電波=電磁波? 電波の身体への影響は?

以前、住宅での低周波の電磁波対策として、屋内配線や家電製品の対策を紹介した。しかし、電磁波というと携帯やインターネット通信が発する「電波」を先にイメージする人が多いのではないだろうか?筆者も電磁波の知識を身につけるまではそうであったし、電磁波測定士として活動をしていると、携帯の電波の影響について聞かれることが多い。

そもそも「電波」とは、なんなのだろうか。周波数が3T(テラ)Hz以下の電磁波のことをさすと電波法で規定されているそうだ。つまり「電波」は、電磁波の一種。日頃私たちは、3THz以下の3Hz〜30GHzの周波数帯を使っているため、すべてを「電波」ということもできる。「電磁波」というと少し怪しく捉えられてしまう風潮があるように感じているが、普段から「電波」という言葉でよく使っていて、電磁波は実は身近なものなのだ。

総務省が毎年実施している通信利用動向調査によると、モバイル端末の世帯保有率は96.8%(令和2年度)、そのうちスマホ保有率も急速に拡大し、86.8%となっている。

情報通信機器の世帯保有率(出典:総務省「通信利用動向調査」)情報通信機器の世帯保有率(出典:総務省「通信利用動向調査」)

インターネットは住宅や家電ともつながる時代となり、今や私たちの暮らしとは切り離せないものとなった。通信システムも5Gへと移行が進み、携帯の電波は身体にどういった影響があるのだろう、と気になっている人も多いのではないだろうか。
影響を正しく理解し、どのようにモバイル端末と付き合っていくのがよいのだろうか、考えていきたい。

低周波と高周波って?それぞれ異なる身体への影響

携帯やインターネット通信から発する電磁波は「高周波」に分類される。まず、低周波と高周波の電磁波の違いと身体への影響を簡単に説明したい。

低周波

周波数3Hz〜300kHzを指すが、普段私たちがコンセントや電気で使用している交流電気の50/60Hzのことを主に指す。電磁波を発生させるのが目的ではなく、私たちが電気を使用することによって副産物として電磁波が発生してしまう。
総務省の電波利用ホームページによると、人体に電流が生じることにより、神経や筋の活動に影響を与える「刺激作用」が起こるとあった。パソコンを充電しながら使用すると、ピリピリする、という方がいるが刺激作用の影響であろう。低周波の影響については以前の記事を参考にしていただきたい。

高周波

300kHz〜30GHzといった周波数帯を指し、通信用の電波(電磁波)として使用されている。意図的に高い周波数の電波を飛ばすことによって、より早く、遠くへ情報を届けることを可能にしている。人体に電波のエネルギーが吸収されることにより、体温が上昇する「熱作用」が起こる。

同じ電磁波といっても、副産物として生まれる低周波の電磁波と意図的に飛ばす高周波の電磁波とでは、性質も身体への影響も異なることがわかる。

電磁波の分類と生体作用(出典:総務省電波利用ホームページ)
周波数によって、身体への影響が違うことがわかる電磁波の分類と生体作用(出典:総務省電波利用ホームページ) 周波数によって、身体への影響が違うことがわかる

発生源から距離をとろう

日本電磁波協会の土田さん。電磁波の正しい知識を広めるため、研究、啓蒙、電磁波測定士の育成に取り組んでいる日本電磁波協会の土田さん。電磁波の正しい知識を広めるため、研究、啓蒙、電磁波測定士の育成に取り組んでいる

高周波について、具体的にどういった影響と対策があるのか、日本電磁波協会理事の土田さんにお話をきいた。
「高周波も距離を取れば問題ないと考えています」と土田さん。

低周波の電磁波対策に関しても、基本は「距離を取る」だった。

「一定の距離が取られていれば、身体に与える負荷はとても低いものであるという見解が主流で、エネルギーの吸収量という観点では、問題がないと考えています」

このエネルギーの吸収というのが、前述した高周波の熱作用だ。電磁波エネルギーの一部は、身体の深層筋(インナーマッスル)にまで到達(吸収)し、わずかに発熱するそうだ。発生源から身体が近ければ近いほど吸収率は高くなる。

しかし、屋外に設置されているアンテナから飛んでいる電磁波は、国が基準を定めており、身体に影響を及ぼすほどの近距離にあるというケースはほとんど見られないという。

「5Gは始まったばかりでまだわからないところはありますが、電波の特徴として周波数が高くなればなるほど、直進性は増していきます。なので、外壁などの障害物があれば電波は届きません。アンテナの数を相当増やさない限り、5Gについては影響がないと考えています。高周波の磁束密度というのは、電波がつながったときに強くなりますから、そこは多少の注意は必要かもしれません」

屋外に飛んでいる高周波は、なかなか個人で対策をすることが難しいのだが、土田さんは外部を飛んでいる電波よりも、距離を取れないものの使用時こそ注意するべきであろうと指摘する。

携帯電話を使用するときに注意したいことは?

「携帯電話の一定以上の近距離の使用については、WHO等からも危険性が指摘されています。携帯電話を耳に当てて話すときには、エネルギーの吸収量は極端に上がります。1,600時間以上使うと聴神経腫瘍のリスクが4.6倍に上がるというデータが東京女子医大で発表されています。通話は、ハンズフリーまたは有線のイヤホンを使用するといいでしょう」

通話時、端末から近い耳や頭部は電磁波のエネルギーを吸収する。さらに骨が柔らかく、頭の小さい子どもへはもっと深部にまで影響を及ぼすことがわかっている。欧米では、12歳以下の子どもの携帯電話の使用や販売に厳しい規制をかけている国も多いが、日本では子どもの使用への規制がなく、正しい知識が認知されていないこともあり、スマートフォンをもつ子どもは年々増加している。

通話時は、耳から離すほど身体の熱吸収率は下がり、頭部へのダメージも減ることに繋がる。筆者も普段の通話はハンズフリーで行い、屋外では有線イヤホンを使うか、耳からなるべく離して使うようにしている。特に子どもの近くではなるべく使用しないようにし、触れさせないよう注意している。とはいえ、隙をみていじられることもあるのが現実なのだが……。

(引用:EMFA2級テキスト)数値が低い方が身体への影響が低く、同じ出力でも大人と子どもとでは吸収率が違うことが数字から読み取れる(引用:EMFA2級テキスト)数値が低い方が身体への影響が低く、同じ出力でも大人と子どもとでは吸収率が違うことが数字から読み取れる

SAR値とは

電波にさらされる度合いを表す物理量として、SAR(Specific Absorption Rate)値(W/kg)が使われる。図のように、この数値を見れば、人体が電波を発する機器からどのくらいのエネルギーを吸収するのかがわかる。

携帯端末には局所SAR値が用いられ、日本では「局所SARが2W/kgの許容値を超えないこと」と義務付けられている。アメリカは規定値1.6W/kg以下、などと国によって基準が違う。

局所SAR値は各端末の説明書にも記載されているので、気になる人は自分の使っている端末について調べてみるといいだろう。
筆者の使っている端末(OPPO Reno A 128GB)のSAR値を確認してみると、「頭部における SAR の最⼤値は 1.170W/kg、⾝体に装着した場合の SAR の最⼤値は0.948W/kg」とあった。また気になる記述として「⾝体から 1.5 センチ以上離し、かつその間に⾦属(部分)が含まれないようにすることで、本製品が国の技術基準および電波防護の国際ガイドラインに適合していることを確認しています」とあった。

身体から1.5センチほど離すことが数値の基準となっており、耳につけて通話をした場合は、この数値よりも高くなることが予想できる。

家庭用Wi-Fiルーター、学校やオフィスの高速通信は?!

学校では子どもたちがタブレットを巧みに使いこなす学校では子どもたちがタブレットを巧みに使いこなす

Wi-Fiルーターからの電磁波はどうかとよく聞かれることがある。これも距離がとても大事だ。
「床に置くよりも、なるべく部屋の上のほうに置くようにすると、距離が取れていいのではないでしょうか」(土田さん)

床に設置してあると、子どもが遊んでいるときにとても近くなってしまうことがある。上の方に設置したり、普段の暮らしで距離を置ける場所に設置したりするのがいいだろう。そうして距離を取ることで、Wi-Fiからの電磁波の影響は、1年間でも数十分の携帯電話の通話時間より低いリスクとなるそうだ。

しかし、学校や事務所などの大人数が使用するものは、強い電波を発するため注意が必要だろう。学校やオフィスでは、電波の発生源から近い人が影響を受けやすくなってしまう可能性が高い。
国の掲げるGIGAスクール構想では、「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備すること」が進められ、子どもたちはタブレットを使いこなし、多様な学習ができるようになった。ICTを活用することで受けられるメリットはたくさんあるが、同時にどんなリスクがあるかの周知も必要ではないだろうか。よりリスクを減らすために、機器の設置場所を見直したり、使わない時間は電源を切ったりするなどの対策をするのはどうだろうか。

高周波の電磁波対策グッズは注意が必要

「電磁波対策」と検索すると、さまざまな商品が出てくる。電磁波対策の商品は高額であることも多く、どのように選んでいいのか筆者ですら悩むことがある。
まずは、電磁波対策のグッズは、「高周波」と低周波の「電場」と「磁場」とでは全く異なることを理解しなければならない。その商品が何の対策を目的としているのかを見極めなければならないし、そこをしっかりと説明している商品を選ぶべきである。

低周波の対策は、「電場」はアースを取れば流せるし、「磁場」は距離を取ることで対策することができる。

高周波の対策は、高周波シールドというのが販売されている。これは高周波の電磁波を遮断するというものだが、安易に住宅に施すことは危険だ、と土田さんはいう。

「家を高周波シールドで包み込むことで外部からの電波は届かない空間を作ることができます。しかし、例えばその中に携帯を持ち込むと電波が反射してより身体への負荷がかかることになる。また、電波の届かない環境に慣れてしまうことで、外に出たときにより電波の影響をきつく感じてしまい、外に出られなくなってしまうことにつながるんです」

電磁波の発生源とは距離を置くことが大前提。知識なく対策することは危険が伴う場合もある電磁波の発生源とは距離を置くことが大前提。知識なく対策することは危険が伴う場合もある

まずは低周波の電磁波対策を

モバイル端末とは適切な距離をモバイル端末とは適切な距離を

電磁波過敏症という症状があるが、一度電磁波過敏症を発症すると仕事や学校へ通えなくなったり、外出先も選ばないといけなくなったり、今までの生活ができなくなってしまうそうだ。症状を緩和することはできるが完治することは難しいという。

「これまで電磁波について数々の対策をしてきましたが、7割が低周波で3割が高周波が原因でした。低周波の電磁波は、アースのないコンセントを使っている日本独自の問題です。まずは自律神経を乱す、低周波の対策をして、身体を整えることが大切です。その後に世界共通の高周波の対策に取り組んでいくことがいいのではないでしょうか」

高周波の電磁波に関しては、携帯端末の使用に注意することで身体への影響を格段に減らすことができることがわかった。相当アンテナに近くない限りは、外部を飛んでいる電波にはそこまで過敏に捉える必要がないように思う。まず、電磁波とは距離を取ることを大前提に、距離が取れない場合は対策をしていきたい。

通信システムの開発はこれからも進み、5Gより進んだ技術がどんどん出てくるだろう。電磁波の人体への影響は、科学的根拠が足りず、さまざまな見解があり、まだわかっていないことも多い。しかし、予防原則を基に正しい知識と対策が広く普及していくことを願う。

取材協力:日本電磁波協会

公開日: