富山県第二の都市、高岡市は歴史のある街並み、寺社仏閣に加え、銅器、漆器などの工芸品の産地でもある多面性のあるまち。だが、その魅力が知られていないと地元の不動産会社が魅力を伝える活動を続けている。空き家、空き店舗を活用して地域に回遊性を生み出し、訪れる人を増やそうという計画を聞いてきた。

商工、流通の拠点として発展してきた富山県第二の都市・高岡

富山県高岡市での酢谷不動産の分散型ホテル計画をご紹介する前に、まずは高岡市の概要を見ておこう。

富山県第二の都市、高岡市は加賀藩2代目藩主の前田利長が築いた高岡城の城下町として発展。その後、徳川幕府の一国一城令に伴い、高岡城は廃城となるものの、3代目藩主前田利常は高岡の商工振興を推進。藩政時代から加賀藩の収納米の集散地だったことに加え、綿や魚、塩その他の問屋、市場が集積、古くから一大流通拠点としても栄えてきた。

その繁栄を偲ばせるのが市内に2ヶ所ある重要伝統的建造物群保存地区(以下重伝建)。ひとつは1900(明治33)年の大火の後で築造された土蔵造の大きな商家が並ぶ山町筋。この通りを中心に開催される高岡御車山祭の御車山行事は400年以上続く伝統行事で、国の重要有形・無形民俗文化財の両方の指定に加え、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。

高岡城のあった場所は現在は公園になっている(筆者撮影)高岡城のあった場所は現在は公園になっている(筆者撮影)
高岡城のあった場所は現在は公園になっている(筆者撮影)山町筋の建物。土蔵から煉瓦造の洋館まであり、見ていて飽きない。煉瓦造の旧富山銀行本店は2028年の完成を目指してホテル、レストランに改修される計画がある(筆者撮影)

もうひとつは山町筋と千保川を挟んで立地する職人のまち、金屋町。高岡市は鋳物、銅器産業で知られるが、その始まりは前田利長が領内の砺波郡金屋から鋳物師を招いて金屋町に鋳物場を開設したことに始まる。山町筋とは異なり、千本格子のある比較的小規模な町家が並ぶエリアである。

高岡は戦災に遭わなかったため、こうした古い街並みが残され、それがまちの財産になっているのだが、それは一方で中心市街地に細街路を残すことにもなった。路地沿いには古い木造住宅が残されていることも多く、近年は空き家も目立つ。

高岡城のあった場所は現在は公園になっている(筆者撮影)金屋町の街並み。金屋町通りに沿って江戸時代から昭和初期前に建てられた町家が連続して残っている(筆者撮影)
高岡城のあった場所は現在は公園になっている(筆者撮影)道幅といい、家の造りといい、山町筋とは全く異なる雰囲気(筆者撮影)
新幹線駅である新高岡駅と既存駅・高岡駅は2キロ近く離れており、バス便で結ばれている(筆者撮影)新幹線駅である新高岡駅と既存駅・高岡駅は2キロ近く離れており、バス便で結ばれている(筆者撮影)

中心市街地の空洞化に加え、災害時の懸念もあり、市では2007年以降中心市街地の活性化に取り組んできた。だが、2015年の北陸新幹線開業のようなプラスもあれば、2019年の中心市街地からの百貨店撤退といったマイナスもあり、活性化は一進一退のように見える。

そんな高岡市にある酢谷不動産は1971(昭和46)年創業。前身は昭和初期の酢谷組に遡るそうで、その当時は曳家、建物の移転、橋の架け替え、高岡市役所の解体といった作業を引き受けて来たのだとか。まちの発展とともに歩んできた会社なのである。

その酢谷不動産が2026年4月に市内中心部に新たな分散型ホテルを展開するプロジェクト「DEN」を進めると発表した。同年5月にはホテルの受付となるレセプションがプレオープン。今後は宿泊、飲食、交流施設などを分散配置、2031年までに中心市街地に順次開業させる予定だという。

高岡城のあった場所は現在は公園になっている(筆者撮影)山町筋からもほど近いところにある酢谷不動産。レトロな雰囲気で目立っていた(筆者撮影)

社会課題に取り組むという酢谷不動産の経営方針

酢谷不動産の三代目、清水さん(筆者撮影)酢谷不動産の三代目、清水さん(筆者撮影)

酢谷不動産の三代目、清水悟さんが地域に関わるようになったのは2017年11月に山町筋に明治期創業の文具店だった空き家を再生してグランドオープンした「山町ヴァレー」がきっかけ。

この建物は山町筋の中心部に位置しており、通り沿いに1929(昭和4)年築の西洋建築と1903(明治36)年築の土蔵造りが並び、その裏側に中庭を囲んで6つの土蔵が立つという大規模なもの。ところが、2012年前後くらいから空き家になっており、地元の人達たちはこの建物を何とかしなければと検討を始めていた。その過程で地元の重鎮たちから声をかけられたのが叔父の会社である酢谷不動産に中途入社した清水さんである。

山町筋の中心に立つ山町ヴァレー。1階には街の案内所が入る(筆者撮影)山町筋の中心に立つ山町ヴァレー。1階には街の案内所が入る(筆者撮影)

「叔父が体調を壊したことをきっかけにそれまでやっていた住宅営業の仕事を辞めて入社することになったのですが、そこで仕事をしているうちに縁とタイミングがあり、山町ヴァレーを計画していた地元の方々に誘われて、一緒に株式会社町衆高岡という会社を設立することになりました。この会社は再生された建物のテナント誘致、管理、運営、イベント企画などを担当。山町ヴァレーは2016年から2018年にかけて3年かけて改修、オープンしました」と清水さん(以下、コメントすべて)

大学で3Dモデリングで古い街並みを残す研究をしていたという清水さん。地域には関心があったが、どうやら、まちづくりへの参加を求められたのはそこではなく、今思えば、当時20代の若手であったことやプレーヤーとして活動できる行動力があったことが要因としてあったのではないかという。

「中心になっていたのが地元の高岡を大切に思っていらっしゃる方々で、そこに次世代を担う若手をということで私を含め、何人かが加わることになりました。私が誘われたのは、指示を待つのではなく、自分から動くタイプの人間だったからかもしれません」

事業をやっている人であれば普通はまず、収益を考える。だが、清水さんは本業を疎かにしない、赤字にしないことは当然として、それ以外の活動では収益よりも実績になるかどうかを優先するという。目の前のお金より、将来、それ以上にお金を生んでくれるかもしれない実績をというのである。

「CSV経営という考え方があります。Creating Shared Valueという意味で、日本語では共通価値の創造と訳されますが、企業が社会課題を解決する事業などに取り組むことで社会的価値を生み、それが最終的には企業の利益として経済価値を生むというもの。地域に必要とされる事業に参画することが将来的には自社にも利益をもたらすと考えれば、目の前の利益より実績をという考え方になるわけです」

従来の資本主義の考え方では企業の利益と公共の利益は相反する、低コストの追求が利益を最大化するとされてきたが、それとは異なる考え方が生まれ、広がっているのである。

地域に愛着を持つ人を増やし、点在する観光地を繋いで面へ

山町ヴァレー開業と同時期に、清水さんは高岡商工会議所青年部で観光分野の委員長を務めた。そこで高岡市内には2ヶ所もの重伝建地区があり、それ以外にも高岡大仏や国宝になっている瑞龍寺など観光名所が多々あるにもかかわらず、観光地化できていないのはなぜだろうと考えるようになった。
その後、会社の隣にあった空き家を買ってくれないかという相談が舞い込んだ。

「委員長を経験後、1階に歯科医院、2階が住宅という会社隣接物件の売却依頼がきて、これを買わないでどうすると思いました。ちょうどインバウンドが増え始めていた時期でもあり、宿泊業を始めようと考え、2020年10月には1棟貸しのゲストハウス『縁川-Engawa-』をオープンさせました。オープンした途端にコロナ禍で大変でしたが、点在する空き家を宿泊施設にすれば今後、収益が上がることは分かりました。次の問題は高岡を訪れる理由を作ること。そのためにはまちを回遊するためのコンテンツが足りないと考えました」

2つの重伝建地区に加え、日本三大仏のひとつ、高岡大仏(左上)、国宝瑞龍寺(右上)、ドラえもんトラムが走る万葉線(左下)、海の幸が楽しめ、繁華な飲食店街(右下)など高岡市には魅力がいろいろある(筆者撮影)2つの重伝建地区に加え、日本三大仏のひとつ、高岡大仏(左上)、国宝瑞龍寺(右上)、ドラえもんトラムが走る万葉線(左下)、海の幸が楽しめ、繁華な飲食店街(右下)など高岡市には魅力がいろいろある(筆者撮影)
2つの重伝建地区に加え、日本三大仏のひとつ、高岡大仏(左上)、国宝瑞龍寺(右上)、ドラえもんトラムが走る万葉線(左下)、海の幸が楽しめ、繁華な飲食店街(右下)など高岡市には魅力がいろいろある(筆者撮影)自社の隣にある空き家を利用した宿泊施設Engawa(2階)。1階にはイタリア料理がテイクアウトできる惣菜店が入っている(筆者撮影)
清水さんが企画、管理、運営に関わっている長屋を改修したプロジェクト「サカサカ」の2階店内(筆者撮影)清水さんが企画、管理、運営に関わっている長屋を改修したプロジェクト「サカサカ」の2階店内(筆者撮影)

市内にはいくつものコンテンツがあることは前述の通り。だが、それらは点として存在しており、面としては存在していない。外からわざわざ高岡を訪れ、宿泊してもらうためには、あるものをより良くするコンテンツを考える必要がある。そのためにはまず、地域に愛着を持つ人を増やすような親しみやすい場、モノを作ることで地元を変えていこうと考えた。そこで暮らす人達たちに楽しい場は外の人たちにも魅力的なはず。不動産はそのために役立つだろう。

以降、同社では空き家を買って店舗その他の収益物件にするなどの活動で、地域に新しい意味を生み続けてきた。去年は月に1件をくらい購入し続けていたそうで、今後さらに分散型ホテルを作る計画でもすでにストックは数軒あり、順次改修してリリースしていく予定だという。

2つの重伝建地区に加え、日本三大仏のひとつ、高岡大仏(左上)、国宝瑞龍寺(右上)、ドラえもんトラムが走る万葉線(左下)、海の幸が楽しめ、繁華な飲食店街(右下)など高岡市には魅力がいろいろある(筆者撮影)路面電車 万葉線「坂下町」電停前の長屋群を改装したサカサカ。飲食店などが入っている(筆者撮影)

「市内には7万棟ほどの建物があり、そのうち、1万棟ほどが空き家なのだとか。県内ではそれほど上位というわけではありませんが、それなりの数があります。それらを使っていけば地域に新しい価値を生むことができます。
幸い、かつては安くは貸したくない、自分の気に入った人にしか貸したくないと仰っていた地権者の皆さんも最近は丸くなられ、少しずつ使える空き家が出てくるようになりました。ある人には必要のなくなった建物でも、見る人から見れば価値。それを活かしていこうと思っています」

ちなみに高岡市の中古不動産価格は新幹線停車駅の新高岡駅周辺で3.3m2あたり25~30万円。旧市街地では10万円を切ることもあるそうで、不動産を使って何かやりたいと考える人には比較的やりやすい。不動産の使い方を知っている人には可能性のあるまちと言えるかもしれない。

2つの重伝建地区に加え、日本三大仏のひとつ、高岡大仏(左上)、国宝瑞龍寺(右上)、ドラえもんトラムが走る万葉線(左下)、海の幸が楽しめ、繁華な飲食店街(右下)など高岡市には魅力がいろいろある(筆者撮影)街中を歩いていると建物が取り壊されてできた更地、使われていない建物などを目にすることも。このまま、壊し続けたら中心部が空き地だらけになるのでは?と不安に思った(筆者撮影)
2つの重伝建地区に加え、日本三大仏のひとつ、高岡大仏(左上)、国宝瑞龍寺(右上)、ドラえもんトラムが走る万葉線(左下)、海の幸が楽しめ、繁華な飲食店街(右下)など高岡市には魅力がいろいろある(筆者撮影)新高岡駅前には映画館もあるイオンモールが誕生。人を集めている(筆者撮影)

山町ヴァレーで受付、まちなかを回遊して宿へ

山町ヴァレーを入ったところにある受付。いずれはここでチェックインを行う(筆者撮影)山町ヴァレーを入ったところにある受付。いずれはここでチェックインを行う(筆者撮影)

さて、分散型ホテルである。計画では山町ヴァレーに受付が置かれ、客室は市中に点在することになる。すでに1室目も完成間近ということで見学させていただいた。

まずは受付が置かれる山町ヴァレー。これは前述の通り、旧市街地のメインストリート中心部にあり、周辺からでも目立つ建物。通りに面した入口を入ったところにフロントが用意されており、日中はここに受付スタッフが常駐する予定。時間外は無人でチェックインができるようになる。これは既存のゲストハウス「Engawa(エンガワ)」と同様だ。

受付を抜けたところには中庭があり、それを囲むように6棟の蔵。蔵にはタイ式マッサージとヨガのサロン、ランニングとトレイルランニングの専門店、着物屋さん、ドライヘッドスパ専門店、ネイルサロンなどが入っている。通りに面しても2棟の蔵があり、こちらには韓国家庭料理の店、クラフトビールの楽しめる飲食店が入っている。

山町ヴァレーを入ったところにある受付。いずれはここでチェックインを行う(筆者撮影)中庭を中心に蔵が並び、それぞれが店舗になっている。右下は入口を入ったところで、地域を案内する資料、書籍などが置かれている(筆者撮影)
山町ヴァレーの向かいにある菅野家住宅。広壮な、手の込んだ造りの住宅である(筆者撮影)山町ヴァレーの向かいにある菅野家住宅。広壮な、手の込んだ造りの住宅である(筆者撮影)

また、通りを挟んでは、手の込んだ作りで保存度の良さが目を惹く菅野家住宅(国指定重要文化財)があり、一部は公開されている。それ以外ではちょっと洋風な趣が異色の井波屋仏壇店(国登録有形文化財)、2階の窓に設けられた土扉が重厚な筏井家住宅(富山県指定有形文化財)、今後活用が検討されている赤煉瓦の銀行・旧富山銀行本店などが並び、建物好きなら時間を忘れて眺めてしまいそうである。この街の工芸品の質の高さを知るなら高岡御車山会館も必須。宿泊者はこのあたりを楽しんでから自室へ向かうことになる。

秋にオープン予定で、すでにほぼ完成に近づいている部屋が立地するのは加賀藩主が参勤交代や鷹狩りなどの際に休憩・宿泊したという御旅屋(おたや)に由来するエリア。部屋があるのはアーケードのある御旅屋町商店街の中で、1階には炭焼き料理を出すレストランが入っている。

山町ヴァレーを入ったところにある受付。いずれはここでチェックインを行う(筆者撮影)1室目となるOTAYA BASE。1階には飲食店が入っている(筆者撮影)
2階の多目的に使えるレンタルスペース(筆者撮影)2階の多目的に使えるレンタルスペース(筆者撮影)

DEN OTAYA BASEと名付けられた施設は2階、3階から成り、2階はヨガやダンス、ワークショップや会議などに使えるレンタルスペース。客室は3階にあり、細長い客室には4人で寝られる造り付けの大型のベッドがある。さらにもう一台ベッドも置かれ、全体では6人までが泊まれるようになる。

シャワースペース、キッチンはコンパクトに作られている。それは飲食などは外で楽しんでほしいという思いから。1階の店舗も含め、周辺には飲食店が集積しており、早い店は午後3時から開店している。地元の鮮魚を出す店も多く、宿は寝るだけの場所と考え、街を回遊してもらおうというのである。

第一号物件が宿泊だけでなく、レンタルスペースもある空間であることからも分かるようにプロジェクト「DEN」では宿泊のみならず、飲食店、交流施設などを分散配置し、回遊性の向上や中心市街地の賑わいに繋げていこうという考え。見学した御旅屋のほか、坂下町、末広町、新高岡駅前などでの施設の改修が進行中。本格的に動き始める日も近い。

そして、もうひとつ、収益よりも実績という考え方は山町ヴァレーに関わり始めて10年で大きく花開いた。地元出身ではない清水さんだが、地域のランドマークとなる物件再生に無私で取り組んだことが信頼に繋がり、紹介で仕事が入ってくるようになっているのだとか。その信頼に後押しされ、清水さんの、次代の子どもたちに誇れる故郷を残したいとの思いは確実に実現に向かっている。

山町ヴァレーを入ったところにある受付。いずれはここでチェックインを行う(筆者撮影)3階の客室。中央に見えているのは4人用の大型ベッド(筆者撮影)