住まいの断熱とは?

新築やリフォームの際、耐震性や断熱性、耐久性、防犯性など性能に対する消費者の意識は高まっているようだ。
その中でも断熱性は、省エネルギーや光熱費削減だけでなく、健康面などから重要なポイントであることは、ある程度認知されているといえるだろう。特に、夏場の危険な暑さによる熱中症も問題になっている昨今、暑さ対策としての断熱性は重要なものとして認識されつつあるように感じる。

しかし既存住宅のうち、現行の省エネ基準を満たしている住宅はわずか13%とか。残りの住まいは夏暑く、冬は寒いというのが現状だ。

LIXILが実施したセミナーでは、「家電と断熱の正しい使い方とその効果」をテーマに、LIXIL 住まいStudio東京館長 古溝洋明さんと東京電力エナジーパートナー株式会社 「家電王」中村剛さんのトークセッションが行われた。断熱性を確保し、家電を上手に利用することで得られる効果、よくある誤解についてなどの話を聞くことができた。

そもそも断熱とは何か。
古溝さんは、「断熱というのは、文字通り熱を遮断すること。住まいの場合、夏であれば外の暑い熱を中に入れない、冬であれば温めた熱を外に逃がさない、つまり室内と室外の熱移動を断ち、外からの影響を受けにくくすることです」と話す。

熱は、建物の躯体(くたい)、窓や扉といった開口部などを伝わって出入りする。冬の冷たい空気や夏の暑い空気の侵入を防ぐことで、家全体の温度差を減少させ、快適な室内環境を実現することができる。冷暖房など無駄なエネルギー消費を減らすことも可能。断熱性能の高い住宅とするためには、床・壁・天井に「断熱材」を施工することはもちろん、窓や扉といった開口部に用いる「断熱開口部材」などを用いて家全体を包むことが重要だ。

断熱住宅でも夏はちょっとした工夫が必要断熱住宅でも夏はちょっとした工夫が必要

リフォームで断熱性を高める手法も多様。夏場は遮熱も意識したい

新築では、条件に適した断熱性能を持つ建物を設計することによって、快適さを確保できるが、リフォームの場合はどのような手法があるのだろうか。

最近では、施工会社や建材メーカーなどで多様な断熱リフォームの提案がみられる。一棟すべての断熱性能を高める工事だけでなく、ひとつの部屋だけ特化して断熱性を確保するプラン、もしくは開口部で大きな割合を占める窓の断熱性を高める方法もある。古溝さんは「熱の出入りが激しいのは窓やドアなどの開口部です。特に優先すべきなのは、大きな面積を占める窓ではないかと思います」と話す。

「LIXILの『まど断熱』リフォームには、壁を壊さずに新しい窓に取り替える方法(取替窓リプラス)と今ある窓の内側に内窓として取り付ける方法(内窓インプラス)のふたつのプランを提案しています。これらは、最短1時間で簡単にリフォームが可能。今年度は、省エネリフォームに対する国の補助金制度もあるので、お得に設置することも可能です」と古溝さん。既存の窓の状態や予算など条件に合わせたプランを検討するといいだろう。

また、窓のプランニングの際には、断熱と同じぐらい大切なのは、夏場の遮熱だ。古溝さんは「日中の日差しによって天井や壁に蓄えられた熱が徐々に室内に伝わり、部屋が暑くなっていることもあるので、窓の外で熱を遮断することが重要です」と話す。

窓の断熱に関しては、スペーサーと呼ばれる部材を用いて、2枚または3枚の板ガラスの間に中空層を持たせた複層ガラスを用いることが基本。加えて遮熱性を高めるためには、ガラスの間に特殊な金属膜(Low-E膜)をコーティングした「Low-E複層ガラス」を室外側に用いたタイプを取り入れたい。夏場の日射を遮り、冬場は室内の暖房熱を反射し逃がさないため、冷暖房の負荷を抑えることが可能だ。西日のあたる部屋など、立地条件や間取りプランに合わせて組み合わせて使用するといいだろう。

また、窓からの強い日差しを遮るアイテムとしては、昔から簾(すだれ)や葦簀(よしず)があるが、最近では窓の外に設置するシェード(スクリーン)も注目されている。古溝さんは、「西の日差しは横から入ってくるので、窓全体をすっぽり覆うシェードが有効です。室内温度の上昇を抑え、エアコンなどの電気使用量を低減させることにもつながります」と話す。

メーカーからもさまざまな商品がラインナップされているが、外壁や窓枠、テラス屋根やバルコニーなどに取り付け、引き出して使用するもので、自動巻き上げで収納されるタイプもある。適度に光を取り込めるので、部屋の中が暗くなることもない、プライバシーを確保することも可能だ。

室温のムラをなくすことで室内熱中症のリスクに対応室温のムラをなくすことで室内熱中症のリスクに対応

断熱性の高い住まいを確保すれば、家電の使い方でより快適に

「断熱性能の高い家は、夏も涼しく過ごすことができます。ただ、断熱住宅はエアコンで冷やされた空気が室内にとどまり涼しい空間が保てますが、高断熱住宅では熱がこもってしまう『オーバーヒート』という現象が起きることもあるので、少しの工夫が必要です」と古溝さん。

中村さんは、「熱がこもるのを防ぐためには、遮熱することと合わせて、エアコンとサーキュレーターを適切に使用することが必要です。部屋の温度を適切に保てるように空気を循環させ、こまめに温度計で室温を確認できるといいですね」とアドバイスする。

「性能の高い最新のエアコンに買い替えることができればいいですが、既存のエアコンでも上手に活用する方法はあります。暖かい空気は上に、冷たい空気は下に行くものなので、夏場はサーキュレーターなどを使って冷たい空気を部屋中にいきわたらせることがポイント。エアコンとサーキュレーターの併用はもはや必須でしょう。サーキュレーターの置く場所は、家の構造や間取り、家具のレイアウトなどによって異なりますが、一般的には、対角線上に置くといいでしょう」と中村さんは話す。

断熱の重要性について対談する古溝洋明さん(左)と中村剛さん(右)断熱の重要性について対談する古溝洋明さん(左)と中村剛さん(右)

家電の使い方のポイント。エアコンはコマめに切った方が節約になるか?

必要な断熱性能が確保されている建物であれば、エアコンが設定温度に達するのも速く、その温度を維持するために必要なエネルギーも少なくなる。
結果として、エアコンの稼働時間や稼働頻度が減少し、エネルギー消費が削減されるというメリットもある。

その上で、家電を上手に使うことで無駄を省くことが可能だ。エアコンの使い方について中村さんは
「こまめにON/OFFするのと、つけっぱなしにするのはどちらがいいのか、勘違いしている方も多いようです。エアコンは、つけっぱなしのほうが光熱費が抑えられることがわかっています。起動してから設定温度になるまで多くの電力を消費するので、こまめにON/OFFしてしまうと消費電力が増えてしまうことに。目安としては、30分以内の外出程度であればつけっぱなしにしておくほうがいいでしょう」と話す。

また、気をつけたいのは室外機だという。
「室外機のまわりはきれいにしておくことが重要です。熱の交換をしているので、空気の循環が悪くならないようにしておきましょう。見栄えを考え室外機を覆ってしまうケースもみられますが、空気が通らないのでおすすめできません」とアドバイスする。

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断熱性能の確認は、数値だけでなく体感が大事

新築やリフォームの際、断熱性能を高めることで快適さがアップすることは理解しているものの、現状の住まいとどの程度異なるのか、どんな快適さを得ることができるのか、実際に体験してみることは難しいのが現実だ。

実際の家づくりを進める中では、窓サッシやガラスなどを選ぶ際に、その性能を確認することになる。メーカーによっては、窓サッシやガラスなどの建材商品の展示と共に、性能実験などのコーナーを用意しているショールームもみられる。LIXILの場合、住宅の断熱性能の違いを体感することができる「住まいStudio」を東京・大阪に設けている。同じ冬の時期の温度条件下(0℃)で異なる断熱性能の基準で作られた3つの部屋を設け、その空間の温度差を体験できる施設だ。数値の確認はもちろん、断熱性を高めることでどのような暮らしが実現できるのか、ショールームも含めさまざまな機会を積極的に活用するようにしたい。

カーボンニュートラルの実現に向け、国は住宅性能を向上させるための取り組みを行っている。2025年には段階的に断熱基準の引き上げを予定しており、日本の住宅の高断熱化は積極的に推進されている。
新築やリフォームの際には、設計担当者などから説明を受け、断熱性能に関して理解を深めることはますます重要なポイントとなっていくだろう。

■取材協力
LIXIL

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