大阪の「コテコテ」に出会えるまち、新世界
大阪らしい観光名所ってどこだろう?ひと昔前なら、道頓堀川に架かる戎橋界隈をイメージした。あのグリコのネオンサインが輝くエリアだ。
しかし今なら、迷うことなく「新世界」と答える。⼤阪市のど真ん中、浪速区の一画に広がる新世界は、ビリケンさんでおなじみの通天閣を中⼼に、昭和の“あの頃”を感じさせる歓楽街である。
ホルモン焼きや串カツ、立ち飲み屋、将棋・囲碁サロンまで立ち並ぶ「ジャンジャン横丁」。ふぐの巨大提灯で知られる『づぼらや』本店がある通天閣の南側の通りは、よくテレビで取り上げられることで全国的に有名だ。
ひと昔前は「ガラが悪い」と敬遠する人が少なからずいたが、今や若者から家族づれ、さらに外国人旅行者も安⼼して楽しめるまちに変貌を遂げている。
その通天閣のふもとに寂れたシャッター商店街がある。100年以上の歴史があり、かつては人の波で身動きがとれないほどにぎわった「新世界市場」である。時は流れ、人波が途絶えてしまったことから“別世界”と例えられるほどひっそりとしている。
ところが、これまでの活気を取り戻そうと『Wマーケット』という週末市が話題を集めている。タイムスリップしたかのようなレトロな雰囲気はそのままに、現代風にアレンジしたあるコンセプトがうけている。このWマーケットが生まれたきっかけは何だったのだろうか?
興味津々で現地を訪れた。
コンセプトは「シャッター街で、遊ぼう。」
商店街の衰退が深刻化している。「いかに人を呼びこむか?」は、日本中の商店街が抱える共通の課題である。
そんな中「日本の古き良き商店街を守り、未来へ繋げたい」と、シャッター通りとなった商店街に可能性を見出す若きイベントプロデューサーがいる。株式会社トリックデザインの取締役・森田純多さんだ。大阪を拠点に「イベントをライフスタイルの一部へ」を掲げる企画運営会社である。
「ワンクリックで簡単にモノが買える時代だからこそ、対面でモノを選ぶ楽しみが求められている。私自身、子どもの頃に通った商店街のあったかさはいまだに忘れることがありません。ノスタルジックで人情味あふれる雰囲気はどこか心地よく、これから新しくつくることはできない」と、商店街について思いを語る。
森田さんは、バックパッカーとして東南アジアを半年間ひとり旅した経験があるらしい。
「異国の旅先には、値札のない市場があちこちにありました。そして、現地の人とのふれあいも印象的でした。だまされないかとヒヤヒヤしたこともあったけど、値切ってあたりまえ。身ぶり手ぶりで交渉して買った革の財布やリュックサックにはその時の思い出もつまっています」
日本でもこんな体験ができたら、おもしろいのでは?必ず商店街の活性化につながる。そんな考えから、「値札のないマーケット」を発案する。気になるものを買うには、必然的に対話が生まれる。売り手にとっても、買い手にとっても体験実験のような場になるだろう。週末のシャッター街で市場を開くことから「Wマーケット」(weekend priceless market)と名付けた。
しかし、このアイディア実現までの道のりは、決して一筋縄ではいかなかった。大阪の商店会数ヶ所に企画提案したものの、なかなか理解が得られなかったと言う。そんな時、新世界市場から反応があった。
「ようわからへんけど、まずはやってみ。これからも店を続けていきたいから、応援するわ」
こうして、森田さんの企画は動き出した。目標は、閉じられたままのシャッターを次々と開けることである。
モノの価値を見つめ直す。「これ、なんぼ?」から始まるコミュニケーション
Wマーケットの開催日は、お祭りのような雰囲気に一変。2017年7月に開催した初回は1日で2700名、筆者が訪れた同年11月の第2回目は3000名近くの来場者があった。
出店した屋台はおよそ30ブースで、アジア雑貨やカジュアル着物、エクアドルの織り布を使ったかばん、台湾グルメ、スリランカのチャイ、グアテマラ産の高級チョコレートなど多種多様。
手作りビーズアクセサリー「ワタシト」の店主・谷口紗希さんは「私はパリの蚤の市などをめぐり、ビーズを仕入れていることもあって、値札がないところにも親しみを感じました。アクセサリーに対する価値は受け手それぞれですね。日頃は委託販売なので、こうして向かい合ってアドバイスさせてもらえることがうれしい」と、にこやかだ。直接の値段交渉は、作り手の思いをていねいに伝えることができ、買い手もその思いを知ることで愛着が増すもの。だから、双方にとってメリットがあるといえる。
さらに同マーケットには「リアルクラウドファンディング」という資金援助がある。これは、これから店を持ちたい出店者と、実際の空き店舗を結ぶユニークなもの。お客さんが“もっと応援したい”と思えば、その場でカード(購入500円)を手渡しする仕組みで、たくさんのカードが集まったところに500万円の開業支援をおこなう。理由は明快で、魅力的な実店舗が増えれば、商店街の活性化につながるからだ。
フォトジェニックで“インスタ映え”するマーケット
見渡せば、数えきれないほどの赤提灯。まるで「千と千尋の神隠し」のワンシーンの市場に迷い込んだかのようで、気がつけば何回もシャッターボタンを押していた。行き交う人もカメラを持つ人が多い。
当日の様子は、インスタグラムのハッシュタグ(#)「wマーケット」でみることができ、400件を超える投稿がある。これは、被写体がもつ個性や意外性のほか、運営が若手中心でITコミュニケーションを得意とするところが大きい。集客のほとんどは、SNSをつかった情報発信とイベント当日に手配りするチラシのみだという。このような方法から、若者や外国人観光客が多くみられた。
市場をチャレンジの場に。そして、永続的なにぎわいを
運営事務局の森田さんが掲げるWマーケットの目標は、壮大である。
「めざすのは永続的なにぎわいであって、一過性のブームではありません。お客さんからの支持率の高い出店者には、“商店街の新しい顔”として開業支援し、空き店舗にマッチングする。これがリアルクラウドファンディングの目的です。商店街に若い世代を定着させることで、さらなる活気を生み出していきたい」と、意欲的。具体的には、2年間でおよそ10業者を現在の空き店舗につなぎたいと掲げる。
Wマーケットは、新世界市場商業協同組合の総意を得て、来春2017年の3月4日(日)より毎週末に開かれる定期市となる。「これからが正念場。よい意味でプレッシャーを感じています」と、本音をのぞかせる。まずは大阪で実績を出し、いずれはすべての運営ノウハウを全国の商店街へと引き継いでいきたいと展望を語る。
新世界市場でのにぎわい創出が功を奏し、各地へと波及し、寂れたシャッター通りが輝きを取り戻していく。「Wマーケット」がその復活の立役者になる日がやってくるかもしれない。
取材協力
Wマーケット :http://w-market.jp/
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