最初の兵庫県庁を復元した「初代県庁館」がオープン
2021年11月3日、兵庫県立兵庫津ミュージアムの「初代県庁館」がオープンした。
場所は、神戸市兵庫区の神戸市中央卸売市場本場の跡地。かつて「兵庫津(ひょうごのつ)」と呼ばれた港町があった場所である。県政150周年記念事業に際し取り組んでいる兵庫津ミュージアムは、兵庫津の歴史や県の成り立ち、県を構成する五国の魅力などを発信する拠点で、最初の兵庫県庁を復元した「初代県庁館」と博物館施設の「ひょうごはじまり館(2022年11月開館予定)」の2つの施設で構成されている。今回、兵庫津ミュージアム整備室長の岸本健吾氏にお話をお聞きするとともに、「初代県庁館」を案内していただいた。
ミュージアムがある兵庫区中之島周辺の海岸線は、古代から大輪田泊と呼ばれていた瀬戸内海の重要な港。平安時代には平清盛が日宋貿易を行い、室町時代には足利義満が日明貿易の拠点にするなど港町として発展していった。
「兵庫津と呼ばれる港町になったのは室町時代の頃から」(岸本氏)だそうだ。
戦国時代には、池田恒興により兵庫城が築かれ、江戸時代には幕府領として約2万人の人が暮らす大都市になっていた。そのため、慶応4年(1868年)5月23日に兵庫県が誕生したときに、最初の兵庫県庁がこの地に置かれることになったのである。1,000年以上の歴史がある港町であり、周辺には清盛塚や一遍上人のお墓、能福寺の兵庫大仏など、今でも数多くの史跡を見ることができる。
このミュージアムの目的は、「地域資源を活かしながら人の賑わいをつくりだすこと。そして、兵庫の魅力を再発見することで、地元の人々の故郷に対する愛着を育てること」(岸本氏)である。初代県庁館オープン日には約2,000人もの来館者があり、2021年12月現在、既に1万人の方が来館されているということからも、順調な滑り出しと言えるだろう。
ちなみに、最初の初代兵庫県知事は誰か知っているだろうか?
名前は、伊藤俊輔。後の初代内閣総理大臣となる伊藤博文である。当時なんと26歳という若さであったことに驚いてしまった。
6つの建物からなる「初代県庁館」
初代県庁館は、残されていた図面を基に復元されたもので、6つの建物で構成されている。しかし、県庁舎の建物として見ると少し違和感がある。旧同心屋敷や仮牢、吟味場(お白洲)といった、明治以降では見られない設備があるからだ。それもそのはず、江戸時代に旧大坂町奉行所兵庫勤番所であった建物を、そのまま県庁舎として使っていたからである。
「県庁舎」は、江戸時代に勤番所として奉行所の与力や同心が仕事をしていた建物。ここで知事や県の役人が執務をおこなっていた。知事の執務室や吟味場、庭園などが復元されている。
「取次役所」は、町の有力者が詰めて、訴訟の取次をおこなっていた建物。現在は、カフェスペースや休憩室として使われている。
「旧同心屋敷」は、勤番所時代の下級役人である同心の官舎。同心の家族がここで生活しながら見回りなどの仕事に従事していたそうだ。現在は、貸しスペースとして利用されている。
「旧船見番小屋」は、勤番所時代に和田岬の番所で船を見張った下級役人(船見番)の官舎。今後、ミュージアムショップとして買い物を楽しめる場所になる予定だ(2022年度以降)。
その他にも、県庁の正面入口の長屋門や仮牢、番小屋など、見所はたくさんあるので、じっくり見学してほしい。
ただ、この建物が県庁舎として使用されたのは、わずか4ヶ月だけである。
理由としては、長年勤番所として使われてきたため老朽化が激しく、多くの人が使うには手狭であったこと、そして同時期に開港されたのが、この場所ではなく神戸であったことから現在の神戸地方裁判所あたりに2代目の県庁舎が建てられた。
兵庫津でなく、神戸を開港したのは、「2万人が住むこの場所を開港すると混乱するので、当時人が少なかった神戸を開港し、後背地に外国人居留地を作ったようです」(岸本氏)ということである。
この建物はその後、明親館という学校として使われることになる。(校名は伊藤博文が命名)
兵庫県庁を体感し、番所の名残を楽しむ
県庁舎の建物の玄関付近に、初代県庁館の紹介パネルがあるので、これを読むと歴史的な背景がよく理解できる。若い伊藤博文の写真もあるのでぜひ見てもらいたい。また、各所に設置された二次元コードを読み取ると音声ガイドで詳細な情報を聴くことができる。他にもボランティアの方々が、それぞれの場所で見所を細かく説明してくれるので、歴史的な基礎知識がなくても楽しむことができる。
執務室には、知事の机やテーブルが設置されているが、実際に触れたり座ったりでき、伊藤博文になりきって楽しむことも可能だ。
「お寺や文化財の場合、触ることができないことが多いが、ここは再現した建物なので自由に触ることができる」(岸本氏)というのが、このミュージアムの魅力である。縁側に座って蓬莱様式の美しい庭を見ながら、当時に思いを馳せてみるのもいいだろう。
また、建物だけでなく、兵庫県の成り立ちについてもパネルで説明してある。
今の兵庫県の範囲は、1871年(明治4年)の廃藩置県の時にできたものだと思っていたが、そうではないらしい。明治元年となる1868年の第1次兵庫県の時代は、たくさんの飛び地が広範囲に広がっている状況であったが、1871年(明治4年)以降の第2次兵庫県では、現在の神戸・阪神間エリアだけの小さい面積の県になっている。そして、1876年(明治9年)以降の第3次兵庫県で、昔の摂津・播磨・但馬・丹波・淡路という五国をまとめた今の兵庫県の形になっていったのである。瀬戸内海と日本海に面した広い兵庫県が生まれた過程はとても興味深い。
ARやMRなどの最新技術でワクワク体験ができる
このミュージアムの魅力は、見て触れるだけでなく、AR(拡張現実)やMR(複合現実)などの最新技術を使ったワクワク体験ができることである。部屋内にある二次元コードを読み取ることで、最後の兵庫奉行の柴田剛中や、初代県知事の伊藤俊輔(博文)、兵庫の豪商の北風正造の3人の3D画像が手に入り、館内の好きなところで一緒に記念撮影をすることができる。
そして、ぜひ体験してもらいたいのが、MRで映像を楽しむことができる「バーチャルVISIT」だ。タイムゴーグルを装着すると、現実空間の中にホログラムの3D映像が写しだされる。実際の部屋で、徳川幕府の終焉から兵庫県設置の頃までの出来事を、先ほどの3偉人が登場する物語として見せてくれる。このMRのすごいところは、動き回って360度から見ることができるので、人物の後ろに回って背中を見たり、下から見上げたりできることである。まさにSF映画にでてくるホログラムのシーンを体験しているようで、とても楽しい。
「このMRを使っているミュージアムは、ほとんどないでしょう」(岸本氏)ということなので、貴重な体験となるだろう(体験時間約15分)。
2022年11月オープン予定の博物館施設「ひょうごはじまり館」
現在建設中の「ひょうごはじまり館」は、兵庫発祥の地である兵庫津の歴史や兵庫誕生の物語、兵庫五国の魅力を伝える博物館施設で、2022年11月に開館する予定になっている。展示室や研修室などが予定されており、「兵庫津の成り立ちや五国の魅力を映像やグラフィックなどで学ぶことが出来る。」(岸本氏)ということなのでとても楽しみだ。
また現在、ボランティアが案内する「兵庫津まちあるき」という兵庫津の魅力発見ツアーも行っている。初代県庁館をスタートし、兵庫津の史跡などを歩いて回るツアー(約2時間)で、兵庫の新たな魅力が発見できるだろう。他にも、兵庫県のはじまりや兵庫津の歴史をわかりやすく伝える「オリジナル紙芝居」もある(約10分)。
今回、兵庫県の成り立ちなどを知ることで、教科書で習った歴史がとても身近なものになり、今まで知らなかった兵庫の魅力に気づくことができた。
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