首都高羽田線はなぜ2週間も通行止めになったのか?

2023年5月27日から6月10日までの2週間、首都高速1号羽田線が高速大師橋リニューアルのため通行止めとなった。そのことは人気アイドルを起用したテレビCMなどを通じて知ってる人は多いはずだ。この際、「なぜ2週間も!?」と驚いたのは筆者だけではないはず。

実は今、首都高速道路(以下、首都高)は開通後初の大きな転換期を迎えている。1962年12月に京橋から芝浦までの4.5㎞を開通させた首都高は、2022年には総延長約327㎞に成長。1日の交通量は100万台。大型車の平均交通量を東京23区内の一般道路と比較すると約5倍、全国の高速道路と比較しても約2倍となっている。その移動・輸送の円滑化による経済への貢献は大きく、2020年時点のGRP(域内総生産)の押し上げ額は約12兆円に達する。

首都高の果たす役割はそれだけではない。災害発生時には、全線が緊急輸送道路に指定される。第一次交通規制時は消防、警察、自衛隊等の緊急車両以外は通行不可となり、第二次交通規制時は、災害応急対策に従事する車両以外は通行不可となる。まさに首都圏の経済活動や安全を支える最重要インフラのひとつなのだ。

今、このように過酷な状況で使用されている首都高の老朽化が問題となっている。総延長約327㎞のうち、6割以上(約217㎞)が開通から30年を超え、2割以上が50年を超えている。それゆえ、損傷による補修の実施は年間4万8,800件にもおよぶ。

以上のような背景から前述の大規模な通行止めを伴う工事などが必要になるわけだ。首都高は現在、リニューアルプロジェクトを始動し、高速大師橋リニューアルを含めて5つの大規模更新計画に着手している。これらの内容とそれが我々の生活をどう変えていくのかを解説しよう。

すでに着工している5つの大規模更新計画

現在進行中の大規模更新計画は、以下の5つだ。

①東品川桟橋・鮫洲埋立部更新

羽田線の東品川桟橋・鮫洲埋立部の開通工事は、住宅密集地を避けて京浜運河内で進められ、東京五輪前の1963年12月に完成した。近年は、60年近い過酷な使用と海水による激しい腐食によって損傷が多発していた。そこで2016年から首都高リニューアルプロジェクト第一弾として、特に重大な損傷が見られる約1.9㎞の区間を耐久性と維持管理性に優れた構造に造り替える工事がスタート。具体的には、長期通行止めによって首都圏の生活や物流、経済に影響が出ないようにう回路を設置し、1日約7万台の交通を確保。2028年度の完成を目指している。

②高速大師橋リニューアル

高速大師橋が開通したのは1968年。以降、1日8万台の交通を支え続けてきた。しかし、こちらも過酷な使用ゆえにこれまでに1,200ヶ所以上のき裂が確認されている。そこで耐久性が高く、き裂の発生しにくい構造の橋に架け替える工事を行った。新しい橋には、いつでも点検・補修を可能にする恒久足場も設置されている。この架け替え工事が前述の2週間の通行止めを要したもので、旧橋の隣に長さ約300mの新しい橋を組み立て、旧橋と新橋をスライドさせて一挙に架け替える工法を採用した。これによりたった2週間で架け替えが完了したのだ。とはいえ、旧橋の解体には時間がかかるので、すべてが完了するのは2025年度の予定だ。

高速大師橋架け替え工事の様子。架け替え自体はたった2週間で行われた高速大師橋架け替え工事の様子。架け替え自体はたった2週間で行われた

日本橋川周辺から青空を眺められるようになる

現在の日本橋の様子。上空を首都高が覆い、昼間でも薄暗い。しかし、2040年度以降は首都高が地下化され、川の周辺からは青空を眺められるはずだ現在の日本橋の様子。上空を首都高が覆い、昼間でも薄暗い。しかし、2040年度以降は首都高が地下化され、川の周辺からは青空を眺められるはずだ

③首都高日本橋区間地下化事業

日本橋川上空を走る首都高都心環状線は、東京五輪開催を翌年に控えた1963年12月に開通した。同道路の建設は、建物が密集した都心部において早急に交通需要に対応するために川や道路などの公用地の上を通すように行われた。この区間の構造物は老朽化に加えて、1日10万台が走行する過酷な使用状況にあり、支承部の過労き裂やコンクリート床版のひび割れなどが多発している。そのため、抜本的な対策が必要となっていた。そして2016年に日本橋周辺のまちづくりの取組みが、国家戦略特区の都市再生プロジェクトに追加され、2019年には神田橋JCTから江戸橋JCTの間を地下ルートとすることが決定した。地下ルートの整備によって、渋滞の緩和や空間的に余裕ができることで車の走行性が向上するといったメリットが期待できる。また、道路を地下に通すことで立体道路制度が活用できるようになり、道路トンネルの上部に建物の建設が可能になる。これにより今まで道路で覆われていた日本橋川周辺から青空を眺められるようになり、敷地の有効活用を図ることもできる。同工事は2040年度に完成予定だ。

④池尻・三軒茶屋出入口付近更新

首都高3号線が開通したのは1971年12月で、現在まで約50年が経過している。その3号線の中でも、特に池尻・三軒茶屋出入口付近は、過酷な使用状況から床版に多数の損傷が発生していた。そのため、耐久性の高い床版への更新を行っている。また、同区間では、登り坂(ボトルネック区間)手前の慢性的な渋滞や出入口などの合流部での車両の混乱が生じている。そこで更新に合わせて池尻出入口に入れ替えおよび付加車線の増設を行う。完成は2027年度の予定だ。

⑤銀座・京橋出入口付近更新

銀座・京橋出入口付近を含む首都高都心環状線が開通したのは1962年12月。すでに約60年経過しており、コンクリートの剥離、鉄筋腐食が顕著となっていた。その上、古い基準で建設されたので、そもそも強度が不足しており、今後発生する可能性が高いといわれている巨大地震時には擁壁が損傷して第三者被害が生じる懸念が高まっている。そこで現行基準に合った擁壁への更新などを行っている。この工事では、銀座と築地を隔てている掘割構造(※)の同区間に蓋を架けて一体化し、上空空間を有効利用する構想も検討されている。同工事は2028年度に完了する予定だ。
※地面に掘ってつくった水路のような構造。

羽田トンネルなどの更新計画が追加

そして2022年12月、追加の更新計画が発表された。上記5ヶ所以外で重大な損傷が顕在化している下記2ヶ所を含む約22㎞の箇所を対象に、概算事業費3,000億円の更新計画が取りまとめられたのだ。

羽田トンネル

羽田トンネルでは、構造目地の腐食や漏水、床版コンクリートの剥離などが確認されている。漏水による緊急交通規制は、2013年度は3回・約5.5時間だったが、2021年には7回・約15時間と2倍以上に増加している。このようなことから、損傷部位の全面的な補修・更新などを検討中だ。

荒川湾岸橋

荒川湾岸橋では、塗装剥離による腐食やガセットプレート(部材相互の接合のために用いる鋼板)の破断などが確認されている。そのため、損傷部位の全面的な補修・取り替えなどを検討している。

追加の更新計画が発表された荒川湾岸橋追加の更新計画が発表された荒川湾岸橋

「運転しづらい」首都高がより安全に、より快適に

首都高は、都民だけでなく首都圏に暮らす多くの人たちにとっても非常に大事なインフラだ。千葉県から神奈川県以西へ行く、またその逆など、東京都を挟んで東西へ移動する際は必ずといっていいほど利用する。その際、「なんでこんなにくねくね曲がっているのだろう」「どうしてこんなに細い道なのだろう」「運転しづらい」などと不満に思う人は少なくないはずだ。その首都高が、着々とリニューアルされている。今後どれだけ安全に、快適に生まれ変わるか楽しみだ。

首都高(分類としては自動車専用道路)は、カーブや合流するための加速車線が短い箇所が多く、一般的な高速道路と比べると運転しづらい首都高(分類としては自動車専用道路)は、カーブや合流するための加速車線が短い箇所が多く、一般的な高速道路と比べると運転しづらい

公開日:

ホームズ君

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