深刻な地方都市の諸問題。そして、ついに動き始めた「銀行」と行政の取り組み
少子高齢化により人口減少、そしてそれに伴う空き家問題。それぞれの行政や民間団体が、日本の抱えるこの問題の解決に向けて様々な動きを見せる中で、ついに「銀行」でも具体的な取り組みが行われ始めたのはご存じだろうか?
茨城県に本店を置く常陽銀行が2013年9月に発表した「賃料返済型リバースモゲージローン」。一見、どう空き家問題などに関わりがあるか分からない金融商品かもしれないが、画期的なローンなので今回紐解いて見ていきたい。
常陽銀行のリバースモゲージローンとは
皆さんは「リバースモゲージローン」をご存じだろうか?リバースモゲージローンとは、自宅を担保に融資をしてもらうタイプのローンだ。取り扱う金融機関によって制度上の違いはあるものの、高齢者などの契約者が持家を担保にして生活資金を借り、死亡したときに相続人が契約者の家の売却代金で一括返済する仕組みである。
しかし、常陽銀行が発表した「賃料返済型リバースモゲージローン」は、今までのタイプと異なる。同銀行の地域協創部 担当課長 池田重人氏によると「従来のリバースモゲージローンは自宅を担保に融資を行い、契約者が死亡した後に家を売却して返済する仕組みでしたが、不動産価格下落リスク等、大きなリスクを内包しているため、なかなか普及しませんでした。そうした仕組みを改善して新しく作ったのが今回の賃料返済型リバースモゲージローン」ということだ。
賃料返済型リバースモゲージローンとはどういったローンなのか。
通常の借り主と銀行の間にJTI(※)が入っており、下の図のような形になる。詳細に言うと、対象の家をJTIが最長35年間一括借り上げを行い、ここから入ってくる家賃を返済原資としてローンを常陽銀行と組むというものだ。例え、その家に入居者が入らなくても、JTIは家賃の支払いを保証してくれるため、給与所得や年金所得からの持ち出しの必要はないという。
※JTI(ジェイティーアイ)…一般社団法人移住・住みかえ支援機構のこと。移住あるいは住み替えを希望しているシニア層の住宅を借り上げ、子育て世代を中心に転貸する非営利法人
売却しなくても住み替えができる?
この商品特徴をまとめると下記になる。
・家を売却することなく現金化が可能
・売却を前提としていないため家を保有し続けることが可能。将来的には子息への相続も可能
・家賃をベースにして家を評価することにより、売却した場合と比較して、評価上有利に働くケースもあり
では、実際にこの制度を利用するケースはどんなものだろうか。2つのケースが想定できる。
1つ目が、高齢者の人の住み替えだ。有料老人ホームなどの施設に入る場合、施設によっては入居時に一時金として1,000~2,000万円必要となるケースもある。そんな場合に、今まで貯めた預金を切り崩すのではなく、持家をこの制度にあてはめ賃貸に出すと、入居一時金の借り入れなどが、家の売却や預金の切り崩しなしでできるということだ。
2つ目として、高齢者だけでなく30~40代といった子育て世帯の住み替えだ。例えば、都内で若い時にDINKS用マンションを購入したが、子供が生まれ手狭になったとする。しかし、既にあるマンションの住宅ローンはまだ残っており、そのため住み替えができないというケースが多いという。売却しても、残りの住宅ローンが全額返済できるという確証はない。そうした場合、今回の制度を使うことで、借りたお金をローン返済にあてて、住宅ローンを新たに借りられるという。また、売却はしないため将来的に、子供が巣立ち2人になった時にまた使えるというメリットもあるようだ。
土浦市と協働で促進を狙う
またユーザーだけでなく地方自治体としてもメリットがある制度だ。JTIが空き家を賃貸化することで、空き家問題の対策、そして街への人口流入も期待できる。現在の茨城県は平成25年住宅・土地統計調査で見ると空き家率は14.6%と、全国平均13.5%を上回る。空き家を何とかしたい行政と、空き家に一手を打ち出した賃料返済型リバースモゲージ。
こうした中、2014年9月24日に土浦市と常陽銀行は連携協定が結んだ。この協定は、常陽銀行の賃料返済型リバースモゲージローンを使い住み替え促進地域活性化を目指すというものだ。土浦市の「中心市街地の活性化基本計画」と連携して、「まちなか定住促進」を促す。
今後の展開は?
国土交通省 住宅局住宅政策課長 坂根工博氏によると、
「今回の取り組みは地方銀行が地方自治体と連携しながら思い切った措置を講じたものであり、政府一体となって取り組みを進めている地方創生の観点からも大きな意義を有するものと考えています」ということだ。
まだまだ始まったばかりだが、こうした取り組みが、地方の空き家問題の解決や人口流入につながるのを期待したい。
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