「四国のへそ」と呼ばれる三好市、刻(きざみ)たばこで繁栄した池田町
四国4県のほぼ中央に位置し“四国のへそ”と呼ばれている徳島県三好市。
なかでも吉野川流域に程近い池田町一帯では、幕末から明治にかけて阿波葉(葉たばこ)の耕作が盛んに行われ、阿波刻みと呼ばれる刻たばこで繫栄した歴史を持つ。近年は地元唯一の高校である県立池田高等学校が高校野球の強豪校として活躍したため、池田町の地名に聞き覚えのある方も多いことだろう。
そんな池田町の繁栄を物語る象徴的存在であり、三好市指定有形文化財でもある築100年以上の商家・真鍋屋の建物が、3年前に地域交流拠点施設「真鍋屋」(愛称:MINDE みんで)として生まれ変わり、いま賑わいを見せているという。MINDE誕生の経緯について、管理運営を担う一般社団法人 三好みらい創造推進協議会の小西香さんに話を聞いた。
真鍋屋の建物を活用し“移住の前段階”として滞在・交流できるスペースに
▲三好市の指定管理者となった地元不動産会社の社員として一般社団法人『三好みらい創造推進協議会』へ出向。就業コーディネーターとして活躍している小西香さん。学生時代に一度は地元・三好を離れたものの、Uターン就職後に移住者の男性と結婚し、現在は真鍋屋の運営を担っている「この施設の愛称であるMINDE(みんで)というのは“○○してみない~?”という三好の方言に由来しています。三好市では、平成27(2015)年から『移住定住支援と地域活性化』をミッションに掲げて取り組んできましたが、それを推進するためには三好市の土地のことを移住者の方によく知ってもらわなくてはいけません。
そのため、移住の前段階として地元に滞在してもらいながら、地元の人たちと交流ができるようなスペースが必要だと考えました。
もともと真鍋屋は、改修を行う前から地域イベントなどを行ってきた場所でした。せっかく真鍋家の厚意で寄贈を受けたものの、ただ建物が朽ちていく様子を見ているわけにはいかない…そこで、わざわざ新しく施設をつくるのではなく、地元の人たちが昔から慣れ親しんできた既存の建物を使って地域の交流スペースにしたいという想いから、真鍋屋を活用することになったのです」(以下、小西さん談)
移住者の受け入れや地域活性のためには『働く場所』が必要
これまで、移住者の受け入れ支援や、空き家・廃校の再活用を積極的に推進し、一定の成果を挙げてきた三好市だが、実は大きな課題となっているのは「地元での職探し」だという。
「わたし自身も三好市の出身ですが、高校を卒業してから学生時代は大阪に出て、岡山で働いていました。徳島県内は大学や専門学校の数が少ないので、どうしても高校卒業と同時に県外へ出てしまう若い子が多いんですよね。
30歳の節目を迎えて地元へ戻ろうかと考えた時、いちばん悩んだのは仕事のことでした。家族に“そろそろ三好へ帰ろうかな”と伝えると、みんな喜んでくれるのかと思ったら“就職口は大丈夫なの?”と心配されたほど。幸運にもわたしの場合は、地元の不動産会社にUターン就職できたので現在の仕事に就くことができましたが、改めて、移住者の受け入れや地域活性のためには“働く場所”が必要だということを痛感しました」
そこでMINDEでは、商品の販売やワークショップ、作品展示、テストマーケティングなどを通じて、起業のきっかけを作るためのトライスペースを用意。キッチンを設けたシェアスペースは、飲食店開業を希望している人のお試し店舗として活用できるようになっており、「新しい職場」を創出するためのサポートを行っている。
高校生からクチコミが広がり、子どもたちが「放課後集まる場所」に
こうしたまちの変化をいち早くキャッチしたのは、地元の高校生たちだった。
「実は池田町内には図書館やファストフードのお店がありません。都会の高校生なら、学校帰りにハンバーガーショップで友達と過ごしたり、図書館へ通って勉強したりすると思いますが、池田町の図書館は数年前に移転し小さくなったので、高校生たちの放課後の行き場所が無くなり、みんな駅前の小さな公園にギュウギュウになりながら集まっていたんです。
でも、このMINDEのフリースペースができてからは、高校生たちが学校帰りにMINDEに集まるようになりました。ちょうど池田高校から駅までの帰り道ルート上にあるので、通いやすい立地も良かったんでしょうね。静かに勉強をしている子もいますし、カフェで販売しているフライドポテトを食べながらお友達とおしゃべりしたり、Wi-Fiが無料で使えるのでネットゲームに夢中になっている子もいますね(笑)」
放課後のMINDEはいつも満席状態だ。高校生のウワサを聞いて中学生が集まるようになり、その後、小学生にも交流の輪が広がった。筆者の取材経験上、こうした地域交流拠点というのは、"一部の感度の高いオトナたちのもの"になりがちなのだが、自然発生的に子どもたちが集まるMINDEのようなケースは珍しい。移住者(新人)と地元の人たち(旧人)の交流だけでなく、地域の世代間交流の活性化につながった成功事例といえるだろう。
これからも「地元のことを自慢できるまち」であり続けたい
供用開始から3年、今のところMINDEの運営は順調に進んでいる。ただし、コロナ禍の影響を受け、都会で暮らす人たちの「地方移動自粛」の行動変容がいまだ根強く残っているため、コロナが落ち着くのを待ってお試し住宅やレンタルオフィスのPRを積極的に行っていく予定だという。
「新規のビジネスプランを立ち上げて、外からどんどん移住者を呼び込みたいという想いもあるのですが、同時に“地元の人材”を育成することも大切だと考えています。このMINDEの空間を体験した学生さんたちが“池田っていいな”と感じてくれたら嬉しいですね。一度県外へ出たとしても、“将来地元へ戻って新しいことを始めてみたい”と思ってくれる若い世代が増えれば、まちづくりを一緒に頑張れる人材がどんどん増えていきますから。
わたし自身も、地元の友人のSNSを見て、“あれ?なんかまちが変わってきたな”と思って故郷へ帰りたくなりました。池田のまちもMINDEを中心に変化し続けるまちでありたい。そして、その変化をどんどん発信していきたいと思っています」
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池田のまちの繁栄の歴史を継承し、地域交流と同時に若者世代の“地元愛”を育む場所となった真鍋屋「MINDE」。この場所で多感な時期を過ごした子どもたちが、将来どのような逸材として地元で活躍することになるのか、10年後の池田のまちの、さらなる進化を楽しみにしたい。
■取材協力/三好市交流拠点施設『真鍋屋』MINDE
https://minde.jp/
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