同じ会社から買っているのに、価格差2倍以上の不公平
2軒の、同じプロパンガス供給会社からのガス料金の請求書兼領収書が2枚あるとしよう。いずれも2013年のある月の使用量とその料金を知らせるもので、1軒の領収書の基本料金は1200円、従量料金は立米当たり520円。しかも、領収書には「原材料価格高騰のため、翌月からは従量料金を立米あたり560円に値上げする」とある。
一方、もう1軒の領収書は基本料金が1500円。少し高い。だが、驚くのはここの家の従量料金である。立米あたり250円と前出の家の半額以下なのである。さらに、こちらの領収書には前出のような値上げのお知らせはない。同じ会社が供給しているのに、どうしてこのような差が生じるのか?
神奈川県で、全国に先駆け、不明朗と悪評高いプロパンガス料金の公表に踏み切った株式会社カナエル代表取締役社長の関口剛さんによると「全ての会社がこうしたやり方をしているわけではなく、きちんとした会社もある一方で、一部には、値上げに文句を言わないお客様の価格はどんどん上げ、文句を言うお客様は安値で据え置き。そうした不公平が行われているのです。その結果、同じ会社が供給しているにも関わらず、料金が倍も違うということが起きてしまう。現在(2013年11月現在)の神奈川県内のプロパンガス価格は平均で500円前後ですから、この会社では黙って値上げに応じるところから取れるだけ取り、面倒な客の穴埋めをするというやり方をしているのだろうと推察できます」。
安値で勧誘、文句を言わない客には値上げ、値上げの嵐も
家庭で使う熱源は電気、ガスの2種類。うち、電気は「電気事業法」、都市ガスは「ガス事業法」によって料金も含めた認可制となっており、同じ事業者が供給する範囲において、各戸ごとに異なる料金が存在することはない。
だが、プロパンガスに関する「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」(液石法)は1996年の規制緩和により消費者の利益を高めることを目的に、開業が認可制から届出制となり、参入障壁が下がり、事業者間の競争が促進された。その結果、もともと料金設定が自由だったこともあり、家庭を個別に訪問、安値で勧誘した客をガス事業者に紹介するというビジネスが生まれた。
もちろん、勧誘時の安値のままで商売が成り立つ訳はなく、勧誘後、早ければ半年もすれば値上げが始まり、上記のように客の対応次第ではあっという間に以前利用していた会社の価格以上にもなりかねないのが現状。消費者は安値だからと勧誘されたにも関わらず、最終的には高値で買わされる恐れがあるわけだ。
規制緩和されたのに、価格は下がらない。その理由は?
しかし、一般には規制緩和、価格競争は消費者にとって良い方向、つまり、価格下落に働くと思われている。なぜ、プロパンガス業界では、価格が安くなっていないのか。
「もともと、プロパンガス業界では地元密着型の企業が大半だったなどの理由もあり、互いにユーザーを取り合わないような暗黙の了解があり、料金を明示してきませんでした。規制緩和後も勧誘業者は戸別に『お宅だけは特別ですよ』といって価格が公表されにくいような方法を取っており、100軒あれば100通りの料金があると言われるまでに複雑化してしまった。この状態ではいくら競争促進のための政策が行われても、公正な競争原理は働きません」。
LPガス特有の季節変動、地域差も問題を複雑にしているという。「LPガスはサウジアラビアからの一方的な通告によって価格が決まる上に、需給バランスから夏には下がり、冬には上がる傾向があります。また、地方や山間部など運送費がかかる場所では高くなり、使う量が少ない場所では割高になりがちといったように地域差もある。そのため、単純に比較しにくい部分があるのです」。
賃貸住宅入居者の負担はより割高になりがち
最近ではマイコンメーターの普及でガス漏れ事故は減少しているが、カナエルでは異臭がすると連絡があれば、すぐに保安担当が出動する。写真は石鹸水を利用したガス漏れ探知剤。ガス管に吹き付け、泡が膨らむかどうかでガス漏れを検知する
加えて、神奈川県の一戸建ての平均価格が立米500円だとすると、賃貸住宅ではそれよりも3~4割、あるいはそれ以上に高いガス料金を払っているケースがあるという。それは住宅建設時にガス関連の設備をガス会社が負担、建設されている場合があるため。
「建築会社、管理会社が大家さんにガス会社を紹介すると、ガス会社から紹介料が出ます。そのため、建築会社、管理会社は大家さんに負担なしでガス器具を付けてもらえますよとガス会社を紹介、その費用はガス料金に上乗せして入居者が負担することになっているケースがあるのです。たとえば10戸で100万円の設備費用がかかったとすると、それを10万円ずつ各戸の料金に上乗せする。そのため、入居者のガス料金は一戸建ての相場よりも高くなってしまうのです」。
集合住宅の場合、ガス関連設備は大家さんのものであるため、料金が高すぎると不満を持っても供給会社を替えることはできない。所有の問題からだけでなく、1カ所から全戸に供給するというシステムであるため、物理的にも不可能なのだという。つまり、ガス料金の高い部屋を選んでしまったら、退去するまでは高値に我慢し続けなければならないというわけだ。
自由競争を消費者に有利に生かすためには情報公開が必須
こうした不利を被らないためには、また、公正な競争が行われて価格が下がるようになるためには、何よりもまず、情報が公開される必要がある。カナエルが行ったプロパンガス料金公開はその端緒となることを願ったもの。行政、それを願う同業他社からは評価されているそうだが、これからの課題は消費者が自分の地域の料金を知りたいと声を上げることだと、関口さんは言う。
「規制緩和は法律でできることですが、一部の事業者にとっては都合の悪い価格公表を法律で強いることは難しいでしょう。でも、消費者が知りたいと言い出せば、いずれは公表するところが出、公正な競争が行われるようになるのではと思っています。また、今後も選ばれるエネルギーであるためには、LPガスの価値を多くの人に知っていただくことも大切だろうと思っています」。
都市ガスの普及が進んでいるとはいえ、プロパンガスは全国の半数の世帯が使うエネルギー。石油、ガソリンなどに比べてCO2の排出量が少なく、都市ガスの倍以上の熱量を持つという優れた特性があり、災害時にも住宅内の配管の修理のみで、短期間に復旧させることができる。普段から各家庭に設置されているボンベはもしもの時の備えにもなるはず。そんな重要なエネルギーの価格が不公平、不明朗なままで良いとは思えない。カナエルに続く会社が登場、情報が公開されていくことを期待したい。
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