不動産事業などを展開する福岡の会社が手がけた公園

福岡市東区に「ちはや公園」が誕生して1年が経った。全国でも珍しい民設民営の公園で、「公園長」というポストがあり、地域の人やアドバイザーなど多くの人々が関わる、とてもユニークな存在として注目されている。近年は行政の公園を民間が運営するケースが増えてきたが、民間が公園をつくり、テナントまで入っているケースは稀だろう。

新しいまちづくりが進む千早にある「ちはや公園」新しいまちづくりが進む千早にある「ちはや公園」
高層マンションの奥に千早駅がある高層マンションの奥に千早駅がある

ちはや公園は、福岡中心部の博多と天神から車で15分ほど、福岡市の東の副都心として新しいまちづくりが進む千早にある。30~40代のファミリーを中心にシニア層まで幅広い世代が暮らすエリアで、人口が増加中。公園があるのは、JRと西鉄の千早駅から歩いて8分ほど、大通りから一本入った静かな場所だ。

ちはや公園をつくったのは、福岡県久留米市に本社を置く高橋株式会社。創業1937年、博多織の製造から始まり、現在は不動産をベースにレジャーやスポーツクラブ、外食、農業、海外までさまざまな事業を展開している。

コンセプトは「暮らしたのしむ、まちのオープンリビング」

左から1期のガーデンズ千早、1.5期のちはや公園、2期の敷地左から1期のガーデンズ千早、1.5期のちはや公園、2期の敷地

なぜ、不動産の会社が公園をつくったのか。まずは歴史を紐解いていこう。高橋株式会社は1965年、千早に西日本ゴルフセンターを開業。西日本初の流れるプールからボウリング場、バッティングセンターなどと形を変えながら、総合レジャー施設「スポーツガーデン香椎」の名称で、地域の人たちに長く愛されてきた。

施設の老朽化に伴い、同社は総面積約34,850m2の敷地で再開発を決定した。1期として2021年4月に複合商業施設「ガーデンズ千早」を開業し、続く1.5期として翌年4月にオープンしたのが「ちはや公園」。さらに2期の計画が進行中だ。高橋株式会社にとって、商業不動産の開発は今回が初めてだったという。

「皆さんがやりたいことを形にしていきたい」と穏やかに話す上野さん「皆さんがやりたいことを形にしていきたい」と穏やかに話す上野さん

「弊社はこの地で50年以上にわたりスポーツ施設を運営してきて、地域に恩返しをしたいという思いを持っていました。そこで、地域に笑顔とにぎわいが生まれ、皆さんの記憶に残るようなものができないかとたどり着いたのが、公園をつくることでした」。そう説明するのは再開発プロジェクトに関わり、今は公園長を務める同社の上野敬之さん。

ガーデンズ千早とちはや公園は隣接し、「暮らしたのしむ、まちのオープンリビング」をコンセプトに掲げている。ガーデンズ千早は、敷地面積約1万3,937m2、地上3階建て。無印良品やスーパー、飲食店、スポーツクラブ、クリニックなど20店舗が入居する。

左から1期のガーデンズ千早、1.5期のちはや公園、2期の敷地館内には公園に面して「みんなのカフェ」とシェアキッチンがある。飲食店をしたい人たちがキッチンを利用して数日トライアルで店を出し、実際に店を構えたケースも複数ある

親しみやすい公園長がいて、活動を推進する組織がある

公園にある6棟のうち1棟は高橋株式会社のテナントで、イベントなどで使用できる公園にある6棟のうち1棟は高橋株式会社のテナントで、イベントなどで使用できる

2022年4月にオープンした公園の設計を手がけたのは、全国で魅力的な空間を生み出している株式会社オープン・エー。約4,145m2の敷地には、緑が美しい芝生の周りに6つの建物が配され、レストランやカフェ、ドッグサロン、生花店など7テナントが入っている。

ちはや公園の特徴は、大きく4つある。まずは「民間がつくった公園」であること。
「まちの皆さんと一緒につくり上げる公園です。居心地のいい空間であるとともに、皆さんの活動や出会いの場になることを目指しています」と上野さん。そのため、気軽にコミュニケーションを取ってもらえるように「公園長」という役職を置いた。また、禁止事項をできるだけ減らし、何かあればその都度、考えるスタイルに。「行政の公園ではないからこそ、ルールでガチガチに縛ることなく、人に迷惑がかからない範囲で自由に過ごしてもらいたいと思っています」

2つ目は「活動を推進する組織がある」こと。公園のオープンと同時に、活動を実行するチームとして協議会「ちはやをよくする会」を発足した。近隣にある九州産業大学の山下教授が会長、公共施設「なみきスクエア」の高宮氏が監事、千早校区自治協議会の村上会長が副会長を務め、毎月定例会を実施。また、JR九州千早駅長、香椎宮の権禰宜、福岡女子大の先生、まちづくりの専門家など6人をアドバイザーに迎え、3ヶ月に1回意見をもらっている。高橋株式会社は事務局という位置づけで、事務局長兼公園長の上野さんと販促担当の計2人体制となっている。

公園にある6棟のうち1棟は高橋株式会社のテナントで、イベントなどで使用できる公園に立てられた看板。シンプルでやわらかい雰囲気だ
公園にある6棟のうち1棟は高橋株式会社のテナントで、イベントなどで使用できる養生中の芝生。注意書きは子どもにもわかりやすくやさしいトーンで書かれている

地域とつながるハブになり、収益の一部を地域に還元

3つ目の特徴は、「地域とつながるハブになる」こと。アドバイザーの濱野さんが所属するNEXCO西日本と高橋株式会社は、2022年4月「ガーデンズ千早を活用した地域創生等プロジェクト連携に関する協定」を締結。NEXCOの紹介などで、この1年で九州各地の12自治体が公園で物産のマルシェなどを開催した。「イベントに市長や町長が来られることもあります。来場者が自治体の魅力を知り、その後に訪れるケースも。いいきっかけづくりになっています」

また、ちはや公園を中心に近隣の広場や公園などをプロットしたマップを作り、自転車で巡ることを提案。駐輪場にシェアサイクル・Charichariのポートもあり、近隣地域とのつながりも大切にしている。

公園や大学などの場所と、自転車で行った場合の所要時間が書かれたエリアマップ公園や大学などの場所と、自転車で行った場合の所要時間が書かれたエリアマップ
公園や大学などの場所と、自転車で行った場合の所要時間が書かれたエリアマップシェアサイクルのポートがある

そして4つ目に「地域還元・循環を目指す公園」として、イベントなどの公園使用料として高橋株式会社が得た収益の一部を、地域に還元する仕組みをつくっている。還元されたお金は協議会の運営費になり、会で検討のうえ、地域の教育や防犯などにも充てる。活動が持続可能で、かつ本当に地域のためになるようにデザインされているのだ。

協議会の企画のほか、多種多様なイベントを開催

イベントはいつも多くの人でにぎわうイベントはいつも多くの人でにぎわう

オープンから1年、ちはや公園では多彩なイベントが開催されてきた。協議会の主催としては、「ゴミ拾い大作戦!!」と題して毎月ボランティアで近隣のゴミ拾いを実施。「初めのうちは参加者2人のときもありましたが、今では親子連れを中心に10人以上が参加してくれます。いざというときのために、地域の人が知り合うきっかけになれば」と上野さんは意図を明かす。

ほかにも、大学生が主催するチャリティーイベント「福岡サンタウォークin千早」、地元の団体による「あべこべキャンプ」、福岡市などが子ども主体で行う「ミニミニふくおかinちはや公園」など、イベント時は1日2,000人ほどの来場者でにぎわう。今後も秋口まで毎週末イベントの予定が入っているという人気ぶりだ。

2023年1月には、地域共創音声メディア「ちはやONAIR」を開局。地域のディープな魅力や企画会議などを発信し、地域を盛り上げるのに一役買っている。

まちの人が自主的に活動し、地域がよくなるグッドサイクルを回す

ちはや公園では、さまざまな人が思い思いに過ごす姿が見られる。ベビーカーで訪れる親子、芝生で走り回る子どもたち、話に花を咲かせるシニアたち、勉強する中高生、パソコンを広げて仕事をする人など。「特に何もせずリラックスしている人も多くて、居心地のいい場になっているのかなとうれしく思っています」

日常の1コマ。「暮らしたのしむ、まちのオープンリビング」というコンセプトを体現日常の1コマ。「暮らしたのしむ、まちのオープンリビング」というコンセプトを体現

開業前、上野さんが公園の構想を人に語ると「本当にやるんですか?」と驚かれることが多かったという。「ビジネスとして考えると、坪効率では収益性が厳しくなるため驚かれるのも仕方ありません。しかし、自社の土地なので全体で考えられること、それに何より地域に貢献したいという思いの強さから、チャレンジに踏み切りました。会社としては結果的にとても満足しています」

「この1年、多くの方々と公園をつくることができて、すごく面白かった」と笑顔で振り返る上野さん。「特に印象に残っているのは、ちはやをよくする会の1周年イベントのとき、副会長である自治会長の村上さんから『参加している人たちが居心地のいい会議』と言ってもらったこと。いつも、まちの人にもっと楽しんでもらうにはどうしたらいいかという視点で皆さんが自由に発言されていて、運営側が楽しむ姿勢が大切だと感じています。1年目は協議会が主体となって活動してきましたが、これからはまちの人たちが主体的に動きだすことを目指し、私たちはよきサポーターやファシリテーターの役割を果たしていくつもりです」

ちはや公園はこれからも多くの人たちと一緒に楽しみながら、進化を続けていく。

日常の1コマ。「暮らしたのしむ、まちのオープンリビング」というコンセプトを体現まちの人が主体となって公園を活用し、地域がよりよくなるグッドサイクルをつくっていく

公開日:

ホームズ君

LIFULL HOME'Sで
住まいの情報を探す

賃貸物件を探す
マンションを探す
一戸建てを探す