家賃の値下げ交渉はいつでもできる

賃料が周辺相場とかけ離れてしまっているときは、貸主からは増額、借主からは減額ができる賃料が周辺相場とかけ離れてしまっているときは、貸主からは増額、借主からは減額ができる

「10年以上同じ賃貸物件に居住しているのに、家賃は変わらない。家賃の値下げ交渉はできるか」と聞かれたら、原則として「家賃の値下げ交渉はできる」というのが回答である。借主による家賃の減額請求権は、借地借家法で正式に認められている権利となっている。賃料増減額請求権が定められているのは「借地借家法32条1項」であるが、その条文は以下の通りだ。

(借地借家法32条1項)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

借地借家法32条1項では、貸主からは賃料を増額する権利、借主からは賃料を減額する権利を定めている。請求できる条件としては、「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」としている点がポイントとなる。
簡単にいうと、賃料が周辺相場とかけ離れてしまっているときは、貸主からは増額、借主からは減額ができるということである。

家賃の値下げ交渉のタイミングは?

賃貸借契約の更新時でなくとも家賃の値下げ交渉をすることはできる賃貸借契約の更新時でなくとも家賃の値下げ交渉をすることはできる

賃料が周辺相場から不相当となっていれば、双方から相場賃料に是正することを主張できるとしているため、申出のタイミングとしてはいつでもよいことになる。

賃料減額は更新のときしか申出ができないと思っている人がいるが、更新はひとつのきっかけに過ぎず、更新時でないと申出ができないわけではない。

賃料が周辺相場と乖離していれば、契約期間中はいつでも申出をできるのであって、更新のタイミングと減額請求できるタイミングは関係がないのだ。

借地借家法32条1項は強行法規と呼ばれ、たとえ賃貸借契約書の中に「借主から賃料減額を請求することができない」という特約が定められていても、その特約は無効であり賃料減額は可能となる。

ただし、借地借家法32条1項が強制的に適用されるのは、普通借家契約と呼ばれる賃貸借契約の場合に限られる。
普通借家契約とは、更新ができる契約のことであるが、多くの賃貸住宅は普通借家契約で締結されているため、賃料減額は基本的にできると考えて構わない。

一方で、定期借家契約で「借主から賃料減額を請求することができない」という特約が定められていると、その特約は有効となるため賃料減額ができないことになる。
定期借家契約とは、更新ができない契約のことだ。

転勤期間中に貸し出されている物件等、一部の物件では定期借家契約が用いられているため、定期借家契約の場合に賃料の減額要求をするときは「借主から賃料減額ができない」旨の特約が定められていないことを確認することが必要となる。

長く住んでいる方が賃料減額しやすくなる2つの理由

長期間にわたり住んでいる賃貸物件は賃料が周辺相場と乖離していることが多いが、実際の状況は家賃相場などを見て確認しておきたい長期間にわたり住んでいる賃貸物件は賃料が周辺相場と乖離していることが多いが、実際の状況は家賃相場などを見て確認しておきたい

たとえば10年以上住んでいる物件等、長く住んでいる物件の方が賃料は減額しやすい。長く住んでいる物件の方が賃料減額をしやすいのは、主に以下の2つの理由があるためだ。

・賃料が周辺相場と乖離が生じていることが多い
・貸主の理解を得やすい

1つ目としては、長く住んでいる物件は賃料が周辺相場と乖離していることが多い点が挙げられる。アパートなどで隣の部屋が空いている場合、隣の部屋の募集賃料を確認したら自分の部屋の賃料よりも安くなっていることがある。
このような場合には、「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当」というべき状態であり、賃料減額を交渉しやすい。今借りている賃料を相場賃料に是正することは法律で認められている権利であるため、堂々と主張して構わないのだ。

2つ目としては、長く住んでいる物件の借主から賃料減額の申入れがあると、貸主の理解が得やすいという傾向もあると考えられる。特に長い間、一度も滞納をしてこなかった借主に対しては、一定の感謝の念も抱いており、「あの借主からの要求なら仕方がない」と申出を応諾することが多い。

長く借り続けている借主と貸主との間には、借主が思っている以上に信頼関係が築かれているため、実は賃料減額交渉が上手くいく確率が高いのだ。一方で、たとえば入居から1年足らずで賃料減額を申し出ると、断られてしまう可能性が高い。募集賃料は相場賃料で貸し出していることが一般的であるため、入居から1年程度であれば賃料が相場と乖離していることもほとんどないからだ。

よって、短期間しか借りていない場合には、賃料減額を交渉しても上手くいかないことが一般的となっている。

賃料減額の交渉ポイント

賃料減額の交渉ポイントは、あくまでも「周辺賃料よりも高いから下げて欲しい」ということを主張するに尽きる。相場賃料への是正を要求することは、法律で認められている権利であるからだ。

住宅では「収入が減ってしまったので家賃を下げて欲しい」、店舗では「売上が下がったので賃料を下げて欲しい」等のお願いをした場合、賃料減額交渉で失敗することが多い。貸主も家賃収入で生計を立てており、ローンを返済しているなどの事情があり一般的には収入減少を理由とした家賃の値下げ交渉は難しいと理解しておこう。借地借家法は、収入が減ったことを理由に賃料減額を要求できるとは規定していない。あくまでも周辺の賃料相場と乖離が生じている場合には、借主からも貸主からも是正することを請求できるといっているだけなのである。

よって、賃料減額交渉をするには、周辺の募集賃料を提示し、今の賃料が明らかに高いことを主張するのが最大のコツとなるのだ。

なお、収入が減ってしまったなどの理由により住宅の家賃の支払いが滞りそうな場合は、住居確保給付金の申請を検討してほしい。

家賃が払えない? 不安に思ったら住居確保給付金を思い出して
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_00780/

家賃の値上げを要求されたときはどうする?

家賃の値上げを要求された場合は、その理由などを確認し検討しよう家賃の値上げを要求された場合は、その理由などを確認し検討しよう

あまり多いケースではないとは思われるが、貸主から、賃料増額交渉を受けた場合、結論からすると増額に応じる必要はない。仮に出て行けといわれても、退去させられることもないからだ。

普通借家契約の場合、借主を退去させるには、貸主に正当事由と立ち退き料が必要となる。正当事由とは、借主を退去させる正当な理由のことを指す。家賃増額に応じないというのは正当事由にはならないし、それでも無理矢理退去させようとするのであれば、十分な立ち退き料が必要となってくる。借主は、貸主から退去を申出られたらお金をもらえる立場にあり、借りる権利が強く守られている。よって、借主は増額の申し出は断っても借り続けられるという強い立場にあるため、値上げを断わることができるといえる。

ただし、貸主とは今後も良好な関係を継続したいというのであれば、応諾するという考え方もある。最終的には貸主との関係をどうしたいかという心情的な問題もあるため、長期的な視野に立って判断するのがいいだろう。

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