反響を呼んだ2015年末の「もし京都が東京だったらマップ」

9月10日に発売された『もし京都が東京だったらマップ』9月10日に発売された『もし京都が東京だったらマップ』

もし、京都が東京だったら…という2つの街の比較が2015年末、個人ブログで発表された。
作成者が、「あくまでも私見なので、"楽しむ・参考にする"程度にご使用ください」…と前置きをしたにもかかわらず、「もし京都が東京だったらマップ」は各方面で大きな反響を呼び、SNSでも拡散。20万を超えるアクセスがあり、"比較が面白い""なるほど、そうだなと思った""いや、全然違うよ"…と様々な意見が飛び交ったという。
今回、その内容をさらに深く紹介、一部のマップ修正も含めた新たな『もし京都が東京だったらマップ』が、9月10日に株式会社イースト・プレスよりイースト新書Qとして発売された。

このマップを作成したのは、addSPICEの代表 岸本千佳さん。
以前HOME'S PRESSで紹介した「京都移住計画」のメンバーのひとりであり、大学を卒業後、東京の不動産ベンチャーに入社しシェアハウス事業・DIY事業の立ち上げに従事したのち、現在京都を中心に空き家の活用やシェアハウスの企画などを含めた不動産業を営む。

「私自身は、東京にも京都にも…どちらの街にも住んだことがあり、愛着があります。京都という街に東京の地域名を当てはめることにこれだけの反応があったのは、やっぱり新旧の京(みやこ)の街だから、というのがあるのかもしれません。今回、たくさんの反響があったこともあり、再度、京都・東京と双方の街を丹念に歩いてみました。2015年末に出したものをもう一度推敲してみると、やはり違う部分も出てきて、新たに出し直したマップを掲載したものが今回の本です」という。

今回は、マップをつくったきっかけと目的、本の内容の一部も含めて、街の見方を聞いてきた。

何故、京都を東京の街に例えてみようと思ったのか?

「もし京都が東京だったらマップ」を作成した、addSPICEの代表 岸本千佳さん「もし京都が東京だったらマップ」を作成した、addSPICEの代表 岸本千佳さん

何故、京都を東京の街に例えてみようと思ったのか?その理由を岸本さんに聞いてみた。

「最初は単純な理由でした。私自身が現在京都在住で、仕事が不動産プランナーです。また、京都移住計画という活動の中で、職業がら移住者へ物件を紹介することが多いんです。土地鑑のない外から来た人に、わかりやすく街の様子を伝えるために、"例えていうなら、東京だと○○の街に近いですかね"と紹介していました。

京都を訪れる人は、京都全体がお寺や神社、古い町並みでできている、というイメージを持ちがちです。でも京都にも東京の下町っぽいところもあるし、新興住宅地のようなところもある。実は様々な街の顔をもっているんですが、それを伝えるのに“この辺りは、戸建ても多くて、近頃マンションなども建っていて……”と伝えるより、“中央線沿線の街のようなところです”と言った方が、知っている人にとっては共感を得やすい…ということもありました。

また、仕事柄、様々な建物の利用価値を高めるプランをする際に"この街にとってどんな建物をどう活用するべきなのか"を考えることが多いです。おのずと建物だけでなく、人々の暮らしを含めた街の様子・雰囲気を考えることになります。社会人になって以降、私自身の街の経験が東京と京都だったため、意識的にも無意識的にもそれぞれの街の特色を比べているのかな…とも思い、まずは自分の中でこの2つの街を整理してみたかったんです」という。

それぞれの街を比較して感じた「似ている街」と
それでも残る「京都らしさ」「東京らしさ」

1200年を超える歴史を持ち数々の文化遺産から世界中の旅行者にも人気の京都、また江戸から近代にわたり成長を続け今や世界の中でも先進的都市である東京……それぞれ一見全然違うような日本を代表する二つの京(みやこ)だ。それでも街の機能に必要な施設や建物がある場所からの動線や、人々がどのように暮らしているかによって、似通う場所が出てくるようだ。

「東京と規模は違うものの、例えば、四条大宮と赤羽は、駅前のビルにはサラリーマンや若い地元のお母さんが集まりますが、裏通りの飲み屋街には昼から飲んでいる人がいて、両者とも二面性を持った街です。烏丸と丸の内は、典型的なオフィス街でありながらも煉瓦造りの近代建築がきちんと残って活用されている点が似ています。」

お話を聞いていて面白かったのは、それでも“当てはめられない街”が双方に存在する、ということだ。

「ピンポイントでの場所は、似たような場所がもちろんあるのでしょうけど、例えば秋葉原のようなエレクトリカルでサブカルチャーの発信のような街は、京都のどのまちとも違う。変わり続けエネルギーを発する、まさに東京だからこそ、の街なのかもしれません。⼀⽅、京都でも 京都御所の北のエリアは東京のどの街とも⾔い難い……こちらは、歴史の重みと変わらず守りつづける京都らしさ、という中でもまた特殊な街なのかも、と感じています。

このマップは、むりやり京都のすべての街を東京の街に当てはめるのではなく、街を歩き比べて根拠のあるものを掲載しています。もちろん、人によって感じ方が違うとは思いますが、今回はもう一度、私自身で京都と東京それぞれの街を歩きました。また、新たな発見もあったし、改めて街の魅力に気づかされました。ブログで発表したマップをもう一度俯瞰し見返してみて修正したものを、新たに本の中では紹介しています」という。

「もし京都が東京だったらマップ」の一部。思わず“なるほど”と思ってしまうまちの比較もある。</br>品川・錦糸町は京都のどのあたりなのか?自身の経験から、想像してみるのも楽しい「もし京都が東京だったらマップ」の一部。思わず“なるほど”と思ってしまうまちの比較もある。
品川・錦糸町は京都のどのあたりなのか?自身の経験から、想像してみるのも楽しい

まちを歩いてみる、感じてみる、比較してみる、ことの効能

今回、本の中では、岸本さんと“街歩きの達人”三浦展氏との対談も掲載されている。
岸本さんと三浦氏との出会いは、三浦氏が『これからの日本のために 「シェア」の話をしよう』(三浦展著)の執筆のために当時、東京でシェアハウスの企画をしていた岸本さんに取材をしたことがはじまりのようだ。

「その後、街歩きにご一緒させていただいたりと、三浦さんからは“観察眼”を教えてもらいました。たとえば各住宅などの庭の造りから、昔の名残りや歴史が見えてくる…というような街の見方です。今回、三浦さんからは、"京都は工夫するのが上手な街。普通の住人が職人気質。というのがなるほど!と思った。それが現在京都に住む人にも引き継がれているんだな、と思った"というコメントをもらいました」という。

住まいの選び方、楽しみ方は少しずつではあるが、多様化してきた。カスタマイズやDIY、リノベーションなどで既成の住まいから、オリジナリティのある住まいを求める人々も増えている。しかし街については、これまで多くの場合、利便性や資産価値など不動産的な側面やイメージだけで評価されてきたように思う。

単なる京都と東京の比較……というだけでなく『もし京都が東京だったらマップ』は、改めて“街”というものが人々の暮らしの中で変化しつつ、守られつつ、多様な側面をもつものであることを気づかせてくれる本である。実際は、街には多様な暮らし方があり、豊かさがある。

まずは、街をイメージだけでとらえずに歩いてみよう。
自分の足で歩き、感じ、“知っている街と比較してみる”プロセスを経て自分なりの発見をすることが、住む街を選ぶポジティブな軸となることを期待したい。

写真)左上:四条大宮 右上:赤羽 左下:烏丸 右下:丸の内(※写真撮影:岸本千佳)<br />『もし京都が東京だったらマップ』の2つのまちの比較を通して、新たに自身のまちの魅力も発見できるかもしれない写真)左上:四条大宮 右上:赤羽 左下:烏丸 右下:丸の内(※写真撮影:岸本千佳)
『もし京都が東京だったらマップ』の2つのまちの比較を通して、新たに自身のまちの魅力も発見できるかもしれない

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