11月23日は「勤労感謝の日」。新嘗祭との関係と新嘗祭の式次第を調べてみた

毎年11月23日は、日本の国民の祝日の一つである勤労感謝の日だ。
この日が勤労に感謝する日になった理由は、旧暦11月の2回目の卯の日に、宮中において新嘗祭が行われてきたからだ。太陽暦が導入されたのちは毎年11月23日に改められ、現在に続いている。

神道の日本にはさまざまな祭りがあるが、田植えの時期に行われる祈年祭（田植祭）と、収穫の時期に行われる新嘗祭（収穫祭）は、特に重要な祭りに位置づけられる。
春祭りは、豊作など期待する結果を所作で表現し、それが実現することを祈る「予祝祭」に分類され、田の耕作や種まき、田植えから収穫までの所作を牛や農夫に扮した人々が演じるものもある。
これに対して秋祭りは感謝祭であり、天皇がその年に収穫された稲を天神地祇に供えて感謝の祈りを捧げ、その供物を調理して神とともに食す。「嘗」には「味見する」の意味があり、天皇自らが新穀を味見することで、その年の収穫を感謝するとともに、寿ぐ意味があるとされる。

『日本書紀』の記述の中で、日本最古の新嘗祭とされる祭儀が行われたのは、神武天皇が初代天皇として即位する以前、大和の先住豪族らを平定していた最中のことだ。丹生川上の地において、神武天皇は自らを主宰者、従者の道臣命を巫女役にし、土瓦、火、水、供物の食べ物、薪、草に神聖な名をつけて、天神地祇を祀っている。そしてその供物を食べた（粮（おしもの）を嘗（にいなえ）した）のちに平定に出かけた。この祭儀はただ豊作を祈っているのではなく、神の力を体内に入れる意味があったのだろう。

明治神宮　新嘗祭

現代で行われている新嘗祭の式次第を見てみよう。

新嘗祭の前日には、あらかじめ鎮魂祭が行われ、神楽が奉納される。新嘗祭の当日の14時になると、皇居吹上御苑にある賢所、皇霊殿、神殿において神饌と奉幣を捧げる儀式が宮中祭祀を担当する掌典職により斎行される。これを「賢所・皇霊殿・神殿の儀」という。
そして夜19時には「神嘉殿の儀」が執り行われる。天皇は手を浄め、竹の箸で柏の葉に神饌を載せて、神前に供えると、天照大神をはじめとする天神地祇に御告文（ごこうもん）を奏上する。そしてその後、神前に供えたものと同じものを食すのだ。

また、天皇が祭主をつとめる祭事につかわれる祭文を「御告文」と呼ぶ。皇位が継承され、新天皇の即位の礼後に初めて行われる新嘗祭は「大嘗祭」と呼ばれるが、式次第に大きな変更はない。

新嘗祭の日には、日本国民の総氏神とされる伊勢神宮でも供儀が行われるほか、全国各地の多くの神社で、収穫祭が斎行されている。

神饌は稲作物、海鮮物、干物、果物などだ。稲作物は蒸しご飯やお粥、白酒（しろき）、黒酒（くろき）など。白酒はいわゆる濁り酒だが、黒酒は久佐木という植物の灰を白酒に混ぜたもの。岩瀬平氏と田村學造氏の論文「『延喜式』新嘗会白黒二酒と易・陰陽五行説」によれば、久佐木は臭木のことのようで、臭木灰のほか、米麹と麦芽が加えられるという。臭木は名の通り、葉には独特のにおいがあるが、根は薬用になり、高血圧や神経痛の予防に薬効がある。海鮮物は鯛や烏賊、アワビなどに薄く塩気をつけて短冊形にしたもの。干物は干鯛や鰹など、果物は干し柿や栗、棗などが用いられる。

大嘗祭のあらたえの麻畑と東宮山

平安時代中期の律令施行細則をまとめた『延喜式』には大嘗祭の祝詞が記載されているので、全文引用してみよう。延喜式のものは漢文で、読解が難しいので、桜楓社『祝詞』の読み下し文を引用する。それでも難読だが、意味はなんとなくでもわかるのではないだろうか。

集（うごな）はり侍（はべ）る神主・祝部（はふりべ）等、諸聞食へよと宣ふ。
高天の原に神留り坐す皇睦神漏伎（すめむつかむろき）・神漏弥（かむろみ）の命を以て、天つ社・國つ社と敷き坐せる皇神等の前に白さく、今年の十一月の中つ卯の日に、天つ御食（みけ）の長御食の遠御食と、皇御孫の命の大嘗聞こし食さむ為の故に、皇神等相ひうづのひ奉りて、堅磐（かちは）に常磐（ときは）に斎ひ奉り、茂（いか）し御世に幸はへ奉らむに依りてし、千秋・五百秋（いほあき）に平けく安らけく聞こし食して、豊の明りに明り坐さむ皇御孫の命のうづの幣帛（みてぐら）を、明妙・照妙・和妙・荒妙に備へ奉りて、朝日の豊栄登り称へ辞竟へ奉らくを諸聞き食へよと宣ふ。
事別きて、忌部の弱肩に太襁（ふとだすき）取り挂けて、持ちゆまわり仕へ奉れる幣帛を、神主・祝部等請けたまはりて、事落ちず捧げ持ちて奉れと宣ふ。

皇睦神漏伎と神漏弥の名をもって、全国の社に鎮座する神々に「十一月の二回目の卯の日、天照大神の子孫にあたる天皇が新穀を召し上がる日に、さまざまな神饌を捧げ、感謝いたします」という内容だが、皇睦神漏伎と神漏弥の名に馴染みがない方も多いだろう。
平安時代の『古語拾遺』によれば、皇睦神漏伎は高皇産霊（たかみむすび）神、神漏弥は神皇産霊（かみむすび）神のこととされる。高皇産霊神と神皇産霊神は、天地が生まれた際、最初に生まれた重要な神々だ。
しかし日本書紀においては、天地が開け始めたときに生まれたのは国常立尊・国狭槌尊・豊斟渟尊であるとされ、古事記では天御中主（あめのみなかぬし）神・高御産日（たかみむすび）神、神産日（かみむすび）神となっている。さらに古語拾遺においては、天御中主神・高皇産霊神・神皇産霊神の三神だ。
日本書紀・古事記・古語拾遺すべてにおいて、天地開闢の神は三神であるのに、なぜ二柱だけが皇睦、つまり皇室の祖先とされるのかは諸説あり、定まっていない。

明妙・照妙・和妙・荒妙はさまざまな布のことだから、食べ物とともに布が供えられていたらしい。

神社新報社『神社本庁例文　祝詞例文集上巻　祝詞、祓詞及び祭詞』には各地の神社で斎行される新嘗祭の祝詞例文が掲載されており、初穂で醸した御神酒や山野の物として甘菜や辛菜、海川の物として鰭の広物と鰭の狭物などを供えるとある。鰭の広物は大きい魚、鰭の狭物は小さい魚だから、新嘗祭の日には、各地の神社でさまざまな神饌が供えられているのだろう。

近所の神社でも新嘗祭が行われているかもしれない。秋の実りに感謝して、お参りしてみてはいかがだろう。

各地の神社では秋祭りが行われる

■参考
桜楓社『祝詞』青木紀元編　1975年11月発行
神社新報社『神社本庁例文　祝詞例文集上巻　祝詞、祓詞及び祭詞』神社本庁編　1956年6月発行
論文『『延喜式』新嘗会白黒二酒と易・陰陽五行説』岩瀬平・田村學造著