通りの21本の街灯を、立ち飲み用テーブルにアレンジ
2020年10月14日から、東京・上野~湯島に位置する歓楽街・仲町通りで「上野・湯島ガイトウスタンド&テラス」が始まった。11月末までの金曜日と土曜日、定期的に開催される。主催は池之端仲町商店会、上野2丁目仲町通り商店会、湯島白梅商店会、アーツアンドスナック運動実行委員会、協力後援には東京大学都市デザイン研究室や飲食店などが名を連ねている。
17時になると約300mの仲町通りにある街灯42本のうち21本に小さな着脱式のテーブルが取り付けられ、来場者は通り沿いの飲食店からテイクアウトした飲み物、食べ物をそこに置き自由に楽しめる。初日の来訪者は約100人。グループが多く、おのおのが中華料理、イタリアン、寿司、シードルバーなどの計21店舗から好きなメニューをテイクアウトして街灯のスタンドテーブルに持ち寄り、密に気を付けつつもにぎやかに食とおしゃべりを堪能していた。
一方、設置期間中に通りの美観や衛生を保つため、近隣にあるメイドバーのメイドたちがスタンドテーブル周辺を定期的に掃除したり、テーブルを消毒して回るというプログラムも組み込まれた。また、通りの治安を維持するため、主催や商店会の人たちが法被を着て見回りを行う。色鮮やかなネオンに照らされつつ、楽し気な立ち飲みの来訪者たち、てきぱきと運営する人たち、歓楽街の店員たちも入り混じり、通りにはコロナ禍を忘れるような賑やかさが生まれた。
池之端仲町界隈の多様な課題に取り組む勉強会をきっかけに発案
今なぜ、この仲町通りで、このような取組みが開催されることになったのだろうか? 仲町通りのある池之端仲町界隈は、古くは寛永寺や湯島天神お膝元の町として栄え、江戸時代には界隈屈指の商店街として発展した。明治時代には花街となり、大正末期にかけて学者や商人、職人など多様な人々が集う文化的な場所だったという。しかし、戦後、売春禁止法や風営法改正の影響で花街が衰退し、いわゆる歓楽街へと変貌していく(参考:アーツ&スナック運動#1/アーツアンドスナック運動実行委員会刊)。また近年、一時は隆盛を誇っていたバーやスナックなどは次々と閉店し、空き店舗が目立つようになってきた。
「この地にあった日本の伝統的な文化は、目立たくなっているものの脈々と引き継がれています。そのような文化を再度育てていくとともに、空き店舗を解消する術を探りたい。そういった思いを一にする人々が集い、2019年初頭から地元ビルオーナーの方々と共に勉強会を開始しました。その結果、2019年9月に仲町通りで社会実験イベント、『第1回アーツ&スナック運動』が開催される運びに」と、一連の勉強会などの活動をはじめ、今回の「上野・湯島ガイトウスタンド&テラス」にも協力している東京大学都市デザイン研究室の永野真義助教は話す。「第1回アーツ&スナック運動」では空室となった居抜きのスナック店舗を活用し、現代アートや音楽のほか、日本の伝統的な組みひもといった伝統文化を紹介する内容とした。同イベントは2日間で258人の参加者を集め、また空きテナントに入居者が決まるなどの間接的効果をもたらし、2020年には第2回開催を予定していた。ところが、新型コロナウイルス感染症の拡大により中止を余儀なくされる。
「諸活動の自粛中にも、仲町通りの課題に関する勉強会は有志で続けられていました。そこで、代わりのアクションとして考え出されたのが、『上野・湯島ガイトウスタンド&テラス』です」(永野助教)
既存の道路占用物である街灯に着目
三密を避けるため、室内ではなく通りで街を支えるイベントができないか話し合っているうちに、街灯にテーブルを取り付けるというアイディアがぽんと出てきたのだという。2020年5月初旬のことだ。そのころまでは一般的に、オープンカフェなどの飲食店で店先にテーブルなどを置くために行政から道路占用が許可を受けることはハードルが高く、許可されるとしても目抜き通りなどに限られていた。
「楽しいに違いない!と意見が一致しただけでなく、実現の可能性もあるとみて開催を検討し始めました。もともと通りの街灯は商店会が占用許可を取って設置しています。ですから、これに小さなテーブルを加えるやり方は行政にも認められやすいのではないか、と」(永野助教)。その後、6月5日に「国道の路上利用における道路占用許可基準の緩和」が国土交通省から発表されたことも追い風となり、企画の準備は一気に進んでいった。
街灯に取り付けるテーブルは、アーツアンドスナック運動実行委員会の有志と永野助教が既製品を使ってデザインし、誰でもが簡単に組み立てられる仕組みを考えた。
食事、飲み物の提供に協力してくれる飲食店を募ることも課題ではあったが、新型コロナウイルス感染症対策の外出自粛期間中に、テイクアウト用のメニューを用意した飲食店も増えていたことから、新たなメニュー開発などの手間はないため、比較的協力を仰ぎやすかったという。商店会や実行委員会に属する不動産オーナーの方々が積極的に声掛けしたことも重なり、冒頭に紹介したように、通り周辺の計21店舗がメニュー提供の協力を申し出てくれた。
「自粛期間中に来客が減り危機感を感じている飲食店を応援することが一番の目的です。スタンドテーブルで訪問客が飲食することで、街に人が戻ってくるくっかけをつくり、店のPRにつながることも期待しています」(永野助教)
飲食店の新業態「ニューノーマル」の形を探る意義も
同イベントは、今後もバージョンアップしながら継続していく予定だ。訪問者にアンケートを取ったところ、「食べ歩きが楽しかった」「好きな場所が使える」「次回は(テイクアウトした)店を利用したい」「(見ず知らずの)上野演芸場に出演していた落語家さんがテーブルに加わってくれた」など、おしなべて好意的なコメントが多かった。一方で、「提供まで時間が長い」「テーブルの数が少ない」「女性だけでは怖く、見回りがいるのは心強い」などのコメントもあり、課題も浮き彫りになったという。
また、他地域での水平展開の可能性について永野助教に尋ねてみると、「他地域で開催する場合、まるきり模倣ではなく、それぞれの地域の特性に合わせて調整が必要ですね。例えば、(スタンドテーブルはあるにせよ)場所によってはゴミや治安の問題などを配慮し、食べ歩き、飲み歩き以外の使い方も検討すべきかもしれません」という回答が返ってきた。
実は、「上野・湯島ガイトウスタンド&テラス」は一過性のイベントではなく、コロナ禍によるニューノーマルを探る社会実験といった意味合いが大きい。
「今後、デリバリーやテイクアウトの利用はさらに増加し、定着するでしょう。今回の取組みは、そのような新業態をサポートする形を探る場でありたい。店の協力管理のもと、路上利用に伴う道路占用を継続するような方策を模索する機会になれば、と考えています」と永野助教は語る。
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