築20年のマンションは20年前の暮らしに合わせた間取り

築20年のマンションのキッチン。対面式だが壁で囲われているため閉鎖的。もっと明るく広くしたいという要望は多い築20年のマンションのキッチン。対面式だが壁で囲われているため閉鎖的。もっと明るく広くしたいという要望は多い

マンションのリノベーションやリフォームでは、規模の大小はあれ間取りの変更を希望する人が少なくない。

例えば築20年のマンションは、20年前の生活スタイルに合わせた住まいである。当時と今とではそれほど変わらないと思いがちだが、この20年で家事や子育て、仕事のしかた、在宅時間、価値観に至るまで人の暮らしは大きく変化している。

当時のままでは不便を感じることもあり、ほんの少し間取りを変えるだけで利便性や快適性が格段に向上することも多い。

キッチンを対面式にして明るくしたい、間仕切り壁を取り払って広々とさせたい、和室を洋室にしつつリビングを広げたい、部屋の一角を仕切って書斎や大型収納を作りたいといったようなことである。

しかしマンションにはさまざまな制約があり、構造や規約によっては間取り変更や水回りの移動が難しいなど、思ったようなリノベーションやリフォームができないことがあるので注意が必要だ。

今回は、マンションで理想の住まいづくりをするために、事前に知っておきたい注意点やトラブル事例、間取り変更に掛かる概算費用、またマンションに取り入れやすい収納システムなどもご紹介しよう。

マンションリノベの大原則を知っておこう

簡易なつくりの間仕切り壁は撤去、移動ができる。仕上げを剥いだところに見えるコンクリート部分は共用部分のため、勝手に穴を開けたり壊したりはできない(撮影:一級建築士事務所 OfficeYuu)簡易なつくりの間仕切り壁は撤去、移動ができる。仕上げを剥いだところに見えるコンクリート部分は共用部分のため、勝手に穴を開けたり壊したりはできない(撮影:一級建築士事務所 OfficeYuu)

希望の間取り変更ができるかを知るために、マンションリノベの大原則を押さえておこう。

まずはリノベーションが可能な範囲についてである。マンションは「共用部分」と「専有部分」に分かれていて、個人でリノベができる範囲は専有部分に限られる。

共用部分とはエレベーターや廊下、構造部であるコンクリートの壁や床、天井、各戸の配管をつないでいるパイプスペースなどである。

ベランダ、窓、玄関扉も共用部分だが、こちらは専用使用部分と呼ばれていて、メンテナンスは各戸で行う必要があるなど少し扱いが異なる。

写真は天井の仕上げを撤去したところである。中にコンクリートの梁や天井が見える。ここは共用部分なので勝手に穴を開けたり、移動をしたり、壊したりすることはできない。

専有部分とは簡単に言えば、コンクリートの壁の内側部分である。高層マンションの場合は、隣りとの境界がコンクリートではなく遮音効果を持たせた乾式壁になっていることがあるが、ここも共用部分であり個人で工事をすることはできない。

しかしこれらはあくまでも原則である。共用部分であっても一定の条件下で穴開けなどの工事が可能であったり、専有部分であっても工事ができないことがあったりする。

そこで重要になってくるのが、「管理規約」と「使用細則」である。マンションには「区分所有法」に沿って定められた管理規約や使用細則と呼ばれるルールがあり、区分所有者(専有部分の所有者)や占有者(賃借人を含むそこに住む人)は、それを守って暮らす必要がある。

リノベーションやリフォームについてもここに書かれていて、個人で工事ができる範囲や工事内容の詳細が定められている。

管理規約と使用細則を確認、玄関扉と窓の交換も可能に

管理規約の改正には、管理組合が総会を開き決議が必要になる。マンションの購入前に管理規約と使用細則はしっかりチェックしておきたい管理規約の改正には、管理組合が総会を開き決議が必要になる。マンションの購入前に管理規約と使用細則はしっかりチェックしておきたい

管理規約は、国交省が作成した「マンション標準管理規約」というガイドラインを基に、それぞれのマンションで作成、運用をしている。そこに共用部分と専有部分の範囲も定められていて、工事内容の詳細については使用細則に規定がされている。

「マンション標準管理規約」は時代に合わせて改正が行われていて、中にはこれまでできなかった工事ができるようになったものもある。

例えば古いマンションは開口部の断熱や遮熱、防犯、耐震などの性能が低いため、快適性や安全性に劣ることが多い。しかし窓や玄関扉は共用部分のため個人で交換工事をすることができず、大規模修繕を待つしかなかった。

そこでマンションがより重要な居住形態となる中、より快適な住環境を維持するべく、2004年には窓ガラスの交換が、2016年には窓枠や玄関扉の交換が、細則の定めがなくても理事会の承認があれば一定の条件下で実施できるよう「マンション標準管理規約」の改正が行われた。

ただしこれはあくまでも国交省が定めた管理規約のモデルである。マンションごとにルールは異なるため、窓や玄関扉の交換が可能かどうかは管理組合に確認をする必要がある。

管理規約や使用細則はマンションごとに個性があり、中には、間取り変更をすべて禁止しているマンションもある。筆者が経験した中では、水回りの移動禁止、さらには浴室の敷居の交換を禁止しているマンションもあった。ちなみに筆者が事務所にしている築50年のマンションでは、窓の交換とベランダのフェンスの維持管理は区分所有者が行うように定められている。これも独自のルールである。

管理規約を変更するためには総会での決議が必要になる。規約や細則は購入前にしっかり確認しておくことをお勧めする。

間取り変更がしやすいマンション、難しいマンション、ブロック壁は?

ラーメン構造のマンションの間取り図。赤く塗られた壁は簡易な間仕切り壁のため撤去や移動ができる。青い部分はパイプやダクトスペース、メーターボックスのため移動などはできないラーメン構造のマンションの間取り図。赤く塗られた壁は簡易な間仕切り壁のため撤去や移動ができる。青い部分はパイプやダクトスペース、メーターボックスのため移動などはできない

マンションで間取り変更を希望する場合は、構造もチェックしておこう。マンションは建てられた構造によって、間取り変更のしやすさが変わる。

コンクリートの柱や梁で建物を支える「ラーメン構造」のマンションは、間仕切り壁がコンクリートではなく、簡易なつくりになっているので間取り変更がしやすい。

一方、コンクリートの壁や床で建物を支える「壁式構造」のマンションは、間仕切り壁もコンクリートでできている割合が多く、間取り変更がしにくい。

注意したいのが、ラーメン構造でも間仕切り壁にコンクリートの壁が入っているケースがあること、また壁式構造でもすべての壁がコンクリートというわけではないことである。間取り変更がどこまでできるかを正確に判断するためには、詳細な図面や現場調査が必要となる。

大幅な間取り変更をしたい場合は、ラーメン構造のほうがプランは立てやすい。しかし壁式構造であっても工夫次第で理想の間取りに近付けることは可能だ。

さてマンションリノベの解体時に、間仕切り壁の中からブロックの壁が出てくることがある。その場合、浴室の周囲に巡らされたブロック壁は工事が可能であることが多い。しかしその場合でも勝手に壊すのはNGである。必ず管理組合に確認をしよう。

注意したいのがパイプスペースの周囲のブロック壁である。ここは共用部分であり、また防火上必要な壁であることも多いため、移動や解体、穴開けなどはできないことを知っておこう。

水回りの移動のしやすいマンション、難しいマンション

天井裏や床下に空間があるマンションは間取り変更がしやすい天井裏や床下に空間があるマンションは間取り変更がしやすい

水回りの移動のしやすさは、排水管やダクトが通しやすいかどうかで決まる。水回りの排水管はパイプスペースに、排気ダクトはダクトスペースもしくは屋外につながっている。

つまりそこまでの通り道を確保しやすいマンションであれば、水回りの移動がしやすいというわけだ。

水回りの移動距離は床下の空間の高さで決まる。排水管は一般的に床下を通すが、パイプスペースに向かって徐々に下がっていくように勾配を付けることで、逆流することなくスムーズに排水ができるようになる。

床下に空間が無い場合は、費用はかさむが床組をして高さを上げ、排水管を通すスペースを作れば移動が可能になる。

築古のリノベ済みマンションで、キッチンだけステージのように床が高くなっていることがあるが、キッチンを移動するにあたり、排水勾配を取るために床を上げているケースが多い。洗面所や浴室など水回りだけ床が一段上がっていることがあるのも、床下に排水管を通しているからである。

つまり床下に空間がある「二重床」のマンションなら水回りの移動がしやすく、空間にゆとりがあるほど遠くまで移動ができる。

床下に空間が無い、もしくは小さいマンションで水回りの移動のために床のかさ上げをする場合は、段差で危険が無いよう、またキッチンで天井が低くなり過ぎるとコンロと換気扇の間に適切な距離が取れなくなるので注意をしよう。

同じように、天井裏に空間がある「二重天井」のマンションなら、ダクトの経路の確保や照明の移動などもしやすいため、間取り変更がしやすくなる。

マンションの水回り移動でのトラブル事例

排水勾配が不足すると、排水のトラブルが起きやすい。少し時間が経ってから詰まりなどが起きることもある排水勾配が不足すると、排水のトラブルが起きやすい。少し時間が経ってから詰まりなどが起きることもある

マンションの水回りの移動に伴う排水トラブルは少なくない。

公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターによる住宅専門の相談窓口「住まいるダイヤル」に寄せられた、間取り変更リノベに関する相談事例を抜粋してご紹介しよう。

中古マンションを購入しリノベを計画していた相談者が、見積もり内容を見直すためにチェックしてほしいと相談。金額などに問題はなかったが、技術面での問題がある可能性があると指摘された。

相談者が希望するプランは、キッチンの移動距離が長いため、設計図を見た限りでは床の高さが不足して排水勾配が取れない恐れがあると指摘。

実は、相談者は事業者から、キッチンに油を流さないこと、掃除口を設けるのでまめに配管掃除をするよう言われ不安を感じていたという。

住まいるダイヤルは、プランが気に入っても技術的に問題がある工事は後々トラブルになるケースが多々あること、改めて事業者から説明を受け、進めるか変更するかを判断するよう助言している。

マンションリノベで希望する人が多いキッチンのレイアウト変更は、パイプスペースからの距離が離れることが多いので、こういったトラブルが起きないよう、事業者としっかり打ち合わせをすることが大切だ。

筆者が体験したのは、築30年のマンションでキッチンの排水口から悪臭がして流れが悪いというので行ってみたところ、3年ほど前にキッチンリフォームを実施し、壁付け式から対面式に変更したとのこと。調査したところ、床のかさ上げが足りず、排水の勾配不足によって排水管に汚れが詰まって起きているトラブルだった。

水回りの移動を伴うリノベをする際には、床下や天井裏など見えない部分のつくりが重要になる。無理なプランは避け、移動距離をよく吟味して計画を立てることが大切だ。

間取り変更の概算費用、マンション向きのシステム収納も

マンションリノベで間取り変更に掛かる概算費用をご紹介しよう。

間仕切り壁を撤去して内装を補修するだけなら、費用は約10万円~が目安となる。コンセントなどの移動が必要な場合は別途見ておく必要がある。

間仕切り壁を撤去した後に、可動間仕切り建具を取り付ける場合は、約35万円~が目安となる。内訳は、3枚引き違いの間仕切り建具本体が約20万円、間仕切り壁の解体、枠や建具の取り付けを含んだ金額である。

壁付けキッチンを対面式にレイアウト変更をする費用は、約120万円~が目安となる。内訳は、キッチン本体が約50万円、古いキッチンの撤去処分、約4畳のキッチン内の壁紙とフローリング、給排水とダクトの切り回しなどを含んだ金額である。

和室を洋室に変更する場合は、畳をフローリングにするだけなら6畳で約15万円~だが、高さを揃えるなどの工事が必要な場合は別途費用が必要になる。

壁や天井、配管、ダクトをすべて取り払って構造部だけを残し、間取りも設備も内装も一から新しく作るスケルトンリフォームの場合は、グレードによって幅が広いが、70平米で約700万円~を目安にするといいだろう。

セミオーダーのシステム家具を使って間取りのアレンジをするアイデアも。豊富なパーツから必要な物だけを選んで組み合わせることができる。家族の成長や暮らしの変化に合わせて、移動・買い足し・組み替えも可能<br>
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システム収納を使って間取りをアレンジするアイデアもある。システム収納とはたくさんのパーツから必要な物だけを選んで、家の形と暮らし方に合わせてセットできるセミオーダータイプの収納である。

壁面収納にするだけでなく、間仕切り壁の代わりにセットすれば、収納を増やしつつ空間をゾーニングすることができる。

システム収納は現場では組み立て、設置、配線のつなぎなどを行うだけなので工期が1~2日と短く、マンションリノベに取り入れやすい。

築年数が古いマンションでも、間取りや設備を自分好みにアレンジすれば、理想の住まいを作ることができる。マンションならではの注意点を押さえて、満足のいくリノベーションをしていただければと思う。

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https://galleryshuno.co.jpシステム家具を間仕切り壁の代わりに設置すれば、収納を増やしつつ空間をゾーニングできる。奥が書斎コーナー
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