アートの街・北加賀屋にて「KITAKAGAYA FLEA2022 AUTUMN&ASIA BOOK MARKET」が開催

Osaka Metro四つ橋線西梅田駅から17分、昭和レトロな町並みが広がる北加賀屋駅。水辺の街は栄えやすいというが、大阪湾に近い木津川流域のこのエリアも、かつては多くの造船所が建設され、重厚長大産業の集積地として栄えた街だ。
第二次世界大戦以降は、産業構造の変化により造船所が移転するなど、次第にその姿は失われていったが、2004年以降、造船所跡地などの近代産業遺産を生かした新たな街づくりが始まった。北加賀屋エリアで広域な土地を管理する千島土地株式会社が掲げる「北加賀屋 クリエイティブ・ビレッジ構想」である。北加賀屋を芸術文化の集まる"アートな街"へと変えていく取り組みだ。

LIFULL HOME'S PRESSではこれまでにも北加賀屋の街づくりプロジェクトをいくつか取り上げてきたが、今回はその一つ、2022年10月22日~23日に開催された「KITAKAGAYA FLEA2022 AUTUMN&ASIA BOOK MARKET」(以下、キタカガヤフリー)の様子を紹介したい。キタカガヤフリーとは、本、食、服飾雑貨などさまざまな分野の生産者、アート、デザインの表現者、作家など、多彩なクリエイターたちが一堂に会するイベントだ。一般的な催事のように出店が並ぶほか、ワークショップやトークイベントなどテーマに沿った催しが企画され、地域や文化を超えた交流が生まれることを目指している。

キタカガヤフリーの会場となっている名村造船所跡地。1931年に操業、1988年の造船所移転後は休眠状態に。2004年に北加賀屋の「芸術・文化の発信地」として活用する取り組みがスタート。キタカガヤフリーの開催中は「KITAKAGAYA FLEA」の横断幕が目を引くキタカガヤフリーの会場となっている名村造船所跡地。1931年に操業、1988年の造船所移転後は休眠状態に。2004年に北加賀屋の「芸術・文化の発信地」として活用する取り組みがスタート。キタカガヤフリーの開催中は「KITAKAGAYA FLEA」の横断幕が目を引く

イベント会場は名村造船所跡地を活用したアートスペース

会場は、近代産業遺産・名村造船所跡地に建てられた「クリエイティブセンター大阪(CCO)」。名村造船所が操業を停止し移転した1988年以降、手つかずの状態になっていた跡地を活用した施設で、2005年のオープン以降、地域活性化を目的としたさまざまな創造活動が行われている。ジャンルを問わず多くのアーティストやクリエイターが集まり、活躍する場所として生まれ変わった。

キタカガヤフリーの会場、クリエイティブセンター大阪(CCO)。ドック(船渠)などの名村造船所の遺構はそのまま生かされている。敷地面積は約4万平米。日本ではほかに類を見ない造船所跡地を活用した広大なアートスペースであるキタカガヤフリーの会場、クリエイティブセンター大阪(CCO)。ドック(船渠)などの名村造船所の遺構はそのまま生かされている。敷地面積は約4万平米。日本ではほかに類を見ない造船所跡地を活用した広大なアートスペースである

広い会場にはたくさんの店舗ブースが軒を連ねている。食、服飾雑貨、本などジャンルはさまざまで、出店企業数は約140に及ぶ。もともとは大阪からの出店が多かったが、イベントを重ねるにつれ現在は半分程度が全国各地から参加しているそうだ。
1階は飲食メインのフロア、2階は服飾雑貨等のフロア、3階には書籍販売のブースやトークイベントが行われるイベントスペースがある。会場に伺ったのはイベント初日、オープンして間もない時間帯であったが、すでに大勢の来場者で会場はにぎわっていた。

キタカガヤフリーの会場、クリエイティブセンター大阪(CCO)。ドック(船渠)などの名村造船所の遺構はそのまま生かされている。敷地面積は約4万平米。日本ではほかに類を見ない造船所跡地を活用した広大なアートスペースであるさまざまな世代の人が行き交う物販スペースの様子。コロナ禍以前はイベント2日間で合計およそ4,000人が訪れていたという
キタカガヤフリーの会場、クリエイティブセンター大阪(CCO)。ドック(船渠)などの名村造船所の遺構はそのまま生かされている。敷地面積は約4万平米。日本ではほかに類を見ない造船所跡地を活用した広大なアートスペースである飲食店スペース。地元・大阪の飲食店を中心に、スパイスカレーや台湾料理、スイーツなど飲食ブースの種類も豊富だ。このイベントでしか食べられないメニューを用意していることも

キタカガヤフリーならではの、人や作品との一期一会の出会い

このイベントの大きな特徴は、生産者や作家、アーティストやクリエイターと、来場者との距離が近いことだ。一般的に生産者と消費者の間には、卸売会社や運送会社など中間流通の役割を担う会社が存在する。しかしこのイベントでは、作り手側と消費者である来場者が顔を合わせながら直接言葉を交わし、来場者は作品へのこだわりや込められたストーリーを聞きながら、より思い入れを持って商品を手に取ることができる。

服飾雑貨PRODUCT&GOODSコーナーにブースを設けたインド布雑貨の「たまゆら」。インドの工場にイメージを伝え、直接発注して作品を制作しているという。綿で作られた封筒など珍しいアイテムも並ぶ服飾雑貨PRODUCT&GOODSコーナーにブースを設けたインド布雑貨の「たまゆら」。インドの工場にイメージを伝え、直接発注して作品を制作しているという。綿で作られた封筒など珍しいアイテムも並ぶ

自分が作りたいもの、届けたい価値を、お客に直接届けられるこのような場所があることは、クリエイターにとって創作意欲を育むモチベーションの一つになるだろう。

作り手と消費者が近いのは、本も同様だ。「ブックマーケット」の名を冠するとおり、3階には全国各地から集まったたくさんの出版社や書店がブースを設けていたが、書店の多くは店主自身が置きたいと思う本を仕入れて販売する、セレクトショップならぬ「セレクト書店」のような個性的な書店の顔触れだ。こうした独立系の書店は近年増えているという。ベストセラー本が中心の大手書店では見かけないような本が多数並ぶ。また、リトルプレス(少部数発行の冊子物)を発行する小規模な出版社も多数出店しており、流通チャネルが限定された書籍も多いことから、まさに一期一会の本との出会いが楽しめる。

服飾雑貨PRODUCT&GOODSコーナーにブースを設けたインド布雑貨の「たまゆら」。インドの工場にイメージを伝え、直接発注して作品を制作しているという。綿で作られた封筒など珍しいアイテムも並ぶ本好きが集まるイベントだけあり、本を手に取る来場者と店主との会話も弾む。各々のブースに並べられた本にはそれぞれの出版社や書店の個性が光る
服飾雑貨PRODUCT&GOODSコーナーにブースを設けたインド布雑貨の「たまゆら」。インドの工場にイメージを伝え、直接発注して作品を制作しているという。綿で作られた封筒など珍しいアイテムも並ぶ毎年秋に開催される、大阪の魅力的な建築を一斉に無料公開する日本最大級の建築イベント「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」を取り上げた書籍も

仕掛け人は、ローカル・カルチャーを愛する大阪の出版社

イベント全体の企画・運営を手がけるのは、大阪の出版社・合同会社インセクツ。ローカル・カルチャーマガジン『IN/SECTS』など、"共感"をキーワードに、さまざまなジャンルの書籍、雑誌、イベントを企画・編集している。
キタカガヤフリーは、そんな同社が2016年から行ってきたマーケットイベントだ。新型コロナウイルスの影響を受けたここ数年は、オンライン併用での縮小開催を余儀なくされていたが、2022年は3年ぶりとなる制限なしでの開催となった。

運営に携わる小島さんは、開催の経緯についてこう語る。
「これまでさまざまな雑誌づくりを行う中で、多くの生産者やアーティスト、ものづくりに携わる方々とのご縁ができました。"そんなクリエイターたちが集う場をつくろう"と始まったのがキタカガヤフリーです。コロナ禍で一時期縮小しましたが、おかげさまで人が人を呼ぶ形で年々出店者も増えていて、来場いただく方も増えていますね」

イベントを主催する合同会社インセクツ、左から小島さん、代表取締役社長の松村さん。社員が一丸となって企画から運営に携わっている。自由な発想で楽しめるイベントになるよう、出店者との「文化祭のような距離感」を大切にしているというイベントを主催する合同会社インセクツ、左から小島さん、代表取締役社長の松村さん。社員が一丸となって企画から運営に携わっている。自由な発想で楽しめるイベントになるよう、出店者との「文化祭のような距離感」を大切にしているという

もともとは大阪の企業や商店を中心にスタートしたが、出店条件にエリアの制限は特にない。現在では首都圏や九州、沖縄など、その半分ほどが大阪以外の地域からの参加だという。ものづくりへのこだわりや、作品作りに込めた熱意にシンパシーを感じる人同士が自然発生的につながり、徐々にその輪が広がっている様子が会場からも感じられた。

イベントを主催する合同会社インセクツ、左から小島さん、代表取締役社長の松村さん。社員が一丸となって企画から運営に携わっている。自由な発想で楽しめるイベントになるよう、出店者との「文化祭のような距離感」を大切にしているという奈良きたまちから参加したオリジナルグッズを研究する会「まほろしグッズ研」。ブースを出したきっかけは出店者とのつながりだったという。ものづくりの力で最初の一歩を支援するなど、奈良地域のコミュニティづくりを行っている
イベントを主催する合同会社インセクツ、左から小島さん、代表取締役社長の松村さん。社員が一丸となって企画から運営に携わっている。自由な発想で楽しめるイベントになるよう、出店者との「文化祭のような距離感」を大切にしているという車の廃材であるシートベルトとホワイトバーチ合板を組み合わせたスツールを展示した「株式会社EST」。隣にブースを構える現代工作家のミズグチグッチさんがデザインを担当したという。再利用が難しいシートベルトに新たな価値を生み出した

クリエイティブな「場」をつくることで、人と人が自然とつながっていく

キタカガヤフリーは非日常のお祭りに違いないが、この場限りでは終わらない。近い興味や情熱を抱く人と人がこの場所で出会い、あちこちで数珠つなぎのように人脈が生まれていく。
イベントのデザインを担当したインセクツの掛川さんいわく、「イベントから1年後くらいに、『最近始めた取り組みのきっかけが、キタカガヤフリーなんですよ』なんて声をいただくこともあって、つながってるんだなとうれしかったですね」といったエピソードもあった。

開催の目的は、"地域や文化を超えて交わりが生まれ、新たな価値創造の可能性を探ること"としているが、その言葉どおりのことが起きているようだ。

「このような"場"を提供することで、大阪だけでなく全国からさまざまな人が一つの場所に集まり、新しい価値が生まれています。(コロナ禍)以前は海外の人も出店してくれていましたし、来年、その次と、もっと人の輪を広げて海外にも発信していきたいですね」(松村さん)

2000年代前半からおよそ20年、"アートな街づくり"を推進してきた北加賀屋エリア。街づくりの幹となる一貫したコンセプトが根付いているように感じられた。キタカガヤフリーのように今後もさまざまな創造活動が行われ、そこからまた枝葉のように新たな価値が生まれていくだろう。

キタカガヤフリーは物販だけでなく、ワークショップやトークイベントも行われる。トークテーマごとにゲストスピーカーが招かれ、「私の好きな一冊」や「本づくりの話」など、本好きにはたまらない時間だキタカガヤフリーは物販だけでなく、ワークショップやトークイベントも行われる。トークテーマごとにゲストスピーカーが招かれ、「私の好きな一冊」や「本づくりの話」など、本好きにはたまらない時間だ
キタカガヤフリーは物販だけでなく、ワークショップやトークイベントも行われる。トークテーマごとにゲストスピーカーが招かれ、「私の好きな一冊」や「本づくりの話」など、本好きにはたまらない時間だアートを一つの軸に、コンセプトやものづくりの姿勢や共感した人が集うと、自然発生的に新たなつながりやアイデアが生まれる。会場では至るところで会話が生まれ、エネルギッシュな空気に満ちていた

取材協力:
合同会社インセクツ https://insec2.com/
クリエイティブセンター大阪 http://www.namura.cc/

公開日: