。
トシマージュという名称は、豊島区を旅するという意味のVOYAGE(ボヤージュ)や、「豊島+住(トシマ+ジュ)」などからイメージして付けられた。
「新たなミッションを実現するには、会社としてだけではなく、社員がまちへ出て、まちのこと、まちで暮らす人を知ることが大切です。豊島区の住民になって、区民目線でまちと関わりをもつことで、これまで見えていなかった地域の現状を知ることができたり、住民ならではのネットワークも築いていけると思います」
(※1)三坂さんの所属部署・役職は2021年2月取材時のもの。
(※2)1966年に設立。当時の社名は、株式会社新都市開発センター。
消滅可能性都市から持続発展都市へ
豊島区といえば、2014年に民間研究機関「日本創成会議」が指摘した消滅可能性都市として、東京23区で唯一名前が挙がったことは記憶に新しい。
「しかし、豊島区は子どもと女性にやさしいまちづくりや国際アート・カルチャー都市などをテーマに掲げ、魅力的なまちづくりを進め、大きく変化しています。このように変わりつつある区で、トシマージュがどんなことができるのか、各メンバーが自主的に考え、新たな取り組みを提案してもらえれば、と期待しています」(三坂さん)
ちなみに豊島区の人口は、消滅可能性都市の宣告を受けた2014年1月1日は27万1,643人だったのが、2021年同日には28万7,300人に。そのうち0歳から14歳の年少人口は、2万3,382人だったのが2万6247人と、年少人口の割合も増加している(※)。
(※)参考:豊島区 住民基本台帳による年齢別人口
興味のあることや得意分野を活かしながら、自由に活動
現在、トシマージュとして活動する社員は、サンシャインシティグループで15名(2021年2月現在)。年齢層は20代が過半数を占める。
トシマージュになると、前述のように、月2万円程度の豊島区民手当が支給されるが、活動内容や進め方のルールはない。各メンバーが興味のあることや得意分野を生かし、楽しみながら活動できるという自由度の高いものとなっている。提案した企画は、会社のサポートを受けながら豊島区と協働して実現できる可能性があり、「商店街を活性化する仕組みをつくりたい」「産学連携活動の可能性を探りたい」など、各メンバーが構想を描いている。
今はコロナ禍で、思うような活動ができないという一面はあるものの、各トシマージュができることを見つけて取り組んでいるという。例えば、豊島区に関する情報の発信。区内の店や施設、イベントの紹介、住民説明会への参加レポートなど、社内イントラネットの掲示板に発信している。
ボランティア活動をしたり、まちの人に話を聞くなど、思い思いに活動
トシマージュのメンバーからも話を聞くことができた。オフィス事業部・サブリーダーの中村彩恵子さん(2014年入社)、管理部の新川敦也さん(2019年入社)、総務部の細井智美さん(2019年入社)の3人。いずれも豊島区出身ではないが、現在は会社から徒歩や自転車で通えるエリアに住む豊島区民である。
どんな活動をしているのだろう?
細井さんは、学生時代に興味をもって学んでいた「子どもの貧困問題」をテーマに活動中。
「2020年秋から区内の学習支援団体に参加しています。年明けからの緊急事態宣言発令の影響で学習支援の活動が制限され、新型コロナウイルスが及ぼす社会的な影響を実感しました」(細井さん)
「私も学生時代は教師を目指していたこともあり、子どもの教育に関するボランティアをやってみたいです。現在、区内のボランティア団体について調べています。今は、自転車でまちを観察するのが日課です。個人的には喫茶店が好きで、気になる店を見つけて訪ねています。レトロな雰囲気がする店、外国人が集まる店、高齢者が集まる店、若い人と高齢者が交流している店など、さまざまな店があり、豊島区は多様性のある、面白いまちだなと思います」(新川さん)
中村さんもまちの様子に意識を向けている。
「住んでいる人の想いや暮らしに興味があるので、コミュニティがあるような飲食店に出かけて、お店の人や地元のお客様から昔話や、まちのことをどう思っているのかなど、聞かせていただいています。コロナ禍とあって、飲食店で活動しづらい状況にはありますが、少しずつやっています」(中村さん)
単身高齢者のこと、防災、公園に集う人々…住んでいるからこそ肌感覚で気づいたこと
住んでみてどんな気づきが得られたのだろう?
「飲食店の人から聞いた話で印象に残っているのが、『お弁当の宅配を利用するお客様のなかで、一番多いのは、一人暮らしの高齢者』という話でした。国勢調査で豊島区は単身高齢者が多いという結果になっていますが、事実として実感させられたと同時に、コロナ禍での高齢者の暮らしについて考えるようになりました」(中村さん)
豊島区は古い木造住宅密集地域が4割を占め(※)、火災や大地震などが発生した場合、延焼によって被害が大きくなってしまう恐れがあると想定されている。それを、リアルに感じたと話すのは細井さん。
「先日、近所の木造住宅が密集する地域で火災が起きたのですが、道路幅が狭くて消防車が入っていけないのです。消防車を大通りに停めて、ホースをつないで消火活動をしていました。そんな現場を見て、将来、結婚して子育てをするとなった際に、今住んでいるエリアは安心して住めるのかと、考えさせられました」(細井さん)
豊島区は防災まちづくりにも取り組んでいるが、2020年12月、サンシャインシティに隣接する造幣局東京支局の跡地に全面開業したのは、としまみどりの防災公園(イケ・サンパーク)。そのイケ・サンパークへ土日も足を運ぶようになったという新川さんは、こんな気づきがあったという。
「イケ・サンパークは平日も土日も、多くの人たちが集まってくつろいでいます。豊島区は、区民一人当たりの公園の面積が、東京23区の中で最少となっていますが、やはり公園は人々に必要とされている場なんだとあらためて思いました。また、私自身、業務でビル全体の防災に関わっており、この公園で子どもからお年寄りまで幅広い層の人たちが過ごしているのを見て、サンシャインシティの災害対策として、近隣に住むさまざまな層の人たちをも守るという視点は欠かせないと、感じました」
(※)参考:「豊島区の街づくり2019」(豊島区都市整備部都市計画課)
池袋エリア、そして豊島区の底力を多くの人に知ってほしい
トシマージュの一員として直近で実現させたいことは、「トシマージュ新聞」的な社内媒体をつくること。
「私たちトシマージュが池袋エリアや豊島区を盛り上げていく、後押しができれば、と思っています。そのためにも、まず、サンシャインシティグループの社員に、まちのことをもっと知ってほしいです」と、中村さんは意気込みを語る。
細井さんは住んでみてわかった、豊島区の強みがあるという。
「豊島区をよくしたいという気概のある人が多く、人のパワーがあります。豊島区在住・在勤・在学者が参加するオンラインイベントがあったのですが、みなさん、熱く語っておられ、豊島区愛の深さを感じました。また、社会貢献活動に取り組むボランティア団体の数が多く、子どもの居場所づくりのために一軒家を借りて活動している団体があったり、大勢の高齢者がボランティアとして活躍していたり、豊島区の底力を感じています。そんな豊島区で、私たちは働いています。他のエリアに比べ、おしゃれなイメージがないまちと言われたりもしますが、知られざる魅力があることを、社内はもちろん、多くの人に知ってもらいたいです」と、細井さん。
トシマージュがこれからの池袋、そして豊島区でどんな面白いことをやってくれるのか、豊島区民である筆者も楽しみにしている。
☆取材協力
株式会社サンシャインシティ
https://sunshinecity.jp/
※参考
『株式会社サンシャインシティの50年』(株式会社サンシャインシティ発行)
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